王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒

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最終回

司祭と対面

「司祭様、最近は結界も安定したと聞いております」

 私は久しぶりに教会を訪れている。

「ええ。あの方もようやく真面目に祈るようになり、結界も安定しつつあります。今後は魔獣被害も落ち着くでしょう」

「今も祈りを捧げているのですか?」

「はい。今では朝から晩までに祈ってますよ。あの方に見守られながら」

「そうですか。それは、安心ですね」

「ええ。卒業された皆さんにも、ご心配をかけてしまい申し訳ありませんでした」

「いえ、司祭様に責任はありませんから」

「彼女を候補者時代にもっと厳しく対応していれば、違ったでしょう。聖女になるとは思いませんでしたから、卒業さえしてくれたらと目を背けてしまいました」

「七年も遅れたんです。礼儀作法を教えるには時間がありませんでした。司祭様の考えも当然です。私は司祭様を恨んだりしていません」

「大変苦労されたバルツァル様にそのように言っていただき、救われます」

「そんな……それより、司祭様にお尋ねしたいことがあります」

「なんでしょう?」

「彼女ほどの能力がありながら、国は混乱に陥りました。何があったのでしょうか?」

 ソミールは、候補者の中で誰よりも能力を持っていた。
 聖女認定の儀式で、聖女と認められた者は更なる能力を得ると学んだ。
 それなのに、国は混乱。
 何かあったとしか考えられない。

「私の推測ですが、今回の儀式で彼女の聖女としての能力はになったのだと思います」

「分相応ですか?」

「あの方は、信仰心も、生活態度も、学ぶ姿勢も、すべてにおいて欠落していました。なのに、どの聖女候補よりも優れた能力を保持していました」

「はい」

「なぜ、あのような方にあれほどの能力を与えたのか。私は神が間違いをおかしたのかと、疑念にかられていました。ですが、ある結論に行き着きました」

「ある結論ですが?」

「はい。あの方が次期国王に相応しいかの試練だったのではないかと」

「……それは、聖女ではなく……王子の試練……ということですか?」

「はい。もし聖女に彼女が相応しくないのであれば、儀式で聖女と反応しないはず。だが、彼女は聖女候補となり、聖女となった。彼女が聖女として誕生したのは、王子の婚約者を決定する直前。そう考えると納得できます。次期国王となれば様々な問題に対応できなければならない。あのような聖女が誕生した時、王子としてどのように対応するのか……正しく判断できるのか。私たちは王子の資質を見極めることができた」

「……王子の見極め」

「その結果、あの方は王位継承権を剥奪。王位継承権も弟君が、最有力候補だと聞いております」

「私たちは、王子の見極めに利用されたということですか?」

「利用という言葉は語弊があります。国のために貢献された……ということではないでしょうか?」

 貢献……都合のいい言葉ね。

「私たちは長い間、彼女に苦しめられました」

「ええ。ですが、彼女が現れなければ、バルツァル様が『聖女』となり、あの方の伴侶になっていた未来もあります」

「それは、嫌です」

 そんなの絶対に嫌。
 ソミールが現れなかったとしても、あの人は平民や下位貴族、立場の弱い人の言葉に親身になり過ぎて公平な判断が出来るとは思えない。
 聖女兼王妃となったら、私の方が責任を問われかねない。
 あの男の尻ぬぐいをさせられるために、王宮になんて上がりたくない。

「そうですか。それと、聖女候補だった者を愚弄した方々が協会に助けを求めに来ました」

「彼らがですか?」

 聖女補佐にも指名されなった聖女候補は、社交界で笑いものにされた。
 侮辱していた人は私の知る限り、聖女候補に任命された者に嫉妬したり、信仰心も薄い人たち。
 そんな人たちが教会に助けを求めに来たということは、それほど追い込まれていたのだろう。

「彼らの領地に災害が発生し魔獣も現れ、経営も傾いているとか。国に支援を求めるも埒が明かず、協会に助けを求めに来られました。私が彼らに『神への信仰心や候補者に対し失礼はありませんでしたか?』と尋ねると皆さん懺悔し『今後は態度を改めます』と告げ去っていきました」

「そういうことなんですね。最近になり、そういった彼らから謝罪の手紙と品が届きました」

「今後、聖女候補を蔑ろにすることはなくなるでしょう。彼らの領地も、気持ちが伴えば落ち着くはずです」

「今回の聖女は、我が国にとって重要だったということですか?」

「国の行く末を決めるのに、とても重要な役割だったと思います」

「あの二人は、こうなる運命だったと言うことですね?」

「決まっていたわけではありません。彼らが別の選択をしていれば、未来は違ったでしょう。彼らが掴みとった未来が今です」

 掴みとった……。
 聖女候補時代、ソミールの存在はとても厄介だった。
 けれど、彼女の存在で次期国王としてコルネリウスの欠点も明るみになった。
 彼が国王に任命される前に判明できたのは、幸いだったのかもしれない。
 私も大切な人を見つけ、幸せになった。
 今はすべての懸念が取り払われ、国は安定している。
 
「……そうですね。国はこれから、いい方向に進みますね」

 これから聖女を語り継ぐ時、私はなんのわだかまりもなく聖女を理想像で話すだろう。
 
聖女様は『国民に姿を見せず、国のために祈りを捧げている』と……。
 愛する人に護衛されながら国に尽くすなんて、まさに絵本に出てくる『聖女』そのもの。
 素晴らしい結末と言えるのではないだろうか。



 おしまい

 本編終了。
 オマケが数話あります。
 感想をいただき不定期ではありますが、ちょこちょこと書き続けたいと思います。 
感想 42

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