【完結】浮気や愛人が許される世界に転生。皆が私に期待する

天冨 七緒

文字の大きさ
38 / 63

長期休暇明けは……

しおりを挟む
 長期休暇明けは授業と言うより礼儀作法に近い。
 女子生徒には刺繍の授業が入り、男子生徒には剣術の授業が始まる。
 真剣に望むも人生で刺繍なんてしたことのない私には無残な物が出来上がっていく。
 芸術祭の絵画なんて可愛い部類。
 あまりにも酷い作品だったので、周囲の生徒をそれとなく確認する。

「すごっ……」

 授業なので当然なのだが、皆真剣で作品も花や鳥・家門など様々。
 どれも販売されていても不思議ではない作品。
 私の手の中にあるハンカチは……
 刺繍がない方が確実に販売できる代物……
 このハンカチは教師以外見ることは無いだろう。

『ハンカチ誰に贈るか決めましたの? 』

『私はまだ……もしかして、決めたですか? 』

『もちろん。本人にも伝えて完成したら受け取って貰えそうよ』

『早いですね』

『早くないわよ。悠長にしていたら貰ってくれる相手いなくなるわよ』

『そんなの困ります』

『これでパーティーのパートナーが決定するから、皆さん躍起になってるわよ』

『相手が……』

『どうかされたの? 』

『婚約者がいらっしゃるから……』

『関係ありませんわ、パーティーは仮面ですし。これは学園行事。必ずしも婚約者を誘わなければならないルールもないわ。当日パートナーが婚約者でない人であっても、追及されることはない。それが『仮面』パーティーの暗黙のルール。守れない人は貴族社会では、生きていけないわ』

『……いい……のかな? 』

『学園での最後の思い出よ』

『そう……よね』

 女子生徒の立ち聞きするつもりはなかったが、今回の刺繍ハンカチには何かしらの意味があることを話していたので自然と聞いてしまった。

「テレンシオールパーティー? このハンカチがパートナー契約? そんなの聞いてない」

 刺繍の先生はそんなことは一言も言っていない。
 もしかしたら、生徒間で広まったイベントなのかもしれない。
 けど、気になる……

「テレンシオールパーティー……こんなハンカチ……誰にも渡せない」

 何度見返してもすごい作品。
 誰かに受け取って貰えそうな仕上がりではない。
 
「パーティーって強制参加なの? 」

 ハンカチの意味を理解すると、女子生徒がいつになく真剣に取り組んでいるのが分かる。
 廊下を歩く男子生徒もなんだが浮かれている者と、挙動不審で落ち着きがない者が多い。
 女子生徒がハンカチを渡すのだが、男子生徒の方も受け身ではなく自分から声を掛ける者もいる。
 男子生徒の方も選ばれる為の一つとして、もうすぐ行われる剣術大会で優秀な成績を残そうと必死。
 平民の生徒も、大会で優勝すれば女子生徒からハンカチを貰えパーティーに堂々と参加できる。
 女子生徒の方はハンカチを贈った相手が優勝すれば大きな顔ができるし、大会の結果前に焦って行動するなんて優雅さに欠けて『はしたない』と言って、牽制している。
 
「そんなこともあったのですか? 」

 ハンカチの話で盛り上がっている女子生徒の話を盗み聞きしたいわけではないが、気になってしまい耳を澄ませていた。

「前年卒業されたバランドープ令息は剣術大会前にハンカチを贈られたのですが、予選敗退した途端『ハンカチを返却してほしい』と宣言されたそうですよ」

 残酷すぎる。
 大会に負けてハンカチも『返せ』だなて……
 それからは、剣術大会後にハンカチ合戦に突入する。
 だが、高位貴族令息相手では話が変わってくる。
 そこだけは勝敗関係なく、早い者勝ち。
 貰えない者や貰ってもらえなかった者はパーティーに不参加してしまう者が多い。
 パートナー同伴が絶対条件ではないが、一人で参加するくらいなら欠席の方が傷は浅いと考えられていた。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした

柚木ゆず
恋愛
 行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。  お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……? ※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。  姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。  ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。

婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?

柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。 わたしには、妹なんていないのに。  

処理中です...