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不良グループの元総長に懐かれた04
しおりを挟む夏休みに入っても、佐奈田は地元に帰らなかった。ゲイであることがバレてからは、両親は息子を腫れ物に触る扱いで実家は居心地が悪い。それに、万が一にも元同級生と鉢合わせるようなことがあったら嫌だからだ。
佐奈田は一人暮らしのアパートで、毎日ぐうたらして過ごした。佐奈田が地元に帰らないことを知った椎名が、合鍵を強請って度々突撃訪問をかましてくるようになるまでそう日数はいらず、アルバイトの深夜シフト帰りにベッドに忍び込み、眠る佐奈田を椎名が抱き枕代わりに抱いて寝て、二人して汗だくになって起きることも日常になっていた。
腹が減ったらご飯を食べるのと同じように。
佐奈田が手を使って椎名を射精させるのも、習慣のようになっていた。
そして、そのたび佐奈田も勃起して、椎名に触っていいかと訊かれるのも。毎回悩むこともなくノーと答えるのも、お決まりになっていった。
佐奈田の部屋で、渡貫も交えて三人で乾杯した。
未成年なので、全員ジュースでだ。
もしかしたら椎名と渡貫はとっくに酒の味など知っているかもしれないが、佐奈田の前では二人とも、一度だって酒を持ち出すようなことはしなかった。
「なんかおまえら、元々距離近かったけどよ、さらに距離近くなってねえか」
三人でわいわいお菓子をつまみながら他愛もない話を楽しんでいると、不意に渡貫がそう指摘した。
佐奈田と椎名は顔を見合わせる。そこで佐奈田は、椎名と肩がくっつくほど近くに座っていたことに気づいた。最近はこの距離感が普通になっていて、渡貫に言われるまで、これが近過ぎるという認識がなかった。
「俺達仲良しだから」
咄嗟に離れようとした佐奈田の肩をぐっと抱き寄せて、椎名が自慢げに笑う。
ドキドキした。
胸が、高鳴った。
顔が火照る。
こんな、こんなの。
勘違いしそうになる。微笑みかけられるたび、親しげに話しかけられるたび、遠慮も躊躇もなく身を寄せられるたび、舞い上がってしまう。溢れてしまう。好きが。好きが、溢れて、しまって。止まらなくて。だから、やってしまった。いけないことを、した。
「…………佐奈田?」
長いまつ毛が震えて、開いた目蓋から覗く黒目がちの瞳が、息を呑んだ佐奈田の視線と交わる。目を見開いて震える佐奈田を前にゆっくり瞬きした椎名は、自身の薄い唇を指先で優しくなぞり、寝起きとは思えないほどはっきりした声で、言った。
「今……キス、した?」
「ごめんなさい」
謝ることしかできなかった。
「ごめんなさい」
口を両手で押さえ、狭いベッドの上を後退って。
「気持ち悪くて、ごめんなさい」
壁にぴったり背中を押し付けて。少しでも気持ちの悪い自分を椎名から遠ざけたくて。
「ごめんなさい。ごめんなさい。僕、気持ち悪くて。ごめんなさい」
「気持ち悪いなんて思ってないよ」
椎名は否定するが、そんなはずはない。そんなはずがないのだ。
「でも、でも。僕、気持ち悪いって」
あいつらが。気持ち悪いって。
「気持ち悪いって? 誰かに、言われたの。誰かに、キスして?」
「してない! するわけない」
「でも俺にはしたよね?」
「ごめんなさい」
自分を守るように、身体を丸める。縮こまる。繰り返し、謝罪の言葉を口にする。
「謝ってほしいんじゃない。気持ち悪いとも思ってない」
「ごめんなさい」
「なんで、俺に、キスしたの?」
うつむく佐奈田の顔の輪郭を、椎名の指先が労るようになぞる。
「言えない?」
これ以上、黙っていることも罪だと思った。
「好きです」
気持ちを隠して近づいてごめんなさい。
邪な気持ちで無知なあなたを汚してごめんなさい。
「好きになって、ごめんなさい。気持ち悪いよね。ごめんね。ごめんなさい」
視界が滲む。
「待って」
震える佐奈田の肩を、椎名の両手が力強く掴んだ。
「佐奈田が俺を好きだと、なんで気持ち悪いの?」
「男が男を好きなのは、気持ち悪いって、みんな、そう、」
「みんなって、誰」
「高校の、人達」
「佐奈田は男が好きだって言って、高校の奴らに、気持ち悪いって、言われたんだね?」
小さく頷いて答える。
「佐奈田も男が男を好きになるのは気持ち悪いって思ってる?」
「気持ち悪い、でしょう」
「じゃあ佐奈田を好きな俺のことも、気持ち悪い?」
思わず顔をあげていた。まっすぐ佐奈田を見つめる黒目がちの猫目と目が合う。
「好き……?」
「好きだよ」
「嘘、」
「信じないんだ?」
「だって……ほんと、に?」
「あのさあ、佐奈田。俺、細身に見えるかもしれないけど、力には結構自信あるよ。ひょろい佐奈田なんて、力づくで押さえつけて、無理やり身体に触るくらいのこと、できんの。それでも毎回律儀に佐奈田に触っていいって訊いて、だめって言われたら素直にそっかって引き下がってきたのはさ、俺が佐奈田のことすごく大好きで、すごくすごく大事にしたいって思ってるからだよ。わかる?」
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