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不良グループの元総長に懐かれた05

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「それでも俺のこと、気持ち悪い?」

気持ち悪くない。気持ち悪いわけがない。
必死に首を振る佐奈田に、椎名は優しく笑った。

「だろ? 同じように俺だって、佐奈田のこと、気持ち悪いなんて思わないよ」

だってさ、と椎名は佐奈田のほおを包むように両手を添え、ひたいを擦り合わせた。

「だって俺達、ただ人を好きになっただけじゃん」

滲んでいた視界が、一瞬鮮明になって、また滲む。何度も繰り返し、繰り返し。

泣く佐奈田を、椎名はぎゅっと抱きしめて横になった。

二人寄り添って、汗だくになりながら眠った。






起きたら順番にシャワーを浴びて、熱を冷ますために二人して下着一枚でブランチをとった。

「今日は何する?」

食後の片付けまで終え、今から着る服を物色している椎名が、振り返りもせずに軽く訊いてくる。その裸の背中に、佐奈田は、精一杯の勇気を振り絞った。

「触って、ほしい……」

すごい勢いで振り返った椎名が、猫目をぱちくりさせることで間を置いて、恐る恐るというように掠れた声で、

「……いいの?」
「嫌……かな」

途端に弱気になった佐奈田の手首を捕まえて、椎名は勢いよく立ち上がった。

「なわけないだろ」

両手を掴まれ、包み込むように握られる。そしてこつんと、ひたいが合わさった。

「触らせて、佐奈田」






唯一身につけていた下着さえも脱ぎ去って、ベッドの上、裸で向かい合う。見慣れた椎名のペニスに佐奈田が触れると、椎名も真剣な表情で佐奈田のものに触れた。しばらく、互いに無言で扱き合う。沈黙が支配する室内で、二人の荒い呼吸と先走りが立てる濡れた音がやけに響いた。

「佐奈田、気持ちいい?」
「ぅん、は……ぁ」
「ここ?」
「ん」
「こうしたら、気持ちいいよね?」
「ん、椎名くん、上手だね」
「ふふ……ぁ、ん……俺も、気持ちぃ……」

初めて他人に触れられたからだろうか。椎名の手だからか。好きな人の手だから。自分で触るよりもずっとずっと気持ちがいい。なにより、触ってほしいところを、椎名はよくわかっているようだった。何故だろうと考えて、そのことに気づいた時、佐奈田はこれまでにないほどの興奮を覚えた。

椎名の手付きは、佐奈田の模倣だ。
椎名は佐奈田に出会うまで、自慰のひとつもしたことがなかった。
そんな彼に、佐奈田がやり方を教えこんだ。


性的に無知だった椎名時臣を、佐奈田が自分のやり方に染めてしまったのだ。


それだけで、佐奈田は絶頂に至った。


「は、はは……イかせた……俺が、佐奈田を……は、やば……すげえ興奮する」

佐奈田の放ったもので濡れた手のひらをかざし、椎名が上ずった声で興奮を伝えてくる。潤んだ猫目が、陶酔に細まった。

「椎名、くん」
「佐奈田、」

呼び合って、引き寄せられるように唇を重ねた。初めてのキスだった。くっつけるだけで、離れる。何度も、繰り返し。啄んでは、見つめ合って、ひたいを擦り合わせて、キスをする。

「佐奈田…………? ーー佐奈田!?」

自身の口に指を含み、唾液を絡ませる佐奈田を不思議そうに見ていた椎名が、濡れた指の行く先を見届けて素っ頓狂な声をあげた。

「何してんの!?」

佐奈田が舐めた指を自身の後孔に埋めるのを、椎名は目を見張って凝視する。

「繋がりたいんだ」

一本、根元まで挿れてしまう。ぐっと押し広げるように指を曲げると、腰が跳ねた。

「んっ……! 男、同士は、ここを、使う」

椎名の喉が、ごきゅっと鳴った。

ベッドの下から使いかけのローションを取り出し、後孔を濡らす。滑りがよくなったそこを、さらに解していく。

「俺もやりたい」

佐奈田が受け入れる準備をするのに釘付けになっていた椎名が、欲情を隠さない濡れた瞳で佐奈田の許可を待っている。

「やっていい?」

正座した椎名の膝の上にとどめ置かれた両手が、佐奈田に触れるのを我慢して固く拳を握っている。ふと、椎名の言葉を思い出した。椎名は、佐奈田の同意なんて得なくても、力づくで押さえつけることができる。無理やり触れてしまうことができる。でもそれをしないのは、椎名が佐奈田のことをすごく好きで、すごくすごく大事にしたいと思ってくれているからだ。


なんて、愛おしいんだろう。


「うん、いいよ。人差し指、これで濡らして、挿れてみて……?」

たっぷりのローションを垂らした人差し指を、椎名がそっと恐る恐る佐奈田の中に侵入させる。ゆっくり根元まで埋め込むと、はぁ……と熱い息を吐き出した。

「あったかくて、柔らかい……」
「ぅん……動かして、みて」

椎名の人差し指が、爪の根元までじわじわと抜かれて、再び同じ速度で挿し込まれる。徐々にスムーズな抜き差しになって、時々、遊ぶように指が曲げられる。

「ん、もうちょい、手前……そこっ……あ……」

一番気持ちのいいところに当たりそうで当たらなくてもどかしく、腰が揺れる。

「ここ?」
「もうちょっと、上……ーーあ! そこ!」
「わかった、これだね。ここ」
「ん! そこっ……! あっ……く、」

快感のポイントを確実に指で押されて、びくびく腰が跳ねる。持ち上がった足先が、何度も空を掻いた。

「佐奈田って、男と、その……経験、あんの」

佐奈田の乱れように、ふとその可能性が過ぎったらしい。椎名はらしくもなく視線を泳がせて、耳まで真っ赤になって目を伏せた。嫉妬しているというよりは、恥ずかしがっている様子だ。一体何に照れているのかはわからないが、そんな椎名がなんだか無性にかわいかった。

「ないよ。気持ちいいとこ、全部、自分で見つけた」

猫目がまん丸になって、きゅうっと細まる。上気したほおが、ぐっと持ち上がった。

「なにそれ。めっちゃ興奮すんね」






もはや椎名の指が二本、佐奈田の指が一本の計三本が後孔にくわえられていた。たっぷりのローションで解されたそこは、椎名を受け入れたくて疼いている。

お互い汗だくで、いつの間にか佐奈田に覆いかぶさる体勢になっていた椎名から、ぼたぼたとしょっぱいしずくが降り注いだ。

「も、挿れて、いいよ」

興奮し過ぎて怖い顔になっている愛しい男へ、あなたを受け入れる準備ができたことを教えてやる。椎名はひたいの汗を拭って、佐奈田の腰に右手を添えると、左手でそり返る自身を支えた。照準を定めて、ひとつ、佐奈田の眉間に口づけをくれる。

「挿れる、ね」
「きて」

佐奈田は逆手にシーツを掴んで、痛みに備えた。
ゆっくりと、未踏の地に押し入られる。覚悟していたほどの苦痛はなかった。

「ぁ……あ、……あ……!」

じわじわ、じわじわと、踏み込んでくる。出すつもりのなかった声が、喉の奥から押し出された。汗で滑ったのか、腰を掴み直される。椎名は佐奈田を気遣って、何度も何度も優しいキスを顔中に贈ってくれた。

「はい……った」

やがて全てがおさまったことを知って、佐奈田の目尻に涙が浮かんだ。

「きつい? 佐奈田、大丈夫?」
「ん、だいじょ、ぶ。全部、入ってるの……?」
「手、貸して。ほら」
「入ってる……」

椎名に導かれて、接合部に触れる。今までさんざん握ってきた椎名のあの長大なペニスが、自身の尻におさまっているということに、なんだか感動を覚える。同時に、好きな人ととうとう繋がったのだという実感に、胸がいっぱいになった。

「泣かないで佐奈田」
「んー、んんん……好き……好き、椎名くん。好き……」
「うん。俺も好き。大好き」

何度も繰り返し、唇を合わせる。広い背中に両腕を回し、椎名からも抱き返されて。汗だくの胸を重ね、くっつけるだけのキスを飽きもせず反復する。

きっと椎名は、舌を入れるキスというものを、知らないのだろう。

性的なことに、本当に無知な男だから。

キスもセックスも、恋人同士がすること全て。これから椎名は、佐奈田のやり方に染まっていくのだ。
それはなんて、幸せなことだろう。



佐奈田って、なんでそんなにエッチなの?
エロ大先生じゃん。



ーーなんて。舌を絡めるキスを教えた佐奈田に、真っ赤になった椎名が大真面目にそんなことを言うなんて今はまだ思いもよらない佐奈田は、恋人を自分色に染める楽しみに幸福を噛みしめるのだった。


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