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第二章「魔法都市編」

第五十八話「告白」

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 中庭に入ると、仲間達が談笑しながらシュルスクの木を見上げていた。こぶし大の赤い果実が陽の光を浴びて輝いており、美しい魔力を辺りに散らして空間全体を支配している。この場に居るだけで気分が良くなる様だ。

 まさかガブリエル様まで重婚に理解があるとは思わなかったが、正式に許可が出ているのだから、願望に任せて彼女達全員と交際を始めれば良い。思えばローラは出会った時から俺の事を好きだと言ってくれていた。

 恋愛感情ではないと分かっていたが、それでも彼女はいつも俺と一緒に居たいと言ってくれ、寝食を共にし、俺の事を大好きだと何度も言ってくれた。やっとローラやエリカの気持ちに答える事が出来ると思うと、何だか心の底から幸福が湧き上がってきた。

 ヴェロニカは予めガブリエル様に模擬戦が終わったら俺と話す様に、重婚でも構わないから、結婚を視野に入れて交際を始めたいと伝えていただろう。ヴェロニカただ一人だけが恥ずかしそうに俺を見上げ、長く伸びた金色の髪を指先でクルクルと回している。

「みんな。ちょっと話があるんだけど」

 仲間達に声を掛けると、仲間達は一斉に立ち上がり、俺を見つめた。俺が真剣な表情をしているからだろうか、緊張して汗を流しているからだろうか、仲間達も不安げに俺を見上げている。

「実は俺はエリカから告白されているんだけど、エリカが振られたくないからという理由で、返事はしなくても良いと言ってくれたんだ。その時は自分の気持が分からなかったけど、俺はエリカと交際を始めたいと思う。俺もエリカの事が好きだから」
「ギルベルト……」

 エリカは紫色の美しい瞳に涙を溜めて俺に抱きつくと、俺はそんなエリカが愛おしくなって、彼女の頭を撫でた。シャルロッテは明らかに狼狽し、ローラはエリカを俺から引き離そうと必死になっている。

「ギルベルトはローラのものなのに! どうしてエリカが……!」
「ローラ、俺はローラとも付き合いたいと思っているんだ。錬金術師のジェラルド・ベルギウスの様に……。封印したモンスター娘達は俺が養うと決めているんだ。誰か一人を選ぶ事は出来ない。これからも皆で暮らしたいし、俺を信じて人間になってくれた皆を幸せにしたいと思うから」
「うん! ローラは構わないもん! これからもギルベルトと一緒に居るんだから!」
「ありがとう……」

 エリカはローラを抱き締めながら満面の笑みを浮かべると、俺は二人を強く抱きしめた。ヴェロニカとは交際を始めなければ結婚する事になるかどうかは分からない、しかしエリカとローラに関しては将来確実に結婚する事になるだろう。

「お兄ちゃん……! 僕の裸を見ておきながら、僕の胸で幸せそうに寝ておきながら僕を捨てるんですか? そんなの酷いです! 僕の気持ちを弄んで、名前まで付けて捨てるなんて!」
「そんな事はしないよ。この命はギレーヌが居なければダンジョンで失っていたもの。ギレーヌが許してくれるなら、俺と付き合って欲しい。俺はギレーヌの事が好きだ!」
「お兄ちゃん……」

 ギレーヌは静かにすすり泣きながら、地面に座り込んだ。これで良いんだ。封印したモンスターは俺が責任を持って幸せにする。世間から何と言われれても良い。貴族として地位のある公爵様が認めて下さっているのだから。

「ヴェロニカ。ガブリエル様には俺の気持ちを伝えたんだけど、今すぐ結婚を約束する事は出来ない。だけど俺はヴェロニカと共に居たいと思う。将来は重婚する事になるだろうけど、それでも良いなら、俺と付き合ってくれるかな……」
「当たり前ではないか……! 私は重婚にも理解があるのでな。ギルベルトがどんな女と結婚しようが、最終的には私に惚れる事になるだろう。ギルベルト、私の初めての恋人として、私を幸せにするのだぞ」
「勿論だよ」

 俺はヴェロニカの手に口づけをすると、ヴェロニカは頬を真っ赤に染めて俯いた。それからシャルロッテがゆっくり近づいてくると、涙を流しながら俺を見上げた。

「ギルベルトの馬鹿! 私が最初に出会ったのに……! どうして他の女と付き合うのよ……! 私の初めての仲間なのに! 私とも付き合いなさいよ!」
「シャルロッテがそれで良いなら……。俺はシャルロッテが好きだよ。いつも陰ながら俺を支えてくれるし。傷だらけになってブラックウルフの肉を取ってきてくれた時は、俺は本当に愛されているんだなと思った。皆と同時に付き合うなんて失礼なのは承知だけど、俺はベルギウスの加護を受けた者として、モンスター娘達を守りながら生きていかなければならないんだ」
「それは知ってるわ……。ギルベルトが私の事も好きならそれでいいの。一番を決めて欲しいとは思わない。別に重婚だっていい。人間ですら無い、獣人の私を好きになってくれる人なんて他に居ないと思うから」

 俺はシャルロッテを抱きしめると、彼女達は涙を流しながらお互いを見つめ合った。俺の判断は正しいはず。随分前からガチャにはハーレムを視野に入れる様にと言われていたのだから。俺が命を助けたのだから、俺の命が尽きるまでは守りきるのは当然の事だと思う。

 誰か一人だけを選んで交際するという事は出来ない。やはり自分が受けた加護によってモンスターとしての力を封印したからか、どうも他人とも思えない。将来は重婚する事になるだろうが、彼女達を幸せに出来る様、冒険者としても更に名を上げ、彼女達が豊かに暮らせる様に努力をしよう。

「宴の用意が出来ましたよ」

 アンネさんが中庭に入ると、恋人達を見つめて微笑んだ。アンネさんはこの展開を予測していたのだろう。それから俺達はガブリエル様と共に宴を堪能し、程良く酔いが回ったところで、恋人達と共に客室に戻った。ヴェロニカは自室に戻り、シャルロッテは恥ずかしいからといってガチャと寝る事にしたが、エリカ、ローラ、ギレーヌは俺と共に同じ部屋を使う事にした。

「ギルベルト、これからどうするつもり? ヘルゲンで暮らすのでしょう?」
「そうだね。まずは道具屋の経営を続けて地域に貢献しながら、冒険者としてもモンスター討伐をして生きるつもりだよ。時間がある時には、討伐の旅に出て大陸を回るのも良いだろう。冒険者になってから今日まで、あまりにも忙しく生きすぎたから、これからはみんなとゆっくり生きようと思う」
「お兄ちゃんと一緒に居られるなんて嬉しいです。アポロニウス様から僕を守ってくれた時、僕はお兄ちゃんの事が好きになったんです……」
「俺も。ダンジョンで守ってくれた時から、ギレーヌの事を意識し始めたよ。ギレーヌが居たから俺は今もこうして生きているんだ。この恩は必ず返すよ」
「恩だなんて。お兄ちゃんが僕を守ってくれた様に、これからも僕がお兄ちゃんの騎士として守り続けます」

 俺はギレーヌの頭を撫でると、彼女は幸福そうな笑みを浮かべて目を瞑った。モンスター娘とは何と美しいのだろうか。やはり俺の性格では誰か一人を選択する事は出来なかったんだ。

 それから俺はローラと共に風呂に入り、宴の事や模擬戦について熱く語り合うと、彼女はすっかり疲れてしまったのか、浴室で眠り始めた。俺はローラを抱き上げて浴室から出ると、エリカとギレーヌが浴室に入った。

 それからローラの髪を乾かし、ベッドに寝かせると、彼女は可愛らしく目を開けて俺の唇に唇を重ねた。もう恋人になったのだから拒む事はないだろう。俺はローラの事が好きなんだ。ローラも初めて出会った時から俺の事を好きだと言ってくれていた。

「大好きだよ。ローラ」
「ローラも……」

 ローラを強く抱きしめると、俺の胸板には彼女の豊かな胸が触れた。彼女の唇の感覚を味わう様に、お互いの気持ちを確認しあう様に、暫く口づけをしていると、ギレーヌとエリカが浴室から出てきた。

 それから俺は二人の髪を乾かすと、四人でベッドに横になり、これからの生活を朝まで語り合った……。
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