氷姫 - 精霊から頂いた加護が最強すぎるので、魔術師になって無双しようと思う -

花京院 光

文字の大きさ
30 / 44
第一章「迷宮都市フェーベル編」

第三十話「共闘」

しおりを挟む
 六階層に続く階段からは幻獣のアラクネやグレートゴブリンとは比較にならない体格の魔物が現れた。幻獣クラスの魔物、デーモンだ。なぜ五階層の様な浅い階に幻獣クラスの魔物が居るか分からない。

 大抵の幻獣は最下層で冒険者を待ち受けている。死のダンジョンの支配者であるデーモンの登場にギレーヌは愕然とした表情を浮かべ、震えながら後ずさりをした。精霊狩りを返り討ちにしてきたギレーヌでさえ恐怖を抱く程の魔物なのだ。

 肌は黒く、体長三メートルを超える体は異常なまでに筋肉が発達している。頭部からは二本の黒い角が生えており、背中からは巨大な翼が生えている。体つきは人間に近いが、筋肉の大きさが比較にならない。エミリアのアイスゴーレムですらデーモンに対抗するのは難しいだろう。

 爪はナイフの様に鋭利で、目は血走っており、広い墓地で俺達の姿を見つけるや否や、巨大な翼を広げて飛び上がった。今日は間違いなく人生で最低の日だ。やっとギレーヌの元に辿り着けたと思ったら、ダンジョンの支配者がお出ましとは。

 ギレーヌが震えながら呆然とデーモンを見つめていると、デーモンは目にも留まらぬ速度で宙を飛び、俺達に向かって右腕を振り上げた。あの爪で切り裂かれれば一撃で命を落とすだろう。ギレーヌは自分の死を悟ったのか、静かに涙を流しながら俺を見つめた。

「あなたの花束、受け取ってあげられなくてごめんなさい……」

 ギレーヌが優しく微笑みながら俺を見上げると、俺は一気に頭に血が上った。精霊を泣かせるデーモンを許すつもりはない。俺はギレーヌの小さな体を突き飛ばすと、氷の盾を作り上げてデーモンの一撃を受けた。

 まるで紙を裂く様に、デーモンの鋭利な爪が氷の盾を切り裂くと、俺の左腕に激痛が走った。左上腕と前腕がデーモンに切り裂かれてパックリと開いている。大量の血が噴き出すと、俺は生命の終わりを悟った。

「ギレーヌ! 四階層に逃げるんだ! 俺の仲間が君を守ってくれる!」
「そんな……! あなたはどうするの……!?」
「俺が時間を稼ぐ! 君だけでも生きてくれ! 俺はレオン・シュタイナー! 氷の精霊・エミリアの契約者で、君を守るために来た!」
「レオン……!? あなたはどうして命を捨ててまで私を守ろうとするの!? どうして出会ったばかりの私を守ってくれるの? どうしてそんなに必死なの!? 自分の弱さも分からないの!? 私を囮にして逃げればあなたは助かるかもしれない! どうして見ず知らずの精霊のために死を選べるの!」

 ギレーヌが大粒の涙を流しながら俺の背中に顔を埋めると、俺はギレーヌと心が通じ合えた事に喜びを感じた。エミリアも精霊を守って死んだ俺を誇りに思ってくれるだろう。ギレーヌとティナ、クリステルさんとハンナが冒険者ギルド・レグスルに協力すれば、きっとエミリアとシャルロッテさんを救出出来るはずだ。

 俺の短い冒険に終わりの時が来たのだ。僅かな時間だったが、エミリアと過ごした日々は間違いなく最高のものだった。死ぬ前に精霊の加護を授かれたのだ。一生加護すら持たずに生きるのかと思っていた。最期に美しい氷姫を見れない事は残念だが、ギレーヌならエミリアを守る力がある。

「ギレーヌ……! エミリアを頼む……」

 俺はギレーヌを突き飛ばすと、彼女は涙を流しながら四階層に向かって走り出した。これでいいんだ。人間は精霊を守るために生まれる。人間としての役目を果たしながら人生の最期を向かるのだ。どうせなら綺麗に散りたいものだ。

 死にゆく人間が魔力を蓄えていても仕方がない。全ての魔力を使い、全力でデーモンに挑む。今までだって死闘を経験してきた。何度も迷いの森で死にそうになった。ゴブリンに体を切られた回数だって数え切れない程ある。それでも俺はなんとか死ななかった。

 だが今日だけは違う。俺ではデーモンには勝てない。それなら最後はギレーヌを守って死にたい。

「かかってこい! デーモン……!」

 精神を奮い立たせ、右手に氷で作り上げた剣を握り締める。デーモンが翼を開いて飛び上がると、俺の頭上から魔法の刃を飛ばしてきた。闇属性の魔力から作られた三日月状の刃が俺の頬をかすめると、頬が綺麗に裂け、石の地面を軽々とえぐった。

 軽く放った攻撃魔法が石を砕いたのだ。なんという攻撃力だろうか。直撃していたら、俺の体は綺麗に真っ二つに切れていただろう。左腕は既に使い物にならない。力が全く入らないのだ。

 今俺が持っているものは僅かな魔力と、愛しの氷姫から授かった加護だけだ。無属性の俺がここまで来れた事が奇跡だったのだ。だが、最後にもう一度奇跡を起こしてみせる。

 デーモンが頭上を旋回しながら次々と刃を放つと、俺は自分の足元に意識を集中させた。デーモンと同じ高さに飛び上がる事が出来れば、剣で敵を切る事も出来るかもしれない。アイスゴーレムなら俺を投げ飛ばし、デーモンに接近出来る機会を作れるに違いない。

「アイスゴーレム! 最後に一度だけ力を貸してくれ!」

 体中から魔力を掻き集めて地面に注ぐと、俺の足元からは体の小さなゴーレムが現れた。体長は百五十センチ程。今の俺の魔力で作れる最後のゴーレムだ。ゴーレムは瞳から涙を流し、俺の頭を撫でると、彼はおもむろに俺の体を掴んだ。

「デーモンの所まで頼むよ」
「……」

 俺の死を悟りながらも、アイスゴーレムが俺の体を投げ飛ばすと、小さな体からは想像も出来ない程の力で宙を飛んだ。デーモンが予想外の攻撃に狼狽した瞬間、俺は全ての力を掻き集めて垂直斬りを放った。

 デーモンが右手で俺の剣を受けた瞬間、デーモンの腕が落ちた。肉と骨を断つ感覚が伝わってくると、俺は生命の終わりを悟りながら落下を始めた。既にアイスゴーレムは魔力が尽きて溶けた。このまま地面に落下し、俺は無残に命を落とすのだ。

「エミリア……。俺は君を守れなかった……」

 ゆっくりと目を瞑り、氷の剣を捨て、最後の祈りを唱えた。脳裏には両親の姿と、ティナ、ハンナ、クリステルさん、ギレーヌ、エミリアの姿が浮かんだ。もう一度エミリアに会いたかった。彼女の笑顔が見たかった。まだまだ一緒に居たかった。

 弱かった俺の無謀な旅が遂に終わるのだ。体は既に自分のものでは無い様な感覚だ。力が抜け、恐怖だけが精神を支配している。徐々に地面が近付いてくると、俺は強く目を瞑った……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

処理中です...