氷姫 - 精霊から頂いた加護が最強すぎるので、魔術師になって無双しようと思う -

花京院 光

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第一章「迷宮都市フェーベル編」

第三十八話「氷姫と精霊の守護者」

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 グリムは俺の精霊魔法を見て恐怖のあまり顔を引きつらせた。流石に精霊魔法の使い手が二人も居れば敵わないと悟っているだろうか。ギレーヌが音も立てずにグリムの背後に移動すると、グリムは瞬時に振り返って石の槍を飛ばした。

 二メートルを超える槍が次々とギレーヌを襲い、ギレーヌはグリムの攻撃を大鎌で切り落としながらも、俺に目配せをして微笑んだ。流石に死のダンジョンで育ち、精霊狩りに狙われ続けていたギレーヌは戦闘時も非常に落ち着いている。

 俺はグリムの背後から忍び寄り、氷のエンチャントを掛けたブロードソードで切りかかった。ミスリルの刃がグリムの肩を切り裂くと、グリムは振り返りざまに杖を向けて魔力を放出した。

「ファイアボール!」

 グリムの魔法が炸裂すると、俺の体よりも大きな炎の球が発生した。魔族と化して体内の魔力が一気に向上し、火属性の魔法の威力も上がっているだろう。シュルツ村に居た頃とは比較にならない程の魔法に怯えながらも、俺は瞬時にブロードソードを振り下ろした。

 剣に掛かっていた鋭い冷気がかき消され、グリムの炎が炸裂すると、俺の体が階段を転げ落ちた。全身に激痛を感じながらも、俺は再び階段を駆け上がった。ギレーヌは次々とグリムに攻撃を放っているが、グリムは適度な距離を取りながら、雷撃と火炎、石の槍を自在に飛ばしてギレーヌの攻撃を相殺している。

 やはりグリムは天才なのだろう。既に精霊級の戦闘力を身に着けているのだ。幼い頃から魔法を極めようと訓練を積んでいたグリムが精霊石を取り込んで魔族と化したのだ。ギレーヌも徐々の魔力が低下してきたのか、助けを求める様に俺を見つめた。

 ブロードソードを鞘に戻し、左手で大鎌を持ったまま右手を床に付けた。一瞬でもグリムの注意を引ければ良い。俺は初めてティナを呼び出す事に決めた。アイスゴーレムを作る事が出来ればグリムを叩き潰せるかもしれないが、もはや俺にはゴーレムを作れるだけの魔力はない。

 グリムがギレーヌの攻撃を受けるために石で盾を作り上げた瞬間、俺は心の中でティナに呼びかけた。瞬間、グリムの足元に魔法陣が発生し、魔法陣の中から小さなガーゴイルが飛び出した。ティナはすぐに状況を察知したのか、両手でグリムの足を握りしめると、グリムはティナの握力に耐えきれず涙を流した。

 俺は両手で大鎌を握り締め、一気に跳躍してグリムの間合いに飛び込んだ。

「よくもエミリアを悲しませたな……! グリム!」

 炎を纏う大鎌を全力で振り、グリムの腹部を切り裂くと、グリムの体が一気に燃え上がった。グリムは自分の敗北を悟ったのか、虚ろな瞳で俺を見つめながら、小声で魔法を唱えた。

「アラクネ・召喚……」

 グリムの言葉と共に窓際に体長三メートルを超えるアラクネが現れた。まさか、グリムが幻獣を召喚出来る程の魔族だったとは想像すらしなかった。確かに闇属性のアラクネなら、グリムの様な人間に敵対する者に力を貸すかもしれない。

 瀕死のグリムは地面を這いつくばりながらアラクネの元に進む、アラクネはグリムを守る様にフレイルを構えた。既に俺の魔力は枯渇しており、魔力から作り上げた大鎌も消滅した。

 ギレーヌの魔力もあと僅かなのだろう。最悪の状況でアラクネを召喚された俺達の元に、
一階で先頭を終えたダニエルさんとクリステルさんが駆け付けて来た。

 ダニエルさんは幻獣クラスの魔物に狼狽しながらも、一目散に敵に向かって駆けた。俺もダニエルさんの力強い歩みに勇気を貰い、再びブロードソードを抜いて走り出した。既にエンチャントを掛ける魔力すら残っていない。

 アラクネはフレイルを振り上げてダニエルさんに容赦ない一撃を放ったが、ダニエルさんは二本の件を交差させてアラクネの一撃を防いだ。瞬間、クリステルさんが地面に左手を付いて地属性の魔力を炸裂させた。

「ソーンバインド!」

 アラクネの足に無数の茨が絡みつき、アラクネが退路を失った瞬間、ティナがアラクネの頭上からファイアボールを落とした。強烈な炎の球がアラクネの下半身に直撃すると、蜘蛛の足が吹き飛び、アラクネは激痛に悶え、フレイルをでたらめに振り回した。

 俺とギレーヌは一気に距離を詰め、同時に攻撃を放った。ギレーヌの大鎌がアラクネの足を刈り取り、俺はブロードソードをアラクネの腹部に突き立てた。アラクネの血が俺の鎧を染めると、俺は勝利を確信した。

 アラクネは静かに命を落とし、幻獣を失ったグリムは失禁しながら大粒の涙を流し、無様に命乞いしながら俺を見上げた。

「許してくれ……! こんな場所で死にたくない!」

 俺は躊躇なくグリムの首元に剣を突き立て、魔族と化した忌々しい隣人の命を奪った。

「私達の勝利ね」
「ああ。遂にグリムを仕留めたんだ」

 ギレーヌは魔力を枯渇寸前まで使ったのか、力なく俺の胸に顔を埋めた。ダニエルさんが冒険者にマナポーションを持ってこさせると、俺達はマナポーションを飲んで魔力を回復させた。

 それから俺はゆっくりとエミリアの元に進んだ。氷漬けになったエミリアを見るだけで心が痛くなる。どうして彼女が氷漬けになっているのか、皆目見当もつかない。グリムの仲間にエミリアを氷漬けに出来る魔術師は居なかった。

「レオン、もしかしてこの子は自分自身を氷漬けにしたんじゃないかしら」
「自分自身を……?」
「ええ、魔族に殺されるとでも思ったのでしょう。自分を守るために自らを氷に封印した。きっと氷の加護を授けたレオンが防御魔法を解除してくれると信じたのでしょう」

 氷の中で眠る美しい姫の姿に思わず俺の気分が高揚した。やっと再会出来たのにエミリアが氷漬けになっているのでは旅も再開出来ない。最高の魔力を込めてエミリアの魔法を解除する。

 試しにギレーヌが大鎌でエミリアの氷に攻撃を仕掛けたが、僅かに表面が削れただけだった。エミリアが体内のほぼ全ての魔力を使って作り上げた防御魔法がこれ程の効果があるとは思わなかった。

 俺はエミリアが作り上げた氷に両手を触れ、体内から魔力を掻き集めて注いだ。俺自身の魔力がエミリアを上回れば、彼女の氷を砕く事が出来る。何度も氷から武器や防具を作り上げたきた。それでも生まれつき氷の魔法の使い手であったエミリアには及ばない。

 今の俺の魔力では恐らくこの魔法は解除出来ないだろう。それでも俺は今すぐエミリアを開放したい。意識を失っていたシャルロッテさんがゆっくりと立ち上がると、俺の肩に手を置いて微笑んだ。

 爆発的な地属性の魔力が流れ込んでくると、反対の肩にギレーヌが手を置いた。二人の魔力が全身に流れ、人生で感じた事も無い充実感を覚えながらも、二人から頂いた魔力を両手から一気に放出する。

 氷の表面に少しずつヒビが入ると、俺は全身から魔力を掻き集めて氷に注いだ。エミリアが作り上げた最高の防御魔法がゆっくりと効果を失うと、美しい氷が一気に砕け、意識を失ったエミリアが俺の胸に倒れ込んできた。

 俺は両手でエミリアのしなやかな体を抱きしめると、久しぶりに感じる彼女の体温と魔力に思わず涙を流した。エミリアの体内に俺の魔力が流れ始めると、彼女はゆっくりと目を開いて俺を見つめた。

 白く透き通る肌に、エメラルド色の瞳。細く長い銀髪に、人間とはどこか異なる幻想的な美貌。毎日エミリアの事ばかり想っていた。俺の氷姫が遂に目覚めたのだ。エミリアに対する想いは日に日に強くなり、今でははっきりと自分がエミリアに恋をしていると分かる。人生で初めて俺を認めてくれた精霊なのだ。

「レオンさん……」
「エミリア!」
「レオンさん。ずっと会いたかったです……。長い夢を見ていました。夢の中で私はレオンさんと一緒に暮らしていたんです。一緒に旅をして、一緒に御飯を作って、ゆっくり歳を重ねていく。私とレオンさんは王都で暮らしながら、そのうち恋に落ちて結婚するんです……」
「素敵な夢だね、エミリア。怖い思いをさせてしまってごめん。精霊の加護を持つ者として、俺は失格だよ。エミリアを守れなかった……」
「いいえ、レオンさんは私を眠りから覚ましてくれました。こうして私はレオンさんの腕に抱かれています。少し恥ずかしいですが、今日はずっとこうしていて欲しいです……。レオンさんを感じていたいんです。もう離れたくありません。ずっとレオンさんの事を想っていました……」
「俺もだよ、エミリア。俺はまだまだ弱いけど、これからもっと強くなってエミリアを守れる男になるからね」
「はい。レオンさん。大好きです……」

 エミリアがゆっくりと俺の唇に唇を重ねると、俺は彼女の体を力強く抱き締め、柔らかな唇の感覚を味わい、うっとりと俺を見つめるエミリアの頭を撫でた。やっと再会出来たのだ。この日の事だけを考えて死に物狂いで努力してきた。これから最愛の精霊との暮らしを再開するのだ……。
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