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第一章 天に真の武有り
異能の悪党たち
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深々と額を射抜いていたはずの鋼鉄の矢は、変化する肉に押されてポトリと落ち、目に捕えるのは影ばかりの凄まじい速さで、鬼女は両の腕を振り抜けた。
しゅっるずぅと妙な空気の抜けた音がしたかと思うと、斬り付けていた男二人は頭だけを残して、躰が骨片と肉片に代わっていた。
「化物女、我が奥義を喰らえっ、法帖、三矢一陣」
弓の男は焦りながらも、三本の鋼の矢を同時に射掛けた。
矢は、螺旋のうねりを挙げて、空気を切り裂き、全てを貫かんと真っ直ぐに飛ぶ。
しかし、鬼女も嗤いながら、飛来する矢を避けようとすらしない。
鋼の矢は正確に額に胸に腹に威力も十分に吸いこまれたのだが、かすり傷一つ負わすことなく三本とも地に落ちた。
「お前達ぃいい、殺される者のいた、いた痛みぃいいぃ、知れぇえ」
鬼女は口から白いあぶくを撒き散らしながら笑うと、先程残った生首を二つともひょいと拾い上げ、豪弓の男に投げつけた。
如何なる呪いなのかはわからない。
投げられた生首は、絶叫をあげつつ、歯をカチカチ鳴らし、弓の男の首根っこに食らいつくとその喉笛を易々と噛み 千切り、肉を暗い血をすすりつつ、絶命した弓の男の首を齧り取ろうと執拗に葉を立て咀嚼していた。
少し離れた所で仲間の悲惨な死に様の様子を見ながら、動かずにいた三人の緋炎袴組の男達は、尋常ならざるその血の惨劇を目の当たりにしてもいるにもかかわらず、薄ら笑いを浮かべて居る。
三人の出で立ちと云えば、一人は岩のような四角い体躯に眼光鋭い浪人者で、一人は大柄の赤ら顔の僧形で首から大数珠をぶら下げており、一人はまるで芝居小屋の女形役者のような色白の色男で、揃いの紅蓮の炎をあしらった羽織袴がなければ、なんの共通点も無い。
「戯け者共が。化け物相手に己が腕前を過信しすぎだ。只の得物では役に立たぬと伝えたのにな」
「我等緋炎袴組を襲っている身の程知らず。魔物らしく、冥府魔道へ叩き戻して進ぜよう」
「捕まえて見世物小屋、いや、御泪頂戴の芝居小屋にでも売付けてみるかねえ」
男達は鬼女にすら、臆することなく真っ直ぐに足を向けている。
女形役者のような優男がニヤつきながら、他の二人を制した。
「相手は女の亡者。ならばあたしの出番だろう。おーい、女っ、又嬲られる為にわざわざ化けて出て来るとは、お前様も相当好きものだねぇ。お望み通り嬲りつくしてあげるよぅ」
その煽りに死霊魂が「うぉぉぉおん、うぉおぉおんっ」と辺りに木霊する程のこもった声を上げ、鬼女の瞳からはぽたりぽたりと血の涙が流れた。
「おのれぇは直ぐには殺さぬぅう。じわりじわりと肉を剥し、骨を砕いて、我等が慰みとしてくりょう」
どんっという鈍い音と共に鬼女は瞬きの間に間合いを詰めると、顔と腹を切り刻んで飛散させるべく黒い両手に生えた短刀のような爪を振るった。
女形風優男は微動だにせず、今までの犠牲者と同じく、バラバラにされたかと思いきや、
「ぐぁあぁぁっ」
と呻いて跳び退いたのは鬼女の方であった。
鬼女の黒い両手の短刀の如き爪が煙を上げて溶けている。
「おやおや、大丈夫じゃあなさそうじゃないか?手が溶けているよぅ。とっくのとうにあの世に渡った死人の分際で、痛みを感じるなんざぁ、贅沢の極みさあね」
女形風優男の顔や腕に刺青とはまた違う、青く輝く不思議な文様が浮かんでいた。
「どうだい、美しいだろう?あたしのこの肌はねぇ、髪の毛一筋程の傷すらつかない、有難ぁたあい神様の玉の肌『真陽玉肌』なのさぁ。化け物が気安く触れていい様な下劣なぁものとは訳が違うんだよ」
鬼女と死霊魂がけたたましい唸り声を上げた。
痛み。悲しみ。憎しみ。全てが混ざり合い融合した絶叫であった。
死霊魂の幾つかが応えるように燃え盛ると、鬼女と融合し、鬼女の躰が一回り二回りと大きくなり、地獄の悪鬼の様相になっていく。
僧形の大男が印を構えると、女形風優男に大音声で叱りつけた。
「うぬっ、遊び過ぎだぞ。面倒なものに変化しておる」
「ちっ、確かに面倒そうだぁ。本気を出してあげるから、おねんねしておくれなっ」
女形風優男は一陣の風となり、大鬼と化した鬼女の巨体に吸い付くように張り付くと、青く輝く紋様を拳に載せて、その細腕で巨体を宙へと弾き飛ばした。間髪入れず、僧形の男が数珠を構えて、
「降魔覆滅。金剛念珠、縛」
と唱え、背後に忽然と出現した巨大な念珠が悪鬼の巨体を巻き取って持ち上げた。
鬼女の両腕ごと躰を縛り上げ、ギリギリと締め付けて、動けないように完全に封じる。
その瞬間を見逃さず、刀に手を掛け走り出した浪人者は、
「炎縄の刃よ。その威、奔り参らせ」
と唱え、剣を鞘走らせると、刀身が激しく炎を噴き出し始めた。浪人者はその剣で丸太のような両足を横薙ぎに切り飛ばし、両足を灰にして燃やし尽くす。
「グオオオゥ」鬼女は低く呻き声を上げながらも、炎の刀を振るう男を取り殺そうと、死霊魂を飛ばしたが、僧形の大男が、印を結んで立ちはだかった。
「封。結びの念珠」
ニヤつきながら放った光る大珠で、死霊魂を打ち消した。
「魑魅魍魎の類が、天の法珠に抗えると思うなっ」
そこに女形風優男が、輝く紋様を浮かび上がらせた足で鬼女の脇腹を蹴り飛ばし、岩肌に叩きつけ、にやりと笑う。
「先約を忘れちゃあ、嫌だよ。お前さまを嬲るのは、あたしだよゥ」
鬼女は躰の痛みと魂の痛みの両方で、沢山の人々の声が重なった死者の苦鳴をあげた。
人の心にある傷を抉り出し、恐れや後悔、、憎悪などの負の想いを引き摺りだす、鬼と化した者達の呪われた苦鳴であった。
緋炎袴組の異能の三人衆は、自分たちに向けられたその声を聴いて、いかようだったのか。
岩のような四角い躰の浪人者は、眉一つ動かさず、坊主姿の大男はうるさそうに顔をしかめ、女形風優男に至っては、頬を赤らめ、欲情した眼を潤ませながら、嬉しそうに笑っていた。
茶屋に居る人々には、守護武神の加護が働き、その哭き声は届かない。
しゅっるずぅと妙な空気の抜けた音がしたかと思うと、斬り付けていた男二人は頭だけを残して、躰が骨片と肉片に代わっていた。
「化物女、我が奥義を喰らえっ、法帖、三矢一陣」
弓の男は焦りながらも、三本の鋼の矢を同時に射掛けた。
矢は、螺旋のうねりを挙げて、空気を切り裂き、全てを貫かんと真っ直ぐに飛ぶ。
しかし、鬼女も嗤いながら、飛来する矢を避けようとすらしない。
鋼の矢は正確に額に胸に腹に威力も十分に吸いこまれたのだが、かすり傷一つ負わすことなく三本とも地に落ちた。
「お前達ぃいい、殺される者のいた、いた痛みぃいいぃ、知れぇえ」
鬼女は口から白いあぶくを撒き散らしながら笑うと、先程残った生首を二つともひょいと拾い上げ、豪弓の男に投げつけた。
如何なる呪いなのかはわからない。
投げられた生首は、絶叫をあげつつ、歯をカチカチ鳴らし、弓の男の首根っこに食らいつくとその喉笛を易々と噛み 千切り、肉を暗い血をすすりつつ、絶命した弓の男の首を齧り取ろうと執拗に葉を立て咀嚼していた。
少し離れた所で仲間の悲惨な死に様の様子を見ながら、動かずにいた三人の緋炎袴組の男達は、尋常ならざるその血の惨劇を目の当たりにしてもいるにもかかわらず、薄ら笑いを浮かべて居る。
三人の出で立ちと云えば、一人は岩のような四角い体躯に眼光鋭い浪人者で、一人は大柄の赤ら顔の僧形で首から大数珠をぶら下げており、一人はまるで芝居小屋の女形役者のような色白の色男で、揃いの紅蓮の炎をあしらった羽織袴がなければ、なんの共通点も無い。
「戯け者共が。化け物相手に己が腕前を過信しすぎだ。只の得物では役に立たぬと伝えたのにな」
「我等緋炎袴組を襲っている身の程知らず。魔物らしく、冥府魔道へ叩き戻して進ぜよう」
「捕まえて見世物小屋、いや、御泪頂戴の芝居小屋にでも売付けてみるかねえ」
男達は鬼女にすら、臆することなく真っ直ぐに足を向けている。
女形役者のような優男がニヤつきながら、他の二人を制した。
「相手は女の亡者。ならばあたしの出番だろう。おーい、女っ、又嬲られる為にわざわざ化けて出て来るとは、お前様も相当好きものだねぇ。お望み通り嬲りつくしてあげるよぅ」
その煽りに死霊魂が「うぉぉぉおん、うぉおぉおんっ」と辺りに木霊する程のこもった声を上げ、鬼女の瞳からはぽたりぽたりと血の涙が流れた。
「おのれぇは直ぐには殺さぬぅう。じわりじわりと肉を剥し、骨を砕いて、我等が慰みとしてくりょう」
どんっという鈍い音と共に鬼女は瞬きの間に間合いを詰めると、顔と腹を切り刻んで飛散させるべく黒い両手に生えた短刀のような爪を振るった。
女形風優男は微動だにせず、今までの犠牲者と同じく、バラバラにされたかと思いきや、
「ぐぁあぁぁっ」
と呻いて跳び退いたのは鬼女の方であった。
鬼女の黒い両手の短刀の如き爪が煙を上げて溶けている。
「おやおや、大丈夫じゃあなさそうじゃないか?手が溶けているよぅ。とっくのとうにあの世に渡った死人の分際で、痛みを感じるなんざぁ、贅沢の極みさあね」
女形風優男の顔や腕に刺青とはまた違う、青く輝く不思議な文様が浮かんでいた。
「どうだい、美しいだろう?あたしのこの肌はねぇ、髪の毛一筋程の傷すらつかない、有難ぁたあい神様の玉の肌『真陽玉肌』なのさぁ。化け物が気安く触れていい様な下劣なぁものとは訳が違うんだよ」
鬼女と死霊魂がけたたましい唸り声を上げた。
痛み。悲しみ。憎しみ。全てが混ざり合い融合した絶叫であった。
死霊魂の幾つかが応えるように燃え盛ると、鬼女と融合し、鬼女の躰が一回り二回りと大きくなり、地獄の悪鬼の様相になっていく。
僧形の大男が印を構えると、女形風優男に大音声で叱りつけた。
「うぬっ、遊び過ぎだぞ。面倒なものに変化しておる」
「ちっ、確かに面倒そうだぁ。本気を出してあげるから、おねんねしておくれなっ」
女形風優男は一陣の風となり、大鬼と化した鬼女の巨体に吸い付くように張り付くと、青く輝く紋様を拳に載せて、その細腕で巨体を宙へと弾き飛ばした。間髪入れず、僧形の男が数珠を構えて、
「降魔覆滅。金剛念珠、縛」
と唱え、背後に忽然と出現した巨大な念珠が悪鬼の巨体を巻き取って持ち上げた。
鬼女の両腕ごと躰を縛り上げ、ギリギリと締め付けて、動けないように完全に封じる。
その瞬間を見逃さず、刀に手を掛け走り出した浪人者は、
「炎縄の刃よ。その威、奔り参らせ」
と唱え、剣を鞘走らせると、刀身が激しく炎を噴き出し始めた。浪人者はその剣で丸太のような両足を横薙ぎに切り飛ばし、両足を灰にして燃やし尽くす。
「グオオオゥ」鬼女は低く呻き声を上げながらも、炎の刀を振るう男を取り殺そうと、死霊魂を飛ばしたが、僧形の大男が、印を結んで立ちはだかった。
「封。結びの念珠」
ニヤつきながら放った光る大珠で、死霊魂を打ち消した。
「魑魅魍魎の類が、天の法珠に抗えると思うなっ」
そこに女形風優男が、輝く紋様を浮かび上がらせた足で鬼女の脇腹を蹴り飛ばし、岩肌に叩きつけ、にやりと笑う。
「先約を忘れちゃあ、嫌だよ。お前さまを嬲るのは、あたしだよゥ」
鬼女は躰の痛みと魂の痛みの両方で、沢山の人々の声が重なった死者の苦鳴をあげた。
人の心にある傷を抉り出し、恐れや後悔、、憎悪などの負の想いを引き摺りだす、鬼と化した者達の呪われた苦鳴であった。
緋炎袴組の異能の三人衆は、自分たちに向けられたその声を聴いて、いかようだったのか。
岩のような四角い躰の浪人者は、眉一つ動かさず、坊主姿の大男はうるさそうに顔をしかめ、女形風優男に至っては、頬を赤らめ、欲情した眼を潤ませながら、嬉しそうに笑っていた。
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