THE NEW GATE

風波しのぎ

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1巻

1-6

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 ゲーム中ではどのプレイヤーも小奇麗な格好をしていた(あえて変な格好をしている者もいたが)ので、そのギャップにいまさらながら驚いていた。
 城門が見える位置まで来ると、衛兵らしき男が入り口で身分証のようなものを確認したり、馬車に積んである荷物の簡単な検分をしたりしていた。
 ティエラにもらった紹介状があればすぐに入国できるはずなので、シンは列には並ばず、その横をまっすぐ歩いていく。
 列から離れてまっすぐに近づいたからか、門まであと20メルほどのところで衛兵がシンに気づいた。何やらいぶかしげな表情を浮かべている。
 門との距離が10メルを切ったところで、4人いた衛兵の1人がシンに声をかけた。

「きみ! 街に入りたいならきちんと並んでくれ! そうしないと街に入れるわけにはいかないぞ」

 衛兵はそう言って列の最後尾さいこうびを指差す。列が長すぎて、シンには最後尾が見えなかったが。 

「ええと、これを見せれば並ばずに街に入れるって言われたんですけど……」

 アイテムボックスからティエラにもらった紹介状を出し、衛兵に手渡す。その際アイテムボックスを使ったとわからないように、ふところから出したように見せかけるのは忘れない。
 シンが差し出した紹介状を受け取った衛兵は、まだに落ちない顔をしていた。しかしその内容に目を通し、読み終わるころには手が震えていた。

「月の祠からの……紹介状……」
「はい、店員の方にいただいたんですが」

 シンは衛兵がなぜ驚いているのかまったくわからず、この人、手が震えてるけど大丈夫か? などと衛兵の心配までしていた。

「本物かどうか確認したい。ついてきてもらえるか」
「わかりました」

 本物かどうか判断がつかないのか、本物だと信じられないのか、衛兵はすぐさま元の位置に戻ると、他の衛兵を集めて何やら話し合いを始めた。
 とくにすることもないので、シンは門の前で止められている、普通の馬の1・5倍ほどある大型の馬を眺めていた。
分析アナライズテン】が発動して、それがグリム・ホースだとわかった。レベルは33と低いが、れっきとしたモンスターである。久しく見ていなかったのですぐにはわからなかった。
 調教師テイマーがいるのだろう、人が近づいてもおとなしくしている。
 シンがそんなことを考えながらぼーっとしていると、先ほどシンに話しかけてきた衛兵が戻ってきた。

「お待たせしてすいません。こちらです」
「はぁ、わかりました」

 さっきとは打って変わって実に丁寧ていねいな対応になった。豹変ひょうへんというほどではないが、違和感がぬぐえない。

(あの紹介状って、けっこうすごいのか?)

 衛兵の態度の変化に、変な注目を浴びたくないなとシンは思った。元の世界に戻る手段を探すにしても、早々に目立つようなまねはしたくない。
 並んでいる人たちのいぶかるような視線を感じつつくぐった門の先は大きな広場になっていた。
 大型の馬車が行きかい、人々の往来おうらいも激しい。ざっと見たところヒューマン、ビースト、ドワーフが多く、時折エルフやピクシーの姿も見えた。
 広場の端にはさまざまな露店が並び、食べ物、武具、装飾品、果ては怪しげなアイテムを売っているところもある。
 シンが立ち止まってキョロキョロしていると、門で話しかけてきたのとは別の衛兵が寄ってきた。

「これから冒険者ギルドのほうに案内させていただきます。よろしいですか?」
「へ? あ、はい。お願いします」

 どうやらシンがついてこないことに気づいて戻って来たようだ。中に入ったら別れるものだと思っていたシンは、つい気の抜けた返事をしてしまった。

「何かご予定がございますか? よろしければご案内いたしますが」
「いえ、予定はないので冒険者ギルドのほうにお願いします。あと丁寧語はいらないんで」
「しかし、月の祠の紹介状を持つ方に失礼があっては……」
「いや問題ないんで、俺も普段通りにするんで」
「……そうですか。わかり――」
「丁寧語」
「……わかったわかった、やりやすいようにすりゃいいんだろ」

 シンとしても紹介状はたまたまもらったようなものなので、大きな顔をする気はない。それをわかってくれたのか、案内役の衛兵は口調が砕けたものになった。これが素なのだろう。

「わかってもらえてなにより」

 シンは軽くうなずいた。

「ったく、紹介状持ってくる奴はどいつもこいつも。丁寧語くらいいいじゃねか」
「どうにも違和感があるんだよ。こっちとしては。俺はシン。よろしく」

 シンも元はただの学生。年上の人間に丁寧語を使われるのにはまだまだ慣れていないのだ。

「ベイドだ。この街にずっと住んでるんでな。わからないことがあったら聞け」

 そう言って笑うベイドは、刈り込んだ茶髪とひげのせいで、熊が笑っているような印象を受ける。
分析アナライズテン】によるとベイドのレベルは100。騎士団最強が158と聞いていたが、ベイドが強いのか弱いのか、シンには判断がつかない。

「じゃあ、とりあえず街のことはあとで聞くとして。なんで俺を冒険者ギルドに案内しようとしたんだ?」

 確かに冒険者ギルドには行くつもりだったが、それを衛兵に話した記憶はシンにはない。

「そりゃ紹介状に、そうしてやってくれって書いてあったからだ。誰だってそうしただろうな」
「そうなのか。あ、一応確認なんだけど月の祠の紹介状ってどのくらいすごいんだ?」
「知らねえで見せたのかよ!?」

 なぜか驚かれた。

「いや、この国に来たの初めてだし。月の祠に行ったのも偶然みたいなものだし」
「偶然行って紹介状もらってくるだと? ……お前何者だよ」
「ただの流れ者」
「……信じられるか。まあいい。他の国じゃどうか知らんが、この国じゃ、その紹介状があれば王に謁見えっけんだってできるくらいすげぇもんだ。紹介状を偽造しようとする奴らまでいるくらいだしな」

 どうやらティエラがくれた「サービス」は、とんでもないものだったようである。

(ティエラよ。サービスでくれるものじゃないだろ……)

 そんなすごいものだとは知りもせずにいたことを、少し後悔するシン。
 実のところ、通行証の代わりにでもなるのかと思っていただけだった。ベイドの話が本当なら、驚かれるのも当然だろう。

「言っとくが、なくすとやべぇからな」
「……さっき衛兵の人に渡したっきりだな」

 紹介状を返してもらっていないことにいまさら気づくシン。あわててUターンしようとすると、ベイドに止められた。

「大丈夫だ、紹介状なら俺が持ってる。いくら衛兵相手でも、普通なら肌身離さずってのが基本だからな。よからぬことを考える馬鹿が出る前に回収済みだ」
「ベイド、グッジョブ!!」

 気を利かせてくれたベイドに、シンは思わずサムズアップした。口調と風貌も相まって粗野そやなイメージがぬぐえなかったのだが、この男、口調に似合わずまじめなようである。
 受け取った紹介状はアイテムボックスにある『大切なもの』ゾーンに入れておいた。このゾーンは盗難防止機能が付いているので、【盗む】や【強奪】といったスキルで奪われる心配もない。

「ああ。言い忘れてたが、冒険者ギルドに行ったらエルスって受付嬢にその紹介状を見せな」
「エルス?」
「エルフの冒険者なんだがな、ギルドの受付嬢もしてんだよ。紹介状にエルフの使う古代文字が書いてあってな。冒険者ギルドのエルフっつったらエルスだけだ。おそらくエルス宛だろう」
「わかった。ギルドで聞いてみる」

 エルフということは、ティエラの知り合いかもしれない。シンはしっかり記憶した。
 紹介状の件が一段落つくと、シンはベイドに街のことについて教えてくれと頼んだ。

「そういやこの国に来るのは初めてか。じゃあまずは街の大雑把おおざっぱな区分けからだな。さっきお前が入ってきたのが南門だ。門は東西南北に1つずつあるが、一番使われているのも南門だな」
「なんで南門が一番なんだ?」
「隣接してる区が関係してるんだよ。南門のそばには商業区がある。この国は中央に王城があり、その周りを貴族や大商人みたいな裕福ゆうふくな奴らの邸宅街が囲んでる。で、その周りをさらに囲んでるのが4つの区ってわけだ」
「ふむふむ」
「南は今言った通り商業区。アイテム、食料、雑貨――生活に必要なものはだいたいここでそろう。んで東がギルド区。冒険者ギルドに商人ギルド、鍛冶ギルドってなふうに、多くのギルド本部がここにある。西は住宅区。街の住人はだいたいここに住んでるな。冒険者や仕入れに来た商人用の宿もここだ。最後に北だが……一応開発区ってことになってる」

 北の説明になった途端、ベイドの流暢りゅうちょうだった語りが勢いを失った。シンはベイドの言いたいことに見当がついた。

「開発とは名ばかりの、スラム街ってとこ?」
「さすがにわかるか。そうだ。開発区と言っちゃあいるが、結局は他に行き場のない奴らの吹き溜まりだ。行き着く理由は人それぞれだがな。とにかく治安は最悪だ。用がないなら近づかないに越したことはねえよ」

 苦々しい表情でシンに忠告するベイド。
 この国に限ったことではないが、大きな国にはそういった『よろしくない場所』というのができやすいものなのである。ベイドもそのあたりはわかっているようで、どうにかできればいいんだがなぁとため息をついていた。
 シンはベイドから様々な情報を聞きつつ、街の様子を観察した。
 商業区は多くの人々が行きかっていたが、ギルド区に入るといかにも冒険者といった風貌の人物が増える。全身鎧を着ている者や大剣を背負っている者などもいた。
 なかでも刀をびているドラグニルを見たときなど、シンはつい声を掛けてしまいそうになった。
 ベイドによると、大陸の東に位置する島国『ヒノモト』という国の武器らしい。【THE NEW GATE】では聞いたことのない国名に、これは行くしかないなとシンはひそかに決意する。
 そうこうしているうちに、シンたちは冒険者ギルドに到着した。
 周囲より明らかに大きい建物には、盾をバックに×字に交差した剣と槍が描かれた看板が掲げられている。どうやらこれが冒険者ギルドのマークらしい。

「俺の役目はここまでだ。あとは自分で頑張りな」
「ああ、案内してくれてありがとな」

 軽く手を振って去っていくベイドを見送ってから、シンは冒険者ギルドの扉を開けた。




 ギルド内は入り口のドアから見て右側が受付、左側が酒場になっているようだった。中央はホールになっており、奥に大量の依頼書が貼られた掲示板がある。
 ゲーム時代の冒険者ギルドは、荒くれ者のNPCがたむろしていることが多かった。だがホールはきれいに整えられ、怒鳴り声も冒険者からの値踏みの視線もない。
 視線を上に向ければまさかのシャンデリア。シンも本物を見るのは初めてだ。
 なぜかシャンデリアを落として敵を下敷きにするという場面が思い浮かんだ。もちろんやったことはないが。
 酒場では一仕事終えたとおぼしき冒険者の集団が乾杯をしている。
 それを見たシンも若干の空腹感を覚えたが、受付をしてからでもいいかと、反対側のカウンターへ向かった。

「冒険者ギルドへようこそ、本日はどのようなご用件でしょうか」

 受付にいた職員らしき女性が声をかけてきた。茶色の髪を長く伸ばした美人である。やはりギルドの受付は美女と相場が決まっているらしい。
 ちなみに隣の受付には顔に傷のある身長2メルほどの大男がいた。受付に向かう際に、シンがさりげなく女性側を選んだのは言うまでもない。

「冒険者登録をしたいんですが」
「登録申請は、左手の階段を上がって2つ目の部屋にある手続きカウンターで行えます。初期登録には費用としてジュール銀貨1枚が必要ですが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 受付の女性に礼をして階段を上がるシン。ゲームには手続きなんてなかったなと思いつつ、2つ目の部屋の扉を開く。
 中には机が3つ並び、その内の1つで男性が何やら説明を受けていた。どうやらシンと同じく登録に来た人のようだ。
 シンは迷わず空いている真ん中の机に歩み寄った。

「ここでは冒険者としての登録を行っています。間違いありませんか?」
「……あ、はい。間違いありません」

 シンの返事がまごついたのは、目の前の女性の顔が、1階で会った受付嬢と瓜二うりふたつだったからだ。違いといえば髪をポニーテールにしていることくらいか。

「どうかなさいましたか?」
「いえ、1階の受付の女性と顔がそっくりだったので」
「あれは私の姉です。双子なのでよく間違われますけど。おっと、それよりも登録ですね。本日担当させていただきますシリカ・リンドットです。よろしくお願いいたします」
「シンです。よろしくお願いします」
「まず登録ですが、初期費用として1万ジュールいただきます。よろしいですか?」
「はい」

 アイテムボックスからジュール銀貨を1枚取り出す。一応懐から取り出す振りをしたものの、若干不自然かもしれない。だが、シリカはとくに不審がる様子もなく銀貨を受け取った。

「ではこちらに記入をお願いします」

 差し出された書類には名前、種族、主な武器、魔術の使用が可能か否かといった項目が並んでいた。

「全部書かなきゃならないんですか?」
「いえ、必須となる項目はお名前と種族だけになります。しかし、ある程度情報をいただいた方が、私どもとしてもサポートしやすくなります。ですので、差し支えなければ全項目への書き込みをお願いします。とはいえ、これは強制ではありません。書かなかったからといって他のメンバーより冷遇などされませんので、その点はご安心ください」
「わかりました」

 出身を書く欄もあったのでどうしようかと迷っていたシンだが、とくに問題ないようなので、所々飛ばしながら書き込んでいった。種族は念のためヒューマンにしておく。
 武器は刀、魔術は使用可。年齢は、実年齢にデスゲーム期間の1年を足して21歳としておいた。
 今さらではあるが、書類は日本語で書かれていた。当たり前のように話していた言語も日本語だ。
 シンとしては意思疎通いしそつうが容易なので助かった。ファンタジーでよくあるような、ミミズののたくったような字で書かれていたらどうしようと、若干の不安があったのだ。
 書き終わった書類を渡すと、シリカは軽く内容を流し読みした。不備がないか確かめているのだろう。

「お名前はシン様で間違いありませんか?」
「はい。間違いありません」
「では書類はこれでけっこうです。次にこのギルドカードに血を1滴らしていただきます」

 シリカはトランプと同じくらいの大きさの、銀色のカードと針を差し出した。
 ゲームでは登録して終わりだが、こちらではカードが発行されるようだ。
 シンは針で指先を刺し、血をカードに垂らす。カードは血をはじくこともなく、スポンジに水がふれたときのように一瞬で吸収された。

「これで手続きは終了です。ギルドカードは冒険者の身分を保証するカードなのですが、加工に1日かかりますので、明日以降の受け渡しとなります」
「わかりました」

 すぐに渡されるわけではないらしい。気分が盛り上がっていたシンは、肩すかしを食らった気分になる。

「ギルドの説明に移ってもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
「まず冒険者ランクですが、最高のSSを筆頭にS、A、B、C、D、E、F、Gの9段階に分かれています。シン様は登録したばかりですのでランクはGになります。依頼を達成するごとにポイントが加算され、それに応じてランクが上昇します。依頼に失敗、もしくは依頼を放棄した場合は、現在のポイントから依頼分のポイントが引かれ、一定数より少なくなるとランクが下がります。また報酬の2倍の違約金を支払わなければなりませんので注意が必要です。受けられる依頼は、基本自分のランクの2つ上までです。ただし、Cランク以上になりますと1ランク上の依頼までしか受けられません。2人以上のメンバーでパーティを組むこともできます。その場合はランクが上のメンバーに合わせて依頼を受けられますので、メンバーよっては3つ以上ランクが上の依頼に参加することも可能となります」
「パーティは最大何人までなんですか?」

 気になったので確認する。ゲーム時は6人が上限だった。

「最大人数は6人となります。それ以上の人数で依頼を受ける場合は、複数のパーティを組んでの合同作業という形になります。これはかなり大規模な案件か、強力なモンスターの討伐依頼などでよく見られます」

 パーティメンバー数は変わっていないらしい。しかし、ボスクラスのモンスター討伐などの例外を除けば、同じ依頼(ゲーム時はクエストと呼んでいた)を複数のパーティで受けることはできなかったので、ところどころ違うようだ。

「依頼については雑務、採取、討伐、護衛など様々なものがあります。こちらでも多少のサポートはいたしますが、だからといってギルドの仲介なしの依頼でトラブルになったり、実力にそぐわない依頼を受けて重傷を負ったり、死亡したりしても当ギルドは一切関与しません。依頼を受ける際は注意してください」
「依頼と内容が違ったときはどうなるんですか? 討伐依頼を受けてそこに行ったら、依頼より強力なモンスターがいたときとか」
「そういった場合は依頼を放棄していただいて結構です。報告はしていただきますが、違約金は発生しません。危険を伴う依頼はギルドでも確認をとっていますが、すべての依頼を網羅もうらできているわけではありませんので、用心だけは欠かさないようにしてください」

 情報網が発達していない以上、仕様がないかとシンは思った。
 それと、用心しろとシリカは言うが、デスゲーム時にはモンスターの乱入どころかPKの襲撃もあったので、警戒の重要性は身に染みてわかっていた。

「モンスターを討伐した際に手に入る素材は、ギルドでも買い取らせていただきます。よろしければご利用ください。次に――」

 シリカによる説明は20分ほど続いた。すべてを覚える必要はなく、わからないことがあったらその都度聞いてくれればよいとのことだった。
 1回の説明ですべて理解できる人はなかなかいないらしい。

「――ギルドの説明は以上になります。ギルドカードについては受け渡し時にあらためてお話いたしますので、これで本日の手続きは終了となります。何かご質問はございますか?」
「依頼はすぐに受けられるんですか?」
「依頼の受領はギルドカードが発行されてからになります。ギルドカードは門の通行証としての役割もありますので、本日は街で過ごすことをお勧めします」
「わかりました。質問はそれだけです」
「お疲れさまでした。シン様のご活躍を期待しています」

 きれいな礼をしてくるシリカに頭を下げ、シンは手続きカウンターを後にした。
 1階に降りると、シンは先ほど相手をしてくれた受付嬢に声をかけた。

「さっきはどうも」
「手続きは無事終わったようですね。ではあらためまして、ようこそ冒険者ギルドへ。依頼の受領手続きを受け持ちます、セリカ・リンドットと申します。これからよろしくお願いいたします」
「シンです。こちらこそよろしくお願いします。手続きカウンターにいたシリカさんのお姉さんであってます?」
「シリカが担当でしたか。確かにシリカは私の妹です。双子ですので、あまりそういう意識はありませんけど」
「びっくりしましたよ。瞬間移動でもしたのかと」
「初めて来られた方の中には、不思議な顔をして帰っていく人もいますよ、あちらの方みたいに」

 シンがセリカの視線を追うと、その先にはセリカを見て首をかしげながらギルドから出ていく新人冒険者の姿があった。先ほどシンの隣で説明を受けていた人だ。

「ギルド内でもよく間違われるんです。シン様は間違えないでくださいね」

 にっこり笑うセリカから、シンは一瞬プレッシャーを感じた。「困ったことです」と笑っているが、実は気にしているのかもしれない。

「が、頑張ります……あ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 シンがそう続けたのは、ベイドに言われていたことを済ませておこうと思ったからだ。
 とくにセリカである必要はないが、隣のカウンターにいる男などはなぜかシンに流し目を送ってくるので、とてもじゃないが近づけない。というより近づきたくない。理由はわからないが、シンのつちかってきた直感が警報を鳴らしていた。

「はい、ご用件をどうぞ」
「ここで、エルスっていう冒険者が受付嬢をしてるって聞いたんですけど」

 見たところ受付にいるのはセリカと大男の2人だけ。受付『嬢』というくらいだから、まさかあの大男がエルスなどというオチはあるまい、とシンは切に願った。

「エルスですか? 申し訳ないのですが、エルスは今、依頼を受けて街を出ております。トラブルがなければ今日中には戻る予定ですので、明日ギルドカードを受け取る際にお立ち寄りください。いなかった場合は伝言を承ります」

 どうやら間が悪かったようだ。冒険者である以上、常にここに詰めているというわけにはいかないのだろう。戻って来るのが数週間後、とかではないだけでも運がいい方だ。

「わかりました、じゃあ明日また来ます」

 セリカに軽く頭を下げると、シンは酒場側に移動した。そろそろ腹が鳴りそうだったのである。


 その一角には、先ほどの冒険者の集団以外にも数人の客がいた。平均レベルは90前後といったところだ。
 空いている席に着いてメニューを見るシン。しかし、日本語で書かれていたにもかかわらず、料理名からどんなものが出てくるのかよくわからなかった。
 そこで、シンはとりあえず本日のおすすめセットというのを頼んだ。
 しばらく待っていると、あっという間に料理が運ばれてくる。

「本日のおすすめセットです。シン様」
「あ、は……い……?」

 突然の言葉に振り向いたシン。何故名前を知られているのかわからなかったが、そこにいたウェイトレスの顔を見て、納得すると同時に困惑した。
 それはさっき別れたはずのセリカだったからだ。

「えっと……さっきまで受付にいましたよね?」
「はい」
「俺と話してるとき、そんな格好じゃなかったですよね?」
「はい、受付ではギルドの制服を着ていましたね」
「着替えたんですか?」
「もちろん」
「着替えるの早すぎません? てかなぜにウェイトレス?」
「これくらい普通です。受付がいているとき、私はこちらの手伝いをしているんですよ」
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