THE NEW GATE

風波しのぎ

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1巻

1-11

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 東の森と違い、北の森にはモンスターが多く存在した。
 ゲーム時のマップ機能はほとんど使えなくなっていたが、自身を中心として、周囲に赤や黄色といった色のマーカーを表示するくらいの機能は残っている。おかげで、索敵系スキルとの相乗効果で、シンの周りにいるモンスターはいくら隠れようとムダだった。
 無益な殺生せっしょうをする気はないが、今は自分の状態を完全に把握することも重要なので、襲ってくるモンスターには迷わず反撃した。
 どの程度がちょうどいいのか、【制限リミット】をかけながら戦う。最初のうちは、バルクスと戦ったときのような手加減を一切しなかったので、一撃でモンスターがはじけ飛んだ。
 月の祠への途上でも同じことがあったのでそこまで驚きはしなかったが、最大攻撃力がどこまで上がっているのか把握できない。ステータスが以前のままなら大体の予想はつくが、2倍以上になったので、見当もつかなかった。
 結局、自身の能力については、補助スキルの1つ【制限リミット】を、最大レベルのⅩでかけるしかないという結論に至った。
制限リミット】はもともと、初心者と上級者が一緒に遊べるように作られたスキルで、スキルレベルを上げるごとに2分の1、3分の1というふうにステータスが制限されていく。
 これによって、レベルやステータスに開きがあるプレイヤー同士でも、ともにゲームをプレイできた。ちなみに最初からレベルⅩまで使用できるスキルだ。
 ステータス上昇にともなう身体能力の変化を、全力を出して確かめる方法もあるのだが、それをすると周囲一帯が悲惨なことになりかねない。なので、目下危険防止策として、力の制限具合について探っていた。
 現在シンは、STRにのみ最大レベルで【制限リミット】をかけているので、STRのステータスは10分の1の223。他はそのままである。これは転生なしのヒューマン、レベル255のSTRとほぼ同じ数値だ。
 ちなみに【制限リミットワン】だとステータス能力は低下しなかったりする。あくまでステータス調節用スキルなので、最大で10分の1まで能力低下、最低は変化なしということらしい。
 なぜ今シンは、STRのみ制限しているのか。それは、一般のヒューマンの攻撃でモンスターがどの程度のダメージを負うのかを知りたかったからである。
 武器の見た目が一般的な量産品なのに、強力なモンスターを軽々と倒していては目立つことこの上ない。例えば、パーティを組んだときに、他のメンバーに不審に思われないことも重要だろう。
 ……もちろん、うっかり全力攻撃して地形を変えないようにする、という意味合いもある。
 そんな実験も行いながら、シンはヒルク草の捜索を続ける。それでもときどき、アイテムを捜索するスキルがあればなあと思わずにはいられなかった。


 ヒルク草は森の奥に進むほど発見できた。
 現在、所持数29枚。あと1枚で依頼達成である。
 気合を入れ直し、注意深く森の中を歩き回っていたシン。そんな折、ふと視界の端に展開していたマップに、奇妙な動きをするマーカーを見つけた。
 色は赤。敵性存在を示す色だ。
 その赤マーカーの主は大きく移動することはなく、10メルほどの範囲を、ときにジグザグに、ときにクネクネと動いていた。

「なんだ? これ」

 今まで見たことのないマーカーの動きに興味を引かれたシンは、少し様子を見てみるかと、マップを頼りに敵の元へ向かった。
 数分もしないうちにマーカーのすぐ近くまで来たので、木の陰から様子をうかがう。
 敵の姿を見たとき、シンは言葉を失い、その場に立ち尽くした。
 視線の先にはスカルフェイス・ジャックがいる。
 ポーンより2回り以上大きく、骨だけでありながら3メルはある。
 そして鎧に籠手、脚甲、兜を装備している。加えて左手には1メルほどのラウンドシールド、右手に2メルはある大剣を持っていた。
 ジャックのまとっている装備は大剣を除いて黒一色で、どれも手入れが行き届いていた。ポーンのボロボロの籠手やびた剣とは、比べ物にならない。
 人間ならば眼球のあるところには仄暗ほのぐらむらさきの炎がともり、全身から負のオーラとでも呼ぶべき黒い煙を発している。
 地獄からよみがえった亡者もうじゃの兵士の指揮官的存在。それがジャック級のスカルフェイスである。
 この世界の住人ならば、目があっただけで恐怖に凍りつくだろう。
 だが、シンが言葉を失ったのも、その場に立ち尽くしたのも、そんな理由からではない。そもそもカンストプレイヤーのシンにとって、スカルフェイス・ジャックなどただの雑魚ザコだ。
 シンが呆然とした本当の理由は、「なんでスカルフェイスがブレイクダンスしてんだ……」という言葉がすべてを物語っている。
 考えてもみてほしい。
 アンデッド系モンスターは生者にうらみを持ち、己の側、つまりは死者の世界へ生者を引きずり込もうとする存在である。
 その容貌は見る者に恐怖を与え、疲れを知らぬその体から繰り出される攻撃は、周囲に死を振りまく。
 それが【THE NEW GATE】におけるアンデッド系モンスターという存在であり、その代表とも言えるのがスカルフェイスなのだ。
 断じて誰もいない森の奥で、ブレイクダンスをしているような存在ではない。

「シュールだ……シュールすぎる。そんなに踊りたかったのか、お前」

 シンの言葉にはほのかな哀れみの感情が含まれていた。
 見てはいけないものを見てしまったような、何とも言えない罪悪感を覚えたくらいだ。
 スカルフェイスの周囲にだけ木々がなく、空から見ればぽっかりと穴が開いた状態になっている。
 それもそのはず、スカルフェイスは鎧、剣、盾を装備した状態でブレイクダンスをしていたため、大剣で大木は切り倒され、盾によって草はぎ払われ、鎧の凹凸おうとつで地面はえぐられていた。
 そもそも鎧を着たまま踊る必要があるのかという疑問もあるが、踊っているのだから仕様がない。
 そんなシンの思考も、かすかに聞こえた音によってさえぎられる。
 ピチャリと液体のはじけるような音が、シンの耳に届いた。気になってその方向に目を向ければ、そこにあるのは1本の大木。そして、大木のみきに付着した
 シンは即座に視線をスカルフェイスに戻し、その姿を注意深く観察する。
 大気を切り裂く音を響かせる大剣、骨格を覆う鎧、草を薙ぎ払う盾……すべて血で彩られていた。
 視線を少しずらせば、真っ二つにされたモンスターの死体が見える。どうやら近寄った相手は何であれ問答無用に攻撃するようだ。
 北の森に出るという噂のスカルフェイス。襲われた冒険者――。
 剣からしたたる血だけでは確信できない。されど、あのスカルフェイスが冒険者を襲った可能性は限りなく高い。
 困惑していたシンは気持ちを切り替える。呆けていた顔は引き締められ、身にまとう雰囲気が鋭いものへと変化する。

「ぼーっとしてる場合じゃないな」

 手始めに相手の情報を収集する。ゲームと同じだと安易あんいに考えるのは危険だ。
 実際、スカルフェイスは踊りながら幅30セメルもある大木を切り倒している。油断をしても得はない。
分析アナライズテン】によると、スカルフェイスのレベルは359。ジャック級どころかクイーン級を飛び越え、キング級の強さだ。

「まずは、仕掛けるか」

 シンは刀の鯉口こいぐちを切り、タイミングを見計らう。そしてスカルフェイスの背がシンの方を向いた瞬間、体勢を低くたもったまま、わずか一足で間合いを詰めた。
 踏み込んだ姿勢のまま抜刀。スキルは使わずに無防備な背中に向けて一閃いっせんする。
 スカルフェイスは総じて斬撃に耐性を持つが、背後からの奇襲となればそれなりのダメージを与えられるはずだった。
 しかし、その期待は裏切られる。
 シンの刀がスカルフェイスの背に届く直前、まるで気配を察知したかのごとく、スカルフェイスは左腕を地面に叩きつけ、その反動を利用して回転を加速した。
 そのまま左腕に持ったラウンドシールドでシンの刀を弾き、お返しとばかりに大剣で薙ぎ払う。

「なんだそりゃ!?」

 シンは抜刀の勢いそのままにスカルフェイスの横を駆け抜け、薙ぎ払いの範囲から逃れる。
 シンが驚いたのも無理はない。
 流れるような防御と剣による反撃。ゲーム時には考えられなかった反応だ。
 筋肉や関節にかかる負担を考えれば、それこそ人間にできないような動きである。
 骨格だけの姿からは考えられない腕力を持ち、関節の可動域に縛られないスカルフェイスだからこその動きだろう。
 想像を絶する敵の戦闘力に、シンは驚きを隠せない。

「何だあれ……スカルフェイスの動きじゃないぞ」

 そもそもブレイクダンスをするという時点でおかしいのだが、に落ちない点はそれだけではなかった。
 それはスカルフェイスが手に持つ剣だ。
 ヒューマンなら両手でなければ扱えないであろう幅広の両手剣。つかにはきらびやかな装飾がほどこされ、刀身は銀色の輝きを放ち、刃の中心を青い線が走っている。
 おそらく鉄よりも硬い魔鉄鋼と、魔術と相性の良いミスリルを組み合わせているのだろう。強い光が刃の部分を覆っていた。これはどう考えても、アンデッド系モンスターには相応しくない。
 加えて白い光が表す属性は『光』。その意匠いしょうと相まって、聖剣と呼んでもいいだけの雰囲気をまとっている。こちらもアンデッドに付与されるような属性ではない。

「ユニークモンスター、って考えるのが妥当か」

 シンは警戒レベルを一段階引き上げた。
 ユニークモンスターは、通常のモンスターとは異なる属性や能力を持っていることが多い。だとしても、本来アンデッドの弱点である光属性の武器を持つなど、シンでさえ聞いたことがなかった。
 様子を窺うシンに対し、スカルフェイスの方もシンを強敵と認識したのか、2本の足で地面に立ち、盾をやや前に出し、大剣を若干引き気味に構えている。
 そのさまは紛れもなく剣術をおさめた者の動きであり、ただ突撃を繰り返すだけのモンスターとは一線をかくしている。

「あのダンスも、ふざけてたってわけじゃなさそうだ、なっ!!」

 かけ声と同時に再びスカルフェイスに突撃するシン。
 またしても一足で間合いを詰め、納刀していた刀を再度抜刀。狙うは相手の左足首だ。


「セィッ!!」

 放たれた一閃がスカルフェイスの足首を捉える。
 スカルフェイスもシンの攻撃に反応し、左手の盾を使って防御しようとしたが、体格差とシールドの大きさが災いして間に合わなかった。
 その直後、キンッという金属が擦れ合う音を残して、シンは大きく飛びのいた。
 防御不能と判断したスカルフェイスが、斬られるのもおかまいなしに、大剣による攻撃を仕掛けていたのだ。
 背後から迫る斬撃を受け止めるのは危険と判断して、回避行動をとったシン。
 次の瞬間、元いた場所に大剣が振り下ろされる。その一撃は破壊力抜群で、大剣の延長上にある地面を3メルほど引き裂いた。魔術による射程の増加だろう。

「持ってる武器も希少レア……いやもしかして特殊ユニーク級か? 普通じゃないな」

 シンから見ればありふれた攻撃能力だが、本来低級のモンスターが持つ武器にこんな能力はない。
 スカルフェイスはいぶかしむシンなどおかまいなしに、お返しとばかりに大剣による攻撃をしかけてきた。
 左足首は先の一撃で両断されている。
 だが、痛みを感じないスカルフェイスにはさしたる問題でもないのだろう。残った足首を地面に突き刺して距離を詰め、強烈な横薙ぎを繰り出す。
 シンも自分からスカルフェイスへと突っ込み、刀術系武芸スキル【白刃流しらはながし】を発動させる。相手の大剣のつかに近い部分に刀を当て、横薙ぎの攻撃を受け流す。
 そのままがら空きになった胴体に刀術系武芸スキル【砕刃さいは】を発動し、一閃。
 斬撃耐性を持つ相手に通常ダメージを与えるスキルをまとった刃は、スカルフェイスの鎧を砕き、本体にダメージを与えた。
 ――はずだった。

「マジか!?」

 シンが驚愕したのも無理はない。
 シンの攻撃が当たる寸前、スカルフェイスは俊敏なバックステップで刀の軌道からその身をそらしたのだ。
 攻撃がかすった鎧は破損しているが、本体にはダメージがほとんど達していない。
 まるで、攻撃を受け流された後に強烈な一撃が来ることがわかっていたかのような動き。
 いくら本気を出していないと言っても、シンの動きにここまで付いてくるというのは、驚き以外の何物でもない。

「GeeEEEEaaaaAAAAAAAAAAA――――――!!!!」

 スカルフェイスの口から、獣のうなり声をゆがめたような音が発せられる。聞く者を不快にする怨嗟えんさの声だ。
 至近距離での絶叫にシンも思わず顔をしかめた。特殊な効果があるわけではないが、大きな音というのはそれだけで生き物にとって恐怖となる。
 固まりそうになる体に活を入れ、その場から飛び退く。
 シンの目に映るスカルフェイスのHPゲージは、まだほんのわずかしか減っていない。
 スカルフェイスはコアに攻撃が通らないと大きなダメージは与えられない。先ほどのシンの攻撃は鎧に当たっただけだったので、大したダメージにはならなかったようだ。

「やれやれ……どうしてこう、早々に変なモンスターとエンカウントするかね」

 スカルフェイスの動きに驚き半分、称賛半分といった具合のつぶやきを漏らすシン。
 ちらりと自らの得物に視線を向ければ、刃が欠け、所々にひびが入っているのが見て取れる。
 武器や防具に耐久値というものが設定されており、それが0になると壊れて使えなくなってしまうというのは、多くのゲームによくある設定だ。
 だが現実では、耐久値が減るということはガタがくるということで、耐久値がなくなる寸前まで武器として使用できる、なんてことはあり得ないのである。
 現在装備中の数打の耐久値はすでに3割を切っている。
 おそらくスカルフェイスのレベルが高いことと、スカルフェイスの持つ武器が強力なせいで、攻撃を受け流した際に刀身に大きなダメージを負ったのだろう。

「まともに撃てる攻撃は、あと一太刀くらいがせいぜい。なら、いっちょ試してみるか!」

 シンとスカルフェイスの周囲は、スカルフェイスのブレイクダンスによって、すでに見るも無残な状態だ。なので、ここなら多少本気を出しても大丈夫だろうと構えを改める。
 左足を一歩前に出し、わずかに前傾姿勢を取る。刀身は腰のラインよりも下げつつ、後ろに引く。
 そして、つぶやく。

「【制限リミット解除オフ】」

 その一言によって、スキルの効果で抑制されていたシンの能力が解放される。
 戦闘の素人ですら、もしこの場にいれば、シンのまとう気配が変化したと感じ取れただろう。
 刀をにぎる手に力が加わり、柄がギシリと音を立てた。

「GuUUuuuUUuUuUUU――――――――」

 シンの変化した気配を警戒したのか、スカルフェイスが低くうめく。そして、先ほどよりも盾を前に出し、防御を重視した態勢となった。
 シンはスカルフェイスの動きに感心しつつ、力をためる。

「シッ!!」

 短い呼気こきとともに全力で踏み込み、手に持つ刀を一閃した。
 残像すら残さぬ踏み込みと、跳ね上げられた刃による一撃。
「キン」「ギィン」という2種類の音とともに、一瞬目に留まらぬレベルまで加速していたシンの姿が、スカルフェイスの眼前に現れる。
 起こった変化は2つ。
 1つは、シンの持つ刀が柄を残して砕けていること。
 もう1つは、スカルフェイスの持っていた大剣が弾き飛ばされ、空の彼方かなたへ飛んでいったことだ。
 周囲に響き渡った2種類の音のうち、初めに響いた「キン」という音は、シンの一撃が盾、鎧もろとも、スカルフェイスの心臓部たるコアを切り裂いた際のんだ音の名残なごり
 そしてそれに続いて響いた「ギィン」というのが、スカルフェイスの大剣をシンの刀が跳ね上げたときに発生した音だ。
 よほど耐久値が高かったのか、大剣は砕けることも折れることもなく、スカルフェイスの手を離れ、どこへともなく消えていった。
 コアを真っ二つにされ、HPゲージが全損したスカルフェイスは、やがてただの骨と化してて崩れ落ちた。地面にバラバラに散らばったその姿からは、ついさっきまでの激しい戦闘を連想するのは難しい。

「やっぱり武器が持たないか」

 柄のみになった数打を見つめながら、ため息をつくシン。
 それなりに力を込めた一撃だったが、まだまだ全力には至らない。
 攻撃の余波よはで、スカルフェイスの背後に生えていた大木が今まさに音を立てて倒れていた。しかしシンは、こんなもんかなと言わんばかりに、欠片も動揺せず柄をアイテムボックスに収納する。

「さっきの剣なら強度も十分そうだったんだが」

 そう言ってスカルフェイスの大剣が飛んでいった空を仰ぎ見る。そこには雲一つない青空が広がっており、その行方ゆくえなどシンには見当がつかない。
 さすがにあそこまで盛大に吹っ飛ぶとは思っていなかった。人に当たっていないことを祈るばかりだ。

「……帰るか」

 緊張感から解放されたシンだったが、どうにもこれからヒルク草を探そうという気にはならなかった。亡骸なきがらの中に宝玉があったので、それだけ回収しておく。
 一応スカルフェイスの件をギルドに報告した方がいいだろうと、シンは森を抜け、門を目指して歩き出した。
 あの剣が原因で、王国で騒ぎが巻き起こるとも知らずに。


         †


 ようやく東門が見える場所まで戻ってきたシン。
 あと少しで着くというところで、何やら門付近が騒がしいことに気づいた。

「何かあったんかね」

 昨日のように野次馬が集まっているというわけではなく、衛兵が通行人に聞き込みをしているようだ。見たところ、これから入国する人々を中心に行われている。
 普段であれば、ギルドカードを持っている冒険者はほとんど待たずに入れるのだが、1人1人に話を聞いているせいか、列が出来ていた。仕方がないのでそこに並び、順番が来るのを待つ。
 列の先頭に近づいてくると、だんだん衛兵と冒険者の話し声が聞こえてくるようになった。

「北の森……東の森……飛ぶ、影……?」

 断片的に聞こえてくる会話に、さっきまでシンのいた場所が含まれていた。思い当たるふしがあるだけに嫌な予感がぬぐえない。
 話をまとめると、謎の物体が空を飛んでいるのを街の住人が目撃し、さらにそれが王城の中へ落下したらしい。
 飛んできた方向が北の森か東の森からだということで、目撃者がいないか、もしくは何か事情を知っている者がいないか、聞き込み調査をしているようだ。

(空飛ぶ謎の物体……それってやっぱりスカルフェイスの剣だよな……)

 自分が吹き飛ばした大剣を思い出す。戦闘に集中していたので飛んでいった方向まではわからないが、可能性は十分にある。
 気分は重くなる一方だった。

「よおシン」
「ベイドか、何かあったのか?」

 何事もなかったかのように話しかけてきたベイドに返事をする。
 シンは、まだ淡い希望を胸に抱いていた。人はそれを現実逃避と呼ぶ。

「実は王城まで剣が飛んできたと伝令があってな。何か知ってる奴がいないか聞き込みをしてんだ。お前も東の森に行ってたんだろ? 何か見なかったか?」
「……いや、見てないな。被害とか出たのか?」
「剣が壁に突き刺さっただけで人的被害はないって話だな。まったく、城壁の上を越えて剣を投げ入れるなんざ、どこの馬鹿の仕業しわざだってんだ」
「被害がなくて何よりだ」

 シンは人的被害がなかったという言葉に胸をなでおろした。誰かに当たっていたら目も当てられない。

「最低でも、飛ばす方向はしっかり確認しよう」

 心の中で誓うつもりだったが、シンはぽろりと口に出してしまった。

「ん? なんだって?」
「いや、なんでもない。もう行ってもいいか?」
「ああ、もし何か思い出したことがあったら、見回りをしてる兵士に伝えてくれ」
「了解」

 ポーカーフェイスを保ちつつ足早にその場を離れたシンは、門が見えなくなると歩調を緩め、ため息をついた。

「はぁ、なんでよりにもよって王城に落ちるかね……」

 異世界生活3日目にして、早くも国を相手にしたトラブルの予感である。
 王族を狙ったテロ攻撃などと思われたら、国を挙げての犯人探しとなる可能性も高い。はっきり言って非常にマズイ。
 シンが犯人だと特定されるような証拠はないが、スカルフェイスとの一件をギルドに報告すると、疑いの目を向けられるような気がしてならなかった。

「どうしてこうなった……」

 人生ままならないものである。
 しかし悩んでいても仕方ないので、シンはギルドへ向かうことにした。
 スカルフェイスが出るという噂は本当だったが、「何体いるのか」という情報までは聞いていない。
 たとえジャック級が1体だけだったとしても、基本的に数体のポーン級を引き連れているので、安全になったとは言い切れないのだ。
 戦闘後に周囲の索敵を行ったところ、他のモンスターの反応はなかった。
 たまたまいなかったのか、それともあのダンスに巻き込まれて粉々にでもなったか。
 恐らく、後者の可能性が高いだろう。敵味方の識別をしているような動きではなかった。
 とはいえ、今のシンではいくら考えても答えは出ない。
 そのあたりはエルスかセリカに聞けばいいかと思い直し、ギルドの扉を開く。
 ギルドの中は、これまででもっとも混雑していた。剣や槍で武装し、鎧やローブを着込んだ人々でごった返している様子は、ここが冒険者たちのつどう場所なのだとあらためて感じさせた。
 気になるとすれば、彼らの多くが殺気立っているところか。そうでない者たちも、妙に浮き足立っているように見える。

「なんだか物々しいな」

 人が多い割に受付はいていたので、さっそく報告することにした。
 好都合にも担当はセリカだ。内容が内容なので、多少なりとも見知った相手の方がいいと考えていたシンとしては、非常に助かった。


「こんにちは。ちょっと報告したいことがあるんですけど」
「お疲れ様です。シン様。報告というのは?」
「スカルフェイスのことでちょっと確認したいんですけど、今どこまでわかってます?」
「っ! ……現れたスカルフェイスについては、ジャック級であること、通常のスカルフェイスより強力な武器を持っていることが、生還した冒険者から報告されています。確認されている個体は1体。配下のポーン級は確認されていません。現在、討伐依頼が出され、場所が王国に近いため最優先の案件となっております。S、Aランクの方々が出払っている状況ですので、Bランク以下のパーティで共同戦線を張る準備をしているところです」

 どうやらあのおかしな戦闘スタイルについては伝わっていないらしい。だが、それよりも気になるのは武器に関する情報だ。

「強力な武器っていうのは?」
「一般的な長剣ではなく、2回り以上大きい剣であったと」
「……大剣ってわけですか。その剣について他に何か情報は?」
「いえ、今のところはそれだけです」
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