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1巻
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さすがに逃げてきた冒険者も、相手の武装を見忘れるなどということはなかったようだ。
しかし、ジャック級の使っていた大剣は光属性の魔力光を帯びていた。それについての情報がないというのはどういうことか。
「レベルは?」
「最低でも200以上と推定されています」
「…………」
ふむ、とシンは考え込む。
大剣が白い魔力光を帯びていなかったかと確認したいところではあるが、魔術が付与された武器はこの世界では珍しいと思われる。
下手にそれについて言及すると、王城に落ちた剣とジャック級の関係を疑われる危険がある。
まったく別のスカルフェイスだったという可能性もあるにはあるが、これだけ大騒ぎになるようなモンスターが2体同時、しかも同じような大剣を持って出現するなど、ありえないだろう。
「あの、シン様?」
「ああ、すいません。ちょっと考え事を」
深刻な面持ちで考え込んでしまったせいか、セリカは少し心配そうにしていた。
セリカからすれば、シンはSクラスに匹敵する戦闘力を持つ数少ない人物だ。そんな人物がスカルフェイスの情報を聞いて深刻な顔になれば、守られるしかない立場の者が不安になってしまうのも無理はない。
「考え事……ですか?」
「ええ、まあ、スカルフェイスってどんなアイテム落としたっけなと思って」
シンはとっさに、ドロップアイテムのことを考えていたことにした。
「落とすアイテム……ですか? えと、確か宝玉と、まとっている鎧や剣が、それなりの値段で取引されていた、と思いますが……」
「あ、そうなんですか。いやあすっかり忘れちゃってて、ははは」
嘘を気取られないように陽気に振る舞うシンだが、どう見ても挙動不審である。
だがセリカの方も、まさかジャック級のスカルフェイスという強敵のドロップアイテムを気にしているとは考えてもいなかったので驚いてしまい、シンの挙動がおかしいことに気づかなかった。
おかげで、殺気立ったギルド内で不自然に笑う男と呆け気味に答える女という、場違いな光景が展開されていた。
「そう言えば、シン様の報告したいことというのは、どういった内容なのでしょうか」
「おっとすいません。肝心なことがまだでした。北の森でそのスカルフェイス・ジャックを仕留めたんで、報告をしとこうと思って。あ、これがそのときに回収した宝玉です」
「そうですか、スカルフェイスを……スカル…………あれ? あの、ポーン級……です、か?」
いつものように書類を出そうとしたところで、動きがぎこちなくなるセリカ。シンの言葉を聞き間違えたかと質問を返すが、あっさり否定されてしまう。
「いえ、ジャック級です。ああ、大剣も持ってましたよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……えっと、セリカさん?」
「え? あっ!? す、すいません! ちょっとびっくりしちゃって」
はっと我に返って謝るも、セリカは慌てているようで、丁寧語ではなくなっている。
「そんなに驚くことですか?」
「いやいや、ジャック級のスカルフェイスを単独で討伐するには、最低でもAランク相当の実力が必要なんですよ!? いくらなんでも、そんなちょっと行ってきた、みたいな軽いノリで言わないでください!」
セリカはつい大きな声を出してしまう。シンがAどころか、Sランク並の戦闘力を持っていると知っていたにもかかわらず、だ。
「えっと、すいません?」
「シン様が実力者なのは知ってましたけど……依頼が出たその日に単独討伐してくるなんて、前代未聞です」
「遭遇したのは偶然なんですけど……」
「それでも普通は、一旦戻ってギルドに報告。しっかりと準備を整えてから戦いに行くものですよ。少なくともその場で戦おうと考える人は少ないと思います」
「そうなんですか。いや、確かに武器はこの通りですけどね」
シンはほとんど柄だけになった刀をセリカに見せた。戦ったときのことを聞かれるかと装備し直しておいたのだ。
申し訳程度に残った刀身にすらひびが入っており、もはやなんの役にも立ちそうになかった。
「なっ!? 粉々じゃないですか!」
「とどめを刺すときにちょっと」
「どんな無茶をしたんですか!?」
「ちょっ!? セリカさん近い! 近い!」
血相変えながらカウンターを乗り越えて迫ってくるセリカの肩を押さえて、シンはまったをかける。突然のことだったので、お互いの顔が20セメルほどまで近づいていた。
セリカの予想外の行動にもとっさに反応した自分をほめるべきか、説教すべきか、シンの中でどうでもいい葛藤があったのは御愛嬌。美人に迫られて、悪い気のする男はいないのだ。
「えっ……あああ、すいませんすいません! 決して変なことをする気があったわけじゃなくてですね。怪我をしてないか心配だったというか、つい興奮してしまったというか……って、私なに言ってるの!?」
セリカはセリカで、見ていて面白いくらいに動揺していた。シンが突っ込みも入れずに眺めてしまっていたほどだ。
ジャック級単独撃破というのは、それほどまでに大ニュースらしい。
「いつも知的クールな女性が、恥ずかしがりながらオロオロする……か。なんかこう……くるものがある!」
「くるのはいいが、いい加減落ち着いてくれないかな。ちょっと目立っているよ」
「ん? おお、エルス」
これが萌か……と1人うなずくシンの背後から声をかけてきたのは、エルスだった。
どうやらシンとセリカのやり取りは、いつの間にか周囲の注目を浴びていたらしい。
「いやすまん。恥ずかしがるセリカさんが可愛かったもんだから、つい」
「か、かわいい!?」
「そこは同意するが、あまり同僚をいじめないでほしいな」
「どうい!?」
「申し訳ない。だが意図的にやったんじゃないという釈明はしておく」
「わかってるよ。見てたからね」
「だったらもっと早く声かけろよ……」
セリカのセリフをことごとくスルーして会話を進めるエルスとシン。シンとしては、初めからエルスがいればこんな事態にはならなかった気がしてならなかった。
「そう言わないでくれ。私だっていろいろ準備したり、情報を集めたりしてたんだ」
たしかにエルスの服装は、セリカの着ている受付嬢の制服ではなく、動きやすさを重視した狩人の装備だった。
丈の少し長い、革製の丈夫そうなジャケット。細々した物がまとめて収めてあるポーチ。スパッツの上には、膝までを覆うロングブーツをはいている。
背中には狩人の基本装備である弓、右太ももには短剣がくくりつけてあった。
腰まである長い髪を紐でひとくくりにしているせいか、雰囲気まで以前と違うように感じる。獲物を狙うハンターの気配だ。
「スカルフェイスの件か?」
「うん、北の森に出たというやつだね。噂自体は、聞くようになってからそれなりに時間が経ってる。実際に被害が出たのは今回が初めてだけど、なんでも普通のジャック級より強力な武器を持ってるとか……」
「ああ、それなら俺も見た。確かに大剣を振り回してたな」
「セリカの驚き方でもしやとは思ったけど、その言い方じゃ、件のスカルフェイスと剣を交えでもしたようだね」
「交えたと言うか、仕留めたんだけどな」
仕留めたの部分だけ小声で言うシン。セリカに伝えたときもそうだが、ギルド内があまり大声で話せる雰囲気ではなかったので、一応音量を抑えてみたのだ。
軽口を叩いていたエルスも、シンの言葉に動きが止まる。
「……それが本当なら、セリカが取り乱すのもわかるよ」
かろうじて絞り出した返事に、復活したセリカが相槌を打った。
「そうです。私はおかしくないです」
「……疑うようで悪いが証拠はあるのかい? それがないと、いくら討伐したと言っても信用してもらえないが」
「宝玉だけ回収してきたけど、そもそもモンスターを倒した証の……証明部位だっけ? スカルフェイスのそれが何なのか、俺知らないし」
ゲーム時代のクセで、とくに変わりのないドロップアイテムは回収しなかったシン。必要な証明部位がどこかという以前に、それがないと討伐した証明ができないことすらすっかり失念していた。
「鎧や剣は回収しなかったのかい? ジャック級ともなればそれなりにいい装備をしているから、売って資金にしたり、自分用に調節する者もいるのに」
信じられないというエルスの反応に、シンはどう返したものかと頭を悩ませた。
なにせスカルフェイスのドロップアイテムなど、アイテムボックスの中に3桁単位で入っている。別段特別なことに使えるわけでも、高い能力があるわけでもないので、完全にアイテムボックスの肥やしになっているのだ。
空に消えた大剣ならばともかく、今さら兜やら鎧やらを回収しようとは思えなかった。
「あんなのいくらあってもなぁ」
シンの表情から、ぽろっとつぶやかれた言葉が真実だと理解し、呆れ果てるエルスとセリカ。
「冒険者とは思えないセリフだ……」
「まったくです……」
エルスは「それなりに」と控えめに言ったが、この世界においては、スカルフェイス・ジャックのまとう装備と同じ質の物をそろえようとすれば、相当な資金がいる。最低でもBないしAランクの冒険者でなければなかなか手が出せない代物だ。
それを「あんなの」と呼ぶシンは、奇異の目で見られて当然。言外にいらないと言っているようなものだから、とても他の冒険者には聞かせられない、というところだろう。
「ま、まあ証拠の方は宝玉を調べれば大丈夫だろう。宝玉にはドロップしたモンスターの魔力が込められているから、スカルフェイスだというのはわかるはずだ」
あまり深く考えてはいけないと判断したらしく、エルスが口を開いた。
「そうなのか?」
シンからすれば、証明部位よりも時間がかかるのが難点だが、急ぎでもないので問題はない。
「ただ、調べている間は宝玉をこちらでお預かりすることになります。売却していただけるならすぐにできますが」
エルスに代わってセリカが答えた。すっかり仕事モードである。
「時間がかかるのはなぜですか?」
「結果を早く出すには、宝玉に傷をつける必要があります。そうなると、宝玉としての価値が下がってしまいます。返却する場合は傷がつけられませんので、どうしても時間がかかってしまうのです」
「なるほど。あー、今回はやめときます。今のところ売る気はないんで」
「承知しました。では結果が出ましたら、宿の方に連絡いたします。宿は穴熊亭でよろしかったですか?」
「はい。じゃあ、それでお願いします……そう言えば、北の森にはスカルフェイスが出やすかったりするのか? さっき、噂自体は前からあるって言ってたけど」
エルスに尋ねるシン。
「アンデッド系のモンスターは、生物の怨念や未練が魔力と交わることで生まれるからね。もともと北の森には凶暴なモンスターが生息しているけど、貴重な薬草や素材が取れるから、足を踏み入れる人は後を絶たない。彼らがモンスターに襲われ帰らぬ人になることは多いんだ。だから、アンデッドが生まれる条件自体は整っているんだよ。ただ、ジャック級のような強力な個体が生まれるほどの魔力が自然発生する環境ではないから、北の森でスカルフェイスと言えば、普通はポーン級を指すのさ」
シンの倒したジャック級も、ポーン級と見間違われていたんじゃないかな、とエルスは付け加えた。
実際に被害が出るまで交戦した者が誰もいなかった、というのも1つの原因のようだ。あくまで噂でしかないので、わざわざ確かめに行こうとする者もいなかったのだろう。
「ちなみにジャック級のレベル帯ってどのくらいなんだ?」
「確認されているのは最低が150、最高が250だね。それ以上となると、クイーン級やキング級に分類される」
どうやらモンスターごとのレベル上限は変わっていないらしい。
「となるとだ。今回は例外ってことになるか……」
「どういうことですか?」
シンの言葉に2人がすかさず反応する。さすがはギルド職員と冒険者だ。
「俺が戦ったジャック級は、レベルが250を超えてたんですよ」
「それは、本当ですか?」
「【分析】で見たんで間違いないです。たぶんユニーク、特殊個体だと思います。普通のと違って取り巻きのポーン級もいませんでしたし」
セリカに続いてエルスも問いかける。
「確認なんだが、正確なレベルは?」
「359だったな。俺の記憶が確かなら、普通であれば、キング級に分類されるレベルだと思うんだが」
自分で言っておきながら、ユニークで間違いないとシンは思う。
【分析】では確かにジャックと出ていたし、そもそもクイーンやキング級のスカルフェイスとは、体格も装備も違っていた。
レベル、武器、戦闘パターンこそ規格外だったが、それ以外はジャック級だったのである。
「359!?」
シンの台詞にまたしても固まる2人。
「……なにか、まずかったか?」
「まずいというより……いや、待った。私も混乱しているみたいだ。セリカ、確か宝玉鑑定に相手の強さを大まかに調べる方法があっただろ? 今すぐあれをやってみたらどうだろうか」
「っ! そうですね、宝玉の鑑定を急ぎます。エルス、申し訳ありませんがあとを頼みます」
エルスの言葉に我に返ったセリカは、シンに一礼すると宝玉を持って奥に下がった。
シンはと言えば、そんな便利なこともできるのかと呑気に感心していただけである。
「まったく君ってやつは」
エルスが大きくため息をついた。
「なんだ?」
「今言った敵のレベルが本当なら、君1人の強さは最低でもAランクパーティ以上ということになる。嘘なら大ほら吹きだ」
「まあ、そうでなければ俺の見間違いだったってことだろ。それに俺のランクはGだぞ? ジャック級を討伐したってだけでも、誰も信じないって」
「確かに事情を知らなければそうだろうけど……」
「ならいいだろ。ここまで言っといてなんだけど、目立ちたいわけじゃないし」
行動と矛盾している気はするが、シンとしては、あまり目立って関わりたくもない輩から目をつけられるのは困るのだ。
シンの目的はあくまで元の世界に帰ることであり、ギルドに所属しているのも情報収集の手段としての意味合いが強い。現状はこの世界を知ることを重視しているので、帰る手段については未だ手付かずなのが困りどころだが。
「あんなのがうろついてたらまずいだろうから、報告しただけだ。できれば、俺がやったっていうのは広めないでほしい」
「私としては君の希望に沿いたいが、隠したところで調べる者が現れると思うよ。普通は名乗りを上げて当然だからね」
「だよなぁ……」
シン自身、うっすらとわかってはいたことだが、ハッキリ言われると余計に重く感じてしまう。
すでにこれだけ騒ぎになっているのだ。そのモンスターを倒した冒険者ならば、かなり名を売ることができる。それをしないとなれば、その理由を知ろうとする連中が出るのは必然だろう。
しかし、シンが倒したと知られれば、冒険者になりたてのGランクでしかないので、かなりの注目を浴びるのは間違いない。結局、どちらに転んでも面倒事になるのだ。
「すまないが、こればかりはあまり力になれそうにない」
「そこまで負担をかけるつもりはないからいいって。どうしようもないんだから、とりあえず、飯でも食ってくるわ」
うだうだ悩んだところで解決などしない。
気分を変える意味も兼ねて、昼食でも取ろうと考えるシン。ギルド内は込んでいて、とても席が空いているようには見えなかったので、外に出ることにした。
シンは1人で大通りを歩く。
セリカとエルスがそろって勧めてくれた店に向かっているのだ。
しばらく歩くと、剣とフォークが描かれた看板を掲げている店が見えてきた。なんでも店主が元冒険者だそうで、異国の料理や珍しい食材を使った品々が味わえるらしい。
「戦う料理人か……クックみたいだな」
六天の料理番をしていた女性を思い出し、苦笑するシン。
材料を自分で確保することにこだわっていた彼女は、食材集めのためにモンスターを倒すことで、ステータスがカンスト寸前までいったという変わり種だった。
そもそも六天には風変わりなメンバーしかいなかったわけだが、シンお手製の柳刃包丁の2刀流でドラゴンをさばくクックの姿は、強く印象に残っている。
「思い出したら腹減ってきた……」
腹の虫が鳴き出しそうだったので、少し足早に店に入った。昼飯時とあってか、かなり混雑している。
「いらっしゃいませー! すいませーん。少々お待ちくださーい!!」
騒がしい店内に鈴のような声が響く。ウェイトレスは1人しかいないようで、テーブルとカウンターを行ったり来たりしていた。
空腹ではあったが、さすがにこの状況では文句も言えないので、シンはおとなしく扉のわきに立って店内を眺めていた。
ギルドの近くにあるからか、店長が元冒険者だからか、店内にいるのはほとんどが鎧や剣で武装した者たちだ。おそらくスカルフェイス退治に集まった者たちだろう。
「お待たせしました。ご案内させて……ってシンさんじゃないですか」
「ん? えっと、セリカさん? いやシリカさんですか?」
突然の言葉に驚くシン。よく見れば、目の前のウェイトレスが、髪をポニーテールにしたシリカだということに気づく。一瞬、またセリカが着替えてきたのかと思ってしまった。
「あたりです。この店を選んだのはお姉ちゃんの紹介ですか?」
「はい。いろいろとお世話になってます」
「……こんなに早くここを紹介されるなんて、ただものじゃないわね」
真剣な顔で何かをつぶやくシリカ。
「? 何か言いましたか?」
気になって問いかけるシンだが、なんでもないと笑顔でかわされ、話はそこでお開きになった。確かに、いつまでもドアの横で話し込んでいるわけにもいかないだろう。
たまたま団体客が帰ったところらしく、1つだけ空いたテーブルに案内される。
1人でテーブルに座るのは気が引けたが、あいにくカウンター席はすべて埋まっていた。
他の客が来たときに相席になると聞かされてから、シリカに料理を注文した。
シンが料理を注文してからほとんど間をおかずにシリカが再びやってきて、相席を頼まれる。
「あのー、シンさん。すいませんけど、新しいお客様が来たので相席をお願いします」
「あ、はい。わかりました」
やってきたのはやはり冒険者で、毒々しい輝きを放つ槍を持った男だった。
「……『ヴェノム』か」
禍々しい槍を見て、シンはポツリとつぶやく。
魔槍『ヴェノム』――伝説級に名を連ねながら、その能力は神話級にも匹敵する、希少や特殊級とは一線を画す武器だ。
「わりィな。邪魔するぜ」
「むしろ助かる。1人でテーブル占領をするのに気が引けてたんだ」
軽く挨拶をしてシンは男と向き合った。
身長はシンと同じくらい。瞳は赤く、黒髪を大雑把に頭の後ろでまとめている。肌は病的と言っていい白さだ。
美形と言っていい顔立ちだとシンは思ったが、眼光が鋭すぎるのと気配が荒々しすぎるせいで、見た目とは裏腹に野生の獣のような印象を受ける。それも冷静に獲物を仕留める、狩人としての獣だ。
レベルは188。おそらくこの男なら、通常のスカルフェイス・ジャックを十分単独で倒せるだろう。
「俺はシン。これも何かの縁だ。短い間だけどよろしく」
「……俺にそんな口を利く奴がまだいるとはな。ヴィルヘルム・エイビスだ。冒険者にはなりたてか?」
声をかけたシンをわずかに観察して、ヴィルヘルムは自身の名を告げた。
首をかしげながらもシンは質問に答える。
「ああ、今日で3日目だ」
ふと気がつけば、騒がしいのは変わっていないが、店内の客が皆一様にこちらを見ているのがわかった。シンはまだただの新人冒険者。注目を浴びているのはヴィルヘルムだろう。
シンにはその理由まではわからなかったが、今のところ実害はないので放っておくことにした。
「3日目? それにしてはなかなかの装備だな。傭兵でもしてたのか?」
「いや? まあ、田舎から旅してきたからそれなりだとは思うけどな。おかげでこっちの常識ってのが、いまいちわかってない」
「……道理で俺の名を聞いてビビらねぇわけだ。まともな冒険者なら、俺と相席なんてしねぇだろうからな」
「ビビられるようなことをしたんかい……一体何を?」
人によっては威圧感だけで冷や汗をかきそうな状況にもかかわらず、平然と話をするシン。
周りの冒険者はそろって、「なんでそんなになれなれしく話せるんだこいつ!!」と心の中で絶叫するような表情をしていた。
シン本人は威圧感など微塵も覚えていない。それに加え、どうにも悪事を働くような男には見えなかった。
「別に大したことじゃねぇよ。俺はけっこう前からアンデッドモンスターばかり仕留めてる。だからいつも、人の寄りつかねぇところで戦ってるわけだ。で、そんなのを続けてるうちに、アンデッドの力を吸収してるんじゃねぇかって疑われるようになったんだよ」
「なんだそりゃ……意味がわからん」
シンとしてはただのやっかみとしか思えない。冗談ではないのだろうか。
しかし、ジャック級の使っていた大剣は光属性の魔力光を帯びていた。それについての情報がないというのはどういうことか。
「レベルは?」
「最低でも200以上と推定されています」
「…………」
ふむ、とシンは考え込む。
大剣が白い魔力光を帯びていなかったかと確認したいところではあるが、魔術が付与された武器はこの世界では珍しいと思われる。
下手にそれについて言及すると、王城に落ちた剣とジャック級の関係を疑われる危険がある。
まったく別のスカルフェイスだったという可能性もあるにはあるが、これだけ大騒ぎになるようなモンスターが2体同時、しかも同じような大剣を持って出現するなど、ありえないだろう。
「あの、シン様?」
「ああ、すいません。ちょっと考え事を」
深刻な面持ちで考え込んでしまったせいか、セリカは少し心配そうにしていた。
セリカからすれば、シンはSクラスに匹敵する戦闘力を持つ数少ない人物だ。そんな人物がスカルフェイスの情報を聞いて深刻な顔になれば、守られるしかない立場の者が不安になってしまうのも無理はない。
「考え事……ですか?」
「ええ、まあ、スカルフェイスってどんなアイテム落としたっけなと思って」
シンはとっさに、ドロップアイテムのことを考えていたことにした。
「落とすアイテム……ですか? えと、確か宝玉と、まとっている鎧や剣が、それなりの値段で取引されていた、と思いますが……」
「あ、そうなんですか。いやあすっかり忘れちゃってて、ははは」
嘘を気取られないように陽気に振る舞うシンだが、どう見ても挙動不審である。
だがセリカの方も、まさかジャック級のスカルフェイスという強敵のドロップアイテムを気にしているとは考えてもいなかったので驚いてしまい、シンの挙動がおかしいことに気づかなかった。
おかげで、殺気立ったギルド内で不自然に笑う男と呆け気味に答える女という、場違いな光景が展開されていた。
「そう言えば、シン様の報告したいことというのは、どういった内容なのでしょうか」
「おっとすいません。肝心なことがまだでした。北の森でそのスカルフェイス・ジャックを仕留めたんで、報告をしとこうと思って。あ、これがそのときに回収した宝玉です」
「そうですか、スカルフェイスを……スカル…………あれ? あの、ポーン級……です、か?」
いつものように書類を出そうとしたところで、動きがぎこちなくなるセリカ。シンの言葉を聞き間違えたかと質問を返すが、あっさり否定されてしまう。
「いえ、ジャック級です。ああ、大剣も持ってましたよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……えっと、セリカさん?」
「え? あっ!? す、すいません! ちょっとびっくりしちゃって」
はっと我に返って謝るも、セリカは慌てているようで、丁寧語ではなくなっている。
「そんなに驚くことですか?」
「いやいや、ジャック級のスカルフェイスを単独で討伐するには、最低でもAランク相当の実力が必要なんですよ!? いくらなんでも、そんなちょっと行ってきた、みたいな軽いノリで言わないでください!」
セリカはつい大きな声を出してしまう。シンがAどころか、Sランク並の戦闘力を持っていると知っていたにもかかわらず、だ。
「えっと、すいません?」
「シン様が実力者なのは知ってましたけど……依頼が出たその日に単独討伐してくるなんて、前代未聞です」
「遭遇したのは偶然なんですけど……」
「それでも普通は、一旦戻ってギルドに報告。しっかりと準備を整えてから戦いに行くものですよ。少なくともその場で戦おうと考える人は少ないと思います」
「そうなんですか。いや、確かに武器はこの通りですけどね」
シンはほとんど柄だけになった刀をセリカに見せた。戦ったときのことを聞かれるかと装備し直しておいたのだ。
申し訳程度に残った刀身にすらひびが入っており、もはやなんの役にも立ちそうになかった。
「なっ!? 粉々じゃないですか!」
「とどめを刺すときにちょっと」
「どんな無茶をしたんですか!?」
「ちょっ!? セリカさん近い! 近い!」
血相変えながらカウンターを乗り越えて迫ってくるセリカの肩を押さえて、シンはまったをかける。突然のことだったので、お互いの顔が20セメルほどまで近づいていた。
セリカの予想外の行動にもとっさに反応した自分をほめるべきか、説教すべきか、シンの中でどうでもいい葛藤があったのは御愛嬌。美人に迫られて、悪い気のする男はいないのだ。
「えっ……あああ、すいませんすいません! 決して変なことをする気があったわけじゃなくてですね。怪我をしてないか心配だったというか、つい興奮してしまったというか……って、私なに言ってるの!?」
セリカはセリカで、見ていて面白いくらいに動揺していた。シンが突っ込みも入れずに眺めてしまっていたほどだ。
ジャック級単独撃破というのは、それほどまでに大ニュースらしい。
「いつも知的クールな女性が、恥ずかしがりながらオロオロする……か。なんかこう……くるものがある!」
「くるのはいいが、いい加減落ち着いてくれないかな。ちょっと目立っているよ」
「ん? おお、エルス」
これが萌か……と1人うなずくシンの背後から声をかけてきたのは、エルスだった。
どうやらシンとセリカのやり取りは、いつの間にか周囲の注目を浴びていたらしい。
「いやすまん。恥ずかしがるセリカさんが可愛かったもんだから、つい」
「か、かわいい!?」
「そこは同意するが、あまり同僚をいじめないでほしいな」
「どうい!?」
「申し訳ない。だが意図的にやったんじゃないという釈明はしておく」
「わかってるよ。見てたからね」
「だったらもっと早く声かけろよ……」
セリカのセリフをことごとくスルーして会話を進めるエルスとシン。シンとしては、初めからエルスがいればこんな事態にはならなかった気がしてならなかった。
「そう言わないでくれ。私だっていろいろ準備したり、情報を集めたりしてたんだ」
たしかにエルスの服装は、セリカの着ている受付嬢の制服ではなく、動きやすさを重視した狩人の装備だった。
丈の少し長い、革製の丈夫そうなジャケット。細々した物がまとめて収めてあるポーチ。スパッツの上には、膝までを覆うロングブーツをはいている。
背中には狩人の基本装備である弓、右太ももには短剣がくくりつけてあった。
腰まである長い髪を紐でひとくくりにしているせいか、雰囲気まで以前と違うように感じる。獲物を狙うハンターの気配だ。
「スカルフェイスの件か?」
「うん、北の森に出たというやつだね。噂自体は、聞くようになってからそれなりに時間が経ってる。実際に被害が出たのは今回が初めてだけど、なんでも普通のジャック級より強力な武器を持ってるとか……」
「ああ、それなら俺も見た。確かに大剣を振り回してたな」
「セリカの驚き方でもしやとは思ったけど、その言い方じゃ、件のスカルフェイスと剣を交えでもしたようだね」
「交えたと言うか、仕留めたんだけどな」
仕留めたの部分だけ小声で言うシン。セリカに伝えたときもそうだが、ギルド内があまり大声で話せる雰囲気ではなかったので、一応音量を抑えてみたのだ。
軽口を叩いていたエルスも、シンの言葉に動きが止まる。
「……それが本当なら、セリカが取り乱すのもわかるよ」
かろうじて絞り出した返事に、復活したセリカが相槌を打った。
「そうです。私はおかしくないです」
「……疑うようで悪いが証拠はあるのかい? それがないと、いくら討伐したと言っても信用してもらえないが」
「宝玉だけ回収してきたけど、そもそもモンスターを倒した証の……証明部位だっけ? スカルフェイスのそれが何なのか、俺知らないし」
ゲーム時代のクセで、とくに変わりのないドロップアイテムは回収しなかったシン。必要な証明部位がどこかという以前に、それがないと討伐した証明ができないことすらすっかり失念していた。
「鎧や剣は回収しなかったのかい? ジャック級ともなればそれなりにいい装備をしているから、売って資金にしたり、自分用に調節する者もいるのに」
信じられないというエルスの反応に、シンはどう返したものかと頭を悩ませた。
なにせスカルフェイスのドロップアイテムなど、アイテムボックスの中に3桁単位で入っている。別段特別なことに使えるわけでも、高い能力があるわけでもないので、完全にアイテムボックスの肥やしになっているのだ。
空に消えた大剣ならばともかく、今さら兜やら鎧やらを回収しようとは思えなかった。
「あんなのいくらあってもなぁ」
シンの表情から、ぽろっとつぶやかれた言葉が真実だと理解し、呆れ果てるエルスとセリカ。
「冒険者とは思えないセリフだ……」
「まったくです……」
エルスは「それなりに」と控えめに言ったが、この世界においては、スカルフェイス・ジャックのまとう装備と同じ質の物をそろえようとすれば、相当な資金がいる。最低でもBないしAランクの冒険者でなければなかなか手が出せない代物だ。
それを「あんなの」と呼ぶシンは、奇異の目で見られて当然。言外にいらないと言っているようなものだから、とても他の冒険者には聞かせられない、というところだろう。
「ま、まあ証拠の方は宝玉を調べれば大丈夫だろう。宝玉にはドロップしたモンスターの魔力が込められているから、スカルフェイスだというのはわかるはずだ」
あまり深く考えてはいけないと判断したらしく、エルスが口を開いた。
「そうなのか?」
シンからすれば、証明部位よりも時間がかかるのが難点だが、急ぎでもないので問題はない。
「ただ、調べている間は宝玉をこちらでお預かりすることになります。売却していただけるならすぐにできますが」
エルスに代わってセリカが答えた。すっかり仕事モードである。
「時間がかかるのはなぜですか?」
「結果を早く出すには、宝玉に傷をつける必要があります。そうなると、宝玉としての価値が下がってしまいます。返却する場合は傷がつけられませんので、どうしても時間がかかってしまうのです」
「なるほど。あー、今回はやめときます。今のところ売る気はないんで」
「承知しました。では結果が出ましたら、宿の方に連絡いたします。宿は穴熊亭でよろしかったですか?」
「はい。じゃあ、それでお願いします……そう言えば、北の森にはスカルフェイスが出やすかったりするのか? さっき、噂自体は前からあるって言ってたけど」
エルスに尋ねるシン。
「アンデッド系のモンスターは、生物の怨念や未練が魔力と交わることで生まれるからね。もともと北の森には凶暴なモンスターが生息しているけど、貴重な薬草や素材が取れるから、足を踏み入れる人は後を絶たない。彼らがモンスターに襲われ帰らぬ人になることは多いんだ。だから、アンデッドが生まれる条件自体は整っているんだよ。ただ、ジャック級のような強力な個体が生まれるほどの魔力が自然発生する環境ではないから、北の森でスカルフェイスと言えば、普通はポーン級を指すのさ」
シンの倒したジャック級も、ポーン級と見間違われていたんじゃないかな、とエルスは付け加えた。
実際に被害が出るまで交戦した者が誰もいなかった、というのも1つの原因のようだ。あくまで噂でしかないので、わざわざ確かめに行こうとする者もいなかったのだろう。
「ちなみにジャック級のレベル帯ってどのくらいなんだ?」
「確認されているのは最低が150、最高が250だね。それ以上となると、クイーン級やキング級に分類される」
どうやらモンスターごとのレベル上限は変わっていないらしい。
「となるとだ。今回は例外ってことになるか……」
「どういうことですか?」
シンの言葉に2人がすかさず反応する。さすがはギルド職員と冒険者だ。
「俺が戦ったジャック級は、レベルが250を超えてたんですよ」
「それは、本当ですか?」
「【分析】で見たんで間違いないです。たぶんユニーク、特殊個体だと思います。普通のと違って取り巻きのポーン級もいませんでしたし」
セリカに続いてエルスも問いかける。
「確認なんだが、正確なレベルは?」
「359だったな。俺の記憶が確かなら、普通であれば、キング級に分類されるレベルだと思うんだが」
自分で言っておきながら、ユニークで間違いないとシンは思う。
【分析】では確かにジャックと出ていたし、そもそもクイーンやキング級のスカルフェイスとは、体格も装備も違っていた。
レベル、武器、戦闘パターンこそ規格外だったが、それ以外はジャック級だったのである。
「359!?」
シンの台詞にまたしても固まる2人。
「……なにか、まずかったか?」
「まずいというより……いや、待った。私も混乱しているみたいだ。セリカ、確か宝玉鑑定に相手の強さを大まかに調べる方法があっただろ? 今すぐあれをやってみたらどうだろうか」
「っ! そうですね、宝玉の鑑定を急ぎます。エルス、申し訳ありませんがあとを頼みます」
エルスの言葉に我に返ったセリカは、シンに一礼すると宝玉を持って奥に下がった。
シンはと言えば、そんな便利なこともできるのかと呑気に感心していただけである。
「まったく君ってやつは」
エルスが大きくため息をついた。
「なんだ?」
「今言った敵のレベルが本当なら、君1人の強さは最低でもAランクパーティ以上ということになる。嘘なら大ほら吹きだ」
「まあ、そうでなければ俺の見間違いだったってことだろ。それに俺のランクはGだぞ? ジャック級を討伐したってだけでも、誰も信じないって」
「確かに事情を知らなければそうだろうけど……」
「ならいいだろ。ここまで言っといてなんだけど、目立ちたいわけじゃないし」
行動と矛盾している気はするが、シンとしては、あまり目立って関わりたくもない輩から目をつけられるのは困るのだ。
シンの目的はあくまで元の世界に帰ることであり、ギルドに所属しているのも情報収集の手段としての意味合いが強い。現状はこの世界を知ることを重視しているので、帰る手段については未だ手付かずなのが困りどころだが。
「あんなのがうろついてたらまずいだろうから、報告しただけだ。できれば、俺がやったっていうのは広めないでほしい」
「私としては君の希望に沿いたいが、隠したところで調べる者が現れると思うよ。普通は名乗りを上げて当然だからね」
「だよなぁ……」
シン自身、うっすらとわかってはいたことだが、ハッキリ言われると余計に重く感じてしまう。
すでにこれだけ騒ぎになっているのだ。そのモンスターを倒した冒険者ならば、かなり名を売ることができる。それをしないとなれば、その理由を知ろうとする連中が出るのは必然だろう。
しかし、シンが倒したと知られれば、冒険者になりたてのGランクでしかないので、かなりの注目を浴びるのは間違いない。結局、どちらに転んでも面倒事になるのだ。
「すまないが、こればかりはあまり力になれそうにない」
「そこまで負担をかけるつもりはないからいいって。どうしようもないんだから、とりあえず、飯でも食ってくるわ」
うだうだ悩んだところで解決などしない。
気分を変える意味も兼ねて、昼食でも取ろうと考えるシン。ギルド内は込んでいて、とても席が空いているようには見えなかったので、外に出ることにした。
シンは1人で大通りを歩く。
セリカとエルスがそろって勧めてくれた店に向かっているのだ。
しばらく歩くと、剣とフォークが描かれた看板を掲げている店が見えてきた。なんでも店主が元冒険者だそうで、異国の料理や珍しい食材を使った品々が味わえるらしい。
「戦う料理人か……クックみたいだな」
六天の料理番をしていた女性を思い出し、苦笑するシン。
材料を自分で確保することにこだわっていた彼女は、食材集めのためにモンスターを倒すことで、ステータスがカンスト寸前までいったという変わり種だった。
そもそも六天には風変わりなメンバーしかいなかったわけだが、シンお手製の柳刃包丁の2刀流でドラゴンをさばくクックの姿は、強く印象に残っている。
「思い出したら腹減ってきた……」
腹の虫が鳴き出しそうだったので、少し足早に店に入った。昼飯時とあってか、かなり混雑している。
「いらっしゃいませー! すいませーん。少々お待ちくださーい!!」
騒がしい店内に鈴のような声が響く。ウェイトレスは1人しかいないようで、テーブルとカウンターを行ったり来たりしていた。
空腹ではあったが、さすがにこの状況では文句も言えないので、シンはおとなしく扉のわきに立って店内を眺めていた。
ギルドの近くにあるからか、店長が元冒険者だからか、店内にいるのはほとんどが鎧や剣で武装した者たちだ。おそらくスカルフェイス退治に集まった者たちだろう。
「お待たせしました。ご案内させて……ってシンさんじゃないですか」
「ん? えっと、セリカさん? いやシリカさんですか?」
突然の言葉に驚くシン。よく見れば、目の前のウェイトレスが、髪をポニーテールにしたシリカだということに気づく。一瞬、またセリカが着替えてきたのかと思ってしまった。
「あたりです。この店を選んだのはお姉ちゃんの紹介ですか?」
「はい。いろいろとお世話になってます」
「……こんなに早くここを紹介されるなんて、ただものじゃないわね」
真剣な顔で何かをつぶやくシリカ。
「? 何か言いましたか?」
気になって問いかけるシンだが、なんでもないと笑顔でかわされ、話はそこでお開きになった。確かに、いつまでもドアの横で話し込んでいるわけにもいかないだろう。
たまたま団体客が帰ったところらしく、1つだけ空いたテーブルに案内される。
1人でテーブルに座るのは気が引けたが、あいにくカウンター席はすべて埋まっていた。
他の客が来たときに相席になると聞かされてから、シリカに料理を注文した。
シンが料理を注文してからほとんど間をおかずにシリカが再びやってきて、相席を頼まれる。
「あのー、シンさん。すいませんけど、新しいお客様が来たので相席をお願いします」
「あ、はい。わかりました」
やってきたのはやはり冒険者で、毒々しい輝きを放つ槍を持った男だった。
「……『ヴェノム』か」
禍々しい槍を見て、シンはポツリとつぶやく。
魔槍『ヴェノム』――伝説級に名を連ねながら、その能力は神話級にも匹敵する、希少や特殊級とは一線を画す武器だ。
「わりィな。邪魔するぜ」
「むしろ助かる。1人でテーブル占領をするのに気が引けてたんだ」
軽く挨拶をしてシンは男と向き合った。
身長はシンと同じくらい。瞳は赤く、黒髪を大雑把に頭の後ろでまとめている。肌は病的と言っていい白さだ。
美形と言っていい顔立ちだとシンは思ったが、眼光が鋭すぎるのと気配が荒々しすぎるせいで、見た目とは裏腹に野生の獣のような印象を受ける。それも冷静に獲物を仕留める、狩人としての獣だ。
レベルは188。おそらくこの男なら、通常のスカルフェイス・ジャックを十分単独で倒せるだろう。
「俺はシン。これも何かの縁だ。短い間だけどよろしく」
「……俺にそんな口を利く奴がまだいるとはな。ヴィルヘルム・エイビスだ。冒険者にはなりたてか?」
声をかけたシンをわずかに観察して、ヴィルヘルムは自身の名を告げた。
首をかしげながらもシンは質問に答える。
「ああ、今日で3日目だ」
ふと気がつけば、騒がしいのは変わっていないが、店内の客が皆一様にこちらを見ているのがわかった。シンはまだただの新人冒険者。注目を浴びているのはヴィルヘルムだろう。
シンにはその理由まではわからなかったが、今のところ実害はないので放っておくことにした。
「3日目? それにしてはなかなかの装備だな。傭兵でもしてたのか?」
「いや? まあ、田舎から旅してきたからそれなりだとは思うけどな。おかげでこっちの常識ってのが、いまいちわかってない」
「……道理で俺の名を聞いてビビらねぇわけだ。まともな冒険者なら、俺と相席なんてしねぇだろうからな」
「ビビられるようなことをしたんかい……一体何を?」
人によっては威圧感だけで冷や汗をかきそうな状況にもかかわらず、平然と話をするシン。
周りの冒険者はそろって、「なんでそんなになれなれしく話せるんだこいつ!!」と心の中で絶叫するような表情をしていた。
シン本人は威圧感など微塵も覚えていない。それに加え、どうにも悪事を働くような男には見えなかった。
「別に大したことじゃねぇよ。俺はけっこう前からアンデッドモンスターばかり仕留めてる。だからいつも、人の寄りつかねぇところで戦ってるわけだ。で、そんなのを続けてるうちに、アンデッドの力を吸収してるんじゃねぇかって疑われるようになったんだよ」
「なんだそりゃ……意味がわからん」
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