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1巻
1-13
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「それは俺も同意見だがな。まあ、それを信じてる奴なんて、ランクの低い馬鹿くらいだろうよ。本当の理由はこいつを持ってるからだ」
そう言ってヴィルヘルムは、壁に立てかけてあった魔槍『ヴェノム』をつかんだ。
「この『ヴェノム』は伝説級の武器でな、傷つけた相手の生命力を吸い取って使用者に分け与える能力がある。これだけなら便利なもんだが、まぁ伝説級以上の武器ってのはどいつもこいつもぶっ飛んだ力を持ってるもんでな。使用者も知らない能力を実は持ってた、なんてのはざらなんだよ」
「使ってても正確にわからないのか?」
「ああ。気が付いたら呪いにやられてたって奴もいたからな。おまけに俺の武器の能力は吸収だ。要は、知らねぇうちに味方も吸われるんじゃねぇかってビビってんだよ」
ゲームでは当たり前にあった武器説明欄がないので、どういう効果を持つ武器なのか使用者でも把握できないようだ。効果を知っているシンからすれば実に馬鹿馬鹿しいことだが、この世界ではそうもいかないのだろう。
周りの客が注目している理由にも、これで納得がいった。
「鑑定したらわからないか?」
「可能なのは素材の鑑定だけだろ。まあ俺も試しに頼んだことがあったが、わかったのは名前と等級だけだ。さっき俺が言った能力も、使って確かめたもんだしな」
「鑑定した相手のスキルレベルは?」
「Ⅶだったな」
ヴィルヘルムの回答にそれは無理だとうなずくシン。
伝説級の武装を鑑定するには、最低でもスキルレベルⅧが必要である。神話級でⅨ、古代級ともなれば最大のⅩでなければ細部まで能力を確認することはできない。
ゲーム時は商人や鍛冶師など、鑑定スキルを育てているプレイヤーに頼めばすぐだったのだが、どうやらこの世界、それすらままならないらしい。
シンが次の話題を振ろうとしたところで、シリカが注文した料理を運んできた。ヴィルヘルムもすでに注文していたらしく、シンが頼んだ覚えのない料理もあった。
「とりあえず、食うか」
「大いに賛成!」
同意したシンはいただきますと合掌し、即座にかぶりつく。
シンの注文したのはアブリドリというモンスターのもも肉を骨つきで焼いたもの。いまだにジュウジュウと音を立てているそれは、運ばれてきたときから何とも香ばしい香りを放ち、シンの鼻をくすぐっていた。
かぶりついた瞬間に口いっぱいに広がる肉汁と、インパクトのあるスパイスの香り。パリッとした皮と柔らかくほどける肉の触感が、空腹だったシンにはたまらなかった。
「うっま! これうっま!!」
「……もう少し落ち着いて食えよ」
勢いよくがっつくシンに、ヴィルヘルムも少々呆れ気味だ。とはいえ、当のヴィルヘルムもシンに負けない速度で料理を口に運んでいるのだから、他人のことは言えないだろう。
しばらく無言で食事を続け、それぞれ1回ずつおかわりをした。そして食後の茶――普通に紅茶が存在した――をすする。
「アブリドリとか久しぶりに食ったな。どう考えてもあぶられて食われるとしか思えん名前だし」
シンが軽口を叩くと、ヴィルヘルムも笑って答える。
「へたすりゃこっちが黒焦げにされるがな」
ふざけた名前ではあるが、これでもれっきとした100レベル前後のモンスターだ。
名前の通り鳥型だが空は飛べず、そこまで俊敏というわけでもないが、最大の特徴として炎を吐く。それも設定を間違えたとしか思えない高火力なので、ゲーム時には初見殺しとして変に知名度があったモンスターだ。
「そう言えば、武器の情報を軽々しく教えてよかったのか? こういうのって隠すもんだろ?」
「さっき言ったのはとうの昔に知れ渡ってるからな。今さら新人にしゃべったところで、変わりゃしねぇよ」
「なるほど」
誰でも知っているような内容だったらしい。
「俺はもう行く。じゃあな新人」
「またな~」
友人に対するかのように、シンはヴィルヘルムを見送る。周囲が相変わらずざわついている気がするが、今さらなので気にしない。
ヴィルヘルムが去って、しばらくしてからシンも席を立つ。
いずれ戦場を共にする、六天のハイヒューマンと白貌の魔槍使いの初めての交錯は、じつにあっさりとしたものだった。
†
店を出たシンは、その足を図書館へと向けていた。
結局、ヒルク草収集の依頼はまだ完了していないが、もともと無期限である。急ぐ必要もない。
それにも増して、ここ数日の自身の行動から、今後この街でゆっくりしていられなくなるかもしれないという危機感が生まれ、先に別件を済ませようと考えたからだ。
「ここか」
シンがやってきたのは商業区と居住区の中間地点。商人たちの活気ある声が時折シンの耳に届くくらいで、商業区と比べればかなり静かな場所だ。
ベイルリヒト王国が管理する図書館は、名を王立魔術図書館という。
魔術の名を冠してはいるが、それ以外のジャンルも豊富に取りそろえているらしく、わからないことはとりあえずここで調べるのがこの国の常識だと、ツグミから聞いた。
中には許可がないと読めない本もあるということだが、今回は可能な範囲でこの世界のことを調べようと思っているので問題ない。
図書館の中にはとくにこれといった特徴はなく、テーブルに椅子、あとは大量の本棚がひしめいていた。
念のため受付で使い方について説明を受けると、図書館内で読む分には無料だが、貸し出しには費用がかかること、貸出日数には限度があること、1度に3冊までしか借りられないことなど、注意点を要約して教えてくれた。
貸し出し費用については本の種類と日数で決まるらしい。本をなくせば当然罰金だ。
閲覧に許可がいる本は原則、貸出禁止。上級冒険者や宮仕えの士官のような、ある程度の身分と信頼がなければ読めないような本もある。
貴重な本があるなら泥棒でも入りそうなものだが、館内には警備と思しき兵士が周囲に目を光らせており、防犯用のスキルまで展開されているので、手を出す輩はいないのだとか。
(レベルⅧの防壁に障壁か。自信満々なわけだ)
城壁より強力な結界スキルが使われているのに多少疑問を感じるが、確かにこれならそうそう破られることはないなと感心する。
シンは説明を受けた後、どの分野の本がどこにあるのかを教えてもらい、図書館内を回って持てるだけの本を手に取り、空いている席に着く。
まずは歴史だ。
やはりデスゲームからの一斉ログアウトと関係があると思われる、『栄華の落日』について調べるのが先決だとシンは考えた。
建国からの大きな出来事が記載されている年表があったので、さっそく広げてみる。
「まずは最近の……えーっと、今は建国から511年目か。『栄華の落日』があったのがだいたい500年前って言ってたから、ほとんど建国と同時期だな」
奇妙な符合に首をかしげながら、年表を過去にさかのぼっていく。
書かれているのは国王の代替わりや葬儀、戦争、大規模工事や同盟の締結など、国政にかかわるものが多い。そして年表の最端、建国の部分を見るが――。
「『栄華の落日』について欠片も書いてないな」
年表にはただベイルリヒト王国建国とだけ書かれており、それ以前のことには触れられていなかった。
「まぁただの年表だしな。他の本なら何か書いてあるだろ」
気を取り直して他の歴史書を開く。しかし、次に開いた本の内容もほとんどが建国後のことであり、『栄華の落日』について詳しく記載されてはいなかった。
その後もいくつか歴史書を読んでみるが、ことごとくハズレ。唯一それらしきものが書かれていた本もあったが、しょせん期待外れのものだった。
「あの日を境に世界は変わってしまった、ってだけじゃな……」
王が去り、国が消え、世界は変わってしまったと書かれてはいたが、具体的にどうなったのかいまいちはっきりわからない。
どうやら『栄華の落日』の後、世界中が一時乱世のような状態になったらしいが、直接の原因までは詳しく記載されていなかった。
プレイヤーがログアウト――事実上消失したのだから、混乱するなと言うのも無理な話だが、少しくらいは記録があってもいいんじゃないかと思ってしまう。
書物からハッキリした情報は得られそうにないなと諦めつつも、手がかりくらいはないかと山と積まれた中から適当に1冊を取り出す。
これは種族についての本だったらしく、簡潔にだが、それぞれの特徴や在り方が載っていた。
ヒューマン――もっとも数が多く、国家も多い。王国を作り、王は国王を名乗る。
ドラグニル――力と生命力が突出して高く、ヒューマンの姿を取ることもできる。皇国を作り、王は竜王を名乗る。
ビースト――ヒューマンの次に数が多く、俊敏で部族ごとに異なる特徴を持つ。部族が寄り集まった連合を作り、長は獣王を名乗る。
ロード――能力に偏りが少なく、またどの能力も突出するほどではないが、総じて高い傾向にある。帝国を作り、王は魔王を名乗る。
ドワーフ――手先が器用で武具や道具の製作を得意とする。各国に散らばり、組合という形式でその技術を共有する傾向がある。一番の職人は岩窟王を名乗る。
ピクシー――種族の中で最も長命であり、魔術の扱いに優れる。妖精郷という独自の世界を作り、その中で生きる者と外の世界と交流を持つ者に分かれる。王は妖精王を名乗る。
エルフ――ピクシーに次いで長命であり、魔術だけではなく危機察知能力も高い。森に住み、森とともに生きる。若者は集落の外に出ることも多い。集落は園と呼ばれ、長は森王を名乗る。
このあたりはシンの知っている内容とそれほど違いはない。
ドワーフの職人が岩窟王というのに一瞬違和感を覚えたが、ドワーフはもともと洞窟に住んでいたという設定があったなと思い出し、そのせいかと納得した。
長命であるエルフやピクシーなら『栄華の落日』について知っている者がいるかもしれないので、その情報はしっかりと記憶しておく。
「さて、次いくか」
時間の許す限り調べようと決意し、次の本を開くのだった。
†
シンが図書館で調べ物をしている頃。
冒険者ギルドの1室では、バルクスやエルスなどの幹部が顔をそろえていた。
もちろん議題はスカルフェイスのことだ。
シンが持ってきた宝玉の鑑定を待つ状況だが、紹介状持ちのシンからの情報は正確であるという前提条件のもと、手の空いているメンバーがとりあえず集められた。
緊急性がそこまで高くないのは、すでにスカルフェイスが倒されており、シンの人柄が、バルクスやエルスの報告で多少なりともわかっているからだ。
これまで紹介状持ちが危険人物だったことが1度もなかったので、ここまで信用されているのだ。
「では、臨時会議を始めるとしよう」
その声に反応し、会議室内の面々が一斉にバルクスへと視線を浴びせる。
「もう耳にしている者もいると思うが、北の森に出現したというスカルフェイス・ジャックが討伐された。討伐者は宝玉のみ回収してきたということで、現在宝玉を調査中だ」
淡々と告げたバルクスの言葉に怪訝な顔をする面々。
「ジャック級を討伐しておいて、剣や鎧を回収しなかったのですか?」
真っ先に声を上げたのは、王国との連絡役として派遣されてきたばかりのアルディだ。
同じ疑問を持っていたのか、うんうんとうなずいているのは、宝玉の調査を担当している魔導士のアラッド・ロイル。
サブマスターであるキリエ・エインと事情を知るエルスは無反応である。
バルクスは続けた。
「本人いわく、剣や鎧など大したものじゃないのだそうだ」
「大したものじゃない……ですか?」
納得できないという表情のアルディ。その横でアラッドが髭を撫でつけながらほっほっほと笑っている。
「そこまで言い切るとは、なかなか景気がよさそうな御人じゃの」
老境に入ったせいか、髪や髭には白いものが目立つアラッドだが、背筋はピンと張っており、実年齢ほど年を取っているようには見えない。朗らかに笑う様は好々爺という言葉が似合う。
「紹介状持ちの連中は、大概非常識な奴らじゃからな。気にしたら負けじゃよ、お若いの」
「そうなのですか?」
常識を求めちゃいかんと言うアラッドと、それを信じかけているアルディ。
「待て待て。私が言えた義理じゃないが、そこまで非常識ではないぞ」
「ギルドマスターが言うと説得力がないね」
バルクスが横やりを入れると、エルスがバッサリと切りすてた。
ちょっとしたおふざけだったのだろう、適度に緊張感がほぐれたところでアラッドは真面目に報告した。
「まあ、それはそうと例の宝玉なんじゃがの。詳しいことはまだわからんが、少なくともレベルについては、359で間違いなさそうじゃぞ」
「やはりか。レベルについては裏付けが取れればそれでいい。問題は他にも同じようなモンスターが発生していないかだ」
バルクスは重々しくうなずいた。
宝玉調査に関してギルド内でアラッドの右に出る者はいないので、少なくともキング級のレベルを持ったスカルフェイスが出たというのは確定のようだ。
「それについては探索を得意とする職員がすでに調査に出ています。明日には情報がそろうかと」
冷静な口調でキリエが補足する。
バレッタでまとめた黒髪、メガネの奥から覗く茶色い切れ長の瞳。怜悧な美貌も加わって、腰に帯剣してさえいなければバルクスの秘書にしか見えない。
アラッドがおかしそうに肩を揺らした。
「相変わらずキリエ嬢は仕事が早いのう。ギルドマスターにも見習って欲しいわい」
「うちのサブマスターは優秀なのだよ。ロイ爺」
「バルクス様はもう少し、事務仕事に意識を向けたほうがよいかと」
「うっ」
バルクスの軽口をキリエが一言で両断する。バルクスの事務能力は別段低いわけではないのだが、キリエとしてはまだ不満があるらしい。
「ほんに容赦のないことじゃ」
「…………」
3人の掛け合いにあっけにとられていたアルディに、アラッドが問いかける。
「ふむっ、考えていたものと違って驚いたかね」
「いえ、まあ、もう少し緊張感があると思っていたものですから」
まじめな性格なのだろう。控えめに言うアルディはまだ少し困惑気味だ。
「まあいつものことじゃて。それに今回は会議というよりは、ちょっとした連絡会のようなものだしの。ほんに緊急事態なら、各地区の責任者やらSランク冒険者やらが集まっとるよ」
「やはり今回のスカルフェイスは、報告のあった1体だけなのですね?」
集まった人数が5人という時点でそこまで緊急ではないとわかっていたアルディだったが、楽観視しすぎているのではないかと危惧していた。
そんなアルディの心の内をよんだのか、本心を吐露しつつアラッドが補足する。
「そうじゃ。あんな化け物がそう何体も出たらたまったものではない。そして、そう判断するだけの理由もあるんじゃよ」
「守護結界ですか」
「さよう。あれがどのようなものかは知っておるか?」
「外からやってくる魔物を寄せ付けない結界ですね」
「そのとおり、初代国王が張らせたものじゃの。故に結界内で強力な魔物が生まれたとしても、そう何体も出てこんのじゃよ。あれには濃度の高い魔力だまりができるのを防ぐ効果もあるしの。それに加えて、我々が警戒をしていることは、おぬしもわかっておるじゃろ」
建国時に施されたという術式は、いまだベイルリヒト王国を守護し続けている。しかし、いくら結界に守られていると言っても、それが万全だなどとは王国もギルドも考えてはいない。
スカルフェイスの報を受け、王国では騎士団が万全の態勢で出撃できるよう準備されているし、ギルドの方も、討伐報告が来た現在でも冒険者への待機指令を解かず、情報収集に励んでいるのである。
「スカルフェイスの活動が活発になるのは夜だ。アルディ君には、万が一に備えて警戒体制を1ランクあげるよう、騎士団長に連絡してもらいたい」
2人の会話の切れ目にバルクスが発言する。先ほどのふざけた会話が嘘のようだ。アラッドとキリエ、エルスの態度から察すると、いつものことなのだろう。
「承知しました」
「私からはこんなところだ。他に何か意見のある者はいるか? いないのなら解散とするが」
今回はスカルフェイスについての報告が主となっていたので、これで終わりかとバルクス、キリエ、アラッド、エルスは思った。
しかしアルディが片手を挙げたので、バルクスは1つうなずいて発言を促す。
「今回のスカルフェイスは武装が違ったという情報を得ています。その武装についてと、スカルフェイスを討伐した者の情報を、できるだけ詳しく知らせていただきたい」
「ふむ……武器に関しては隠すつもりはないが、討伐者の情報は本人の意向もあるので明言はできない。それでもいいなら請け負おう。こちらとしては、なぜそれにこだわるのか気になるのだが、理由を聞いてもいいかね?」
「はい。少々話は変わりますが、王城に剣が飛んできた一件は皆様ご存知ですね?」
当然とばかりに全員がうなずき返す。スカルフェイスの騒動がなければ、今頃その噂でもちきりだったはずだ。
「王城に剣が飛んできた日にスカルフェイスが討伐され、しかもそのスカルフェイスは通常の個体とは違う大剣を装備していた。これらを結びつけて考えておられる方がいるのです」
アルディ以外の面々は、その発言で何人かの人物を思い浮かべた。
バルクスが代表して尋ねる。
「どのような剣だったのか、聞いてもいいかね」
「口外しないという条件ならば」
アルディが出した条件に場の全員が同意した。情報の大切さを皆知っているのだ。
「刀身は2メルほどで、材質は魔鉄鋼とミスリルの合金。そのうえ、光属性永続付与魔術がかかっていました。我が国の宝剣と同格か、下手をすればそれ以上の業物です」
「!?」
語られた内容に一同は驚きを隠せない。
ベイルリヒト王国の宝剣と言えば、下位とはいえ伝説級に分類される武器だ。もはや鍛えられる者がほとんどいない国宝級の武器と同格の剣など、そうあるものではない。
戦いの最中だったため、鑑定スキルを使わなかったシンは気づいていなかったが、スカルフェイスの持っていた大剣は希少や特殊よりもランクが高かったのである。最下級の自己再生能力まで備えていたのだ。
「仮に、スカルフェイスが持っていたのは本当にあの大剣だとしましょう。宝剣並みの武器を持つ高レベルのモンスターを倒すほどの実力者について、気にするな、と言う方が無理です。それに少々困ったことにもなっておりまして……」
アルディの語った内容は真実を言い当てていたが、それだけの情報では誰も判断できない。
アンデッドが光属性の武器を持つというのは、この世界ではまずあり得ないと言っていいことなのだ。
「困ったこと?」
後半の発言が何とも煮え切らないことに疑問を持ったバルクスが問いかけた。
「これは、しばらくしたらバルクス殿にも知らせが行くと思いますし、もしかすると大々的に発表されるかもしれません。一応それまでは口外しないで頂きたい」
「ふむ、承知した。他の者は席を外させるかね?」
「許可は出ていますので、先ほどと同じ条件を守ってくださるのなら構いません。皆さんも知ることになる可能性が高いのですから」
バルクス以外の面々は、「発表」という単語に疑問を持ってはいたが、とりあえず続きを促した。
「実は……」
その後、アルディの口から語られた内容に、一同は頭を抱えるのだった。
シンが図書館で調べ物を始めてから数時間。公共施設の宿命か、夕方と言うにはいささか日が高い時間で、図書館は閉館となった。
メニュー画面で確認したところ、時間は午後4時50分と表示されている。地球と時間が正確に一致しているかどうかはわからないが、市役所や郵便局でもあるまいに……とシンは思った。
とりあえず南区――商業区に戻り、露店でも見て回るかと思ったところで腹の虫が鳴く。
夕食には早かったが、たまたま見つけた屋台で焼き鳥がいい感じに焼けているのを目にして、つい買ってしまった。
焼き鳥と言っても日本で売られているようなものではなく、30セメルほどの串に、豪快に鳥肉が刺さった代物だった。
「異世界でも、焼き鳥は安定したうまさだな……でもちょっと買いすぎたか」
苦笑しつつ袋から新しい串を取り出す。
買った焼き鳥は大きな串で4本。夕食前に食べるには、さすがに多いと言わざるを得ない量だ。
食べながら歩くのは落ち着かないので、憩いの場となっている広場の中心にある噴水に近づく。その縁に腰を下ろし、なんとはなしに道行く人に視線を向けながら、肉をほおばった。
スカルフェイス出現の情報が公表されたからか、やはり冒険者の姿が多い。討伐完了の情報も伝わっているはずだが、まだ警戒しているのだろう。
そして、そういった者たち向けの商売をしている露店商も、今日は格段に多い気がした。
と言っても、シンはまだ数日しか過ごしていないので、なんとなくでしかない。
街の喧騒を眺め焼き鳥を咀嚼つつ、図書館で調べた内容を頭の中で整理する。
今のところわかっていることで、特筆すべきものは3つだ。
1つ目は『栄華の落日』について書かれた書物が希少だということ。
図書館には置かれておらず、可能性があるとすれば、閲覧制限のある場所か禁書の類が保管してある場所だろう。どちらも今のシンでは入れないので一旦置いておく。
今後、どちらにしろエルフやドラグニルなどの長命種の集落を訪ねる必要性を感じていたので、今はまだ、どこかに忍び込んでまで禁書を探す気はない。
そう言ってヴィルヘルムは、壁に立てかけてあった魔槍『ヴェノム』をつかんだ。
「この『ヴェノム』は伝説級の武器でな、傷つけた相手の生命力を吸い取って使用者に分け与える能力がある。これだけなら便利なもんだが、まぁ伝説級以上の武器ってのはどいつもこいつもぶっ飛んだ力を持ってるもんでな。使用者も知らない能力を実は持ってた、なんてのはざらなんだよ」
「使ってても正確にわからないのか?」
「ああ。気が付いたら呪いにやられてたって奴もいたからな。おまけに俺の武器の能力は吸収だ。要は、知らねぇうちに味方も吸われるんじゃねぇかってビビってんだよ」
ゲームでは当たり前にあった武器説明欄がないので、どういう効果を持つ武器なのか使用者でも把握できないようだ。効果を知っているシンからすれば実に馬鹿馬鹿しいことだが、この世界ではそうもいかないのだろう。
周りの客が注目している理由にも、これで納得がいった。
「鑑定したらわからないか?」
「可能なのは素材の鑑定だけだろ。まあ俺も試しに頼んだことがあったが、わかったのは名前と等級だけだ。さっき俺が言った能力も、使って確かめたもんだしな」
「鑑定した相手のスキルレベルは?」
「Ⅶだったな」
ヴィルヘルムの回答にそれは無理だとうなずくシン。
伝説級の武装を鑑定するには、最低でもスキルレベルⅧが必要である。神話級でⅨ、古代級ともなれば最大のⅩでなければ細部まで能力を確認することはできない。
ゲーム時は商人や鍛冶師など、鑑定スキルを育てているプレイヤーに頼めばすぐだったのだが、どうやらこの世界、それすらままならないらしい。
シンが次の話題を振ろうとしたところで、シリカが注文した料理を運んできた。ヴィルヘルムもすでに注文していたらしく、シンが頼んだ覚えのない料理もあった。
「とりあえず、食うか」
「大いに賛成!」
同意したシンはいただきますと合掌し、即座にかぶりつく。
シンの注文したのはアブリドリというモンスターのもも肉を骨つきで焼いたもの。いまだにジュウジュウと音を立てているそれは、運ばれてきたときから何とも香ばしい香りを放ち、シンの鼻をくすぐっていた。
かぶりついた瞬間に口いっぱいに広がる肉汁と、インパクトのあるスパイスの香り。パリッとした皮と柔らかくほどける肉の触感が、空腹だったシンにはたまらなかった。
「うっま! これうっま!!」
「……もう少し落ち着いて食えよ」
勢いよくがっつくシンに、ヴィルヘルムも少々呆れ気味だ。とはいえ、当のヴィルヘルムもシンに負けない速度で料理を口に運んでいるのだから、他人のことは言えないだろう。
しばらく無言で食事を続け、それぞれ1回ずつおかわりをした。そして食後の茶――普通に紅茶が存在した――をすする。
「アブリドリとか久しぶりに食ったな。どう考えてもあぶられて食われるとしか思えん名前だし」
シンが軽口を叩くと、ヴィルヘルムも笑って答える。
「へたすりゃこっちが黒焦げにされるがな」
ふざけた名前ではあるが、これでもれっきとした100レベル前後のモンスターだ。
名前の通り鳥型だが空は飛べず、そこまで俊敏というわけでもないが、最大の特徴として炎を吐く。それも設定を間違えたとしか思えない高火力なので、ゲーム時には初見殺しとして変に知名度があったモンスターだ。
「そう言えば、武器の情報を軽々しく教えてよかったのか? こういうのって隠すもんだろ?」
「さっき言ったのはとうの昔に知れ渡ってるからな。今さら新人にしゃべったところで、変わりゃしねぇよ」
「なるほど」
誰でも知っているような内容だったらしい。
「俺はもう行く。じゃあな新人」
「またな~」
友人に対するかのように、シンはヴィルヘルムを見送る。周囲が相変わらずざわついている気がするが、今さらなので気にしない。
ヴィルヘルムが去って、しばらくしてからシンも席を立つ。
いずれ戦場を共にする、六天のハイヒューマンと白貌の魔槍使いの初めての交錯は、じつにあっさりとしたものだった。
†
店を出たシンは、その足を図書館へと向けていた。
結局、ヒルク草収集の依頼はまだ完了していないが、もともと無期限である。急ぐ必要もない。
それにも増して、ここ数日の自身の行動から、今後この街でゆっくりしていられなくなるかもしれないという危機感が生まれ、先に別件を済ませようと考えたからだ。
「ここか」
シンがやってきたのは商業区と居住区の中間地点。商人たちの活気ある声が時折シンの耳に届くくらいで、商業区と比べればかなり静かな場所だ。
ベイルリヒト王国が管理する図書館は、名を王立魔術図書館という。
魔術の名を冠してはいるが、それ以外のジャンルも豊富に取りそろえているらしく、わからないことはとりあえずここで調べるのがこの国の常識だと、ツグミから聞いた。
中には許可がないと読めない本もあるということだが、今回は可能な範囲でこの世界のことを調べようと思っているので問題ない。
図書館の中にはとくにこれといった特徴はなく、テーブルに椅子、あとは大量の本棚がひしめいていた。
念のため受付で使い方について説明を受けると、図書館内で読む分には無料だが、貸し出しには費用がかかること、貸出日数には限度があること、1度に3冊までしか借りられないことなど、注意点を要約して教えてくれた。
貸し出し費用については本の種類と日数で決まるらしい。本をなくせば当然罰金だ。
閲覧に許可がいる本は原則、貸出禁止。上級冒険者や宮仕えの士官のような、ある程度の身分と信頼がなければ読めないような本もある。
貴重な本があるなら泥棒でも入りそうなものだが、館内には警備と思しき兵士が周囲に目を光らせており、防犯用のスキルまで展開されているので、手を出す輩はいないのだとか。
(レベルⅧの防壁に障壁か。自信満々なわけだ)
城壁より強力な結界スキルが使われているのに多少疑問を感じるが、確かにこれならそうそう破られることはないなと感心する。
シンは説明を受けた後、どの分野の本がどこにあるのかを教えてもらい、図書館内を回って持てるだけの本を手に取り、空いている席に着く。
まずは歴史だ。
やはりデスゲームからの一斉ログアウトと関係があると思われる、『栄華の落日』について調べるのが先決だとシンは考えた。
建国からの大きな出来事が記載されている年表があったので、さっそく広げてみる。
「まずは最近の……えーっと、今は建国から511年目か。『栄華の落日』があったのがだいたい500年前って言ってたから、ほとんど建国と同時期だな」
奇妙な符合に首をかしげながら、年表を過去にさかのぼっていく。
書かれているのは国王の代替わりや葬儀、戦争、大規模工事や同盟の締結など、国政にかかわるものが多い。そして年表の最端、建国の部分を見るが――。
「『栄華の落日』について欠片も書いてないな」
年表にはただベイルリヒト王国建国とだけ書かれており、それ以前のことには触れられていなかった。
「まぁただの年表だしな。他の本なら何か書いてあるだろ」
気を取り直して他の歴史書を開く。しかし、次に開いた本の内容もほとんどが建国後のことであり、『栄華の落日』について詳しく記載されてはいなかった。
その後もいくつか歴史書を読んでみるが、ことごとくハズレ。唯一それらしきものが書かれていた本もあったが、しょせん期待外れのものだった。
「あの日を境に世界は変わってしまった、ってだけじゃな……」
王が去り、国が消え、世界は変わってしまったと書かれてはいたが、具体的にどうなったのかいまいちはっきりわからない。
どうやら『栄華の落日』の後、世界中が一時乱世のような状態になったらしいが、直接の原因までは詳しく記載されていなかった。
プレイヤーがログアウト――事実上消失したのだから、混乱するなと言うのも無理な話だが、少しくらいは記録があってもいいんじゃないかと思ってしまう。
書物からハッキリした情報は得られそうにないなと諦めつつも、手がかりくらいはないかと山と積まれた中から適当に1冊を取り出す。
これは種族についての本だったらしく、簡潔にだが、それぞれの特徴や在り方が載っていた。
ヒューマン――もっとも数が多く、国家も多い。王国を作り、王は国王を名乗る。
ドラグニル――力と生命力が突出して高く、ヒューマンの姿を取ることもできる。皇国を作り、王は竜王を名乗る。
ビースト――ヒューマンの次に数が多く、俊敏で部族ごとに異なる特徴を持つ。部族が寄り集まった連合を作り、長は獣王を名乗る。
ロード――能力に偏りが少なく、またどの能力も突出するほどではないが、総じて高い傾向にある。帝国を作り、王は魔王を名乗る。
ドワーフ――手先が器用で武具や道具の製作を得意とする。各国に散らばり、組合という形式でその技術を共有する傾向がある。一番の職人は岩窟王を名乗る。
ピクシー――種族の中で最も長命であり、魔術の扱いに優れる。妖精郷という独自の世界を作り、その中で生きる者と外の世界と交流を持つ者に分かれる。王は妖精王を名乗る。
エルフ――ピクシーに次いで長命であり、魔術だけではなく危機察知能力も高い。森に住み、森とともに生きる。若者は集落の外に出ることも多い。集落は園と呼ばれ、長は森王を名乗る。
このあたりはシンの知っている内容とそれほど違いはない。
ドワーフの職人が岩窟王というのに一瞬違和感を覚えたが、ドワーフはもともと洞窟に住んでいたという設定があったなと思い出し、そのせいかと納得した。
長命であるエルフやピクシーなら『栄華の落日』について知っている者がいるかもしれないので、その情報はしっかりと記憶しておく。
「さて、次いくか」
時間の許す限り調べようと決意し、次の本を開くのだった。
†
シンが図書館で調べ物をしている頃。
冒険者ギルドの1室では、バルクスやエルスなどの幹部が顔をそろえていた。
もちろん議題はスカルフェイスのことだ。
シンが持ってきた宝玉の鑑定を待つ状況だが、紹介状持ちのシンからの情報は正確であるという前提条件のもと、手の空いているメンバーがとりあえず集められた。
緊急性がそこまで高くないのは、すでにスカルフェイスが倒されており、シンの人柄が、バルクスやエルスの報告で多少なりともわかっているからだ。
これまで紹介状持ちが危険人物だったことが1度もなかったので、ここまで信用されているのだ。
「では、臨時会議を始めるとしよう」
その声に反応し、会議室内の面々が一斉にバルクスへと視線を浴びせる。
「もう耳にしている者もいると思うが、北の森に出現したというスカルフェイス・ジャックが討伐された。討伐者は宝玉のみ回収してきたということで、現在宝玉を調査中だ」
淡々と告げたバルクスの言葉に怪訝な顔をする面々。
「ジャック級を討伐しておいて、剣や鎧を回収しなかったのですか?」
真っ先に声を上げたのは、王国との連絡役として派遣されてきたばかりのアルディだ。
同じ疑問を持っていたのか、うんうんとうなずいているのは、宝玉の調査を担当している魔導士のアラッド・ロイル。
サブマスターであるキリエ・エインと事情を知るエルスは無反応である。
バルクスは続けた。
「本人いわく、剣や鎧など大したものじゃないのだそうだ」
「大したものじゃない……ですか?」
納得できないという表情のアルディ。その横でアラッドが髭を撫でつけながらほっほっほと笑っている。
「そこまで言い切るとは、なかなか景気がよさそうな御人じゃの」
老境に入ったせいか、髪や髭には白いものが目立つアラッドだが、背筋はピンと張っており、実年齢ほど年を取っているようには見えない。朗らかに笑う様は好々爺という言葉が似合う。
「紹介状持ちの連中は、大概非常識な奴らじゃからな。気にしたら負けじゃよ、お若いの」
「そうなのですか?」
常識を求めちゃいかんと言うアラッドと、それを信じかけているアルディ。
「待て待て。私が言えた義理じゃないが、そこまで非常識ではないぞ」
「ギルドマスターが言うと説得力がないね」
バルクスが横やりを入れると、エルスがバッサリと切りすてた。
ちょっとしたおふざけだったのだろう、適度に緊張感がほぐれたところでアラッドは真面目に報告した。
「まあ、それはそうと例の宝玉なんじゃがの。詳しいことはまだわからんが、少なくともレベルについては、359で間違いなさそうじゃぞ」
「やはりか。レベルについては裏付けが取れればそれでいい。問題は他にも同じようなモンスターが発生していないかだ」
バルクスは重々しくうなずいた。
宝玉調査に関してギルド内でアラッドの右に出る者はいないので、少なくともキング級のレベルを持ったスカルフェイスが出たというのは確定のようだ。
「それについては探索を得意とする職員がすでに調査に出ています。明日には情報がそろうかと」
冷静な口調でキリエが補足する。
バレッタでまとめた黒髪、メガネの奥から覗く茶色い切れ長の瞳。怜悧な美貌も加わって、腰に帯剣してさえいなければバルクスの秘書にしか見えない。
アラッドがおかしそうに肩を揺らした。
「相変わらずキリエ嬢は仕事が早いのう。ギルドマスターにも見習って欲しいわい」
「うちのサブマスターは優秀なのだよ。ロイ爺」
「バルクス様はもう少し、事務仕事に意識を向けたほうがよいかと」
「うっ」
バルクスの軽口をキリエが一言で両断する。バルクスの事務能力は別段低いわけではないのだが、キリエとしてはまだ不満があるらしい。
「ほんに容赦のないことじゃ」
「…………」
3人の掛け合いにあっけにとられていたアルディに、アラッドが問いかける。
「ふむっ、考えていたものと違って驚いたかね」
「いえ、まあ、もう少し緊張感があると思っていたものですから」
まじめな性格なのだろう。控えめに言うアルディはまだ少し困惑気味だ。
「まあいつものことじゃて。それに今回は会議というよりは、ちょっとした連絡会のようなものだしの。ほんに緊急事態なら、各地区の責任者やらSランク冒険者やらが集まっとるよ」
「やはり今回のスカルフェイスは、報告のあった1体だけなのですね?」
集まった人数が5人という時点でそこまで緊急ではないとわかっていたアルディだったが、楽観視しすぎているのではないかと危惧していた。
そんなアルディの心の内をよんだのか、本心を吐露しつつアラッドが補足する。
「そうじゃ。あんな化け物がそう何体も出たらたまったものではない。そして、そう判断するだけの理由もあるんじゃよ」
「守護結界ですか」
「さよう。あれがどのようなものかは知っておるか?」
「外からやってくる魔物を寄せ付けない結界ですね」
「そのとおり、初代国王が張らせたものじゃの。故に結界内で強力な魔物が生まれたとしても、そう何体も出てこんのじゃよ。あれには濃度の高い魔力だまりができるのを防ぐ効果もあるしの。それに加えて、我々が警戒をしていることは、おぬしもわかっておるじゃろ」
建国時に施されたという術式は、いまだベイルリヒト王国を守護し続けている。しかし、いくら結界に守られていると言っても、それが万全だなどとは王国もギルドも考えてはいない。
スカルフェイスの報を受け、王国では騎士団が万全の態勢で出撃できるよう準備されているし、ギルドの方も、討伐報告が来た現在でも冒険者への待機指令を解かず、情報収集に励んでいるのである。
「スカルフェイスの活動が活発になるのは夜だ。アルディ君には、万が一に備えて警戒体制を1ランクあげるよう、騎士団長に連絡してもらいたい」
2人の会話の切れ目にバルクスが発言する。先ほどのふざけた会話が嘘のようだ。アラッドとキリエ、エルスの態度から察すると、いつものことなのだろう。
「承知しました」
「私からはこんなところだ。他に何か意見のある者はいるか? いないのなら解散とするが」
今回はスカルフェイスについての報告が主となっていたので、これで終わりかとバルクス、キリエ、アラッド、エルスは思った。
しかしアルディが片手を挙げたので、バルクスは1つうなずいて発言を促す。
「今回のスカルフェイスは武装が違ったという情報を得ています。その武装についてと、スカルフェイスを討伐した者の情報を、できるだけ詳しく知らせていただきたい」
「ふむ……武器に関しては隠すつもりはないが、討伐者の情報は本人の意向もあるので明言はできない。それでもいいなら請け負おう。こちらとしては、なぜそれにこだわるのか気になるのだが、理由を聞いてもいいかね?」
「はい。少々話は変わりますが、王城に剣が飛んできた一件は皆様ご存知ですね?」
当然とばかりに全員がうなずき返す。スカルフェイスの騒動がなければ、今頃その噂でもちきりだったはずだ。
「王城に剣が飛んできた日にスカルフェイスが討伐され、しかもそのスカルフェイスは通常の個体とは違う大剣を装備していた。これらを結びつけて考えておられる方がいるのです」
アルディ以外の面々は、その発言で何人かの人物を思い浮かべた。
バルクスが代表して尋ねる。
「どのような剣だったのか、聞いてもいいかね」
「口外しないという条件ならば」
アルディが出した条件に場の全員が同意した。情報の大切さを皆知っているのだ。
「刀身は2メルほどで、材質は魔鉄鋼とミスリルの合金。そのうえ、光属性永続付与魔術がかかっていました。我が国の宝剣と同格か、下手をすればそれ以上の業物です」
「!?」
語られた内容に一同は驚きを隠せない。
ベイルリヒト王国の宝剣と言えば、下位とはいえ伝説級に分類される武器だ。もはや鍛えられる者がほとんどいない国宝級の武器と同格の剣など、そうあるものではない。
戦いの最中だったため、鑑定スキルを使わなかったシンは気づいていなかったが、スカルフェイスの持っていた大剣は希少や特殊よりもランクが高かったのである。最下級の自己再生能力まで備えていたのだ。
「仮に、スカルフェイスが持っていたのは本当にあの大剣だとしましょう。宝剣並みの武器を持つ高レベルのモンスターを倒すほどの実力者について、気にするな、と言う方が無理です。それに少々困ったことにもなっておりまして……」
アルディの語った内容は真実を言い当てていたが、それだけの情報では誰も判断できない。
アンデッドが光属性の武器を持つというのは、この世界ではまずあり得ないと言っていいことなのだ。
「困ったこと?」
後半の発言が何とも煮え切らないことに疑問を持ったバルクスが問いかけた。
「これは、しばらくしたらバルクス殿にも知らせが行くと思いますし、もしかすると大々的に発表されるかもしれません。一応それまでは口外しないで頂きたい」
「ふむ、承知した。他の者は席を外させるかね?」
「許可は出ていますので、先ほどと同じ条件を守ってくださるのなら構いません。皆さんも知ることになる可能性が高いのですから」
バルクス以外の面々は、「発表」という単語に疑問を持ってはいたが、とりあえず続きを促した。
「実は……」
その後、アルディの口から語られた内容に、一同は頭を抱えるのだった。
シンが図書館で調べ物を始めてから数時間。公共施設の宿命か、夕方と言うにはいささか日が高い時間で、図書館は閉館となった。
メニュー画面で確認したところ、時間は午後4時50分と表示されている。地球と時間が正確に一致しているかどうかはわからないが、市役所や郵便局でもあるまいに……とシンは思った。
とりあえず南区――商業区に戻り、露店でも見て回るかと思ったところで腹の虫が鳴く。
夕食には早かったが、たまたま見つけた屋台で焼き鳥がいい感じに焼けているのを目にして、つい買ってしまった。
焼き鳥と言っても日本で売られているようなものではなく、30セメルほどの串に、豪快に鳥肉が刺さった代物だった。
「異世界でも、焼き鳥は安定したうまさだな……でもちょっと買いすぎたか」
苦笑しつつ袋から新しい串を取り出す。
買った焼き鳥は大きな串で4本。夕食前に食べるには、さすがに多いと言わざるを得ない量だ。
食べながら歩くのは落ち着かないので、憩いの場となっている広場の中心にある噴水に近づく。その縁に腰を下ろし、なんとはなしに道行く人に視線を向けながら、肉をほおばった。
スカルフェイス出現の情報が公表されたからか、やはり冒険者の姿が多い。討伐完了の情報も伝わっているはずだが、まだ警戒しているのだろう。
そして、そういった者たち向けの商売をしている露店商も、今日は格段に多い気がした。
と言っても、シンはまだ数日しか過ごしていないので、なんとなくでしかない。
街の喧騒を眺め焼き鳥を咀嚼つつ、図書館で調べた内容を頭の中で整理する。
今のところわかっていることで、特筆すべきものは3つだ。
1つ目は『栄華の落日』について書かれた書物が希少だということ。
図書館には置かれておらず、可能性があるとすれば、閲覧制限のある場所か禁書の類が保管してある場所だろう。どちらも今のシンでは入れないので一旦置いておく。
今後、どちらにしろエルフやドラグニルなどの長命種の集落を訪ねる必要性を感じていたので、今はまだ、どこかに忍び込んでまで禁書を探す気はない。
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