THE NEW GATE

風波しのぎ

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2巻

2-7

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「ワイドヒール」

 静まり返った場に声が響く。
 同時に周囲の騎士たちを明るく、柔らかな光が包んだ。シュニーが放ったのは神術系スキル【ワイドヒール】。【ヒール】の広範囲版である。
 力なく地面に座っていた騎士たちは、全身を包む光が消えるころには傷一つない状態へと回復していた。
 一同が感嘆の声を上げるなか、いち早く我に返ったのは指揮官であるベルグだった。彼は呆けていたことを悟るとこれはいかんと気を引き締め直し、大声で指示を出す。
 ベテランだけあってその指示には無駄がない。周囲の騎士が慌てて行動を開始し、先ほどまでとは違った喧騒が森に響いた。

「助かりました。我々だけでは撤退もやむなしと考えていたところです」

 ベルグは傍らに立つシュニーにあらためて礼を言う。その声はすでにガラガラだ。

「いえ、こうして倒すことができたのは、皆さんが戦ってくれていたおかげです」

 いたわりの言葉がベルグの耳朶じだを打つ。聞くだけで心が洗われるような気がするのは錯覚さっかくではない、とベルグは思った。

「そう言ってもらえると光栄ですな。しかし、シュニー殿のおかげでアンデッドどもを駆逐できているのは事実、ここはシュニー殿の顔を立てさせてくだされ」
「そこまで言われるのでしたら……しかし、まだまだ油断はできませんよ」

 困ったように微笑みながらシュニーは言葉を返す。
 油断ができないというのは気を引き締めさせるための嘘ではない。確たる事実だ。
 事の始まりは1ヶ月前、Bランクになったばかりの冒険者が亡霊平原に近づいたときまでさかのぼる。いざ行かんと靄の中へ入ろうとすると、数メル離れた場所に靄を突き破ってスカルフェイスが現れた。
 亡霊平原の外に出たモンスターは存在していられない――その常識を覆す事態だった。
 ありえない光景に呆然としていた冒険者だったが、そこは数々の修羅場しゅらばを乗り越えてきた身。事態の異常性を理解すると即座にその場を離脱し、全力でもっとも近い街のギルドへ駆け戻った。
 情報を得たギルドは即座に調査隊の派遣を決定する。その後の調査によって、条件は不明だが他の個体よりもはるかに強力なモンスターの一部が、靄を抜けて森へ溢れ出ていることが判明。
 平原は広く、さらにいつどこで出てくるかわからなかったため、モンスターが靄を抜ける瞬間をはっきりと確認するまで数週間を要した。
 何体のモンスターが森へ出たのかがまったくわからず、おまけに行動予測も立てられないため、亡霊平原に近い国々ではすでに被害が出はじめていた。
 以前、シンが初めてギルドに出向いたときに上級冒険者が出払っていたのはそのためである。
 被害を受けた国はもちろんただ手をこまねいていたわけではない。自国の民を守るためできる限りの警備強化、巡回などを行った。
 最大の問題は靄を突破するモンスターの能力が、一般に知られている個体をはるかに凌駕りょうがしていたことだろう。ほとんどの場合、接敵しても味方の戦力が足りず敗走するか、壊滅してしまうというありさまだった。
 これを憂慮ゆうりょした各国の王はかつてより結んでいた同盟の名の下に、それぞれの軍の中でもりすぐりの騎士をかき集めモンスター討伐部隊を結成し、事態の鎮静化ちんせいかに努めた。
 そして同時に、ある人物へと依頼を出したのである。
 依頼先は『よろずや 月の祠』店長代理、シュニー・ライザーだった。
 依頼を受けてもらえる確証はなかったが、純粋に民を守る目的だったためかシュニーは快諾し、こうしてモンスター討伐隊へとせ参じてくれたのである。

「ではモンスターの武器や素材は、契約通りシュニー殿が」
「はい、お預かりします」

 ベルグの言葉にうなずき、シュニーは周囲に散らばったスカルフェイスの装備をアイテムボックスに収納していく。
 これは討伐部隊が複数の国の騎士による合同部隊であるため、貴重な装備や素材の奪い合いが起こらぬようにとの配慮である。討伐が完了した後、一部を除いて平等に分配することになっている。
 けや盗難防止の意味も込めて、アイテムボックスが使用でき、戦力としても最高峰であるシュニーが保管役となるのだ。
 その様子を見ながらベルグは思う。シュニー・ライザーがいてくれなければ、事態はより一層悪い方向へ進んでいただろうと。
 先ほどの戦闘を見てもわかる通り、各国でトップクラスの腕前を持つ騎士が束になっても勝てない敵がいる。もちろん合同部隊であるがゆえに連携がつたないこともその一因ではあるが、それでもモンスターの強さが異常なことに変わりはない。
 何より問題なのは、先ほどのスカルフェイスのように並外れた武具を持っている個体がいることだ。今まで集められた情報によれば、特殊な武具を保持しているのはすべてスカルフェイスであるとのことだが、絶対とは言いきれない。
 ベルグにできるのは、その手の武具が品切れになってくれと祈ることくらいだ。
 現在では少数の武器持ちスカルフェイスをシュニーが個別に撃破し、それ以外を騎士たちが数の有利をかして討伐していた。
 武器持ちに遭遇した場合は即座に伝令を走らせ、シュニーに伝える手筈てはずになっている。今回はそれが何とか間に合った形だ。シュニーにかかれば騎士たちが苦戦するモンスターもことごとく瞬殺である。それも本来エルフが苦手としている近接戦で、だ。

「さすがはハイヒューマンが傍にいることを許した御人おひと

 かつて実在した大陸の覇者はしゃハイヒューマン。彼らと共にあった存在というだけで、この世界の人々は畏敬いけいの念を向ける。
 その覇業はぎょうながきをた今でさえ色あせることなく、人々の記憶に刻まれているのだ。
 騎士たちが奮戦するのも、そんな存在と一緒に戦えるという気持ちが強いからである。誰もが無様な姿は見せまいと振る舞い、結果としてほとんどいさかいらしい諍いもなく、モンスターの討伐は進んでいた。
 これまでに発見が報告されたモンスターは今しがた倒したスカルフェイスで最後だ。あとはギルドから派遣されてきた冒険者と協力して数日間見落としたモンスターがいないか確認し、何もなければ討伐隊は帰還。そして各国やギルドの協力の下、監視網が敷かれることになっている。

「もう何事もなければいいが……」

 ふと長年の経験からいやな予感を覚え、ベルグは独りごちる。そして何気なくシュニーを見ると、スカルフェイスの素材が転がっていた広場で熱心に手紙を読んでいる姿が見えた。

「シュニー殿? どうかなされましたか?」

 ベルグが声をかけると、シュニーは手紙を折って振り返る。その際、偶然手紙に『蒼月そうげつ』という文字が書かれているのが見えたが、何のことかベルグにはわからなかった。

「いえ、なんでもありません。この後、私は捜索を続けますので皆さまとは別行動になります。場所の特定が難しくなりますから、モンスターと遭遇した際は渡しておいたマジックアイテムを打ち上げてください」
「了解しました」

 手早く連絡を済ませたシュニーは急ぎその場を後にした。
 ロングスカートをはいているとは思えない移動速度を維持しながら、シュニーは手紙に書かれていた内容を反芻はんすうする。
 ティエラから送られてきたメッセージカードに記されていたのは、ある人物からの伝言と、彼が亡霊平原へ向かうらしいという情報だった。
 伝言の主はそれほど珍しい名前ではない。探せば似たような名前の人物は何人かいるだろう。しかし、『蒼月』を持っているとなると話は別だ。
 シュニーの知る限り、そんな人物は1人しかいない。

「戻ってきて、くれたのですか……」

 自分がどこか冷静でないと自覚しながら、シュニーはひた走る。目指す先は亡霊平原。
 モンスターの捜索に時間を取られることすらたまらなくじれったいが、仕事を受けた者の責務として手を抜かずに行っていく。
 心だけがはやる。
 ――待ち望んだ人に会えるかもしれない。
 その思いがシュニーの胸をがしていた。


 亡霊平原で狩りを始めて数日後の夜。シン一行は未だ封印の中にいた。

「ちっ、おいシン! ペッカーホロウが来てやがるぞ!」
「しゃあない、一旦下がるか」

 モンスターの接近を感知したシンとヴィルヘルムは、ラシアとユズハを先に後退させてから自分たちも封印の外へ出る。
 封印壁をへだてれば、たとえすぐ近くまで寄っても内部にいるモンスターに察知されないらしい。ペッカーホロウはシンたちを見失ったようで、しばらく付近をうろうろしていたがやがてその場から去っていった。
 近づいていたモンスター、ペッカーホロウはレベル541のアンデッドモンスターだ。
 大量の死体が怨霊おんりょうによって1つに溶け合ったとされる大型モンスターで、カマキリの上半身が地面から生えたような形をしている。
 複眼のような目と鎌のような腕を持っているが、単なる虫の器官と同じではない。複眼とは人の目が大量に集まったものであり、鎌とは人の骨が寄り集まって鎌のような形になっているだけである。体もあちこちから、人の顔やら手やら足やらが突き出していて、とにかく気持ちが悪い。
 このモンスターが出るフィールドやダンジョンに、女性プレイヤーがほとんど寄りつかなかったくらいの見た目なのだ。
 そしてもっとも厄介なのが、【腐死者の咆哮デッドマンズハウル】というスキルを使ってくることだ。
 このスキルは受けるダメージこそ少ないが、混乱、錯乱、呪いカースなどの状態異常を複数同時に与えてくる。その上、状態異常のレベルも最低Ⅴ以上という鬼畜きちくっぷりだ。シンやヴィルヘルムならともかく、ラシアやユズハでは一気に最大クラスの状態異常を食らいかねない。
 さすがにそんな危険はおかせないということで、厄介なモンスターが出たときは封印の外に退避することになっていた。

「行ったか?」

 ヴィルヘルムが尋ねてくる。

「一応もう少し待っとこう。戦闘音を聞きつけて戻ってこられると困る」

 ここ数日の戦闘で、すでに倒したモンスターの数は雑魚を含めれば200を超えている。シンのカウントが間違っていなければ、ラシアはあと1体で念願の【浄化】を覚えられるはずだった。

「ラシアとユズハは大丈夫か?」
「はい、なんと言うかもう慣れました……」
「クゥッ!」

 妙に達観たっかんしたラシアと元気なユズハの返答に苦笑しながら、感知範囲内の気配を探る。
 確認できるのはレベル343のジャック級スカルフェイスが1体、レベル158のグレイオークが2体、レベル177のゲルバイソンが1体、レベル249のエイヌジャッカルが4匹。
 ゲルバイソンは、バイソンの骨格標本の周りにスライムのような透明なゲル状物質がくっついているモンスターだ。ゲルは人が近づくとむちのようになって攻撃してくる。そして動けなくした相手を溶かしながら捕食する。
 エイヌジャッカルは腐肉食らいのモンスターだ。そのせいで自分もアンデッドの仲間入りをしたという設定である。見た目は紫色のジャッカルで体躯は2メルほど。低級ではあるが相手を麻痺させる魔眼まで持っている。
 どちらもゲームに慣れてきた初級プレイヤーが難儀する相手だった。
 問題のペッカーホロウはすでに感知範囲内にはいない。封印の外に出てからそれなりに時間が経っているので、大丈夫だろうと当たりをつけた。
 各モンスターとの距離はスカルフェイスだけがかなり近くにいて、他のモンスターは感知範囲ぎりぎりだった。

「近くにスカルフェイスがいるが……レベルがおかしいな」
「どういうことだ?」
「どうしたんですか?」

 シンの言葉にヴィルヘルムとラシアが疑問を投げかける。

「レベルが343だ。前にキング級の強さをしたスカルフェイスの話をしただろ? あれと同じような奴だと思う」
「ここは少しばかりイレギュラーな場所だが、そんなのが出るって話は聞いたことがねぇな。つってもここ1月ばかし王国から離れてたからな。知らなくてもおかしくはねぇか」
「……そういえばラグナルさんが、ベイルーンのほうで強力なアンデッドモンスターが村を襲う事件が多発してるって言ってたような」

 ラシアがそれらしき情報を記憶のすみから引っ張り出す。ベイルーンとは、亡霊平原をはさんでベイルリヒト王国のちょうど反対側に位置している国らしい。

「強力なアンデッドか……やっぱり何か関係してそうだな。あとラグナルさんって誰?」
「お前を連れてったバーのマスターだ。1度会ってるだろ?」
「ああ、あの人か」

 ヴィルヘルム相手に終始無言を貫いた男のことを思い出す。あのとき、ヴィルヘルムは確かに冒険者仲間だと言っていた。

「まあその話は置いておくとしてだ。どうする? 俺としてはこのまま放っとくのはマズイ気がするんだが」

 シンがそう言ってヴィルヘルムを見やる。

「強さはどんなもんなんだ?」
「個人的な意見になるが能力はレベル相当ってとこ。注意しなきゃならないのは、スカルフェイスとは思えない体捌からださばきだ。前に戦った奴はかなりトリッキーな動きをしてたからな」
「俺らだけでやるか。わざわざラシアにあぶねぇ橋を渡らせる必要もねぇだろ」
「そうだな」

 うなずき合うシンとヴィルヘルムだが、レベルの上がったラシアはやる気満々になっていた。

「いえ、私も行きます!」

 思わず顔を見合わせてしまう2人。

「どうする? ラシアがそう言うなら、俺は特に問題ないぜ。渡したアイテムがあるから、何かあっても大丈夫だと思うし」
「そうだな。おいラシア、本当にやれんのか?」
「うん、守ってもらうばかりじゃ胸を張って帰れないもの!!」

 ここ数日間の戦闘の成果か、すでにゾンビどころかレベル200超えのモンスターを見ても動じなくなったラシアが気合の入った声を上げる。
 封印の外にいる低レベルの――それでも80は超えている――モンスター相手でもひるむことなく戦闘を行えるようになっていた。
 これもシンとヴィルヘルムによるスパルタ教育の賜物たまものである。年頃の女性としてはいかがなものかと思わなくもないが。

「なら、やるか」
「あまり前に出すぎんじゃねぇぞ」
「やってみせる!」

 ラシアの返事を合図に、くだんのスカルフェイスに向かう3人。速度差からラシアが遅れがちになるが、とどめを刺すだけでよいので、ユズハに任せてシンたちが先行する。
 今回のスカルフェイスは特におかしな装備をしていない。だが剣と盾の構え方はシンが以前戦ったユニークモンスターと同じだった。

「こいつ、やっぱり前に戦った奴と同じタイプか。構えがそっくりだ」
「どっちにしろやるこたぁ同じだ。おらぁっ!!」

 リーチの長いヴィルヘルムが先制攻撃を仕掛ける。
 スカルフェイスはコアめがけて繰り出された一撃を左手のラウンドシールドで受けた。盾ごと穿うがたんとする一閃によって、ラウンドシールドの曲面に『ヴェノム』が食い込むが、貫くより先に盾を持った腕が振られ『ヴェノム』の軌道がそれる。
 すかさず剣による一撃を繰り出すスカルフェイス。
 風斬り音とともに振り下ろされた剣を、ヴィルヘルムが素早く引き戻した『ヴェノム』で受けた。舞い散る火花にひるみもしない。
 ガキリッと金属同士のかみ合う音が夜の平原に響く。力だけでなく体重やひねりなども加えられた一撃は、ヴィルヘルムを地面にいつけるだけの威力があった。
 スカルフェイスは盾でヴィルヘルムを殴り飛ばそうとするが背後に控えていたシンによる斬撃を察知し、とっさに後ろに飛び跳ねながら盾を眼前に掲げる。
 だが着地と同時にキンッという音がして、盾とそれを持っていた左腕が真っ二つになった。
 あと一瞬反応が遅ければ、左足まで斬られていただろう。通常のスカルフェイスからは考えられないことに、片腕を犠牲にして被害を最小限にとどめたのである。

「なるほど、確かにそこらの骨野郎とはずいぶん動きが違うじゃねぇか」

 ヴィルヘルムが犬歯けんしき出しにして笑う。
 どうやらスカルフェイスの技量を前にして、ヴィルヘルムの闘争心に火がついたようだ。

「目的忘れんなよ?」
「わぁってら。少しは楽しませろ」
「大丈夫だとは思うがマズイと思ったら割って入るぞ」
「それでかまわねぇ。こいつみたいなのがまだいるなら練習台にさせてもらうぜ」

 スカルフェイスの場合、コアさえ残っていれば手が切れていようが足が折れていようが、とどめを刺すことができる。よって、他のモンスター相手のように生かさず殺さずの微妙な手加減が必要なかった。
 不敵に笑ったヴィルヘルムは重心を落とし、身体は半身。穂先をわずかに下げ、斜めに『ヴェノム』を構える。
 右手はつかの端を持ち、左手は添えるように伸ばしている。その様は、今まさに放たれんとしている弓のようだった。ヴィルヘルムの闘気の高まりに合わせ、引き絞られた弓のきしむ音が聞こえてきそうだ。
 それに応じてスカルフェイスも軽く右足を引き、剣を持った右手を頭の真横に掲げる。剣は真っ直ぐ天に向けられ、ゆらゆらと周囲で揺れていたオーラがスカルフェイスの体に集束していく。
 まるで騎士のような構えの敵を前に、ヴィルヘルムはより一層闘気を高める。
 空気がこおったかのように、両者は微動だにしない。だがそれは、火薬に火がつき爆発するまでの刹那の静けさだ。

「ヴィル!」
「っ!!」

 追いついたラシアの一声が凍りついた空気を揺さぶる。
 それをきっかけにして2つの影が走った。
 闇を切り裂いて走る深紅の一閃を、スカルフェイスの放つ断頭の一撃が迎撃する。
 武器の交差は一瞬。
 次の瞬間には頭と胴体を残して地に落ちるスカルフェイスと、『ヴェノム』を突き出したまま静止しているヴィルヘルムの姿があった。
 スカルフェイスは人でいうなら瀕死の状態。『ヴェノム』の一撃によって手足は吹き飛び、その余波よはでコアには無数のひび割れが生じていた。ほとんど砕ける寸前である。

「ラシア、突っ立ってねぇでとっとととどめを刺しちまえ」
「出番なんてなかった……さっきの私の決意はなんだったのよ!?」

 自分が蚊帳かやの外となった結果にラシアはおかんむりだ。あれだけ必死に決意したことが無駄になってしまったのだから。

「仕方ねぇだろ。お前が入り込む余地なんかなかっただろうが」
「うぅ、神よ。これが試練なのですか……」

 たそがれているラシアだったが、「それはそれ、これはこれ」とコアに向かって【ヒール】をかける。【ヒール】の光を受けるとコアを覆っていたわずかなオーラが消え、スカルフェイスが完全に消滅する――と同時にラシアの体を金色の光が包んだ。

「な、なにこれ!?」
「ラシア!?」

 突然の出来事に混乱するラシア。
 ヴィルヘルムも何が起こっているのかわからず、迂闊うかつに動けない。

「心配ない! これは条件を満たして新しいスキルを覚えるときのエフェクトだ!」

 2人を落ち着かせるためにシンは声を張り上げた。
 どうやらシンの計算は間違っていなかったらしく、先ほどのスカルフェイスでちょうど200体目だったようだ。
 エフェクトはシンが声を上げた後すぐに消えた。当のラシアは呆けたように視線を宙にさまよわせている。

「おいラシア! 大丈夫なのか?」
「ふえっ? あ、うん。大丈夫」

 ヴィルヘルムが肩を叩きながら声をかけると、なんとも気の抜けた声が返ってきた。

「んな呆けた面をしやがって、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫、大丈夫。いきなり頭の中にスキルの使い方とかが流れてきて、びっくりしただけだから」
「『秘伝書』のときと何か違ったのか?」
「えと、ですね。『秘伝書』は何と言うかスッと入ってくる感じなんですけど、今回のはドッと入ってきた感じです。説明が下手でわかりにくいと思いますけど」

 どうやらスキルの身に付き方にもいろいろあるらしい。本人に害はないようなので心配はいらなそうだが、シンにはどうにもその感覚がよくわからない。
 頭に情報が直接流れ込んでくるなど、そもそも経験すること自体ありえないのだ。

「ま、何はともあれ【浄化】の取得に成功したわけだ。おめでとう」
「そうだな、よくやった」
「クゥッ!」

 シン、ヴィルヘルム、ユズハがそれぞれ祝福する。

「ありがとうございます。これで孤児院も何とかなります」
【浄化】を取得したことで孤児院の危機を脱することができる――それを実感したラシアは、目尻に涙を浮かべながら礼を述べた。

「さて、じゃあ拠点に帰るとしようぜ。朝まで眠ってさっさとベイルリヒト王国に帰ろう」
「そうだな。ここに長居する理由もねぇ」
「はい、行きましょう」

 それぞれが笑顔で封印の外へ向かう。3人と1匹の周囲に敵影はない。
 依頼はこれで終わり、あとは王国へ戻るだけ――全員がそう思っていた。
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