THE NEW GATE

風波しのぎ

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3巻

3-12

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 なにせ今シンが手にしているのは、言うなればジラートの死に装束。最大限の敬意を持って作業に当たっているのだから、周りに気を使う余裕はない。
 見学を許したのも、邪魔をすることはないという理由のほかに、気にする余裕はないだろうという予感があったからだ。
 全神経を集中させて、最高の状態まで装備を復元する。それがシンのやるべきこと。
 時間にしておよそ30分。
 7色の光が消えると、そこにはどこか触れるのをためらわせる道着タイプの防具が存在していた。もはやボロボロだった以前の姿など想像もつかない。

「ふう、完了だ」

 わずかに浮いていた汗をぬぐって、シンは防具をカードに戻す。
 ゲームなら数分で終わる作業も、実際にやるとなかなかに時間がかかることを実感していた。できるというのは直感でわかるのだが、魔力操作がまだ完全ではないのでどうしても通常より時間がかかってしまうのだ。
 それでも、同じように魔力を使って魔術スキルを行使するときより、格段に精度が上がっているあたり、さすがは鍛冶を極めた者といえるだろう。
 道着のような柔軟性のある古代エンシェント級の装備を修復するには、今回の方法が最も効率が良いのだ。他の方法は、どうしても効率やその他の面で一歩劣る。

「ねぇシン。さっきのは、鍛冶って言えるの? 私には魔術スキルにしか見えなかったんだけど」
「ああ、確かに一見そうだな。でも、あれは鍛冶スキルを網羅もうらしていないと金属の形を変えるどころか、一瞬で屑鉄くずてつ以下の品質になってしまうんだ」

 シンもかつてその条件を知らず、オリハルコンやミスリルを屑鉄に変えた経験がある。
 苦労してそろえたレアな金属が、目の前でボロボロになったときは、さしものシンも心が折れかけた。

「……何よそれ」
「なんでも魔力が変質するらしい」

 スキルの説明欄にそんなことが書いてあったはずと、シンは今しがた使用したスキルの説明欄を呼び出して確認する。
 魔力操作を誤ると魔力が変質し、金属としては最低の品質になる、と書かれていた。

「ちなみに熟練度が足りないと、修復のときでも同じ現象が起こる」
「まさか、実体験?」
「……オリハルコンで作った鎧を修復してるときにミスって、屑鉄の鎧にしたことがある」

 その話を聞いたティエラは、複雑な気分になっていた。

「鍛冶師って意外とリスクの大きな職業なのね」

 オリハルコンが屑鉄になったときの損害額を計算してしまうティエラ。
 月の祠で商品を扱っていたので、ある程度市場価格というものを知っていたのだが、鎧を作るほどの量のオリハルコンなど、集めるだけでいくらかかるか想像もできない。
 それが一瞬で無価値になるような作業があるなど、ティエラには考えたくもなかった。

「普通はミスってもインゴットに戻すとか、他のアイテムに再利用できるんだけどな。このやり方ばっかりは、再利用どころか完全にゴミになるから困る」

 通常の鍛冶で失敗したなら、再利用の方法はいくつかある。
 もちろん元になったアイテムがそのまま戻ってくるようなことはないが、それでもないよりはましだ。だが、シンの方法はどうやっても再利用はできない。
 ゲームではNPCに売っても、買い取り価格は0だった。
 熟練度を上げるために、一体どれだけの希少金属をゴミに変換したことか。ゲームでなければとてもできることではなかった。

「失われた理由は、職人の技量だけではなかったのですな。オリハルコンを練習に使うなど、今の鍛冶師には狂気の沙汰さたでしょう」
「だよな。今オリハルコンってどのくらいの値がするんだ?」
「ファルニッドでしたら、拳大のインゴットで白金貨が動くかと。加工できる者は数えるほどしかおりませぬが、皆目の色を変えて競り落とそうするのは明白。実際どのくらいの値になるかはわかりかねますな」
「やっぱり、すごいな」

 シンが本気で剣を1本作ったらいくらになることか。アイテムボックス内にある各種希少金属は、他の鍛冶師には見せられなそうだ。

「金属類を売るのはやめとこう。さて、話はこのくらいにして次に移るか」

 シンが次に取り出したのは、ジラートの専用武器【崩月】だ。こちらは防具よりもさらに高位の武具なので、手甲の表面が少し削れているくらいだ。耐久値も9割以上残っている。
 万全を期すためにこちらも修復する。今度は【崩月】を台の上に載せ、さらにその上に少量のインゴットを載せる。

「なに、あれ……」
「もしや、あれは……」

 インゴットを見たティエラとヴァンが、かすれた声を漏らす。
 そのインゴットはシュニーを除き、この場にいた誰も見たことがないものだった。
 鈍く輝く金属は、色としては黒。しかし、その表面にはメインとなる色とは別の、大小様々な煌きが見て取れた。
 それは満天の星が輝く夜空のようであり、数々の銀河を内包した宇宙のようでもあった。
 魔力に敏感なティエラは、その金属が途方もない魔力を内包していることを理解し、驚愕する。
 魔力を帯びた金属は何度も目にしていたが、目の前の金属はそれらのはるか上をいく。このままでも魔術の触媒しょくばいにできそうだ。
 金属に詳しいヴァンは、その正体が頭をよぎった。
 オリハルコン、アダマンティン、ミスリル、ヒヒイロカネ、そのどれとも違う、だがそのどれよりも格上と感じられる金属。そんなものは1つしか思い当たらなかった。
 それが鍛冶師の間では幻と呼ばれ、その実物を見た者はいないとすらいわれるものだったとしてもだ。

「ふっ!!」

 驚いている2人をよそに、シンはいつの間にか取り出していたつちを、インゴットの上から【崩月】に打ちつけた。
 キンッという甲高かんだかい音と、それに追従して起こった現象にティエラたちはまたしても目を奪われる。
 シンが鎚を打ちつけると、インゴットが溶けるように消えていく。そして、下に置かれていた【崩月】の傷が消え、完成したばかりとでもいうような輝きを放ち始めたのだ。
 数回鎚を振り下ろしたところで完全にインゴットは溶け、新品同然の【崩月】が台の上でその存在を主張していた。

「よし、こっちも完了だ。我ながら完璧な出来だな」

 完璧な状態になった【崩月】を眺めながら、シンはうんうんと頷く。これならば、使い手のどんな要求にでも応えてくれるという確信があった。
 いつまでも眺めていても仕方ないので、カード化してアイテムボックスにしまう。
 お待たせと言って振り返ったシンが見たのは、なんとも表現に困る顔で固まったティエラとヴァンだった。
 シュニーは特に変化はなく、ユズハとカゲロウはとりあえず興奮しているようだ。くーくー、グルグルと何やら会話している。


「シン殿。1つ、1つだけお聞きしてもよろしいか」

 固まっていた2人のうち、先に動き出したのはヴァンだった。ずいっと顔を寄せ、有無を言わせぬ勢いで迫ってくる。
 象型のビーストだけあって、その迫力はかなりのものだ。シンは少し引いた。

「話は聞くからとりあえず落ち着いてくれ。つか近い近い!」
「む、申し訳ない。しかし、先ほどシン殿が取り出した金属、あれは、まさかキメラダイト、それも最上級のものでは?」
「ん? ああ、確かにそうだ。でも、よく知ってたな。キメラダイトでも種類があるから、ぱっと見てわかる奴ってあまりいないんだぜ?」
「種類がわかったわけではありませぬ。鍛冶師に伝わる伝説のようなものなのです。星の輝きを宿した闇色の金属。キメラダイト。それを使って作成した武器は、上位の竜種すら簡単にほふると伝わっております。人によっては、ただの空想上の産物だという者もいるくらいで」
「なるほどな。確かにこれが作れるやつってかなり限られてたからな。市場にはまず流通しなかったし」

 ゲーム時代ですら、上級の鍛冶師の知り合いでもいなければ、まずお目にかかれない品だった。
 インゴットでさえそうなのだ。
 かつて、キメラダイトで出来た武器を引退するプレイヤーが気まぐれで市場に流したことがあったが、それはもう凄まじい争奪戦が巻き起こった。
 上級プレイヤーですらフル装備をそろえるのは至難のわざ。1つでも持っていれば、有名人になれるほどだった。
 もちろん、六天メンバーの金属系の武器防具は、すべてキメラダイトという反則仕様だったのは言うまでもない。

「ところでシン。さっきとはやり方が違ったけど、何か意味があるの?」

 シンがヴァンを落ち着かせたところで、ティエラが疑問を口にした。
 防具を直した方法なら、わざわざ鎚を使わずとも直すことはできるはずだった。

「それは【崩月】が武器で、そのランクが最高だから、だな。さっきの防具も【崩月】も、等級としては古代エンシェント級だ。でも、その中でさらに格付けがある。防具の方はランクとしては古代エンシェント級の中位。金属を魔力と一緒に編み込んだ糸を使ってたから、あの方法が早くて効率的だった。対して【崩月】は古代エンシェント級の上位。ここまで来ると、俺が魔力を出しながら直接打ち込む必要がある。防具と同じ方法でも直せなくはないが、こっちの方が効率がいいし、何より失敗する可能性がない」

 同じ等級でも格差があることは知っていたティエラ。しかし、まさか最上級、世界の断片とすら言われる古代エンシェント級にまで、その格付けが適用されるとは思っていなかった。
 シンの説明によれば、格付けや武具の性質によって、最も適したメンテナンス方法があるらしい。
 他の方法でもできなくはないが、その場合、例の変質が起こる可能性が跳ね上がるようだ。
 もちろん適した方法で行い、技量さえしっかりしていれば、失敗する危険はほぼないという。

「鍛冶は専門外だけど、認識を改めなきゃいけないわね。あんなに精密な魔力操作なんて、魔導士でもなきゃできないわよ」
「なんだかんだで、魔力操作ってのはどこでも必要になるってことだな。生産職なら、上級に近づくほど魔力操作の腕が必要になるし」
「錬金術でもそうだったけど、極めるのってやっぱり大変ね。少しは腕に覚えがあったんだけど、これじゃ一人前だなんてとても名乗れないわ」

 錬金術師としては一人前と言って差し支えないくらいの腕を持っていたティエラだったが、それがあくまで時代から見た一人前でしかないと気づいて少しへこむ。
 シンのいた時代では半人前にすら至っていないのではないかと、思わずにはいられない。
 ただ、分野もやっていることもまるで違うが、頂点を極めた者の仕事ぶりを見て、ティエラには感じるものがあった。

「ゆっくりやっていけばいいって。そんなに簡単に腕が上がるわけでもなし」

 ティエラの肩を軽く叩いて、シンは鍛冶場の入り口へ向かう。やることは終わったので、一同もリビングへ向かうことにした。
 すると、店の入り口の開く音が聞こえた。タイミングからするとラジムだろう。

「シン殿。こちらが資料館の制限エリアの閲覧許可証になります。お収めくだされ」
「ありがとう。助かる」

 予想通り、店に入ってきたラジムから許可証を受け取る。
 もう用もないので、全員が外に出てから月の祠を収納し、シュニーの案内で資料館へ向かうことになった。
 ヴァンとラジムは屋敷の方へ戻っていった。


 屋敷の裏口からエリデンの市街地へ出ると、ティエラが歩く人の多様さに驚いていた。
 ベイルリヒトでも人は多かったが、それはあくまでヒューマンが多かったにすぎない。ビーストやピクシーなどの人と違った特徴を持った種族は多くなかった。
 だが、ここはビーストの国。様々な動物的特徴を持ったビーストが、所狭しと歩いている。
 ほぼ動物の姿で服を着て2足歩行しているタイプや、人の体に尻尾や耳がついたタイプなど、統一性がない。同じ大勢であっても、ビーストの方が見たときの驚きは大きいのだ。

「ビーストは見慣れていると思ってたけど、数が多いだけでこんなに印象が違うのね」
「一番外見がバラバラな種族だからな」

 ゲーム時代、人によっては体は人型のまま、顔だけ動物にしている者もいた。組み合わせの自由度が高くていい、とは、知り合いだったビーストの言葉だ。

「ビースト以外の方でも、ビーストの気分が味わえるアイテムもありましたからね」

 シュニーが言っているのは、付け外し可能な獣耳や尻尾などのアイテムのことだ。所謂コスプレアイテムである。
 意外と女性プレイヤーに人気があった。男性プレイヤーが女性プレイヤーにつけて欲しいと懇願するアイテムでもあったが。

「そういえば、私もいくつか持っていますね」
「もしやあれか!」

 シュニーは腰のポーチから出したように見せかけて、アイテムボックスからカードを取り出す。それは以前シンがシュニーに渡したコスプレアイテムセットだ。
 アイテムを実体化すると、シュニーの髪に合わせて調整された、銀色の犬耳とふさふさの尻尾が、その手に握られていた。
 かつてシンたち六天メンバーの一部が、暴走気味に作成したアイテムで、とにかく質を求めたが故の高品質と、各種オプション。ただのコスプレアイテムとは言えない代物だったりする。

「すごいですね。本物そっくりじゃないですか」
「シンとレード様、カシミア様、ヘカテー様の合作がっさくです。本物に近づけるとかで、つけると自動で他種族の特徴を隠す機能が付いているんですよ…………どうですか?」

 そう言ってコスプレセットを装備するシュニー。
 たちまちエルフ特有の長い耳が消え、頭上には犬耳が、尾てい骨のあるあたりから尻尾が出現した。ハイエルフの美女が、ハイビーストの美女に早変わりである。
 ちなみに、現在シュニーが着ているのは、下はホットパンツとブーツ、上は薄青色のシャツに丈の長いジャケットだ。
 月の祠の制服はとにかく目立つので、今日は動きやすい冒険者風の服装にしたのである。
 膝近くまであるジャケットの上からベルトを巻いて、そこにポーチをつけている。
 ゲーム時代の装備の1つで、ジャケットは腹のあたりから左右に分かれており、足の動きを阻害そがいしない。シュニーは腹の前とその1つ上のボタンだけを留め、他は開けたままにしていた。
 その理由は2つ。1つはすべて閉めるほど寒くないから。もう1つは胸囲の関係で完全には閉まらないからだ。
 ゲームの仕様では、鎧だろうがドレスだろうが、装備する者の体格に自動で調整されるようになっているが、あえてその機能をつけないこともできた。
 シュニーの服は、六天の女性メンバーの1人であるヘカテー監修のもと作成した装備で、性能がいいだけではない。ヘカテーいわく、美女・美少女にエロい、もしくは可愛い衣装を着せたいのは、男だけではない、とのこと。
 色香に重点を置いた服は、シュニーのように男のロマンを体現したようなスタイルに合わせると、その効果のレベルがさらに一段階上がるのだ。
 ベルトで締められた細い腰との対比で、ジャケットの中でシャツを押し上げている胸のふくらみが、余計に強調される。
 そんな状態のシュニーが、照れたように仄かに頬を染め、感想を求めていた。

「……すごく、似合ってる」

 人形のような反応しかしなかったゲーム時代ならともかく、今のシュニーに「どうですか?」と聞かれては、似合っている以外に何を言えばいいのか、シンには思いつかない。
 あまり見慣れていない活動的な服装も、犬耳とよく合っていた。
 シュニーはシュニーでその言葉を聞いた瞬間、顔のほてりが増していた。自分の言動が唐突だったと、今になって気づいたようだ。

「……エ、エルフは目立ちますし、ビーストに扮していた方が周囲に溶け込めます。外にいるときはこっちの方がいいですさあ資料館へ行きましょう案内します」

 多少つっかえながら早口で言うと、シュニーは足早に移動を始める。後半など息継ぎなしだった。
 もし見えていれば、エルフ特有の長い耳が真っ赤になっていただろう。
 シュニーの頭上で揺れる犬耳も、心なしか赤くなっているように見えた。

「あんな師匠、初めて見たわ」
「実は俺もだ」

 シュニーを追いかけながら、ティエラの言葉に同意する。
 そんな2人も、目立たない方がいいのは当然だと、アイテムを取り出し、外見をビーストへと変化させる。
 ティエラにはシンが持っていたものを貸した。こちらは猫耳だ。
 シンはシュニーの背を追いながら、まさか自分に見て欲しかったから変化したのではないのか、という想像をしてしまう。
 さすがにそれは自意識過剰だろ、と自分に突っ込みを入れるが、もし当たっていたら……などと思ってしまうあたり、いろいろと手遅れだった。
 かつてのシュニーはどこぞの秘書のような、冷静沈着なできる女。ゲーム時代はそれこそ事務的なやり取りがほとんどだったので、今回のような一面は見ることがなかった。
 いろいろと認識を改める必要がありそうだった。

(悪くないって思ってるあたり、俺も大概たいがいだな)

 シュニーへの好感度が上がっていることを自覚しながら、シンは彼女を追いかけて歩調を速めた。


         †


 シュニーの知られざる一面を見てから数時間。シンは1人、エリデンの資料館にいた。
 シュニーの案内で資料館に着くと許可証を見せて閲覧制限エリアに入り、『栄華の落日』やその後起こったことについて調べていたのだ。
 ベイルリヒトと違い、一般公開されていない資料だけあって内容も質が違う。
 シンの知りたかった情報もいくつか載っていた。

「『栄華の落日』後に起きた天変地異……やっぱり地域によって被害に差があるな。ラストダンジョンからの距離が関係してる、ってわけじゃないのか……地脈?」

 小さく声に出しながら得た情報を頭の中で整理していく。
 資料によると、天変地異には地脈というものが関わっているらしかった。
 漫画や小説でよく聞く、大地を走る気の巡りのようなものだろうか。
 資料を纏めた者の推測ではあったが、大陸が割れた個所はその多くが地脈の流れの大きい場所だったらしい。
 シンがデスゲームの最後に向かったダンジョン――【異界の門】があった場所は、その収束点の1つだったことも資料から読み取れた。

「そういえばユズハは、地脈に干渉して被害を抑えたんだよな」

 契約していると言っても、さすがにモンスターの入館は許可されなかったので、今、シンの頭上にユズハの姿はない。受付のお姉さんの監視の下、入り口で待機中だ。
 そんなユズハから以前聞いたことを、思い出していた。

「地脈も俺がこっちに来たことと関係してるのか? でもゲームのときは、そんなに重要なものじゃなかったしな」

 地脈に関わるイベントがなかったわけではないが、期間限定イベントが多く、細かい設定まで覚えてはいない。わかるのはせいぜい、太い地脈が走っているところは、モンスターが湧きやすくなるということくらいだ。
 これにしても、この世界では確固とした確証がない。
 ただ――。

(資料の通り、地脈が集まる場所パワースポットにあるダンジョンが関係してるなら、同じような場所を見つければ、元の世界に帰れる……か?)

 わかりやすい仮説の1つでしかないが、シンプルな分、説得力もある。
 このくらい単純だと助かる。そんなことを考えながら、シンは次の資料を手に取った。


《シン~……シン~?》
「ん?」

 さらに1時間後。

 シンが資料を読むことに集中していると、ユズハから心話が届いていることに気づく。

《どうした?》
《おなかすいた……ごはんまだ~?》

 ユズハのご飯発言に時間を確認すると、すでに12時を過ぎていた。熱中するあまり、時間が経つのを忘れていたようだ。

《悪い、すぐ行く。シュニー、聞こえるか?》
《はい、どうかしましたか?》
《そろそろ昼食にしよう。ユズハが腹減ったってさ》
《わかりました。入り口に向かいます》

 心話でシュニーを呼び出し、シンは一足早く制限エリアを出た。
 一般エリアで調べ物をしていたティエラを捕まえ、待たせているユズハとカゲロウのもとへ向かう。
 全員が合流すると、ユズハを預かってくれた受付嬢に礼を言って、シンは資料館を後にした。

「そっちは何かわかったか?」
「いえ、めぼしいものはあまり。やはり、ダンジョンが消滅しているのが悔やまれます。直接調査できれば、少しは手掛かりが掴めたと思うのですが……」
「まあ、消えちまったものはしょうがない。シュニーのおかげでわかったこともあるし、地道に行こうや」

 気にしていないふうを装って、シンは肩を落とすシュニーをねぎらった。
 自分が消えた後の情報などは、シュニーがいなければ知ることもできなかったのだ。
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