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5巻
5-11
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直撃は回避した。にもかかわらず、その余波だけで青年は落馬していた。
勢いよく地面に叩きつけられ、衝撃で一瞬意識が飛びかける。だが、気絶すればそこで命はなくなると、必死に意識をつないだ。
「くぁ……」
明滅する視界に入ってきたのは、自分と同じように落馬した仲間の姿。立ち上がろうと体に力を込めると、左足が動かないことに気づく。
「しまった……」
共に吹き飛ばされ倒れた愛馬と、地面に挟まれた自分の足が見える。足をねじるが、なかなか抜けてくれない。
そんな青年の上に影が落ちる。
「ぁ……」
見上げた視線の先には、変異種がいた。
赤く濁った眼には、理性は感じられない。ただ、その身から放たれる殺気だけは本物だ。
隆起する筋肉、振り上げられる斧。足を抜くのは間に合わない。
「――――ッ!」
あと数秒で死ぬ。
それがわかってもなお青年は腰の剣を抜き、震えながらも変異種に向けて構えた。
もとより死兵。悲鳴など上げてたまるかと、込み上げる恐怖を呑み込んで変異種を睨みつける。
変異種の動きはゆっくりとしていた。
実際は変異種の動きに変化はない。死に直面し、それをどうにか回避しようと青年の体感時間が加速しているのだ。
だが、どれだけ体感時間を早めようと、できることはもうない。ゆっくりと迫る斧を、ただ見つめるしかなかった。
数瞬の後、自分と愛馬は変異種の斧で両断される。
青年は、そう思っていた。
そして、そうなる。
――はずだった。
「おわっ!!」
それはあまりにも突然だった。
変異種と青年。その間に何かが降ってきた。
否、落ちてきた。
落下の衝撃で、地面が揺れる。
呆然とする青年の視線の先、土煙が晴れたそこには、全身鎧に身を包み、歪な形をした大鎌を担いだ人物が立っていた。
自分たちの知るものとは、デザインの違う全身鎧。日の光を受けて輝くその色は、赤1色。
深く濃いカーディナル、鮮やかなスカーレット、明るいコーラル。様々な赤を使って彩られた鎧は、その輝きと相まってまるで燃え盛る炎が人の形をとったようにも見える。
各所に施された装飾は、それだけで職人の腕の良さがわかる代物だ。見れば見るほど、格の違いを感じさせてくる。
その肩にのる大鎌の柄はねじれ、刃には均一性のない凹凸が見て取れた。
柄と刃の合わさる部分には、まるで瞳のような模様が描かれ、戦場よりも怪しげな儀式にでも使われそうな雰囲気だ。
だというのに、鎧とともに視界に収めると、妙にしっくりくる。
「……」
その人物に目を奪われ、青年は声が出なかった。登場の仕方もそうだが、全身から放たれる圧倒的武威を前に、体が言うことを聞かないのだ。
背を向けているにもかかわらず、青年は変異種から受けた威圧感が色あせるほどの圧力を感じていた。
正面から相対している変異種の方を見れば、斧を振り上げたまま動きを止めている。
見開かれた目、濁っていながらもそこにあるのは明確な恐怖の色だった。
(あれほどのモンスターが、気圧されている!!)
それは、いったいどれほどの力があればできることなのか。
自陣の選定者の中に、目の前にいるような鎧の人物はいなかった。
ただ、死に瀕し、極限まで研ぎ澄まされていた青年の直感は、彼にあることを悟らせていた。
目の前の人物がシュニー・ライザーにも匹敵する力を持っていること。そして、それが味方であることを。
「大丈夫か?」
「……えっ?」
呆けていたつもりはないが、青年はその言葉が自分に向けて発せられたものだということを一瞬理解できなかった。声からして、鎧の中にいるのは男性のようだ。
視線の先では、先ほどまで背を向けていたはずの人物が、気絶して動かない愛馬をずらして青年の足を抜いてくれていた。
「た、助かります。って、う、後ろ!」
慌てて立ち上がるも、顔を上げれば、変異種はまだ斧を振り上げたままだった。
自分を助けている場合じゃないだろうと、後ろを指差しながら青年を声を上げた。焦っていたせいか口調も素が出ている。
「ん? ああ、そうだな」
何気ない返答。
しかし次の瞬間、目の前にいたはずの鎧の男がかき消え、ほぼ同時に青年の鼓膜を音の暴力が襲った。
あえて言葉にするならドンッだろうか。あまりの音の大きさに、青年は体を硬直させる。
目をつぶらなかったのは僥倖だった。おかげで、音の原因を見逃さなくてすんだ。
「……」
先ほどとは違った意味で、声が出ない。
視線の先、ついさっきまで変異種がいた場所には、拳を振り抜いた状態の鎧の男がいた。
変異種の姿はない。もちろん、どこかへ行ったわけでもない。
振り抜いた拳の前方には、変異種が振り上げていた斧と、肘から先だけを残した腕が落下していた。
「は、はは……」
青年は目の前の光景が現実かわからなくなった。
一撃。
それも武器を使わず、腕力だけで。
まともに攻撃を受けた変異種の胴体は粉微塵に弾け飛び、飛び散った血を浴びた一部のモンスターが悲鳴を上げている。
それだけの威力を出してなお、鎧の男が突き出した腕を覆う籠手には傷ひとつついていなかった。
もはや、笑うしかない。
「あなたは、いったい……」
「私か? そうだな……では鎧の色から、レッドとでも呼んでくれ」
変異種を倒して戻ってきた男――レッドは返り血ひとつ浴びることなく、明らかに偽名だとわかる名前を口にした。
「まあ、私の名前はどうでもいいだろう。それよりもここは私に任せ、君たちは本隊と合流しろ」
「あ、ああ、助力に感謝する。しかし、私たちも騎士の端くれ、ともに戦うことも――」
「いや、それには及ばん。むしろ近くにいられては困る」
「困る、とは?」
「周囲に誰かいると、私は能力を十全に発揮できん。できれば城壁の近く、魔術を使った集団あたりまで全軍を下げろ」
「いや、しかしそれは……」
「悪いがこれは提案ではないのだ。それに、下手に近づけば君たちごと殺してしまうぞ? これはそういう武器だ」
わかるだろう? そう言うようにレッドは肩にのせた大鎌を持ち上げてみせる。
間近で見ると、その大きさがよくわかった。柄だけで3メル以上、刃も2メル以上ある。刃自体も幅が広く、中心をジグザグに線のようなものが走っている。
青年にはそれが『口』のようだと感じられた。今この瞬間にもその『口』が開き、自分を噛み砕こうとしてきそうな予感すらある。
青年は、なぜレッドが全軍を下がらせろなどといったのか理解した。
あれは危険だ。ともに戦うなどありえない。隣にたどり着く前にその刃に殺される。
あれは強力な武器で、同時に味方殺しの武器だ。
「呪われた、武器、なのか……」
「いかにも」
何の気負いもない答え。しかしだからこそ、その異常性が際立つ。
種類はあれど、この世界に住人にとって、呪いの武器とは破滅を呼ぶ武器を指す。もたらされる力の代償に、持ち主を死へと誘う魔性の武具。
だというのに、レッドにはそんな様子は見られない。精神や命を蝕むと言われる呪いの武器を持っているにもかかわらず、口調も仕草もごく自然なものだ。
「なぜ――」
「すまないが、質問はここまでだ。これ以上時間はかけられない。お迎えも来たようだしな」
青年の後ろには、落馬を免れた騎士たちが、味方を回収に来ていた。
「貴殿は?」
「レッドという。そこの騎士にも言ったが、ここは私が受け持つ。下がっていてくれ」
「……」
レッドに声をかけたのは、決死隊の隊長を任されている騎士だ。青年とは違い、騎士はレッドに鋭い視線を送るだけで何かを問いかけることはしなかった。
「……了解した。ここは貴殿に任せた方がよさそうだ。総員一時撤退ッ!! 後衛部隊と合流するぞっ!!」
数秒黙考し、撤退を決める騎士。見ただけでレッドの力量を見定めたようだ。隊長を任されるだけあって、決断も早い。
「隊長!?」
「お前も早く馬に乗れ。下がるぞ」
「いや、しかし」
「ここはそこの御仁に任せる……我々では邪魔にしかならん」
騎士がレッドに頭を下げた。
「仲間を助けていただき、感謝する」
「礼を言われるほどのことはしていない。それよりも」
「うむ、我々はすぐに下がろう……ひとつだけ、聞かせてほしい。貴殿、もしやライザー殿の?」
「紹介状持ちだ」
「……なるほど、得心がいった」
2人の会話を聞いていた青年もそれには驚いた。だが同時に納得もした。紹介状持ちは一般人の常識に当てはまらない者が多い、というのは有名な話なのだ。
青年は仲間の騎士が駆る馬に同乗し、隊長とともにその場を後にする。
不思議と周囲のモンスターからの攻撃はない。まるで青年たちなど見えていないかのように、レッドに向けて視線を送っている。
50メルほど離れたところで、背後で爆発音のようなものが響いた。
「っ!!」
その音に振り向いた青年が目にしたのは、モンスターが細切れになって空へと吹き飛ばされていく光景だった。
炎術を使ったわけではないのだろう。火の粉や爆炎は見えない。ただ、爆音の中心部は凄まじいことになっているだろうというのだけは理解できた。
50メル。そう、50メルも離れているのだ。だというのに、青年からたいして距離が離れていないところまで、攻撃の余波が迫っている。
走る馬はすでに全力だ。仲間の騎士も危険を感じ取っているのだろう。振り向きすらしない。
「なんという……」
青年は、その光景から目が離せなかった。
馬に乗っているがゆえの視線の高さから、多少は奥に目が届く。
その凄惨さが、目に入る。
「くっ!!」
一瞬、群がって出来たモンスターの壁が取り払われる。レッドの攻撃だ。
遠くへと移動しているはずなのに、むしろ近くなっているように感じられる攻撃の圧力。
爆音は止まず、宙に舞うモンスターの残骸と血だけがその範囲を広げていく。
わずかに見えたレッドは、青年と別れたときにいた場所からまったく動いていない。鎧の輝きはモンスターの血を浴びてなお輝きを失わず、むしろ燃えるようにその存在を誇示している。
たった1人のレッドに対して何体のモンスターが向かっているのか、青年にはわからない。数は力だ。いくら強くても、延々と迫る敵にいつかは潰される。
それは選定者でも変わらない。そう思っていた青年の考えを一笑に付すかの如く、レッドはその猛攻を見せつけた。
大鎌が振るわれるたび空中に発生する赤い刃。それがモンスターの間を駆け抜ければ、そこにはバラバラになったモンスターの死体が出来上がる。その一撃の前にはモンスターのレベルも種族も、体格も問題にならなかった。
積み重なるはずの死体の山は、赤い刃を発生させるおまけで吹く暴風に吹き飛ばされ、障害にもならない。
青年の目に映るレッドは、まさしく災害だった。
迫りくるモンスターなど意に介さず、すべてを呑み込む大嵐。
数など、問題ではなかったのだ。
「あれは……」
青年は気づく。戦場を蹂躙する嵐の中に、歪な影があることに。
その視線の先。辛うじて形を判別できたのは、レッドが持っていた大鎌だ。
青年が見たときは、確かに刃はひとつだった。しかし今は、その刃が2つに増えている。
いや、もともと2つだったというべきなのだろう。
青年が『口』のようだと思った刃に走る線。そこから刃が上下に分かれ、巨大な顎の様相を呈している。
「喰って、いるのか?」
モンスターの血肉を喰らおうと広がる刃。血を求めて妖しさを増す姿が、青年の脳裏に浮かんで離れない。
そして極めつけは、刃の付け根に描かれた模様だ。瞳のようだと青年が思っていたそれは、今や濃い紫色の光を放ちながら燦然と輝いていた。その様は、光る前よりも生物的な雰囲気を放っている。まるで大鎌自体に意思があるようだ。
ただ、それが『聖なる』や『清らかな』といったイメージでないことも確かだった。
時折点滅するように輝き、見ている者に大鎌が歓喜しているように感じさせる。
呪いの武器だということが、はっきりとわかる姿だった。
ただ、異様な装備に目が行きがちではあるが、もっとも異常と言えるのは他にある。
そんな装備に身を包みながら、平然と戦い続けるレッド本人だ。
災害としか言えない破壊をまき散らしながら、その攻撃はほとんど無駄というものがない。
力に任せて振り回すでもなく、武器の性能に頼って適当に振るっているわけでもない。
力と技を組み合わせて繰り出される一撃はわずかな停滞もなくモンスターを切り裂き、長物を振るった反動をコントロールして次の一撃へつなげていく。
優れた武芸は時に舞のように感じられるというが、レッドの動きはそれに近いものがあった。群がるモンスターは、倒されることが予定調和のようにも見える。
燃えるような赤鎧と歪な大鎌による演舞。
嵐の中心と暴風域を体現するように、レッドの周りには常に一定の空間が広がっていた。
「……」
モンスターの群れから離れ、一部始終を見続けていた騎士たちは、援護することも忘れて呆然としていた。間近で見た青年ほどでないにしろ、その非常識な光景にどう動けばいいのかわからなかったのだ。
レッドが大鎌を振るったことで起こった変化は劇的だった。
バルメルへと向かっていたはずのモンスターの一部が突如として反転。引き返し始めたのだ。それにつられるように、周りにいたモンスターも次々に反転していく。
それらのモンスターの向かう方向がある1点で、その先で赤く染まった嵐が吹き荒れていると最初に気づいたのは、第3戦団の隊長だった。
その効果範囲は100メルを優に超えていた。そして、少しずつ広がっているのだ。
このまま自分たちも呑み込まれるのではないかと懸念してしまうほど、広大な範囲だった。
恐ろしい勢いで減っていくモンスター。広がり続ける破壊の嵐。
まるで、燃え盛る炎にモンスターが自ら飛び込んでいくようだった。
モンスターの命を燃やして、その勢いは激しさを増していく。
城壁の上に立つティエラやカエデには、戦場にいるほぼすべてのモンスターがシンへと集まっているのが見て取れた。
大鎌か、鎧の効果なのだろう。上方から見ると、シンに向かっているモンスターには薄っすらと赤い何かがまとわりついているのがわかる。それがモンスターを引き寄せているようだ。
その効果範囲は広い。それ以外に言いようがない。
黒い波と称してもいいだけの数がいたのだ。当然、メル単位では収まらない範囲に展開していた。だというのに、それらすべてに効果を及ぼしている。
「……何なんでしょうか、あれ」
「敵ではないから大丈夫よ。まあ、あれを見て安心してって言っても、説得力ないかもしれないけど」
「えっと、味方、なんですか?」
「ええ、それは間違いないわ。こっちに向かってくる、なんてことはないから」
ティエラが断言したことで、カエデも安心したように杖を握りしめていた手から力を抜いた。
正体がわかっているティエラはまだいいが、謎の人物という認識のカエデからすると、恐ろしくもあるのだろう。
今はまだモンスターを相手にしているが、その刃が自分たちに向けられたらと思うとゾッとする。
目の前で振るわれている力は、この世界における上級選定者の域をはるかに超えている。
それこそ、シュニーやジラートのような『特別な存在』の領域だ。
「あんなにいたモンスターが、もう半分もいない」
シンの存在にばかり目がいっていたせいでカエデは気づいていなかったが、すでに残っているモンスターの数は元の3分の1ほどだ。城壁の上から見えていた、モンスターが一面を覆い尽くすばかりだった光景は、もはやどこにもない。
「あっ!」
全体を見れるようになったカエデの視界の中に、奇妙なものが映る。
一言で言うなら、宙に浮く球体だ。
周囲のモンスターと比べると、全長2メルはあることがわかる。
茶と紫の混ざった表面には、様々な眼がついていた。
人そっくりの眼、獣のような瞳孔が縦に長い眼、昆虫のような複眼、目蓋の下が黒一色の眼。
大きさも数十セメルから1セメルを切るものまで、多種多様な眼が周囲を観察していた。
そして、突如その中の一部がカエデへと視線を合わせる。
「うっ」
驚いたカエデが視線を外そうとしたが、頭をズキリとした痛みが襲った。経験したことのない痛みに、カエデはたまらず膝を突く。
視界が一瞬で黒く染まり、なのに意識は消えない。
体の感覚はほとんどないのに、自分の中に何かが入ってくるような、おぞましい感覚と痛みだけがはっきりと知覚できた。
「ぁ……ぐ……」
「え、ちょっとどうしたの!?」
違う意味で驚いたのはティエラだ。モンスターが倒されるのも時間の問題と思われていたところで、いきなりカエデが苦しみ出したのだから。
「カエデちゃん! カエデちゃん!!」
今にも倒れそうなカエデを、ティエラは咄嗟に抱きしめて支える。
すると、苦しんでいたカエデは力が抜けたように体を預けてきた。よく見ると額には大粒の汗が浮かんでいる。
「あ、れ……?」
「カエデちゃん? 私の声が聞こえる?」
一瞬意識を失っていたのだろう。何が起こったのかとつぶやくカエデを介抱しながら、ティエラはなぜか体から力が抜けるような気だるさを感じていた。
(何かしら、この感覚……)
気にはなったが、今は戦いの最中。ここまで大きな戦いだ。体調がいつもと違うこともあるだろうと、カエデのほうに意識を戻す。
汗をぬぐったカエデは、ティエラに礼を言って立ち上がった。
「大丈夫?」
「はい、もう大丈夫です。戦場に変なモンスターがいて、目があったと思ったら急に頭痛が」
「精神系の攻撃かしら。状態異常にはなってないから安心して」
ティエラにはステータス差からカエデの情報はほとんど読み取れないが、バッドステータスの表示くらいは見ることができる。
何の表示もないことを確認してから、ティエラはカエデを休ませ戦場へと視線を移す。
ティエラが目にしたのは、ちょうど球体を模したモンスターが、レッドの大鎌に両断される光景だった。
そんなティエラを、じっと見つめていたのはユズハだ。
ユズハは、ティエラがカエデを抱きとめた際にティエラの体が微かに発光し、カエデの体にまとわりついていた黒い靄を霧散させたのをしっかりと目撃していた。
「くぅ」
ユズハ以外には聞こえない音量で、一声鳴く。
その後もティエラという存在を見透かそうとするように、ユズハはじっとティエラを見つめていた。
†
多くの人の目を引きつけながら、レッドことシンは、その手に持つ大鎌を振るっていた。
言葉遣いを変えて別人を装いつつ騎士を下がらせ、後はただ暴れる。
もっともレベルの高かったベルゼルクスを殴り殺した段階で、後は簡単な作業になるというのが当初の予想だった。
「だってのに……」
つい愚痴が漏れる。
なぜなら、予想にないことが起きているからだ。
「ったく、リアル呪いの武器ってのはうるさくって仕方ない!」
戦い始めたころはそうでもなかったのだが、モンスターを倒し大鎌の能力が発揮されるにつれ、シンの頭に声が響き始めたのだ。
「殺せ、殺せ」と繰り返すそれは、大鎌の説明文にある精神を侵される、というところから来ているのだろう。
シンの使う大鎌。正式名称は【魂食みの大鎌】という。
その能力は周囲のモンスターのヘイトを使用者1人に集中させ、倒したモンスターの数に応じて攻撃範囲と与ダメージが増加、さらにダメージの一部を使用者に還元するというものだ。
一般的な呪いの装備は、リスクと引き換えに能力を高めている。魂食みの大鎌は、中でも群を抜いていた。
勢いよく地面に叩きつけられ、衝撃で一瞬意識が飛びかける。だが、気絶すればそこで命はなくなると、必死に意識をつないだ。
「くぁ……」
明滅する視界に入ってきたのは、自分と同じように落馬した仲間の姿。立ち上がろうと体に力を込めると、左足が動かないことに気づく。
「しまった……」
共に吹き飛ばされ倒れた愛馬と、地面に挟まれた自分の足が見える。足をねじるが、なかなか抜けてくれない。
そんな青年の上に影が落ちる。
「ぁ……」
見上げた視線の先には、変異種がいた。
赤く濁った眼には、理性は感じられない。ただ、その身から放たれる殺気だけは本物だ。
隆起する筋肉、振り上げられる斧。足を抜くのは間に合わない。
「――――ッ!」
あと数秒で死ぬ。
それがわかってもなお青年は腰の剣を抜き、震えながらも変異種に向けて構えた。
もとより死兵。悲鳴など上げてたまるかと、込み上げる恐怖を呑み込んで変異種を睨みつける。
変異種の動きはゆっくりとしていた。
実際は変異種の動きに変化はない。死に直面し、それをどうにか回避しようと青年の体感時間が加速しているのだ。
だが、どれだけ体感時間を早めようと、できることはもうない。ゆっくりと迫る斧を、ただ見つめるしかなかった。
数瞬の後、自分と愛馬は変異種の斧で両断される。
青年は、そう思っていた。
そして、そうなる。
――はずだった。
「おわっ!!」
それはあまりにも突然だった。
変異種と青年。その間に何かが降ってきた。
否、落ちてきた。
落下の衝撃で、地面が揺れる。
呆然とする青年の視線の先、土煙が晴れたそこには、全身鎧に身を包み、歪な形をした大鎌を担いだ人物が立っていた。
自分たちの知るものとは、デザインの違う全身鎧。日の光を受けて輝くその色は、赤1色。
深く濃いカーディナル、鮮やかなスカーレット、明るいコーラル。様々な赤を使って彩られた鎧は、その輝きと相まってまるで燃え盛る炎が人の形をとったようにも見える。
各所に施された装飾は、それだけで職人の腕の良さがわかる代物だ。見れば見るほど、格の違いを感じさせてくる。
その肩にのる大鎌の柄はねじれ、刃には均一性のない凹凸が見て取れた。
柄と刃の合わさる部分には、まるで瞳のような模様が描かれ、戦場よりも怪しげな儀式にでも使われそうな雰囲気だ。
だというのに、鎧とともに視界に収めると、妙にしっくりくる。
「……」
その人物に目を奪われ、青年は声が出なかった。登場の仕方もそうだが、全身から放たれる圧倒的武威を前に、体が言うことを聞かないのだ。
背を向けているにもかかわらず、青年は変異種から受けた威圧感が色あせるほどの圧力を感じていた。
正面から相対している変異種の方を見れば、斧を振り上げたまま動きを止めている。
見開かれた目、濁っていながらもそこにあるのは明確な恐怖の色だった。
(あれほどのモンスターが、気圧されている!!)
それは、いったいどれほどの力があればできることなのか。
自陣の選定者の中に、目の前にいるような鎧の人物はいなかった。
ただ、死に瀕し、極限まで研ぎ澄まされていた青年の直感は、彼にあることを悟らせていた。
目の前の人物がシュニー・ライザーにも匹敵する力を持っていること。そして、それが味方であることを。
「大丈夫か?」
「……えっ?」
呆けていたつもりはないが、青年はその言葉が自分に向けて発せられたものだということを一瞬理解できなかった。声からして、鎧の中にいるのは男性のようだ。
視線の先では、先ほどまで背を向けていたはずの人物が、気絶して動かない愛馬をずらして青年の足を抜いてくれていた。
「た、助かります。って、う、後ろ!」
慌てて立ち上がるも、顔を上げれば、変異種はまだ斧を振り上げたままだった。
自分を助けている場合じゃないだろうと、後ろを指差しながら青年を声を上げた。焦っていたせいか口調も素が出ている。
「ん? ああ、そうだな」
何気ない返答。
しかし次の瞬間、目の前にいたはずの鎧の男がかき消え、ほぼ同時に青年の鼓膜を音の暴力が襲った。
あえて言葉にするならドンッだろうか。あまりの音の大きさに、青年は体を硬直させる。
目をつぶらなかったのは僥倖だった。おかげで、音の原因を見逃さなくてすんだ。
「……」
先ほどとは違った意味で、声が出ない。
視線の先、ついさっきまで変異種がいた場所には、拳を振り抜いた状態の鎧の男がいた。
変異種の姿はない。もちろん、どこかへ行ったわけでもない。
振り抜いた拳の前方には、変異種が振り上げていた斧と、肘から先だけを残した腕が落下していた。
「は、はは……」
青年は目の前の光景が現実かわからなくなった。
一撃。
それも武器を使わず、腕力だけで。
まともに攻撃を受けた変異種の胴体は粉微塵に弾け飛び、飛び散った血を浴びた一部のモンスターが悲鳴を上げている。
それだけの威力を出してなお、鎧の男が突き出した腕を覆う籠手には傷ひとつついていなかった。
もはや、笑うしかない。
「あなたは、いったい……」
「私か? そうだな……では鎧の色から、レッドとでも呼んでくれ」
変異種を倒して戻ってきた男――レッドは返り血ひとつ浴びることなく、明らかに偽名だとわかる名前を口にした。
「まあ、私の名前はどうでもいいだろう。それよりもここは私に任せ、君たちは本隊と合流しろ」
「あ、ああ、助力に感謝する。しかし、私たちも騎士の端くれ、ともに戦うことも――」
「いや、それには及ばん。むしろ近くにいられては困る」
「困る、とは?」
「周囲に誰かいると、私は能力を十全に発揮できん。できれば城壁の近く、魔術を使った集団あたりまで全軍を下げろ」
「いや、しかしそれは……」
「悪いがこれは提案ではないのだ。それに、下手に近づけば君たちごと殺してしまうぞ? これはそういう武器だ」
わかるだろう? そう言うようにレッドは肩にのせた大鎌を持ち上げてみせる。
間近で見ると、その大きさがよくわかった。柄だけで3メル以上、刃も2メル以上ある。刃自体も幅が広く、中心をジグザグに線のようなものが走っている。
青年にはそれが『口』のようだと感じられた。今この瞬間にもその『口』が開き、自分を噛み砕こうとしてきそうな予感すらある。
青年は、なぜレッドが全軍を下がらせろなどといったのか理解した。
あれは危険だ。ともに戦うなどありえない。隣にたどり着く前にその刃に殺される。
あれは強力な武器で、同時に味方殺しの武器だ。
「呪われた、武器、なのか……」
「いかにも」
何の気負いもない答え。しかしだからこそ、その異常性が際立つ。
種類はあれど、この世界に住人にとって、呪いの武器とは破滅を呼ぶ武器を指す。もたらされる力の代償に、持ち主を死へと誘う魔性の武具。
だというのに、レッドにはそんな様子は見られない。精神や命を蝕むと言われる呪いの武器を持っているにもかかわらず、口調も仕草もごく自然なものだ。
「なぜ――」
「すまないが、質問はここまでだ。これ以上時間はかけられない。お迎えも来たようだしな」
青年の後ろには、落馬を免れた騎士たちが、味方を回収に来ていた。
「貴殿は?」
「レッドという。そこの騎士にも言ったが、ここは私が受け持つ。下がっていてくれ」
「……」
レッドに声をかけたのは、決死隊の隊長を任されている騎士だ。青年とは違い、騎士はレッドに鋭い視線を送るだけで何かを問いかけることはしなかった。
「……了解した。ここは貴殿に任せた方がよさそうだ。総員一時撤退ッ!! 後衛部隊と合流するぞっ!!」
数秒黙考し、撤退を決める騎士。見ただけでレッドの力量を見定めたようだ。隊長を任されるだけあって、決断も早い。
「隊長!?」
「お前も早く馬に乗れ。下がるぞ」
「いや、しかし」
「ここはそこの御仁に任せる……我々では邪魔にしかならん」
騎士がレッドに頭を下げた。
「仲間を助けていただき、感謝する」
「礼を言われるほどのことはしていない。それよりも」
「うむ、我々はすぐに下がろう……ひとつだけ、聞かせてほしい。貴殿、もしやライザー殿の?」
「紹介状持ちだ」
「……なるほど、得心がいった」
2人の会話を聞いていた青年もそれには驚いた。だが同時に納得もした。紹介状持ちは一般人の常識に当てはまらない者が多い、というのは有名な話なのだ。
青年は仲間の騎士が駆る馬に同乗し、隊長とともにその場を後にする。
不思議と周囲のモンスターからの攻撃はない。まるで青年たちなど見えていないかのように、レッドに向けて視線を送っている。
50メルほど離れたところで、背後で爆発音のようなものが響いた。
「っ!!」
その音に振り向いた青年が目にしたのは、モンスターが細切れになって空へと吹き飛ばされていく光景だった。
炎術を使ったわけではないのだろう。火の粉や爆炎は見えない。ただ、爆音の中心部は凄まじいことになっているだろうというのだけは理解できた。
50メル。そう、50メルも離れているのだ。だというのに、青年からたいして距離が離れていないところまで、攻撃の余波が迫っている。
走る馬はすでに全力だ。仲間の騎士も危険を感じ取っているのだろう。振り向きすらしない。
「なんという……」
青年は、その光景から目が離せなかった。
馬に乗っているがゆえの視線の高さから、多少は奥に目が届く。
その凄惨さが、目に入る。
「くっ!!」
一瞬、群がって出来たモンスターの壁が取り払われる。レッドの攻撃だ。
遠くへと移動しているはずなのに、むしろ近くなっているように感じられる攻撃の圧力。
爆音は止まず、宙に舞うモンスターの残骸と血だけがその範囲を広げていく。
わずかに見えたレッドは、青年と別れたときにいた場所からまったく動いていない。鎧の輝きはモンスターの血を浴びてなお輝きを失わず、むしろ燃えるようにその存在を誇示している。
たった1人のレッドに対して何体のモンスターが向かっているのか、青年にはわからない。数は力だ。いくら強くても、延々と迫る敵にいつかは潰される。
それは選定者でも変わらない。そう思っていた青年の考えを一笑に付すかの如く、レッドはその猛攻を見せつけた。
大鎌が振るわれるたび空中に発生する赤い刃。それがモンスターの間を駆け抜ければ、そこにはバラバラになったモンスターの死体が出来上がる。その一撃の前にはモンスターのレベルも種族も、体格も問題にならなかった。
積み重なるはずの死体の山は、赤い刃を発生させるおまけで吹く暴風に吹き飛ばされ、障害にもならない。
青年の目に映るレッドは、まさしく災害だった。
迫りくるモンスターなど意に介さず、すべてを呑み込む大嵐。
数など、問題ではなかったのだ。
「あれは……」
青年は気づく。戦場を蹂躙する嵐の中に、歪な影があることに。
その視線の先。辛うじて形を判別できたのは、レッドが持っていた大鎌だ。
青年が見たときは、確かに刃はひとつだった。しかし今は、その刃が2つに増えている。
いや、もともと2つだったというべきなのだろう。
青年が『口』のようだと思った刃に走る線。そこから刃が上下に分かれ、巨大な顎の様相を呈している。
「喰って、いるのか?」
モンスターの血肉を喰らおうと広がる刃。血を求めて妖しさを増す姿が、青年の脳裏に浮かんで離れない。
そして極めつけは、刃の付け根に描かれた模様だ。瞳のようだと青年が思っていたそれは、今や濃い紫色の光を放ちながら燦然と輝いていた。その様は、光る前よりも生物的な雰囲気を放っている。まるで大鎌自体に意思があるようだ。
ただ、それが『聖なる』や『清らかな』といったイメージでないことも確かだった。
時折点滅するように輝き、見ている者に大鎌が歓喜しているように感じさせる。
呪いの武器だということが、はっきりとわかる姿だった。
ただ、異様な装備に目が行きがちではあるが、もっとも異常と言えるのは他にある。
そんな装備に身を包みながら、平然と戦い続けるレッド本人だ。
災害としか言えない破壊をまき散らしながら、その攻撃はほとんど無駄というものがない。
力に任せて振り回すでもなく、武器の性能に頼って適当に振るっているわけでもない。
力と技を組み合わせて繰り出される一撃はわずかな停滞もなくモンスターを切り裂き、長物を振るった反動をコントロールして次の一撃へつなげていく。
優れた武芸は時に舞のように感じられるというが、レッドの動きはそれに近いものがあった。群がるモンスターは、倒されることが予定調和のようにも見える。
燃えるような赤鎧と歪な大鎌による演舞。
嵐の中心と暴風域を体現するように、レッドの周りには常に一定の空間が広がっていた。
「……」
モンスターの群れから離れ、一部始終を見続けていた騎士たちは、援護することも忘れて呆然としていた。間近で見た青年ほどでないにしろ、その非常識な光景にどう動けばいいのかわからなかったのだ。
レッドが大鎌を振るったことで起こった変化は劇的だった。
バルメルへと向かっていたはずのモンスターの一部が突如として反転。引き返し始めたのだ。それにつられるように、周りにいたモンスターも次々に反転していく。
それらのモンスターの向かう方向がある1点で、その先で赤く染まった嵐が吹き荒れていると最初に気づいたのは、第3戦団の隊長だった。
その効果範囲は100メルを優に超えていた。そして、少しずつ広がっているのだ。
このまま自分たちも呑み込まれるのではないかと懸念してしまうほど、広大な範囲だった。
恐ろしい勢いで減っていくモンスター。広がり続ける破壊の嵐。
まるで、燃え盛る炎にモンスターが自ら飛び込んでいくようだった。
モンスターの命を燃やして、その勢いは激しさを増していく。
城壁の上に立つティエラやカエデには、戦場にいるほぼすべてのモンスターがシンへと集まっているのが見て取れた。
大鎌か、鎧の効果なのだろう。上方から見ると、シンに向かっているモンスターには薄っすらと赤い何かがまとわりついているのがわかる。それがモンスターを引き寄せているようだ。
その効果範囲は広い。それ以外に言いようがない。
黒い波と称してもいいだけの数がいたのだ。当然、メル単位では収まらない範囲に展開していた。だというのに、それらすべてに効果を及ぼしている。
「……何なんでしょうか、あれ」
「敵ではないから大丈夫よ。まあ、あれを見て安心してって言っても、説得力ないかもしれないけど」
「えっと、味方、なんですか?」
「ええ、それは間違いないわ。こっちに向かってくる、なんてことはないから」
ティエラが断言したことで、カエデも安心したように杖を握りしめていた手から力を抜いた。
正体がわかっているティエラはまだいいが、謎の人物という認識のカエデからすると、恐ろしくもあるのだろう。
今はまだモンスターを相手にしているが、その刃が自分たちに向けられたらと思うとゾッとする。
目の前で振るわれている力は、この世界における上級選定者の域をはるかに超えている。
それこそ、シュニーやジラートのような『特別な存在』の領域だ。
「あんなにいたモンスターが、もう半分もいない」
シンの存在にばかり目がいっていたせいでカエデは気づいていなかったが、すでに残っているモンスターの数は元の3分の1ほどだ。城壁の上から見えていた、モンスターが一面を覆い尽くすばかりだった光景は、もはやどこにもない。
「あっ!」
全体を見れるようになったカエデの視界の中に、奇妙なものが映る。
一言で言うなら、宙に浮く球体だ。
周囲のモンスターと比べると、全長2メルはあることがわかる。
茶と紫の混ざった表面には、様々な眼がついていた。
人そっくりの眼、獣のような瞳孔が縦に長い眼、昆虫のような複眼、目蓋の下が黒一色の眼。
大きさも数十セメルから1セメルを切るものまで、多種多様な眼が周囲を観察していた。
そして、突如その中の一部がカエデへと視線を合わせる。
「うっ」
驚いたカエデが視線を外そうとしたが、頭をズキリとした痛みが襲った。経験したことのない痛みに、カエデはたまらず膝を突く。
視界が一瞬で黒く染まり、なのに意識は消えない。
体の感覚はほとんどないのに、自分の中に何かが入ってくるような、おぞましい感覚と痛みだけがはっきりと知覚できた。
「ぁ……ぐ……」
「え、ちょっとどうしたの!?」
違う意味で驚いたのはティエラだ。モンスターが倒されるのも時間の問題と思われていたところで、いきなりカエデが苦しみ出したのだから。
「カエデちゃん! カエデちゃん!!」
今にも倒れそうなカエデを、ティエラは咄嗟に抱きしめて支える。
すると、苦しんでいたカエデは力が抜けたように体を預けてきた。よく見ると額には大粒の汗が浮かんでいる。
「あ、れ……?」
「カエデちゃん? 私の声が聞こえる?」
一瞬意識を失っていたのだろう。何が起こったのかとつぶやくカエデを介抱しながら、ティエラはなぜか体から力が抜けるような気だるさを感じていた。
(何かしら、この感覚……)
気にはなったが、今は戦いの最中。ここまで大きな戦いだ。体調がいつもと違うこともあるだろうと、カエデのほうに意識を戻す。
汗をぬぐったカエデは、ティエラに礼を言って立ち上がった。
「大丈夫?」
「はい、もう大丈夫です。戦場に変なモンスターがいて、目があったと思ったら急に頭痛が」
「精神系の攻撃かしら。状態異常にはなってないから安心して」
ティエラにはステータス差からカエデの情報はほとんど読み取れないが、バッドステータスの表示くらいは見ることができる。
何の表示もないことを確認してから、ティエラはカエデを休ませ戦場へと視線を移す。
ティエラが目にしたのは、ちょうど球体を模したモンスターが、レッドの大鎌に両断される光景だった。
そんなティエラを、じっと見つめていたのはユズハだ。
ユズハは、ティエラがカエデを抱きとめた際にティエラの体が微かに発光し、カエデの体にまとわりついていた黒い靄を霧散させたのをしっかりと目撃していた。
「くぅ」
ユズハ以外には聞こえない音量で、一声鳴く。
その後もティエラという存在を見透かそうとするように、ユズハはじっとティエラを見つめていた。
†
多くの人の目を引きつけながら、レッドことシンは、その手に持つ大鎌を振るっていた。
言葉遣いを変えて別人を装いつつ騎士を下がらせ、後はただ暴れる。
もっともレベルの高かったベルゼルクスを殴り殺した段階で、後は簡単な作業になるというのが当初の予想だった。
「だってのに……」
つい愚痴が漏れる。
なぜなら、予想にないことが起きているからだ。
「ったく、リアル呪いの武器ってのはうるさくって仕方ない!」
戦い始めたころはそうでもなかったのだが、モンスターを倒し大鎌の能力が発揮されるにつれ、シンの頭に声が響き始めたのだ。
「殺せ、殺せ」と繰り返すそれは、大鎌の説明文にある精神を侵される、というところから来ているのだろう。
シンの使う大鎌。正式名称は【魂食みの大鎌】という。
その能力は周囲のモンスターのヘイトを使用者1人に集中させ、倒したモンスターの数に応じて攻撃範囲と与ダメージが増加、さらにダメージの一部を使用者に還元するというものだ。
一般的な呪いの装備は、リスクと引き換えに能力を高めている。魂食みの大鎌は、中でも群を抜いていた。
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