THE NEW GATE

風波しのぎ

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6巻

6-2

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「確かめてみるか」

 キルモントに向かうのも、シュバイドに会うのも早いに越したことはないが、自分のホームや担当するギルドホームについて調べておくのも重要だ。

「それでしたら、例の林が目立たず良いと思います」
「そうだな。行くか」


 もうじき日が暮れる時間帯。シンはシュニーとティエラ、ユズハをともない、姿を隠して街を出ると、以前切り開いた林に向かう。
 月の祠を具現化させて中に入り、シンはまず生成機を見ることにした。
 まとめて置いてあった部屋の中には、鉱石や食材、モンスターから取れる素材など、種類別に分類された生成機が並んでいた。
 見た目は30セメル四方の箱としか言いようのないそれらは、この世界では、その価値が古代エンシェント級の武具にも匹敵ひってきする設備である。
 手に入らない、もしくは手に入れるのに多大な苦労が必要となる素材を、時間さえかければ無限に取得できるのだ。現実となった今ではすさまじいの一言である。
 生成されたアイテムはカード化され、生成機内のアイテムボックスに収納されている。

「なんだこりゃ……」

 シンはまず鉱石と素材を確認する。
 アイテムボックス内のリストを表示してみると、大量のアイテム名が羅列られつされた。その数は100や200ではかない。
 アイテムの種類によってかなりの差があるが、少ないものでも1000を超え、多いものでは何十万という数に上っている。
 アイテムボックスは同種のアイテムを999個までしか収納できないはずだが、上限が変化したのか。

「あいてむたくさん、くぅ」
「確かにな。オリハルコン、ミスリル、アダマンティンのかたまりに精製済みのヒヒイロカネ。バハムートのきばつめ、ベヒモスのきも……おいおいかいしずくがすごいことになってるぞ! 古代エンシェント級の武器が打ち放題じゃん……」

 ユズハの声にうなずきながら、項目をスクロールしていく。
 ゲーム時代なら現実時間で半年に1つしか生成されないような、運営馬鹿だろとののしったレアアイテムまでおかしな桁数けたすうになっていた。
 500年分ということなら理解できなくはないが、まじめに鉱石を採掘していたのは何だったんだ、と不満に思ってしまうのはゲーマーのさがか。

「食材の方も同じのようです。最高ランクの食材が、すごい数になっています」

 食材の生成機のリストを確認したシュニーもその内容に驚いていた。軽く100年は引きこもれそうである。

「見たことも聞いたこともないようなアイテムばっかり。なんなのこれ?」

 ティエラは知識が足りないせいで、アイテムそのものではなくその数に驚く。
 せっかくなので、シンはアイテムの一部を自らのアイテムボックスに移す。
 自分のアイテムボックスに入っていたものと、生成機のアイテムに違いがないか検証するのだ。

「ちょっと一振り打ってくる。そっちも素材が使えるか試してみてくれ」
「わかりました。夕食を用意します」
「私も簡単な回復薬ポーションくらいなら作れるけど」
「頼んだ」


 ティエラに一通りの錬金術セットを渡し、シンはユズハと鍛冶場かじばへと向かった。
 に火を入れて、生成機から得たオリハルコン鉱石のカードを取り出す。

「ん?」

 カードを具現化させようとしたところで、シンはそのカードから何かオーラのようなものが出ていることに気づいた。
 陽炎かげろうのようにゆらゆらと揺れるそれをじっと見つめる。すると、カメラのピントが合うように、カードから出ているものがしだいにはっきりと見えるようになった。

「魔力、だよな?」
「きらきら~」

 魔剣の放つオーラに似ているそれは、薄い銀色だ。
 比較するために、シンがもともと自分のアイテムボックスに入れていたオリハルコン鉱石のカードを出すと、こちらは薄い紫色だった。
 ただ、常に同じ色をしているわけではないようで、黒っぽい色になったり薄い青になったりと変化している。
 ジラートの装備を直すときや、シャドゥたちの装備をバージョンアップするときには気づかなかった。

「ふうむ。わからん。とりあえず打つか。ユズハはちょっと離れててくれ」
「くぅ!」

 細かいことはいったん置いておき、2枚のカードを具現化させる。
 今のところ、オーラの色以外はとくに違いはなかった。多少鉱石の量は違うが、もともと一定ではないので問題はない。
 炉に火を入れ、オリハルコンを精製していく。不純物を取り除いたオリハルコンは、オーラの色が濃くなっていた。
 それを金床かなとこに置き、つちを振り下ろす。
 まったく同じ工程こうていを経て完成した刀は、2本とも伝説レジェンド級中位。見た目もほぼ同じで、違うところといえば、やはりその刀身を覆うオーラくらいだった。
 試し切りをしてみると、ここではっきりとした違いが出た。
 シンのアイテムボックスにあった素材による複数色のオーラをまとう刀の方が、生成機の素材を使った単色のオーラをまとう刀よりも、切れ味が良い。

「くぅ? おんなじなのに、ちがう?」
「素材は同じでも、威力がここまで違うのか。魔力の色が関係してるのか? ……そういえばティエラが、俺の魔力がなんか変っぽいと言ってたような」

 初めて会ったときに、複数の種族の魔力を感じると言っていたなと、当時のことを思い出した。

「シンのまりょく、みんなとちがうの?」
「どうなんだろうな。まだ魔力操作は完璧じゃないから、いまいちわからん」


 何かヒントがあるかもしれないと、シンはティエラのいる母屋おもやへ移動した。
 ティエラはテーブルの上に機材を広げて、回復薬ポーションを作っている。集中しているようなので話しかけずにいると、数分ほどで完成した。

「……ふぅ」
「終わったか?」
「ひぅっ!?」

 シンは作業が終わったところを見計らって声をかけた。
 しかし、ティエラはまったく気づいていなかったようで、小さな悲鳴を上げビクゥッ!! と音が聞こえそうなくらい驚く。

「あー……悪い。驚かそうとしたわけじゃないんだが」
「気配を消して後ろに立たないで! ほんとにびっくりしたんだから」

 ティエラは胸元に手を当てたままシンをにらんでくる。驚いたところを見られたのが恥ずかしいのか、頬が赤くなっていた。
 シンにそのつもりはなかったのだが、無意識に気配を消してしまっていたらしい。

「ほんとにすまん。集中してるようだったから、邪魔しないようにしたつもりだったんだ」
「……はぁ、気をつけてよね。危うく回復薬ポーションを落とすところだったんだから」

 シンが頭を下げると、ティエラも溜飲りゅういんが下がったようだ。

「それはそうと、一応素材別に回復薬ポーションを作ってみたわ。鑑定かんていスキルがないからいまいち違いがはっきりしないんだけど、見てくれない?」

 ティエラが気を取り直して回復薬ポーションを渡してくる。
 見た目はどちらも同じだが、詳細を見てみると、シンの持っていた素材を使った方が、効果が高いことがわかった。
 ただ、生成機で作られた素材を使った方も、通常のものより2割は効果が高い。どうやら魔力を宿した素材はアイテムの効果なり、威力なりを上げるようだ。

「そう。予想はしてたけど、すごいわね」
「予想してたのか?」

 鑑定結果を聞いたティエラの言葉に、シンは理由を尋ねた。

「そうね。シンは知らないみたいだけど、物に魔力が宿るっていうのは、つまるところ持ち主の生命力とか特性とか、そういう形のない力みたいなものが付与ふよされた状態をいうの。私も現物を見たことなんてほんの数回しかないけどね。その力が見えるのはエルフかピクシーくらいだから、シンにはわからないかもしれないけど」
「へぇ……っと、そういえばちょっと聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
「ああ、初めて会ったときに、俺を見ていろんな種族の魔力がどうとか言ってただろ? それについて聞きたいと思ってな」
「え? あ、えっと……そんなこと言ったかしら?」

 ティエラは言葉をにごす。あらぬ方向に視線を向けるその表情は、いかにも何かを誤魔化ごまかそうとしている者のそれだった。

「? ……まあ、言いたくないなら無理に聞く気はないさ。じゃあ、シュニーにも何か変わった感じはしないか聞いてくる。そのポーションは持ってていいぞ」
「え!? ちょ、ちょっと!!」

 誰にだって言いたくないことはある。魔力のことは気になるが、なんとなく理由は予想できる。無理に聞き出すのもどうかと思ったので、シンは一旦シュニーのところに行こうとしたのだが、ティエラは驚いたようにシンを引きとめた。

「どうしたんだ。そんなに慌てて」
「だ、だって、追及しなくていいの? 一緒にいるのに私、その、あからさまに隠し事、してるじゃない」
「でも、言いたくないんだろ? そりゃ教えてくれなきゃ命に関わるとか、そう言う内容なら放置はできないけどよ。なんとなく予想はつくし、回答を強制するのもな。ティエラの様子を見れば、事情がありますっていうのはすごく伝わってくる。一緒にいるからって、何でもかんでも話さなきゃならないってのは、なんか違うと思うんだよ。俺だって皆に話してないことは結構あるしな」
「それは、そうだけど……」
「話してもいいって、思えるようになってからでいい。その時は――」

 そこまで言ったところで、「ぐぅ」とシンの腹が鳴った。それも、はっきりと聞き取れるほど大きい音で。

「……お、俺が話してないことも教えてやる、よ?」

 腹の虫のおかげで真面目な雰囲気が消し飛んでしまったが、一応言おうとしていたことは最後まで言うことにした。

「シン、おなか減った?」

 その直後、それまで静観せいかんしていたユズハの絶妙な一言が炸裂さくれつする。

「うおい! 真面目まじめなこと言ってたのに!」
「だって、『その時はぐぅ』って」
「ノォオオ! く、なぜこのタイミング!」
「……ぷっ」

 ツボにはまったのだろう。ティエラは耳まで真っ赤にして必死に笑いをこらえていた。
 顔を伏せているので表情はわからなかったが、少なくともさっきまでの深刻しんこくな顔ではないはずだ。
 場の空気を変えたかったシンとしては喜ばしい状況なのだが、もうちょっと別の方法がよかったと思ってしまうのは仕方のないことだろう。

「ごめん、真面目に話してたのに。で、でも、ぷふっ」
「こいつ滅茶苦茶ツボってやがる! まあいいこの際だ。言えないことがあるからって、いちいち気にするの禁止な。それと、腹の音のことは誰にも言うなよ! 絶対だからな! ユズハもな!」

 若干捨て台詞っぽいものを残して、シンは台所へと向かった。
 目の端に涙を浮かべながら、ティエラはその背を見送る。その涙の原因が、笑いをこらえているからというだけではないことに、シンは気づかない。
 声に出さなかった「ごめんなさい」という言葉は、誰にも届かなかった。


 シンが台所に着くと、すでにいくつかの料理が出来上がっていた。ティエラと話していたときからにおいはしていたので、この匂いがなければ……とつい考えてしまう。

「くぅ~、いいにおーい」
「ああ、いい匂いだ。いいにおいなんだ……」
「シン? 難しい顔をしていますが、何かあったんですか?」
「いや、何もない。うん、何もない。それより、うまそうな匂いだけど素材はどうだった?」
「これといった問題はありません。鮮度せんども良好です」

 シュニーは包丁ほうちょうについていた水滴をぬぐいながら言う。
 調理段階では違いは感じなかったようだ。刀や回復薬ポーションのことを考えれば、違いが出るとしたら味だろう。

「俺やティエラの実験だと、俺のアイテムボックスに入ってた方が性能が良かった。ただ、生成機から出てきたやつも普通のより質は上みたいだ」
「なるほど、ではこちらも検証するとしましょう。ちょうど片付けも終わったところですし。ティエラはどうしていますか?」
「ああ、もう回復薬ポーション作りは終わってるから、呼んでくる」
「それには及ばないわ」

 ティエラを呼びに行こうとシンが振り返ったところで、本人が顔を見せた。
 多少落ち着く時間があったからか、顔色は元通りだ。若干目が赤い気もしたが、それを見てシンは、涙が出るくらい笑ってたのかと微妙な気分になった。

「なに?」
「いや、なんでもない。料理は出来てるから早速食べ比べてみよう」

 料理をテーブルに並べて席に着いた。今回はユズハも人型だ。
 皆で「いただきます」と合掌がっしょうしてから試食を開始する。
 シンが最初に食べたのは、生成機から取り出した素材を使った方である。
 ロールキャベツやポトフ、ピラフなど、リアルでも食べなれた料理を次々に口へ運ぶ。

「ファミレスとは段違いの美味うまさなんだが」
「いつもの師匠ししょうの料理より、おいしい」
「くぅ、うま!」

 食べなれているからこそ、その美味さがよくわかる。今まで食べていたものも決して質が低いわけではないのだが、それでもはっきりと差がわかるほどに美味かった。
 まだもう一方の料理も残っているので、意志の力を総動員してはしを止める。

「じゃあ、次はこっちか」

 次はシンのアイテムボックスに入っていた素材を使った料理。比較のためにメニューや調理工程はすべて同じだ。
 箸でロールキャベツを2つに切り、口へ運ぶ。

「っ!?」

 その瞬間、シンとティエラの動きが、止まった。
 最初に思ったのは、これは本当にロールキャベツなのか? という感想だった。

「なんだこれ。ぶっちゃけ美味いという感想しか出てこないんだが、何が違うのかって聞かれても説明できん」
「同感だわ。おいしい以外に何を言えばいいのかわからない……」
「くぅ、うまうま、うま~」

 ユズハだけ平常運転だった。どちらの料理も、にこにこ笑顔で実に幸せそうに頬張ほおばっている。
 料理に対する純粋じゅんすいな反応としては、ある意味これが正解なのだろう。
 シンはシュニーと再会した夜に、アイテムボックスから出した素材をいくつか料理してもらったが、その時はカードから魔力は出ていなかったように思う。
 普通の食材と一緒に使ったせいもあるのか、今回のロールキャベツほどの衝撃は受けなかった。

「とりあえず、俺のアイテムボックス内のアイテムは使用注意だな。前はこんな状態じゃなかったと思うんだが」
「そうですね。生成機のアイテムでも十分すぎます。最近アイテムボックスに入れたものには、何か影響は出ていますか?」
「いや、そっちはとくに変化はないな。ただ時間が経つと変わるかもしれないから、いくつか検証用にチェックしとく」

 アイテムボックス内のアイテムはかなりの数になる。それらすべてを検証することはできないので、少数を選んで確認しないといけないだろう。


 食事を終えると、シンたちは生成機のある部屋のとなり、転移装置のある部屋へとやってきた。ギルドハウスがどうなっているか調べるのだ。

「見たところ、装置が壊れてるとかはなさそうだな」
「はい。念のためラスターにも確認してもらいましたが、問題ないと聞いています」

 ラスターは建築家でもある六天ろくてんメンバー、カインの配下であるサポートキャラだ。月の祠を作る際はカインに手伝ってもらったので、配下であるラスターも整備は可能だった。
 そのラスターが言うのだから、問題なく機能するだろう。

「じゃあ、とりあえず選択画面を出してっと……ん?」
「どうしました?」

 疑問の声を上げたシンにシュニーが近づく。これを見てくれとシンが横にずれると、移動場所を選択する画面がちょうどシュニーの前に来る。
 そこには一式から六式までのギルドハウスの名前が列挙されていた。ただ、それぞれの場所を選択しようとすると、『ブブッ』というくぐもった電子音が鳴る。
 これは使用できないアイテムを使おうとしたときや、移動不可能の場所を選択したときの音だ。
 どうやら、現状ギルドハウスには転移できないらしい。

「どういうことだ?」
「ここの装置は正常なのですから、ギルドハウスの方に何かあったのでしょうか?」
「いや、ラシュガムまで選択不可ってのが気になる。他はわからないが、少なくとも整備のできるラスターがいるラシュガムに問題があるとは思えんし」
「しかし、そうなると原因がわかりませんね。少し待ってください。ラスターにメッセージを飛ばしてみます」
「ああ、頼む。こっちも少しいじってみるわ」

 転移場所を指定する以外にも、装置の端末でできることはある。とりあえず、どの機能が生きているのか確かめることにした。

「月の祠内の機能は問題なしか。転移装置にもエラーはない。となると転移先に原因があるか、あるいは……」

 端末を操作しながら、シンは1つの仮説を立てた。
 それは、転移系のアイテムやスキル、装置などは、使用する本人がこの世界で、移動先に実際に行ったことがなければ使えないのではないか、というものだ。
 この世界に来てから、メッセージカードもリストが初期化されて使えなかった。
 以前、月の祠跡地に転移できたのはすでに訪れていたからだと考えると、説明が付く。

「こいつは、こっちから出向くしかないかね」
「シンの仮説が正しければ、そうするしかないと思います。ラスターはこちらに来たことがありますが、転移装置は使えませんし」

 話を聞いたシュニーが、シンの漏らした言葉に同意した。
 現状ではそれしかないだろう。
 ゲーム時代は、シュニーをはじめとしたサポートキャラクターに転移を付与した結晶石など持たせていなかったので、ラシュガムに行ったことのあるシュニーも、転移ポイントを登録していないのだ。

「転移を使うのが当たり前のセリフが飛び交ってる。慣れてきてる自分が怖いわ」
「そうやって染まっていくのだよ」

 どこか遠い目をしているティエラに、シンはいい笑顔とともに親指を立てた。

「やめて、うなずきそうになったじゃない」
「体は正直である、と」
「う、否定できない……」

 むしろ染まらないと、気が休まらないような気さえしたティエラである。
 その後はまたいくつかの装置やアイテムの検証を行った。つい熱が入り時間が遅くなってしまったので、そのまま月の祠に泊まることにした。


「……ふぅ」

 月が天高く上るころ、シンは1人、月の祠の裏手にある縁側えんがわに座っていた。その手には、サポートキャラのジラートとの戦いで折れたままの『真月しんげつ』が握られていた。

「さて、どうしたもんか。……ん?」

 月を見上げていると、よく知る気配が近づいてくる。

「眠れないのですか?」
「っ! あ、ああ、『真月』を打ち直そうかと思ったんだが」

 寝巻ねまき姿のシュニーに見惚れ、一瞬思考停止したシンだったが、なんとか答えることができた。
 自然に隣へと座るシュニーに、シンは『真月』を持ち上げて見せる。

「ジラートと戦った時ですね。見たところ、あの時のままのようですが」
「これまでも、何度か打ち直そうとは思ったんだ。ただ、なんというか、何かが足りないような気がしてな。ただ復元するならすぐにできるんだが、鍛冶師としてのかんが、それじゃ駄目だって言ってるんだよ……まあ、俺の勘が当てになるかはわからんけどな」

 そう言ってシンは困ったように笑う。
 ちょうどよかったので、今日は空いた時間に鍛冶場でいろいろと試してみたのだが、結果はかんばしくなかった。
 素材はそろっている。鍛冶師を極めているシンの技量不足もないだろう。おそらく、それ以外の何かが足りないのだ。

「少し、貸していただいてもいいですか?」
「ん? かまわないが」

 シンが『真月』を手渡すと、シュニーはそれを胸の前に持ってくる。
 どうするのかと様子を見ていると、シュニーの両手のひらで支えられた『真月』が、ゆっくりと輝き出した。


「っ!!」

 まるで月の光をそそぎ込まれたように発光する『真月』。シンがその輝きに驚き目を見開いていると、しばらくして発光は止まった。
 時間にして数十秒ほどの出来事だったが、シンにはそれよりもはるかに長く感じられた。
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