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4.手負いの熊

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 吐き出さないように丁寧に口まで押さえられてしまい、ローズはクッキーをごくんと飲み込んだ。

「飲み込んだな。さて、なんでこんな事をしたのか吐いてもらおうか」

 ブランはローズの上から降りるとその手を取って立たせた。
 ローズはドレスの汚れをパンパンとはたき落としながら口を尖らせる。

「もう飲み込んだから吐き出せないわ」

「そういうのは良いから」

 ローズの減らず口にブランが冷たい目を向ける。

「だっていくら私が美しいからって会ったこともないのに求婚する? プランタンはパレットに比べたら弱小国家で政略結婚するメリットだってたいして無いのに。だから理由が知りたかったのよ!」

「なるほど。ローズ姫は自分の美しさは理解しているのに、それで驕ったりはしないのだな」

「だってあなた、私の見た目に惚れてないじゃない」

 ローズは不機嫌な顔のままドスンと椅子に座り直した。

「ローズ姫のことは美しいと思っているが?」

 ブランはローズの向かいの椅子に優雅に座り涼しい顔をする。

「美しいと思っていても、顔に惚れてるわけじゃないでしょう?」

「なぜそう思う?」

「勘よ!」

「勘……?」

 ブランはローズがあまりにも強く言い切るので怪訝な顔をした。

(ブラン王子のこんな表情初めて見るわ。やっぱり薬は効いてるのね。でもいつものうさん臭い笑顔より感情がわかる分よっぽどマシだわ)

 ローズがフンと鼻を鳴らしながらブランに尋ねる。

「じゃああなた、私の『顔に惚れました』って言える?」

 ブランはローズの言葉に沈黙で返した。
 『真の姿をさらけ出す薬』のせいで嘘をつけない今、黙るということはやはり「顔には惚れていない」ということなのだろう。

「ほら、やっぱり! 私の勘は当たるのよ。『プリンセスローズ』を流行らせたのだってこの勘を駆使してやってきたんだから!」

 アネモネがローズの言葉にうんうんとうなずいている。

「姫さまは人より野生の勘が鋭くていらっしゃるので」

「私を野生動物みたいに言わないでよ!」

「姫さまは手負いの熊みたいなもんですよ」

 アネモネとのやり取りに、ブランの方からクスッという笑い声が聞こえる。
 ぶすくれた表情のままローズはブランに目をやった。
 ブランは余計なことを口走らないようにか、涼しい顔をして黙ったままだ。
 いくら『真の姿をさらけ出す薬』を飲ませても、こう黙っていられては求婚の理由を話してはくれないだろう。
 ローズは理由を聞く事をあきらめて、それよりも湧き上がってくる自らの欲望に忠実になることにした。

「ね、手合わせして!」
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