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四章 アレクサンドラとディアナ
81.白い河の向こう-2
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真子はそのまま研究室でフェリシアを手伝っていたが、夕方になり先に帰って良いと言われたので一人で先に月の宮に帰った。
アレクサンドラもまだ帰ってきておらず、真子は一人で夕飯を食べ部屋に戻った。
お風呂にも入り寝る支度を終えて一人ベッドに入ると、昼間のフェリシアの言葉が頭をよぎった。
(元の世界に戻れるかもしれない?)
死にかけてみるだなんて、その方法はまったく現実的ではないけれど、手がかりがまるで無かった頃に比べれば少しだけ先が見えたような気がする。
(そう簡単に、死にかけたりはしない、よね……?)
『死』を考えて、真子はギクリとする。
狭間の世界で倒れているアレクサンドラの姿を見た時、真子はアレクサンドラが死んでしまったのではないかと恐ろしかった。
見せられたアレクサンドラの過去だって、その時に死んでしまっていてもおかしくないくらいの暴力だった。
そして実際にディアナは死んでしまった。
そもそもディアナに襲われた時だって、マリーベルと真子は死ぬかもしれなかった。
そう、真子は階段から落ちて、この世界の上空に現れて、その時に死んでいてもおかしくなかった。
急激に『死』の重みが襲ってきて、真子は息が苦しくなった。
肉体を捧げるヤドナの魔術士の話、老人のようになったというディアナ、元の世界に戻る方法、それらがグルグルと頭の中を回る。
真子はギュッと目をつぶり布団を頭から被って小さく縮こまると、恐怖に押しつぶされないように必死に自分の身体を強く抱きしめた。
*****
真子は暗闇に一人佇んでいた。
どこからともなく赤髪の少年が現れて殴られて倒れこむ。少年はまぶたが腫れ、鼻や口の端から血を流している。
ふと、少年の姿が今のアレクサンドラの姿に変わる。
その傍にはディアナが立ち、大きな氷の槍を作って振りかぶるとそのままアレクサンドラの身体を貫こうとする。
(やめて……っ!!)
真子が叫ぼうとしたその瞬間――。
「マーコ」
身体を揺すぶられて真子は目を覚ました。
目を開けると目の前には心配そうに覗き込むアレクサンドラの顔があった。
身体中が嫌な汗でグッショリと濡れて、心臓がバクバクと早鐘を打っている。
「起こしてごめんなさい。ひどくうなされていたから。どこか辛いところは無い?」
目の前のアレクサンドラの姿と夢の中での姿が重なり、真子は目に涙をためながら両手を広げた。
アレクサンドラは真子の背中に手を回して身体を持ち上げると、ベッドの上に座って真子を膝の上に乗せて抱きしめた。
真子がアレクサンドラの首にしがみつくと、アレクサンドラは片手で真子の頭をかき抱き、もう一方の手を真子の背中に回して身体を強く押しつける。
「マーコ」
「マーコ」
真子はアレクサンドラの首にすがりつきながら嗚咽を漏らし、アレクサンドラはその間、何度も何度も真子の名を呼びながら真子を決して離すまいと強く抱きしめ続けた。
真子がようやく少し落ち着いて身体を離そうとしたら、アレクサンドラはグイとそんな真子の身体をさらに密着させて腕を緩めてはくれなかった。
「マーコ、何があったの? アタシに教えてくれる?」
「あの、急に、死ぬのが怖くなって……そしたら、夢で、アレクがディアナに……」
「そう」
アレクサンドラはそのまま黙って真子を腕の中に抱きしめた。
「……ごめんなさい。アレクはお仕事で忙しいのに」
「マーコ。アタシはあなたが一人で苦しんだり泣いていたりする方が辛いわ。お願いだから側にいさせて」
「うん……」
アレクサンドラが少し腕を緩めると、真子の頭と背中をゆっくり撫で始めた。
「ねぇ、アレク。ディアナの最期はどうだったの……?」
「聞いても辛い思いをするかもしれないわよ?」
「聞くのは怖い。でも、知らないままの方が、もっと怖い」
「わかったわ」
アレクサンドラは静かな低い声でゆっくり話し始めた。
アレクサンドラもまだ帰ってきておらず、真子は一人で夕飯を食べ部屋に戻った。
お風呂にも入り寝る支度を終えて一人ベッドに入ると、昼間のフェリシアの言葉が頭をよぎった。
(元の世界に戻れるかもしれない?)
死にかけてみるだなんて、その方法はまったく現実的ではないけれど、手がかりがまるで無かった頃に比べれば少しだけ先が見えたような気がする。
(そう簡単に、死にかけたりはしない、よね……?)
『死』を考えて、真子はギクリとする。
狭間の世界で倒れているアレクサンドラの姿を見た時、真子はアレクサンドラが死んでしまったのではないかと恐ろしかった。
見せられたアレクサンドラの過去だって、その時に死んでしまっていてもおかしくないくらいの暴力だった。
そして実際にディアナは死んでしまった。
そもそもディアナに襲われた時だって、マリーベルと真子は死ぬかもしれなかった。
そう、真子は階段から落ちて、この世界の上空に現れて、その時に死んでいてもおかしくなかった。
急激に『死』の重みが襲ってきて、真子は息が苦しくなった。
肉体を捧げるヤドナの魔術士の話、老人のようになったというディアナ、元の世界に戻る方法、それらがグルグルと頭の中を回る。
真子はギュッと目をつぶり布団を頭から被って小さく縮こまると、恐怖に押しつぶされないように必死に自分の身体を強く抱きしめた。
*****
真子は暗闇に一人佇んでいた。
どこからともなく赤髪の少年が現れて殴られて倒れこむ。少年はまぶたが腫れ、鼻や口の端から血を流している。
ふと、少年の姿が今のアレクサンドラの姿に変わる。
その傍にはディアナが立ち、大きな氷の槍を作って振りかぶるとそのままアレクサンドラの身体を貫こうとする。
(やめて……っ!!)
真子が叫ぼうとしたその瞬間――。
「マーコ」
身体を揺すぶられて真子は目を覚ました。
目を開けると目の前には心配そうに覗き込むアレクサンドラの顔があった。
身体中が嫌な汗でグッショリと濡れて、心臓がバクバクと早鐘を打っている。
「起こしてごめんなさい。ひどくうなされていたから。どこか辛いところは無い?」
目の前のアレクサンドラの姿と夢の中での姿が重なり、真子は目に涙をためながら両手を広げた。
アレクサンドラは真子の背中に手を回して身体を持ち上げると、ベッドの上に座って真子を膝の上に乗せて抱きしめた。
真子がアレクサンドラの首にしがみつくと、アレクサンドラは片手で真子の頭をかき抱き、もう一方の手を真子の背中に回して身体を強く押しつける。
「マーコ」
「マーコ」
真子はアレクサンドラの首にすがりつきながら嗚咽を漏らし、アレクサンドラはその間、何度も何度も真子の名を呼びながら真子を決して離すまいと強く抱きしめ続けた。
真子がようやく少し落ち着いて身体を離そうとしたら、アレクサンドラはグイとそんな真子の身体をさらに密着させて腕を緩めてはくれなかった。
「マーコ、何があったの? アタシに教えてくれる?」
「あの、急に、死ぬのが怖くなって……そしたら、夢で、アレクがディアナに……」
「そう」
アレクサンドラはそのまま黙って真子を腕の中に抱きしめた。
「……ごめんなさい。アレクはお仕事で忙しいのに」
「マーコ。アタシはあなたが一人で苦しんだり泣いていたりする方が辛いわ。お願いだから側にいさせて」
「うん……」
アレクサンドラが少し腕を緩めると、真子の頭と背中をゆっくり撫で始めた。
「ねぇ、アレク。ディアナの最期はどうだったの……?」
「聞いても辛い思いをするかもしれないわよ?」
「聞くのは怖い。でも、知らないままの方が、もっと怖い」
「わかったわ」
アレクサンドラは静かな低い声でゆっくり話し始めた。
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