【R18/完結】猫は魚を食べちゃいたい(※性的な意味で)〜愛され巫女の運命の番は美形で意地悪な吟遊詩人〜

河津ミネ

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一章 精霊の愛し子

10.猫耳と尻尾-1

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 雲の合間から顔を出した月が真っ白な砂浜を照らしている。
 白い砂の上に、ザバリ、と海から二人分の黒い影が現れた。
 ルルティアは背負っていたアミルの身体を砂の上にドサリと落とした。

「アミル! アミル!!」

 アミルの頬をペシペシと叩く。

 アミルが崖から海に落ちたと気づいた時、ルルティアはすぐに海中に潜ってアミルの身体を抱えこみ一気にその場から泳いで離れた。
 そして崖から十分な距離をとったあと、静かに海面から顔を出した。
 雲が月を隠してくれたのであたりは暗くなっていたのがちょうど良かった。
 アミルと争っていた大柄な男にその姿が見つからないよう注意を払いながら、ルルティアはアミルを背負って無人島であるカプ島まで泳いでわたった。

 雲間から差し込む月の光がアミルの身体を照らす。
 砂浜に転がったアミルに大きなケガは見当たらなかったが、身体中に斬られたような赤い傷があった。

「アミル! ねぇ、起きて!」

「う……ううん……」

「アミル!!」

 もぞもぞ身体を動かしたと思ったら、アミルの銀の髪がみるみるうちに黒い髪に変わり、ニョキ! と黒い猫耳が頭に生えてきた。

「え、何これ」

 黒髪の間から黒い猫耳が生えてピクピクと動いている。

「えぇ、何これ! 何これ!!」

 よく見るとズボンのお尻の方から真っ黒い尻尾も飛び出してニョロンと動いている。

「かわいい……っ! アミルって本当は黒猫の精霊か何かなの?」

 ルルティアはもちろん猫耳が生えている人を見たのなんて初めてだ。
 アミルのケガは心配だったけれど、ピョコピョコ動く猫耳があまりにもかわいらしくてルルティアはツンとつついてみる。
 するとアミルがブルリとみじろぎしてゆっくり目を開けた。

「ん……、お……まえは……?」

「あ、アミル!! 目が覚めた? どこか痛いところは?」

「ん……。あんた、あの長の、娘……か?」

「そうよ。あなたが崖から落ちたからここまで連れてきたの」

「んん……あんたが? ここは?」

「ここはカプ島。マラマ島の近くの無人島だからさっきの人もここまでは来られないはず」

 さっきの人、と聞いてアミルは崖から落ちる前のことを思い出したのか険しい顔をした。

「あぁ、それは、すまない。助かった」

 いてて、と顔をしかめながらアミルがゆっくりと身体を起こす。
 しかしルルティアはピコピコと動いている耳から目を離せなかった。

「あの、アミルって本当は黒猫だったの?」

「は?」

「だってその耳と尻尾」

「耳? 尻尾?」

 ルルティアが頭に生えた猫耳を指差すと、アミルが頭に手をやった。
 そしてその手が猫耳に触れた瞬間、驚きの声をあげた。

「へ? 耳? 尻尾!? って、なんだこりゃ!!」

 さらにお尻に目をやり尻尾が生えているのも確認し、アミルは自分の猫耳と尻尾を勢いよく引っ張った。

「いってぇ! って、あん? これ、バズか?」

「バズ?」

「俺の猫の……って、あぁ、俺が死にかけていたからバズが力を貸してくれたのか……。ありがとな、バズ」

 アミルはしばらくグーパーと手を動かしてその感触を確かめた後、目をつぶって自分の握った拳に感謝を込めるように軽くキスをした。
 アミルがあまりにも柔らかい笑顔を浮かべながらキスをするので、ルルティアはポーッと見惚れてしまった。

 アミルは、いてて、と言いながら身体を動かしてケガの具合を確かめた。

「とりあえず色んなところが痛いけど、骨とか内臓とかヤバイところは大丈夫そうだ」

「それなら良かった……」

「あんたが助けてくれたのか。とりあえず礼を言う」

「ううん……」

 アミルがルルティアの方を見てお礼の言葉を口にするが、頭の上でピコピコと動いている猫耳が気になってアミルの言葉がうまく耳に入ってこない。
 猫耳に向かうルルティアの目線に気づき、アミルは少し気まずい顔をしてからハァとため息をついた。

「驚かないんだな」

「いや、えっと、驚いてるけど、それよりかわいいなって。ね、触っても良い?」

「かわいいって、あんたずいぶんのんきだな」

 アミルがハッと笑い声をあげる。
 口の端を上げた皮肉げな笑い方に、ルルティアはバカにされたのがわかって口を尖らせた。
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