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二章 巫女の舞
32.パウさまとアミルの話-1
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アミルが舞台の前の人ごみから抜け出ると、ルルティアが手まねきしていた。
「アミル! こっちこっち」
「なんだよ」
ルルティアが自分に笑顔を向けているのを見て、さっきまで胸に広がっていた不愉快な気持ちが少しだけやわらいだ。
「あのね、パウさまとお話できそう」
先代の巫女のパウさまは身体が弱っていることもあって、最近では決められた人としか会わないのだという。
「今日は祭を見にコモハナ島から出てきてるから、ヌイの付き添いってことにして少しだけなら会えるって!」
ルルティアの口からヌイの名前を出されて思わず顔をしかめてしまった。
ヌイはアミルがパウさまに会いたがるのを不思議がっていたようだが、ルルティアが強く希望するので折れてくれた。
「アミル、パウさまに失礼のないように」
「わかってるよ」
三人でパウさまが休んでいる天幕まで向かうと入り口の前にはパウさまのお付きの女性と男性が一人ずつ立っていた。
お付きの女性がルルティアとヌイに声をかける。
「ルルティアさま、ヌイ先生、こんにちは」
「パウさまのお加減はいかがですか?」
「少しお疲れのようで、中で休んでいただいています」
お付きの男性がアミルを上から下までジロリとながめる。
「ヌイ先生、この方は?」
「ルルティアのところの客人です。後学のために見学をしたいと言うので連れてきました」
アミルはフッと小さく息を吐いてから、顔を上げて優雅に微笑んだ。
「よろしくお願いいたします」
お付きの二人はアミルの美しい笑顔に見惚れて顔を赤くしていた。
******
「パウさま。ルルティアさまとヌイ先生がいらっしゃいました」
お付きの女性が天幕の入り口に声をかけてから、入り口の布を開いて中へ入るように促した。
「パウさま! どうだった?」
「おぅ、ルルティア。なかなか良く舞えていたじゃないか」
「そうかな? ありがとうございます」
天幕の中で座っている老女にルルティアが駆け寄って話しかけていた。
あれが先代の巫女のパウさまなのだろう。
パウさまは顔を上げてヌイの隣に立つアミルを見た。
「おぬしは?」
アミルを探るように見るパウさまの目は深い海の色をしていた。
この人の前ではすべてを正直に見せた方が良いとアミルの勘が告げる。
素性も明かさずに詳しい話を聞けるはずがない。
アミルはこぶしをグッと握り覚悟を決めた。
「……バズ」
アミルの呼びかけに、ポン、とアミルの足下にバズが現れた。
パウさまはバズを見ても表情を変えず、アミルをじっと見つめる。
ルルティアはアミルが人前でバズを出したことに驚きながらも、ヌイには見えてないはずなので黙ったままアミルとバズとパウさまを交互に見ていた。
「ふぅむ、ヌイ。こやつと二人きりで話をしたい」
「パウさま!?」
「おぬしらは外に出な」
パウさまが手を振って二人に外に出るよう促す。
ヌイは納得できないようでその場を動かなかったが、ルルティアがヌイの腕を取る。
「大丈夫だから外に出よう、ヌイ」
「ルル、でも……」
「アクアさまを置いてくから、ね? アクアさま、お願い!」
アクアさまを天幕の中に泳がせて、ルルティアはヌイの手を引っ張った。
ヌイはまだ納得できないようだったが、しぶしぶアミルの肩をつかんで釘を刺した。
「アミル、くれぐれもパウさまに失礼なことをするなよ」
「あぁ、もちろん」
ルルティアとヌイが天幕から出て行って、パサリと入り口の布が閉まる音がした。
「アミル! こっちこっち」
「なんだよ」
ルルティアが自分に笑顔を向けているのを見て、さっきまで胸に広がっていた不愉快な気持ちが少しだけやわらいだ。
「あのね、パウさまとお話できそう」
先代の巫女のパウさまは身体が弱っていることもあって、最近では決められた人としか会わないのだという。
「今日は祭を見にコモハナ島から出てきてるから、ヌイの付き添いってことにして少しだけなら会えるって!」
ルルティアの口からヌイの名前を出されて思わず顔をしかめてしまった。
ヌイはアミルがパウさまに会いたがるのを不思議がっていたようだが、ルルティアが強く希望するので折れてくれた。
「アミル、パウさまに失礼のないように」
「わかってるよ」
三人でパウさまが休んでいる天幕まで向かうと入り口の前にはパウさまのお付きの女性と男性が一人ずつ立っていた。
お付きの女性がルルティアとヌイに声をかける。
「ルルティアさま、ヌイ先生、こんにちは」
「パウさまのお加減はいかがですか?」
「少しお疲れのようで、中で休んでいただいています」
お付きの男性がアミルを上から下までジロリとながめる。
「ヌイ先生、この方は?」
「ルルティアのところの客人です。後学のために見学をしたいと言うので連れてきました」
アミルはフッと小さく息を吐いてから、顔を上げて優雅に微笑んだ。
「よろしくお願いいたします」
お付きの二人はアミルの美しい笑顔に見惚れて顔を赤くしていた。
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「パウさま。ルルティアさまとヌイ先生がいらっしゃいました」
お付きの女性が天幕の入り口に声をかけてから、入り口の布を開いて中へ入るように促した。
「パウさま! どうだった?」
「おぅ、ルルティア。なかなか良く舞えていたじゃないか」
「そうかな? ありがとうございます」
天幕の中で座っている老女にルルティアが駆け寄って話しかけていた。
あれが先代の巫女のパウさまなのだろう。
パウさまは顔を上げてヌイの隣に立つアミルを見た。
「おぬしは?」
アミルを探るように見るパウさまの目は深い海の色をしていた。
この人の前ではすべてを正直に見せた方が良いとアミルの勘が告げる。
素性も明かさずに詳しい話を聞けるはずがない。
アミルはこぶしをグッと握り覚悟を決めた。
「……バズ」
アミルの呼びかけに、ポン、とアミルの足下にバズが現れた。
パウさまはバズを見ても表情を変えず、アミルをじっと見つめる。
ルルティアはアミルが人前でバズを出したことに驚きながらも、ヌイには見えてないはずなので黙ったままアミルとバズとパウさまを交互に見ていた。
「ふぅむ、ヌイ。こやつと二人きりで話をしたい」
「パウさま!?」
「おぬしらは外に出な」
パウさまが手を振って二人に外に出るよう促す。
ヌイは納得できないようでその場を動かなかったが、ルルティアがヌイの腕を取る。
「大丈夫だから外に出よう、ヌイ」
「ルル、でも……」
「アクアさまを置いてくから、ね? アクアさま、お願い!」
アクアさまを天幕の中に泳がせて、ルルティアはヌイの手を引っ張った。
ヌイはまだ納得できないようだったが、しぶしぶアミルの肩をつかんで釘を刺した。
「アミル、くれぐれもパウさまに失礼なことをするなよ」
「あぁ、もちろん」
ルルティアとヌイが天幕から出て行って、パサリと入り口の布が閉まる音がした。
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