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二章 巫女の舞
33.パウさまとアミルの話-2
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「猫の精霊か。もう失われたと聞いておったが」
パウさまは足元まで来てフンフン匂いを嗅いでいるバズの頭をなでながら目を細める。
「おぬし、産まれた地に帰れていないのだな」
「……」
「ふむ、答えたくないなら答えなくても構わん」
パウさまが床をトンと叩いて座るように促したので、アミルはパウさまの正面の床に座った。
「おぬしら名は何という?」
「俺はアミル。そいつはバズと言います」
「ふむ。ではおぬしは何者だ? なぜ猫の精霊と共にいる?」
パウさまはアミルの正体を見極めるように目を細めて見つめる。
アミルはゴクリと唾を飲み込んだ。
「……俺は……俺は猫の愛し子です。俺の父も猫の愛し子でした。父は俺が産まれてすぐに亡くなりました」
アミルは自分が猫の愛子であることを初めて人前で口にした。
口の中が乾いて少し声が震えてしまった。
膝の上で握る手にじんわりと汗がにじむ。
「なるほどな。猫の愛し子が代替わりしたことを最期まで隠し通したのか」
アミルの言葉にパウさまが納得したように一人うなずく。
パウさまはしばらく思案してから一言つぶやいた。
「蛇」
アミルの肩がビクリと跳ねた。
『蛇の奴らに殺されてしまうよ』
アミルの頭の中に懐かしい人の声が響く。
アミルによく似た顔立ちをした女性は、かつて幼いアミルにいつもそう言い聞かせていた。
アミルは一気に血の気が引いて手足が冷たくなっていくのを感じた。
それなのに背中には汗をかいてツーッと垂れている。
頭の中がガンガンと鳴り響き、ハッハッと浅い息を吐く。
バズがアミルの肩までトトトと登り頭を頬にすりつけた。
ニャア、と鳴くバズの声を聞いてアミルはフゥーと長い息を吐いた。
「ん、大丈夫だ」
アミルは震える手でバズの頭をゆっくりとなでた。
「安心しろ。ワシはおぬしらの敵ではない。おぬしの父が蛇の一族の長に襲われたことをおぬしは知っておるようだな」
「はい。パウさまは俺の父をご存知なのですか?」
「会ったことは無いが話には聞いたことがある。猫の愛し子だったせいで蛇の一族の長に狙われたとな。おぬしは蛇の長について何か知っておるか?」
「ほとんど何も知りません。ただ俺を連れて逃げてくれた人から、バズのことを人に知られると『蛇の奴らに殺されてしまうよ』と言われて育ちました」
「そうか。蛇の長はな、己の私利私欲のために蛇の愛し子を殺しおった。精霊の愛し子を殺した一族に精霊が加護を与えるわけがない。それ以来、蛇の奴らのところには蛇の愛し子は現れておらん。蛇の長は特別な力を持つ他の精霊の愛し子を恐れた」
だからおぬしの父が狙われたのだろう、とパウさまは静かな声で告げた。
「かの地は新たな猫の愛し子が産まれるのを恐れた蛇の長に監視されておる。だからおぬしらは帰れないのだろう?」
アミルはバズの頭に手を置いたまま、黙って小さくうなずいた。
「アイラナは海に囲まれ守られておるから今まで蛇の長に狙われることはなかった。だがルルティアは狙われるかもしれん」
「ルーが!?」
パウさまが厳しい顔をしてアミルを見つめていた。
パウさまは足元まで来てフンフン匂いを嗅いでいるバズの頭をなでながら目を細める。
「おぬし、産まれた地に帰れていないのだな」
「……」
「ふむ、答えたくないなら答えなくても構わん」
パウさまが床をトンと叩いて座るように促したので、アミルはパウさまの正面の床に座った。
「おぬしら名は何という?」
「俺はアミル。そいつはバズと言います」
「ふむ。ではおぬしは何者だ? なぜ猫の精霊と共にいる?」
パウさまはアミルの正体を見極めるように目を細めて見つめる。
アミルはゴクリと唾を飲み込んだ。
「……俺は……俺は猫の愛し子です。俺の父も猫の愛し子でした。父は俺が産まれてすぐに亡くなりました」
アミルは自分が猫の愛子であることを初めて人前で口にした。
口の中が乾いて少し声が震えてしまった。
膝の上で握る手にじんわりと汗がにじむ。
「なるほどな。猫の愛し子が代替わりしたことを最期まで隠し通したのか」
アミルの言葉にパウさまが納得したように一人うなずく。
パウさまはしばらく思案してから一言つぶやいた。
「蛇」
アミルの肩がビクリと跳ねた。
『蛇の奴らに殺されてしまうよ』
アミルの頭の中に懐かしい人の声が響く。
アミルによく似た顔立ちをした女性は、かつて幼いアミルにいつもそう言い聞かせていた。
アミルは一気に血の気が引いて手足が冷たくなっていくのを感じた。
それなのに背中には汗をかいてツーッと垂れている。
頭の中がガンガンと鳴り響き、ハッハッと浅い息を吐く。
バズがアミルの肩までトトトと登り頭を頬にすりつけた。
ニャア、と鳴くバズの声を聞いてアミルはフゥーと長い息を吐いた。
「ん、大丈夫だ」
アミルは震える手でバズの頭をゆっくりとなでた。
「安心しろ。ワシはおぬしらの敵ではない。おぬしの父が蛇の一族の長に襲われたことをおぬしは知っておるようだな」
「はい。パウさまは俺の父をご存知なのですか?」
「会ったことは無いが話には聞いたことがある。猫の愛し子だったせいで蛇の一族の長に狙われたとな。おぬしは蛇の長について何か知っておるか?」
「ほとんど何も知りません。ただ俺を連れて逃げてくれた人から、バズのことを人に知られると『蛇の奴らに殺されてしまうよ』と言われて育ちました」
「そうか。蛇の長はな、己の私利私欲のために蛇の愛し子を殺しおった。精霊の愛し子を殺した一族に精霊が加護を与えるわけがない。それ以来、蛇の奴らのところには蛇の愛し子は現れておらん。蛇の長は特別な力を持つ他の精霊の愛し子を恐れた」
だからおぬしの父が狙われたのだろう、とパウさまは静かな声で告げた。
「かの地は新たな猫の愛し子が産まれるのを恐れた蛇の長に監視されておる。だからおぬしらは帰れないのだろう?」
アミルはバズの頭に手を置いたまま、黙って小さくうなずいた。
「アイラナは海に囲まれ守られておるから今まで蛇の長に狙われることはなかった。だがルルティアは狙われるかもしれん」
「ルーが!?」
パウさまが厳しい顔をしてアミルを見つめていた。
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