【R18/完結】猫は魚を食べちゃいたい(※性的な意味で)〜愛され巫女の運命の番は美形で意地悪な吟遊詩人〜

河津ミネ

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四章 アミル失踪

56.小船に揺られて-1

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 アミルはまだ暗いうちにマラマ島から海に出た。
 ある程度マラマ島を離れてもう誰にも見られることは無さそうだと確信してからバズに声をかけた。

「バズ、頼む」

 姿を現したバズがニャと鳴くと、バズの身体がアミルの身体の奥に溶けていってアミルの銀髪が黒髪に変わっていく。
 一体化するたびに激しい性衝動に困らされたが、それもだいぶコントロールできるようになっていた。
 一体化のおかげでアミルの力は常人離れしたものとなり、船はすごい速さで波をかきわけ進んでいく。
 やがて朝がやってきて夜の闇に染まっていた空が朝焼けに変わっていった。

(あぁ、ルルティアの目の色だ)

 アミルを見つめる朝焼け色の美しい目を思い出す。


 ****


 アミルと同じように精霊の加護を受けていながら、それを隠すこともなくみなに愛されているルルティア。
 最初はそんな平和でのんきな姿が妬ましくて少しイラついた。
 一体化の影響とはいえ、我を忘れてあんな子に自分のモノを握らせてしまったのが恥ずかしくてからかったりもした。

 でもあの祭りの日、ルルティアの舞を見た時からアミルの心の中からそんな気持ちは消え失せた。
 ルルティアの舞う姿はたいそう美しかった。
 そこに邪心はひとかけらもなく、ルルティアがみなの幸せをただひたすらに祈っていることが伝わってきた。
 鈴の音が鳴り響き、その手が宙をなめらかにただよう。
 目線がアミルの上を通り過ぎていくたびに、アミルを縛り続けていた罪の意識が少しずつ溶かされていくような心地がした。
 ルルティアの清らかな水のような想いがアミルの身体の中を満たしていく。
 自分を赦せないでいるアミルにも幸せになって良いんだよと告げていった。
 ルルティアが舞を終えると周りの人々はみな笑顔でルルティアを見上げ口々に感謝の言葉を述べていた。
 周りを不幸にすることしかできない自分の力とはなんて違うんだと胸が締めつけられた。
 そして舞台袖でヌイと笑い合うルルティアを見た瞬間、アミルの胸には激しい怒りにも似た感情がふつふつと湧き上がる。

(あんな俺を誘うような匂いを出して、あんなとろけたような目で俺を見つめるくせに、俺以外にそんな顔を向けないでくれ……!)

 乞い願うような想いにジリジリと胸を焼かれて、アミルはやっと自分がルルティアに強く惹かれていることを自覚した。

 連絡船の上でルルティアと初めて目が合った時、美しい音色と花のような甘い香りに包まれ、明るい太陽が青い海と白い砂浜を照らす光景が頭の中に映し出された。
 海の中にいるはずもない可憐な少女の姿と頭の中に広がったあまりにも美しい光景に、海の魔物に魅入られたに違いないと思った。

 あの時からとっくにルルティアに囚われていたというのに。

 先代の魚の巫女だというパウさまに会って『ルルティアを守れ』と言われ、周りを不幸にするしかできない自分にルルティアを守れるのか? とアミルは不安になった。
 俺には相応しくない、でも誰にも渡したくない、そんな感情の狭間で揺れ動いた。
 ルルティアに島の案内を頼み二人で楽しい時間を過ごしていると、このままずっと一緒にいても良いような気がしてくる。
 しかしすぐにそんなわけがないと心の中で打ち消す。
 俺ではあんたを幸せにできないんだと告げるように、アミルは自分の罪をルルティアに話した。

 バズがいない世界なんて考えられない。
 バズがいてくれたおかげで今があって、それがとてつもない幸運だと思っている。
 でもそのせいで周りを不幸にしてきた。
 そんなグチャグチャな想いを吐き出した。

 パウさまの「そこに意味なんてない」という言葉にすがるみっともない姿を見て、ルルティアは自分から離れていってしまうのだろうかとアミルは震えた。
 しかしルルティアから与えられた言葉は慈愛に満ちあふれていた。

「アミルのせいじゃないよ」

 アミルを優しく抱きしめるルルティアはあたたかくて柔らかくて、そして甘い匂いをさせていた。
 自分を赦せないでいるアミルのことまでルルティアは赦してくれる。
 一体どれだけのものを与えてくれるというのか。

(ルルティア、あんたのことが愛おしくてならない)

 狂おしいほどの想いを抱えながら、アミルはこのままルルティアといくつもの朝を共に迎えたいと願った

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