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四章 アミル失踪

57.小船に揺られて-2

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 アイラナで美しも穏やかな日々を過ごしていると、パウさまを喪ったルルティアがパウさまを想って涙を流した。

(なんて美しい涙だろう)

 この強く気高い美しい少女をアミルは守りたいと思った。

 ひとしきり涙を流したあと、ルルティアの髪色がオレンジ色から青色に変わっていく。
 アクアさまとの一体化だった。
 ルルティアは敏感になった身体を震わせながら、アミル、と名を呼んで手を伸ばした。
 たまたま側にいただけで、そこに気持ちがないのはわかっている。
 嫌だと泣くルルティアにせめて気持ちよくなって欲しくて、思いきり気持ちよくすれば少しでも身体から絆されてくれるんじゃないかなんて情けない下心で、ルルティアの身体に必死に快感を与えた。
 ルルティアが意識を失ってゆるりと一体化が解けていく姿を前に、まだ起きないでくれと願いながらこっそりと自分を慰めた。
 なめらかなあたたかく柔らかい肌、耳をくすぐるかん高い喘ぎ声、頭の芯を溶かすような甘い匂い、そしてキツく締めつける濡れた中、そのどの記憶もアミルを否応なく昂らせた。
 手の中に大量の精を吐いてもまだ勃ち上がってくるモノに、これ以上は申し訳なくて必死に落ち着かせた。

 泣くほど嫌がっていたのに。
 傷つけたいわけじゃなかったのに。
 誰よりも優しく大事にしたかったのに。

 自己嫌悪がひどくてアミルはルルティアの顔をまともに見られなかった。

(このまま誰にもわたしたく無い。この思いを告げて俺だけを見て欲しい)

 アミルは今の何も約束できない中途半端な自分のままではダメだ、と自分の運命にケリをつけることを決めた。


 *****


 少しでもルルティアの助けになりたくて、レナの薬の原料となるシャウキが手に入らないかノウスに手紙を飛ばした。
 八の月の連絡船にわざわざエクウスがシャウキと共に乗ってきたのには驚いたが、アミルのことはついでだと告げた。

「お前を追っていたヤツがこの島の巫女のことを調べて皇帝に報告したそうだ。皇帝は巫女を手に入れる気になった。俺はそれをアイラナの長に報告しにきた。どうせ今日の宴では他の人がいて話せないからな。明日、長にその話をする。これがノウスさまから預かってきた手紙だ」

「巫女ってルルティアのことか!?」

 珍しく取り乱すアミルの様子にエクウスがおや、と眉を上げる。

「巫女を知っているのか?」

「さっき俺と一緒にいたのがそうだ」

「なんだと!」

「エクウス。俺にも協力させてくれ」

「良いのか? 俺はお前に協力して欲しいと思っているが、ノウスさまはお前には安全なところで身をひそめていて欲しがっている」

「あぁ、わかっている。でも俺にもヤツを倒さなくてはいけない理由ができた」

 他のヤツらに、ましてや蛇のヤツなんかにルルティアを渡してたまるかとアミルがギリと奥歯を噛み締めた。

「コレを渡す代わりに協力してくれないか交渉するつもりだったんだがなぁ。もしやコレも彼女のためか?」

 茶色い包みをアミルに手渡しながら、お前が誰かに執着するところを初めて見た、とエクウスは笑った。


 *****


 ルルティアの父であるアイラナの長のアリイさまから船を借りられる算段もついたので、アミルはルルティアをデートに誘った。
 二人は永遠だなんていうバカみたいな言い伝えにわずかばかりの期待を込めて山に登った。

 ルルティア、みなに愛されみなの幸せを祈る青い魚の愛し子。
 無事に帰って来れるかなんてわからない。
 だから何の約束もできない。
 本当はキスだってすべきじゃなかった。
 でも必ずヤツの息の根を止めてくるから。
 あんたには手を出せないようにするから。

 赤みを帯びた朝焼けの空が明るい青空に変わっていく。

(ルルティア、無事に帰って来たらあんたに聞いて欲しいことがある)

 心の中でつぶやくと、黒い猫耳と尻尾で風を受けながら波の激しくなっていく海にアミルは迷いなく船を進めた。
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