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六章 愛の歌
77.十の月の連絡船-2
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「これは?」
「砂の国ラムールの王家に伝わる指輪です。俺はラムールの最後の王マリクの息子です」
「君はやはりラムールの王族だったのか?」
「はい。俺が産まれてすぐの頃にラムールはウトビアに侵攻され、父はメトゥスに討たれました。母もその時に亡くなりましたが、姉と俺をひそかに王宮から逃してくれました。その姉も十年前に病で亡くなりました」
「確かにこれは本物に見える」
アリイが指輪を手に取って確認してから机の上に戻し話の続きを促した。
「俺はラムール王家の生き残りであり、ご存じの通り猫の愛し子でもあったので、メトゥスに命を狙われており素性を隠していました。黙っていて申し訳ありませんでした」
「そうか。いや事情がわかれば仕方ない。君の家族のことは残念だが君だけでも無事でよかった」
「ありがとうございます」
アミルは頭を一度下げてから、顔を上げてアリイの目をまっすぐに見つめた。
「アリイさま、ルルティアは国も民も家族もすべて失った俺がやっと見つけた唯一の人です。どうか一緒にならせてください」
アミルがもう一度、今度は先ほどよりも深く頭を下げたのを見て、横であわててルルティアも頭を下げる。
「父さま、お願いします」
アリイの口からは、うぐ、だとか、むう、だとかよくわからない音が出ていた。
アリイは不機嫌な顔をしたままヌイにチラリと目をやった。
「ヌイはどう思う」
アリイまでヌイとルルティアを結婚させるなんて言い出すのかと焦るルルティアの横で、アミルは射抜くような目でヌイをにらんだ。
アリイに劣らず厳しい表情をしていたヌイがそんな二人の様子を見てフッと頬を緩めた。
「アリイさん、ここで二人のことを認めないと一生ルルに恨まれますよ。それでも良いんですか?」
ヌイの思わぬ助け船にアミルは目を開いた。
ヌイは口の端にイタズラな笑みを浮かべたまま肩をすくめた。
「僕はルルを悲しませない方の味方だからね」
「ヌイ、ありがとう! 大好き!!」
ルルティアがヌイに向けて満面の笑みを浮かべるのを横で眺めながら、アミルは喜んだら良いのか怒ったら良いのか複雑な顔をしていた。
そんなアミルを見てヌイは口を押さえて吹き出すのを堪えるように肩を震わせた。
「ふ、ふふ、アリイさん。あんまり反対していると孫を抱かせてもらえなくなりますよ」
「ま、孫だと! そんなのまだ早い!! ルルティアはまだ子どもだぞ!!」
「父さまひどい! 私はもうじゅうぶん大人です!!」
「大人ならこんな周りに心配かけるようなことしとらん!!」
笑いをこらえきれないヌイと怒鳴るアリイに言い返すルルティア、と部屋の中は大変なことになってしまった。
まったく収拾のつかない様子にアミルが途方に暮れていると、凛とした声が響いた。
「番って言うんですってね」
「母さま?」
「ルルティアがアクアさまに選ばれて巫女になった時、パウさまに教えていただいたの。精霊の愛し子はこの人と定めた相手だけを生涯深く愛するのですって」
それまで黙って聞いていたウラウがおもむろに口を開き、パウさまを思い出しているのか遠い目をした。
「パウさまの番の方は若くして病で亡くなられたけれど、パウさまは最期までその方を愛してらっしゃったわ」
それからゆっくりとルルティアとアミルを慈愛にあふれた目で見つめる。
「あなたたちもそうなのでしょう?」
ルルティアがアミルの手の上に自分の手を重ねて大きくうなずいた。
すぐにアミルもルルティアの手を強く握り返した。
ウラウはそんな二人を見て満足そうに微笑んだ。
「ねぇ、あなた」
ウラウがアリイの腕にそっと手をやる。
アリイはうーんとしばらく唸っていたけれど、目をつぶりあきらめたように肩を落とした。
「……仕方ない。わかった」
「父さま! 母さま! ありがとう!!」
ルルティアは立ち上がると勢いよくアリイとウラウに抱きついた。
「こら、危ない!!」
「もう、子どもじゃないんだから」
アミルは膝の上でグッと手を握ると、夜空色の目を潤ませて黙ってその場で頭を下げ続けていた。
「砂の国ラムールの王家に伝わる指輪です。俺はラムールの最後の王マリクの息子です」
「君はやはりラムールの王族だったのか?」
「はい。俺が産まれてすぐの頃にラムールはウトビアに侵攻され、父はメトゥスに討たれました。母もその時に亡くなりましたが、姉と俺をひそかに王宮から逃してくれました。その姉も十年前に病で亡くなりました」
「確かにこれは本物に見える」
アリイが指輪を手に取って確認してから机の上に戻し話の続きを促した。
「俺はラムール王家の生き残りであり、ご存じの通り猫の愛し子でもあったので、メトゥスに命を狙われており素性を隠していました。黙っていて申し訳ありませんでした」
「そうか。いや事情がわかれば仕方ない。君の家族のことは残念だが君だけでも無事でよかった」
「ありがとうございます」
アミルは頭を一度下げてから、顔を上げてアリイの目をまっすぐに見つめた。
「アリイさま、ルルティアは国も民も家族もすべて失った俺がやっと見つけた唯一の人です。どうか一緒にならせてください」
アミルがもう一度、今度は先ほどよりも深く頭を下げたのを見て、横であわててルルティアも頭を下げる。
「父さま、お願いします」
アリイの口からは、うぐ、だとか、むう、だとかよくわからない音が出ていた。
アリイは不機嫌な顔をしたままヌイにチラリと目をやった。
「ヌイはどう思う」
アリイまでヌイとルルティアを結婚させるなんて言い出すのかと焦るルルティアの横で、アミルは射抜くような目でヌイをにらんだ。
アリイに劣らず厳しい表情をしていたヌイがそんな二人の様子を見てフッと頬を緩めた。
「アリイさん、ここで二人のことを認めないと一生ルルに恨まれますよ。それでも良いんですか?」
ヌイの思わぬ助け船にアミルは目を開いた。
ヌイは口の端にイタズラな笑みを浮かべたまま肩をすくめた。
「僕はルルを悲しませない方の味方だからね」
「ヌイ、ありがとう! 大好き!!」
ルルティアがヌイに向けて満面の笑みを浮かべるのを横で眺めながら、アミルは喜んだら良いのか怒ったら良いのか複雑な顔をしていた。
そんなアミルを見てヌイは口を押さえて吹き出すのを堪えるように肩を震わせた。
「ふ、ふふ、アリイさん。あんまり反対していると孫を抱かせてもらえなくなりますよ」
「ま、孫だと! そんなのまだ早い!! ルルティアはまだ子どもだぞ!!」
「父さまひどい! 私はもうじゅうぶん大人です!!」
「大人ならこんな周りに心配かけるようなことしとらん!!」
笑いをこらえきれないヌイと怒鳴るアリイに言い返すルルティア、と部屋の中は大変なことになってしまった。
まったく収拾のつかない様子にアミルが途方に暮れていると、凛とした声が響いた。
「番って言うんですってね」
「母さま?」
「ルルティアがアクアさまに選ばれて巫女になった時、パウさまに教えていただいたの。精霊の愛し子はこの人と定めた相手だけを生涯深く愛するのですって」
それまで黙って聞いていたウラウがおもむろに口を開き、パウさまを思い出しているのか遠い目をした。
「パウさまの番の方は若くして病で亡くなられたけれど、パウさまは最期までその方を愛してらっしゃったわ」
それからゆっくりとルルティアとアミルを慈愛にあふれた目で見つめる。
「あなたたちもそうなのでしょう?」
ルルティアがアミルの手の上に自分の手を重ねて大きくうなずいた。
すぐにアミルもルルティアの手を強く握り返した。
ウラウはそんな二人を見て満足そうに微笑んだ。
「ねぇ、あなた」
ウラウがアリイの腕にそっと手をやる。
アリイはうーんとしばらく唸っていたけれど、目をつぶりあきらめたように肩を落とした。
「……仕方ない。わかった」
「父さま! 母さま! ありがとう!!」
ルルティアは立ち上がると勢いよくアリイとウラウに抱きついた。
「こら、危ない!!」
「もう、子どもじゃないんだから」
アミルは膝の上でグッと手を握ると、夜空色の目を潤ませて黙ってその場で頭を下げ続けていた。
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