【R18/完結】猫は魚を食べちゃいたい(※性的な意味で)〜愛され巫女の運命の番は美形で意地悪な吟遊詩人〜

河津ミネ

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六章 愛の歌

87.僕の友達-2

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「バズ!!」

 たとえその姿が見えない時でも、アミルにはいつだってバズの気配を感じとれた。
 しかし今はいつもそばに感じていたはずのバズの気配を少しも感じとることができない。

「バズ……! バズ!?」

 アミルは毛布をはね上げ裸のままベッドから飛び降りると、バズの気配を求めて部屋をさまよった。
ベッドの揺れる動きで目を覚ましたルルティアが目をこすりながら半身を起こした。

「ん……アミル……?」

「ルー……。バズ……バズが……」

 いつもと違うアミルの様子に、ルルティアは頭をふってぼんやりとしていた意識をしっかりさせた。
 そしてルルティアもすぐにバズの気配が失われていることに気づき眉をひそめた。 

「ルー。バズがどこにもいない。さよならって。幸せにって。そう言って消えてしまった」

 アミルは呆然とした様子で、ドサリとベッドに座りこみうなだれたまま両手で顔をおおった。
 ルルティアはそんなアミルの背中に優しく手を置き、一つ思いついたことを口にした。

「ねぇ、アミル。精霊は土地に宿るからバズは産まれた土地に還ったのかもしれない」

「ラムールに?」

 アミルが顔を上げルルティアを見つめるが、その顔色は暗い部屋でもわかるくらい真っ青になっていた。
 ルルティアはアミルの言葉に小さくうなずいた。

「アクアさまが次の巫女のところに行く時って、お腹にいる時から少しずつその子の所に行くらしいのね。でもバズはそうじゃなかったから、次の愛し子が産まれたんじゃなくて土地に還ったのかもって」

 アクアさまの場合はあの祠のところに還るんだって、とルルティアは説明した。
 先代の巫女ポルがアクアさまの力を返した時には、アクアさまは祠でしばらく眠りについていたのだという。

「ただバズはラムールの土地を離れてるアミルとずっと一緒にいたから、土地に宿る精霊じゃないのかな……って思ってたんだけど」

 アミルはルルティアの言葉にしばらく目をさまよわせた後、ポツリポツリと言葉を放った。

「俺が……俺は……いつか俺の帰る場所は、ずっとラムールだと思っていた。ほとんど記憶にはないけれど、俺が産まれたラムールの大地だけが俺の帰る場所だって……。どこにいても、どこに住んでいても、心はずっとラムールにあった」

「うん」

「でも今は、俺は、あんたの、あんたの側にいたいって……」

 そうつぶやいて、アミルは夜空色の目をわずかに濡らしながらルルティアの顔をじっと見つめた。

「後悔、してる?」

 ルルティアは眉を下げてアミルを見つめ返した。
 朝焼け色をしたルルティアの目がわずかに不安で揺れていて、アミルはブンブンと勢いよく頭をふった。

「いいや、後悔なんてしない。ルーの、ルルティアのいるところが今の俺の帰る場所だから」

 アミルはルルティアの腕を取って引っぱり強く抱きしめた。

「ルー、ルー」

「アミル……」

 アミルは不安な気持ちを吹き飛ばすように必死にルルティアの名を呼んだ。

 どんなに探してもバズの気配がどこにも感じられない。
 あんなにずっとそばにいたのに。心の一部にぽっかりと穴があいてしまったようだ。

 アミルがルルティアを強く抱きしめると、ルルティアも優しくアミルの背に手をそえて抱きしめ返す。
 ルルティアが触れたところからあたたかな熱が伝わってきて、合わせた胸からはルルティアの穏やかな鼓動を感じた。
 あぁ、もうバズはいないのだという事実が、ゆっくりとアミルの胸の奥に広がっていく。
 そうしてようやく納得したアミルは、産まれた時から共に過ごしてきた黒い小さな親友へと別れを告げた。

 バズ。
 バズ。
 さよなら、俺の友だち。
 今までずっとずっと、一緒にいてくれてありがとう。

 アミルはルルティアに抱きつき声を殺したまま涙をこぼした。
 ルルティアはアミルの背をなでながら、震えるその肩をいつまでもいつまでも抱きしめていた。
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