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12月31日 年越し①

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 ~12月31日 AM8:00~

 コンコン

 舞衣歌があたたかいベッドの中でまどろんでいると、どこかから音がする。

 コンコン

(なんだよぉ~。うるさいなぁ)

「舞衣歌さん、起きてますか? さっき、アラーム止めてたみたいだけど大丈夫ですか?」

(アラームぅ……?)

 耳から入ってくる言葉の意味がゆっくりと舞衣歌の脳に到達する。

「やばっ! 今何時?」

 ガバッと布団を跳ね上げて、舞衣歌が身体を起こした。

「8時です」

 部屋のドアの向こうから男の声がする。

(男……? あ、シン君か!)

 急激に覚醒した頭を振って、昨晩のことを思い出す。

「うわ、ありがと。もう出ないと」

 舞衣歌は部屋から飛び出て、洗面所に向かって顔を洗う。
 顔を拭いて、化粧水を適当に塗って、チャチャッと眉毛を描いて化粧をする。
 ふと顔を上げると、鏡に洗濯機が映った。

「あー、やばい、洗濯機回す時間ないや」

 そのつぶやきを拾って、リビングにいるシン君が応えた。

「あ、あの、俺、洗濯機回しておきますよ」

「あ、ほんと!? 助かる!! ごめんね、よろしく!! 朝ごはんも適当に食べて! ほんと、ごめんね」

 洗面所から飛び出すと、舞衣歌はシン君を寝かせた方の部屋のドアを開けた。

「ちょっとこっちの部屋入るね!」

 元々こちらが舞衣歌の部屋なので、着替えなども全部こちらにある。
 舞衣歌が着替えながらベッドの方をチラリと見ると、布団などもまあまあ綺麗に整えられていて、高校生男子とは思えないくらい丁寧な子だな、と感心する。
 舞衣歌の弟なんて、とっくに二十歳を越えたというのに自分の部屋もベッドもいつもグチャグチャだ。

「あ、そうだ。これ鍵! じゃあ、いってきます!!」

 舞衣歌は準備を終えて玄関でトントンと靴を履きながら、思い出したように鞄に手をつっこみ家の鍵を取り出した。
 シン君にポイと鍵を投げてわたし手を上げて、じゃ、と挨拶をすると家から飛び出した。

「え? これって舞衣歌さんの鍵じゃ……」

 閉まる扉の向こうからシン君が何か言っていたようだが、走り出した舞衣歌の耳には届いていなかった。



 ~ 12月31日 PM2:00 ~

 午前9時から働いて、ようやく舞衣歌は休憩時間になった。
 舞衣歌の職場は薬局で、年中無休の午前9時から午後9時までが営業時間だ。
 舞衣歌は今日で十二時間勤務を十二連勤中だった。

 舞衣歌は普段、一日八時間勤務の週休二日制で、こんな働き方はしていない。
 たまたま運悪く他の社員がみな来れなくなってしまったのだ。
 交通事故、身内の不幸、家族の入院……など理由は様々だが、社員が足りないと社長に泣き落としで頼まれしぶしぶこんな働き方をしている。
 明日の正月に働いたら1月2日は久しぶりの休日だし、その後は八時間勤務に戻れるはずだ。

(あと一日……)

 舞衣歌は休憩室の椅子に座って、机に突っ伏して休んでいた。
 昼食をどこかの店に食べに行ったり買いに行ったりする気力もなく、机に突っ伏したままゼリー飲料をズルズルと口に流しこむ。

 ピロンと鞄の中のスマホが鳴った。
 ガサゴソと取り出して画面を見るとメッセージが浮かびあがる。

『年越しそば買いました』

 昨晩、連絡先を交換したシン君からだった。

『帰る時、連絡ください』

 舞衣歌は机に突っ伏しながら、画面を見て、ふふ、と笑った。
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