【R18/完結】私のことは忘れてください〜できそこないの魔女は俺様な侯爵令息に溺愛される〜

河津ミネ

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三章 呪いと祝福

5.-3

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 レオルドの熱い手とは違うが、シワだらけの骨ばった手で撫でられるうちにじんわりと血が通っていくような心地がする。

(不思議……なんだか気持ちいい……)

 ふと手を見ると、呪いが薄くなっているように見えた。

(え! 呪いを移してしまった!?)

 あわてて手を引こうとするが、ゲシリテが引き止めるようにギュッと手を握る。

「あぁ、これはなんて白い……。あなたはとても白い魔女でいらっしゃる。えぇと、白い魔女は王宮ではたしか聖女と呼ぶんでしたか」

「え? いえ、私は魔女で、えっと、黒い魔女です」

「いやいや、そんなはずはない。あなたは人に呪いをかけた事がない。ちゃんと伝わってきます」

 確かにソフィアは呪いをかけられない。
 だが祝福を与えることもできないソフィアが、聖女のはずがなかった。

「ゲシリテ、どういうことだ? ソフィアは呪いをその身に移す魔女だ。それは黒い魔女ではないのか?」

 ゲシリテが焦点の合わない目のまま、眉をわずかにひそめた。

「ん……あぁ、なるほど」

 ゲシリテは一人で何かを納得したようで、ソフィアの手を離しレオルドの方に顔を向ける。

「つまり、王宮では祝福を扱う魔女を聖女、呪いを扱う魔女を魔女と呼ぶのですかな?」

 そばに控えていたリベルが口を挟んだ。

「はい。オレはそう習いましたが、違うんですか?」

「魔女の力とは人の願いを叶える力。誰かを幸せにするための願いを祝福、誰かを不幸にするための願いを呪い――とそう呼ぶのですよ」

 それは習ったことなので、ソフィアもうなずきながら聞く。

「魔女の力の根本は慈愛の心です。心優しき者ほどその力は強くなる。これだけ強い魔女の力を持つあなたは、たいそう優しき方なのでしょうな」

 ゲシリテがソフィアの方に顔を向けてニコリと微笑んだ。

「それで、ソフィアは白い魔女なのか?」

「年寄りをそう焦らせないでくださいな。魔女は自分のためにその力を使うと、力が暴走してうまく使えないのですよ。だから、誰かの願いを叶えるためにしかその力を使えない。ただそれが自分や誰かの幸せを願うものなら良いのですが、もし誰かの不幸を願う――呪うものだと、魔女の力は黒く染まってしまいます」

 ゲシリテの白く濁った目が鋭くすがめられ、ソフィアの背筋がゾクリと震える。
 誰かを呪うと、魔女の力が変わってしまうというのか。
 震える細い肩をなだめるように、レオルドの熱い手がしっかりとソフィアを抱きしめ口を開く。

「つまり、最初はみな聖女――白い魔女だと言うことか?」

「えぇ。魔女はみな心優しき者ですから、誰かを呪うなぞできない者も多く、黒い魔女になれる者はほんのひと握りです。ただ一度でも人を呪えばその力は黒く染まってしまい、呪えば呪うほど黒くなっていく。そしてたいていの黒い魔女は、人を呪ううちに慈愛の心と共に魔女の力も失ってしまうものです」

「なるほど。王宮に魔女がいないのは、迫害だけが原因ではなかったのかもしれないな」

 魔女が最初はみな白い魔女である聖女なのだとしたら、黒い魔女が現れないのも当たり前だ。
 メモリアがゲシリテの話に納得するようにうなずく。

「王宮が白い魔女を聖女と呼ぶようになって、魔女が本来どういうものかがうまく伝わらなかったのかもしれません。物事が伝わる内に、事実がわからなくなるなんて当たり前に起こりますから。それこそ様々な時代の文献を読んでいると、よくわかります」

 リベルの隣で神妙な顔していたオーブリーが尋ねる。

「もしかして王宮の聖女も、誰かを呪えば黒い魔女になるかもしれないのでしょうか?」

 するとリベルがいつもの軽い調子で話しだすが、その顔はいつになく真剣だ。

「王宮の聖女は聖官がその力を厳しく管理しているから、勝手に呪いをかけることはないと思うよ。でもどこだかの貴族にこっそり飼われている聖女が祝福の力を失った、なんて話はよく聞くね。あれは純潔を失う場合だけでなく、呪わされたせいなのかもしれないね」

 皆の話の展開が早くて、ソフィアは聞いて理解するだけで精一杯だった。
 するとゲシリテの手が何かを求めるように宙をさまよっていたので、ソフィアがその手に触れるとしっかりと両手で包まれた。

「力がすべて黒く染まってしまった魔女は、呪いしかかけられなくなります。例え呪いを扱っていようと、人を呪ったことの無いあなたの力は真っ白なままですよ」

 ゲシリテが焦点の合わない目をしっかりとソフィアに向けて微笑む。

「心優しき白い魔女。あなたの力は人を幸せにする祝福の力ですよ」

 ゲシリテははっきりとそう告げた。
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