【R18/完結】私のことは忘れてください〜できそこないの魔女は俺様な侯爵令息に溺愛される〜

河津ミネ

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三章 呪いと祝福

10.-4

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 話し合いを終えたあくる日、レオルドとソフィアはウィザ村の森の中にあるスミレの花畑に来ていた。
 スミレの季節にはまだ遠く、周りを見渡しても花は見えない。
 オーブリーとリベル、それにメモリアもついてきているが、ソフィアの姿を見て忘れてしまわないように離れた場所で待機している。

「ソフィア、準備はいいか?」

「はい。ここにします」

「あぁ」

 レオルドは地面に布を敷いて座り込むと、ソフィアの手を引いて自分の上に座らせた。
 ソフィアの左手の中には、古の魔女プリムラの呪いの依代であるネックレスがある。

「始めます」

 ソフィアは心の中でプリムラに話しかける。

(プリムラさん、辛かったですね。悲しかったですね。でもあなたもずっと苦しんだのだから、もう忘れて休みましょう。それを私にお手伝いさせてください)

 動かない左手に右手を重ね、ネックレスの石を両手に包んで祈りを捧げる。
 かつてのアロガンシア王がプリムラを利用してひどい行いをしたとしても、彼女の呪いで関係ない多くの者が苦しんできた。
 それをソフィアが勝手に無かったことにしてしまうのは違うかもしれない。

(でも、これ以上不幸な人を増やすのはあなたの願いではないでしょう?)

 ソフィアは依代から自分の身に移した忘却の呪いを少しずつ剥がしていく。
 それは自分のために無理矢理呪いを剥がした時とは、手応えがまるで違った。

(うん、できる)

 その手応えに自信を持ったソフィアは、呪いを次々に剥がしていった。
 ソフィアの身体の周りで黒く渦巻いては、淡く白い光を放ち始める。

 それは呪いではなく、祝福の形をしていた。

 辛い想いに囚われて前に進めない者に、少しでも優しい時間を与えるために。
 できるだけ多くの苦しむ者を幸せにするために。

 ソフィアは忘却の呪いを祝福の形に変えて、少しずつ解き放っていく。

 そのまま長い長い時間をかけて、ソフィアはプリムラの呪いを祝福へと変えていった。
 そうして長い時間がたったあと、レオルドの腕の中でソフィアが力を抜いてくたりともたれかかる。

「ソフィア!?」

 レオルドの赤い目がソフィアを心配そうに見つめている。

「レオルド様」

 ソフィアはレオルドの頬に手を伸ばすと、最後にレオルドに残っていた呪いを身の内に移し、それもまた祝福へと変えて解き放った。

「……終わりました」

 ソフィアは全身の力を抜いて、レオルドにその身を預けた。

「オーブリー!! 確認を頼む! 念のためリベルはそのまま向こうを向いていろ」

 駆け寄って来たオーブリーはソフィアをしっかりと見てから、顔を上げて辺りを見回した。

「呪いが消えています。……すごいですね。周りに祝福が満ちています。こんな大量の祝福、初めて見ました」

「プリムラさんの力です。私はほんの少しお手伝いしただけ」

 小さく首を横にふるソフィアの謙虚な様子に、レオルドが苦笑する。

「オーブリー、向こうを向いてみろ。俺たちの顔を思い出せるか?」

 オーブリーはくるりと向きを変え、すぐに大きな声で返事をした。

「はい! レオルド様の顔もソフィア様の顔もしっかりと思い出せます!」

「よくやった、ソフィア」

 レオルドはソフィアを抱えたまま勢いよく立ち上がると、その場でくるくると回りだした。

「きゃ、レオルド様!」

 力の入らない手でソフィアはレオルドにしがみつこうと手を伸ばす。
 レオルドの金の髪が陽の光を浴びてきらめき、その赤い目も柔らかい弧を描きながらソフィアを見つめている。

(あ、妖精みたい……)

 ふと、遠く微かな記憶が呼び覚まされた。
 大好きな母親に読んでもらった大好きな絵本。
 その挿絵に描かれたいたずらっ子の妖精が大好きで、ソフィアは何度も母親にねだって読んでもらったものだった。

 その妖精は輝くような金の髪に燃えるような赤い目をしていた。

 それは、両親を喪うというあまりにも辛い想いと結びついていて、ずっと思い出せなかった優しい記憶だった。

(辛かったことだけ忘れて、嬉しかったことを思い出せるようにしてくれたの? ありがとう、プリムラさん)

 レオルドに抱き上げられながら、ソフィアもレオルドに抱きついた。
 まだ花のないスミレの花畑の真ん中で、ふたりはそのまま抱き合う。
 遠くからメモリアがふたりを見ると、魔女の目のない者でも微かに感じられるくらい、ふたりの周りは優しい光に包まれていた。
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