86 / 111
三章 呪いと祝福
10.-4
しおりを挟む
話し合いを終えたあくる日、レオルドとソフィアはウィザ村の森の中にあるスミレの花畑に来ていた。
スミレの季節にはまだ遠く、周りを見渡しても花は見えない。
オーブリーとリベル、それにメモリアもついてきているが、ソフィアの姿を見て忘れてしまわないように離れた場所で待機している。
「ソフィア、準備はいいか?」
「はい。ここにします」
「あぁ」
レオルドは地面に布を敷いて座り込むと、ソフィアの手を引いて自分の上に座らせた。
ソフィアの左手の中には、古の魔女プリムラの呪いの依代であるネックレスがある。
「始めます」
ソフィアは心の中でプリムラに話しかける。
(プリムラさん、辛かったですね。悲しかったですね。でもあなたもずっと苦しんだのだから、もう忘れて休みましょう。それを私にお手伝いさせてください)
動かない左手に右手を重ね、ネックレスの石を両手に包んで祈りを捧げる。
かつてのアロガンシア王がプリムラを利用してひどい行いをしたとしても、彼女の呪いで関係ない多くの者が苦しんできた。
それをソフィアが勝手に無かったことにしてしまうのは違うかもしれない。
(でも、これ以上不幸な人を増やすのはあなたの願いではないでしょう?)
ソフィアは依代から自分の身に移した忘却の呪いを少しずつ剥がしていく。
それは自分のために無理矢理呪いを剥がした時とは、手応えがまるで違った。
(うん、できる)
その手応えに自信を持ったソフィアは、呪いを次々に剥がしていった。
ソフィアの身体の周りで黒く渦巻いてそれは、淡く白い光を放ち始める。
それは呪いではなく、祝福の形をしていた。
辛い想いに囚われて前に進めない者に、少しでも優しい時間を与えるために。
できるだけ多くの苦しむ者を幸せにするために。
ソフィアは忘却の呪いを祝福の形に変えて、少しずつ解き放っていく。
そのまま長い長い時間をかけて、ソフィアはプリムラの呪いを祝福へと変えていった。
そうして長い時間がたったあと、レオルドの腕の中でソフィアが力を抜いてくたりともたれかかる。
「ソフィア!?」
レオルドの赤い目がソフィアを心配そうに見つめている。
「レオルド様」
ソフィアはレオルドの頬に真っ白な手を伸ばすと、最後にレオルドに残っていた呪いを身の内に移し、それもまた祝福へと変えて解き放った。
「……終わりました」
ソフィアは全身の力を抜いて、レオルドにその身を預けた。
「オーブリー!! 確認を頼む! 念のためリベルはそのまま向こうを向いていろ」
駆け寄って来たオーブリーはソフィアをしっかりと見てから、顔を上げて辺りを見回した。
「呪いが消えています。……すごいですね。周りに祝福が満ちています。こんな大量の祝福、初めて見ました」
「プリムラさんの力です。私はほんの少しお手伝いしただけ」
小さく首を横にふるソフィアの謙虚な様子に、レオルドが苦笑する。
「オーブリー、向こうを向いてみろ。俺たちの顔を思い出せるか?」
オーブリーはくるりと向きを変え、すぐに大きな声で返事をした。
「はい! レオルド様の顔もソフィア様の顔もしっかりと思い出せます!」
「よくやった、ソフィア」
レオルドはソフィアを抱えたまま勢いよく立ち上がると、その場でくるくると回りだした。
「きゃ、レオルド様!」
力の入らない手でソフィアはレオルドにしがみつこうと手を伸ばす。
レオルドの金の髪が陽の光を浴びてきらめき、その赤い目も柔らかい弧を描きながらソフィアを見つめている。
(あ、妖精みたい……)
ふと、遠く微かな記憶が呼び覚まされた。
大好きな母親に読んでもらった大好きな絵本。
その挿絵に描かれたいたずらっ子の妖精が大好きで、ソフィアは何度も母親にねだって読んでもらったものだった。
その妖精は輝くような金の髪に燃えるような赤い目をしていた。
それは、両親を喪うというあまりにも辛い想いと結びついていて、ずっと思い出せなかった優しい記憶だった。
(辛かったことだけ忘れて、嬉しかったことを思い出せるようにしてくれたの? ありがとう、プリムラさん)
レオルドに抱き上げられながら、ソフィアもレオルドに抱きついた。
まだ花のないスミレの花畑の真ん中で、ふたりはそのまま抱き合う。
遠くからメモリアがふたりを見ると、魔女の目のない者でも微かに感じられるくらい、ふたりの周りは優しい光に包まれていた。
スミレの季節にはまだ遠く、周りを見渡しても花は見えない。
オーブリーとリベル、それにメモリアもついてきているが、ソフィアの姿を見て忘れてしまわないように離れた場所で待機している。
「ソフィア、準備はいいか?」
「はい。ここにします」
「あぁ」
レオルドは地面に布を敷いて座り込むと、ソフィアの手を引いて自分の上に座らせた。
ソフィアの左手の中には、古の魔女プリムラの呪いの依代であるネックレスがある。
「始めます」
ソフィアは心の中でプリムラに話しかける。
(プリムラさん、辛かったですね。悲しかったですね。でもあなたもずっと苦しんだのだから、もう忘れて休みましょう。それを私にお手伝いさせてください)
動かない左手に右手を重ね、ネックレスの石を両手に包んで祈りを捧げる。
かつてのアロガンシア王がプリムラを利用してひどい行いをしたとしても、彼女の呪いで関係ない多くの者が苦しんできた。
それをソフィアが勝手に無かったことにしてしまうのは違うかもしれない。
(でも、これ以上不幸な人を増やすのはあなたの願いではないでしょう?)
ソフィアは依代から自分の身に移した忘却の呪いを少しずつ剥がしていく。
それは自分のために無理矢理呪いを剥がした時とは、手応えがまるで違った。
(うん、できる)
その手応えに自信を持ったソフィアは、呪いを次々に剥がしていった。
ソフィアの身体の周りで黒く渦巻いてそれは、淡く白い光を放ち始める。
それは呪いではなく、祝福の形をしていた。
辛い想いに囚われて前に進めない者に、少しでも優しい時間を与えるために。
できるだけ多くの苦しむ者を幸せにするために。
ソフィアは忘却の呪いを祝福の形に変えて、少しずつ解き放っていく。
そのまま長い長い時間をかけて、ソフィアはプリムラの呪いを祝福へと変えていった。
そうして長い時間がたったあと、レオルドの腕の中でソフィアが力を抜いてくたりともたれかかる。
「ソフィア!?」
レオルドの赤い目がソフィアを心配そうに見つめている。
「レオルド様」
ソフィアはレオルドの頬に真っ白な手を伸ばすと、最後にレオルドに残っていた呪いを身の内に移し、それもまた祝福へと変えて解き放った。
「……終わりました」
ソフィアは全身の力を抜いて、レオルドにその身を預けた。
「オーブリー!! 確認を頼む! 念のためリベルはそのまま向こうを向いていろ」
駆け寄って来たオーブリーはソフィアをしっかりと見てから、顔を上げて辺りを見回した。
「呪いが消えています。……すごいですね。周りに祝福が満ちています。こんな大量の祝福、初めて見ました」
「プリムラさんの力です。私はほんの少しお手伝いしただけ」
小さく首を横にふるソフィアの謙虚な様子に、レオルドが苦笑する。
「オーブリー、向こうを向いてみろ。俺たちの顔を思い出せるか?」
オーブリーはくるりと向きを変え、すぐに大きな声で返事をした。
「はい! レオルド様の顔もソフィア様の顔もしっかりと思い出せます!」
「よくやった、ソフィア」
レオルドはソフィアを抱えたまま勢いよく立ち上がると、その場でくるくると回りだした。
「きゃ、レオルド様!」
力の入らない手でソフィアはレオルドにしがみつこうと手を伸ばす。
レオルドの金の髪が陽の光を浴びてきらめき、その赤い目も柔らかい弧を描きながらソフィアを見つめている。
(あ、妖精みたい……)
ふと、遠く微かな記憶が呼び覚まされた。
大好きな母親に読んでもらった大好きな絵本。
その挿絵に描かれたいたずらっ子の妖精が大好きで、ソフィアは何度も母親にねだって読んでもらったものだった。
その妖精は輝くような金の髪に燃えるような赤い目をしていた。
それは、両親を喪うというあまりにも辛い想いと結びついていて、ずっと思い出せなかった優しい記憶だった。
(辛かったことだけ忘れて、嬉しかったことを思い出せるようにしてくれたの? ありがとう、プリムラさん)
レオルドに抱き上げられながら、ソフィアもレオルドに抱きついた。
まだ花のないスミレの花畑の真ん中で、ふたりはそのまま抱き合う。
遠くからメモリアがふたりを見ると、魔女の目のない者でも微かに感じられるくらい、ふたりの周りは優しい光に包まれていた。
1
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる