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4.二台のスマホ
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スーツ姿の常連さんは名前を安西さんと言った。
安西さんはすぐに車を呼んで、私を高級そうなマンションの一室に連れてきた。
そこはマンションなのに、一階はまるでホテルの受付みたいだった。
私は広いリビングルームに通され、これまた高級そうな皮のソファに安西さんと向かい合うようにして座る。
ふわりと沈むソファに、壁紙やカーペット、天井のライトだって見たことないくらい高そうで私はこっそりと周りに目をやり息を詰める。
私のワンルームと違って、いくつ部屋があるのかもわからない。
万一ソファを汚したりしたら、クリーニング代だって払えないだろうから座っているだけでも緊張する。
そんな私をよそに、安西さんがおもむろに切り出した。
「十九時から二十四時までこの部屋にいてもらいます」
安西さんは低すぎず高すぎないよく通る声をしていて、聞き取りやすいその喋り方はすごく仕事ができそうだ。
安西さんは鞄からスマホを二台取り出すと、テーブルの上に置いて片方のスマホを指さした。
「こちらのスマホに依頼主から命令が送られてきます。一つの命令に対して十万円。全部で四つ。二十四時までこの部屋にいたら依頼完了で達成報酬としてプラス十万円です。嫌になったらそこで止めていただいて結構です」
「あの……依頼主って安西さんじゃないんですか?」
「ええ、私ではありませんね。その方は私の雇い主でもあります」
こんな有能そうな人を雇って奇妙なアルバイトをさせるなんて、一体どんな人なのだろうか。
安西さんはもうひとつのスマホを指さす。
「そしてこちらのスマホでは、あなたが命令を遂行している様子を撮影します」
「え……」
「十九時になったらここに一人カメラマンが来るので、二十四時までこの部屋で二人で過ごしていただきます。あちらにバスルームが有りますので十九時までにシャワーを浴びて、用意されている服に着替えて待っていてください」
シャワーや着替え、ということはやはり『そういうこと』をするのだろうか。
戸惑っているうちに安西さんはどんどん話を進めていってしまう。
今の時間を見れば、もうすぐ十八時になるところだった。
あと一時間後にはこの奇妙なバイトが始まってしまう。
「あの、撮影って」
「依頼主の方が個人的に楽しむだけですのでご安心ください。そうですね、万が一その映像が流出するような事があったら違約金をお支払いいたしします。それではこちらにサインをいただけますか?」
安西さんはスマホの横にひらりと一枚の紙を並べた。
手に取って読むと、いま安西さんが言っていた事が小難しい言葉で書いてある。
そうだ、こんなバイトがまともなもののはずなかった。
でもどうせ風俗で働くことになるなら、五時間で終わるならその方がいい気もする。
「……どんなことをさせられるんですか?」
「それは依頼主の命令次第になります。何を命令するのかは私は知らされておりません。先ほども言いましたが嫌なら途中で止めて結構です。そこまでの分のお金はきちんとお支払いします。こちらにタクシー代をお渡ししておきますので、このままお帰りいただいても構いませんよ」
安西さんはタクシー代だと言って、机の上に封筒を置いた。
それでは、と立ち上がって部屋から出ていこうとする。
「あの、そのカメラマンの人が依頼主なんですか?」
「……依頼主の方は少し変わった趣味がおありでして」
安西さんは私の質問には答えず、片眉を上げてわずかに苦笑してからさっさと出て行ってしまった。
私はひとりでその部屋に取り残された。
安西さんはすぐに車を呼んで、私を高級そうなマンションの一室に連れてきた。
そこはマンションなのに、一階はまるでホテルの受付みたいだった。
私は広いリビングルームに通され、これまた高級そうな皮のソファに安西さんと向かい合うようにして座る。
ふわりと沈むソファに、壁紙やカーペット、天井のライトだって見たことないくらい高そうで私はこっそりと周りに目をやり息を詰める。
私のワンルームと違って、いくつ部屋があるのかもわからない。
万一ソファを汚したりしたら、クリーニング代だって払えないだろうから座っているだけでも緊張する。
そんな私をよそに、安西さんがおもむろに切り出した。
「十九時から二十四時までこの部屋にいてもらいます」
安西さんは低すぎず高すぎないよく通る声をしていて、聞き取りやすいその喋り方はすごく仕事ができそうだ。
安西さんは鞄からスマホを二台取り出すと、テーブルの上に置いて片方のスマホを指さした。
「こちらのスマホに依頼主から命令が送られてきます。一つの命令に対して十万円。全部で四つ。二十四時までこの部屋にいたら依頼完了で達成報酬としてプラス十万円です。嫌になったらそこで止めていただいて結構です」
「あの……依頼主って安西さんじゃないんですか?」
「ええ、私ではありませんね。その方は私の雇い主でもあります」
こんな有能そうな人を雇って奇妙なアルバイトをさせるなんて、一体どんな人なのだろうか。
安西さんはもうひとつのスマホを指さす。
「そしてこちらのスマホでは、あなたが命令を遂行している様子を撮影します」
「え……」
「十九時になったらここに一人カメラマンが来るので、二十四時までこの部屋で二人で過ごしていただきます。あちらにバスルームが有りますので十九時までにシャワーを浴びて、用意されている服に着替えて待っていてください」
シャワーや着替え、ということはやはり『そういうこと』をするのだろうか。
戸惑っているうちに安西さんはどんどん話を進めていってしまう。
今の時間を見れば、もうすぐ十八時になるところだった。
あと一時間後にはこの奇妙なバイトが始まってしまう。
「あの、撮影って」
「依頼主の方が個人的に楽しむだけですのでご安心ください。そうですね、万が一その映像が流出するような事があったら違約金をお支払いいたしします。それではこちらにサインをいただけますか?」
安西さんはスマホの横にひらりと一枚の紙を並べた。
手に取って読むと、いま安西さんが言っていた事が小難しい言葉で書いてある。
そうだ、こんなバイトがまともなもののはずなかった。
でもどうせ風俗で働くことになるなら、五時間で終わるならその方がいい気もする。
「……どんなことをさせられるんですか?」
「それは依頼主の命令次第になります。何を命令するのかは私は知らされておりません。先ほども言いましたが嫌なら途中で止めて結構です。そこまでの分のお金はきちんとお支払いします。こちらにタクシー代をお渡ししておきますので、このままお帰りいただいても構いませんよ」
安西さんはタクシー代だと言って、机の上に封筒を置いた。
それでは、と立ち上がって部屋から出ていこうとする。
「あの、そのカメラマンの人が依頼主なんですか?」
「……依頼主の方は少し変わった趣味がおありでして」
安西さんは私の質問には答えず、片眉を上げてわずかに苦笑してからさっさと出て行ってしまった。
私はひとりでその部屋に取り残された。
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