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Execute.03:ノエル・アジャーニ -Noelle Adjani-
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そうして午前の課程は終わりを告げ、しかし降り続く雨はやまないまま。そうして学園中の生徒たちは、束の間の休息たる昼休みのひとときを迎えた。
そうすれば、転入生がやって来たのだから当然といえば当然だが。クラスメイトたちが大波のようにノエルの元へと押し寄せてきて、それは彼女の前席に座る零士と、そしてその隣人の小雪ですらをも呑み込まんばかりの勢いだった。
加えて、教室の外にも恐ろしい量の野次馬が男女入り乱れてA組の教室の前に押し寄せ、扉や窓からこちらを覗き込んで来ている。もう変な話、A組の中と前の廊下だけ乗車率二〇〇パーセントの満員電車みたいな状態だ。
が、ある意味で当然かもしれない。転入生、それもヨーロッパからやって来た凄まじい美少女とあっては、一度顔を拝みたくなるのもさもありなん。あわよくば直接言葉でも交わして、お近づきにでもなろうかという下心が男子たちから溢れ出ているのが、零士の眼から見ても分かるほどだ。
実際、ノエルがかなりの容姿なのは零士も認めている。この場の誰よりも彼女と長い時間を接し、触れ合い、そして一番近くで見てきた零士が、それを分からないはずがない。
「はぁーっ…………」
それが故に、零士は腹の奥底から湧き出るドデカい溜息を抑えられないでいた。仮にも世界の裏で暗躍する秘密組織のエージェントなのだから、同業である零士としても出来るだけ目立って欲しくはないのだが……。
だが、そんな零士の憂鬱をよそに。ノエルはというと、詰めかけて来た(主に女子が中心の)クラスメイトの波に凄まじく当惑しつつも、ご丁寧なことに投げ掛けられてくる質問責めの一つ一つに答えていた。
「フランスに居たって言うけれど、何でノエルちゃん日本に来たの?」
「ちょっと色々と、立て込んだ事情があってね。詳しく言ってしまうのは、ちょっと憚られるコトなんだけれど。当分の間はこっちで暮らしていくコトになるかな。学園に居る間に、また転校とかそういうことは、滅多なことじゃないと無いと思うから。だから、とりあえずは安心して欲しいかな」
「ノエルちゃん、日本語とっても上手だよねー。他にも喋れたりするの?」
「あはは、ありがとう。フランス語は母国語だから当たり前だけれど、一応他には英語も大丈夫だよ」
「それって……えーと、バイリンガルって言うんだっけ?」
「バイリンガルだと二ヶ国語だね。僕の場合は三ヶ国語だから、トライリンガル」
「綺麗な金髪してるよね……。染めてるワケじゃないんだよね?」
「うん、そうだね。言い方は変かもだけれど……天然物、って言うのかな? 生まれつきなんだ、この髪は」
「ノエルちゃんって、なんか面白いねー」
とまあ、こんな具合だ。昼食を食べる暇も赦さないほど、ノエルには次々と質問の豪雨が降り注いでいる。しかもノエルの方も律儀に一つ一つに答えているのだから、更に笑えない。
「……ちょっと来い」
そんな人波と質問責めの嵐の中、零士はまだまだ質問に答えようとしていたノエルの手をパッと掴み。そうして席から立ち上がれば、無理矢理に人混みを掻き分けて。ノエルの手を引いて、彼女を連れて教室を脱出しようとした。
「はいはい、分かったよ。分かったからさレイ、そんなに慌てないの」
そうすれば、手を掴まれたノエルは仕方ないなあ、という風に零士に言うと、彼の手を握り返しながら立ち上がり。矢面に立って人波を掻き分けていく彼に手を引かれるまま、連れられるがまま。柔らかく微笑みながら、彼の後に着いていく。
そうすれば、転入生がやって来たのだから当然といえば当然だが。クラスメイトたちが大波のようにノエルの元へと押し寄せてきて、それは彼女の前席に座る零士と、そしてその隣人の小雪ですらをも呑み込まんばかりの勢いだった。
加えて、教室の外にも恐ろしい量の野次馬が男女入り乱れてA組の教室の前に押し寄せ、扉や窓からこちらを覗き込んで来ている。もう変な話、A組の中と前の廊下だけ乗車率二〇〇パーセントの満員電車みたいな状態だ。
が、ある意味で当然かもしれない。転入生、それもヨーロッパからやって来た凄まじい美少女とあっては、一度顔を拝みたくなるのもさもありなん。あわよくば直接言葉でも交わして、お近づきにでもなろうかという下心が男子たちから溢れ出ているのが、零士の眼から見ても分かるほどだ。
実際、ノエルがかなりの容姿なのは零士も認めている。この場の誰よりも彼女と長い時間を接し、触れ合い、そして一番近くで見てきた零士が、それを分からないはずがない。
「はぁーっ…………」
それが故に、零士は腹の奥底から湧き出るドデカい溜息を抑えられないでいた。仮にも世界の裏で暗躍する秘密組織のエージェントなのだから、同業である零士としても出来るだけ目立って欲しくはないのだが……。
だが、そんな零士の憂鬱をよそに。ノエルはというと、詰めかけて来た(主に女子が中心の)クラスメイトの波に凄まじく当惑しつつも、ご丁寧なことに投げ掛けられてくる質問責めの一つ一つに答えていた。
「フランスに居たって言うけれど、何でノエルちゃん日本に来たの?」
「ちょっと色々と、立て込んだ事情があってね。詳しく言ってしまうのは、ちょっと憚られるコトなんだけれど。当分の間はこっちで暮らしていくコトになるかな。学園に居る間に、また転校とかそういうことは、滅多なことじゃないと無いと思うから。だから、とりあえずは安心して欲しいかな」
「ノエルちゃん、日本語とっても上手だよねー。他にも喋れたりするの?」
「あはは、ありがとう。フランス語は母国語だから当たり前だけれど、一応他には英語も大丈夫だよ」
「それって……えーと、バイリンガルって言うんだっけ?」
「バイリンガルだと二ヶ国語だね。僕の場合は三ヶ国語だから、トライリンガル」
「綺麗な金髪してるよね……。染めてるワケじゃないんだよね?」
「うん、そうだね。言い方は変かもだけれど……天然物、って言うのかな? 生まれつきなんだ、この髪は」
「ノエルちゃんって、なんか面白いねー」
とまあ、こんな具合だ。昼食を食べる暇も赦さないほど、ノエルには次々と質問の豪雨が降り注いでいる。しかもノエルの方も律儀に一つ一つに答えているのだから、更に笑えない。
「……ちょっと来い」
そんな人波と質問責めの嵐の中、零士はまだまだ質問に答えようとしていたノエルの手をパッと掴み。そうして席から立ち上がれば、無理矢理に人混みを掻き分けて。ノエルの手を引いて、彼女を連れて教室を脱出しようとした。
「はいはい、分かったよ。分かったからさレイ、そんなに慌てないの」
そうすれば、手を掴まれたノエルは仕方ないなあ、という風に零士に言うと、彼の手を握り返しながら立ち上がり。矢面に立って人波を掻き分けていく彼に手を引かれるまま、連れられるがまま。柔らかく微笑みながら、彼の後に着いていく。
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