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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』
Int.62:Fの鼓動/最終評価試験、激突する金と白銀の狼たち⑦
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「ッ――――!!」
先に踏み出したのは、一真の方だった。
片脚を大きく踏み出して地を蹴り、背中のターボ・スラスタを起動。爆発的な加速力で一気に≪シュペール・ミラージュ≫へと距離を詰めながら、左肘の"ヴァリアブル・ブラスト"を起動し試製17式対艦刀で横薙ぎの一閃を放つ。
『ふふっ……!』
しかし、案の定というべきか、エマはそれをバックブーストを吹かし後退することで回避してみせた。半ば予想していたとはいえ、一撃必殺の思いを込めて振るった一太刀なだけに、一真は小さく舌を打たずにはいられない。
『さあ、踊るよカズマ! 僕と君で踊るんだ、最高のダンスをねっ!!』
エマは後退しながら、右手の88式突撃散弾砲を撃ちまくってくる。牽制程度のダブルオー・キャニスター通常散弾の豪雨が降り注ぐが、一真は敢えてそれに構わず更に一歩を踏み込んだ。
「うおおおおぉぉ――――ッ!!」
雄叫びとともに、地を蹴った純白の機影が再び流星へと変わる。青白い炎とともに背中のターボ・スラスタが再び点火し、背中から蹴り飛ばすみたいな勢いで一真とタイプF改を再びゼロコンマの刻の流れの中へと誘っていく。更に背中側の"ヴァリアブル・ブラスト"も同時に吹かせば、その速度は正に常軌を逸した速さへと変わる。
「ッッッ……!!」
ターボ・スラスタのフルスロットルに"ヴァリアブル・ブラスト"の後押し、あまりの加速度に一真は顔をしかめた。意識が遠のきそうになる。肋骨がギシギシと軋み、内臓には見えない手に鷲づかみにされたみたいに圧迫感が襲う。だがそれを歯を食い縛って耐えながら、一真は真っ直ぐに≪シュペール・ミラージュ≫に向かって突撃を敢行した。
『速い……!』
とすれば、さしものエマとて常軌を逸した加速度に焦りを覚え。バックブーストで逃げつつ右手の突撃散弾砲を撃ち尽くすぐらいの勢いで連射し、何とか一真の勢いを削ごうとする。
だが、幾ら正面から散弾が命中しようと、機体制御OSは撃墜判定どころかダメージ判定すらをも一切示さない。突撃戦を想定した装甲材の強化が、ここにきて功を奏したというワケだ。純白の装甲が幾らピンク色の弾着痕に汚れようと、その勢いは止まらない。
「チッ!」
とはいえ、兵装まで耐えられるワケはなかった。流れ弾が命中すると、一真が右手マニピュレータに持っていた突撃散弾砲が破壊判定を受ける。一真はマニピュレータを離させることで突撃散弾砲を棄てつつ、遂にはエマの≪シュペール・ミラージュ≫へと間合いを詰めることに成功した。
「らぁぁぁぁっ!!」
そして距離が詰まれば、そのまま斬り掛かる――ようなことはせず、敢えて左肩からタックルを仕掛けてみせた。当然斬撃が飛んでくると思っていたものだから、エマも予想外の攻撃に眼を見開く。
タックルを仕掛けた側と喰らう側、双方ともにバランスを崩せば錐揉み状態になって地面へと落下。互いにもみ合うようにして百数十mほど地面を滑走すれば、やがて静止した。
『なんて無茶苦茶なことを……!』
「それぐらいしないと、エマには勝てなさそうだからなッ!!」
そして、少し間合いを置いて地面に転がっていた二機がほぼ同時に立ち上がった。≪シュペール・ミラージュ≫は既に右手の突撃散弾砲を失っている。一真の方もアーム・グレネイド以外の飛び道具が無くなってしまったが、しかし一号機の強固な装甲がある限り、勝ち目はまだまだ消えていない。
『本当に僕の予想を越えてくれるね、君の成長速度は!』
とすれば、エマはまた飛び退いた後、今度は左手の突撃散弾砲を発砲した。またダブルオー・キャニスターだろうとタカを括っていた一真は回避行動もおざなりに、また踏み込んで距離を詰めようとする。
「ッ!?」
だが、そんな一真の視界に激しいノイズが走った。衝撃とともに機体が揺れ、シームレス・モニタの視界が右端の方だけ欠けてしまう。
『……ふふっ』
してやったりといった風に笑うエマが撃ち放ったのは、ダブルオー・キャニスター通常散弾でなく。APFSDSスラッグ弾だった。戦車砲までではないにしても、しかし通常散弾とは比較にならないほどの威力と貫通力を持つ弾だ。運良く弾頭はタイプF改の頭部ユニットの右端を掠めたものの、頭部にダメージ判定が発生。双眼式カメラ・アイの右側が壊れた扱いとなり、シームレス・モニタに映る視界のおよそ半分が消え失せてしまった。
「一筋縄じゃあ行かない相手か、やっぱり……!」
一真は舌を打ちつつ、しかしエマに称賛を贈りつつ。IFSの思考操作でサブ・カメラを制御すると、死んだ右眼の代わりに出来る限りの視界をそれで補う。それによってシームレス・モニタの左端から三分の二程度の視野までが回復したが、しかし残り三分の一は死んだまま、黒一色にブラックアウトしたままだった。
(二発目を喰らうワケにはいかない)
(多分、二度目は通じないだろうね)
一真は警戒し、そしてエマは二度も不意打ちが通用しないと内心で考える。どちらにせよ、両者ともに二度目はないと確信していた。
『じゃあ今度は、僕から行かせて貰うよっ!!』
そうすれば、エマの決断は早かった。左手の突撃散弾砲を右手に持ち替えさせるなり、すぐさま腰から73式対艦刀を抜刀。地を蹴りスラスタを吹かし、一気に一真へと肉薄を図る。
「ああ来い、望むところだぜッ!!」
一真もそれに立ち尽くしたままで応じ、左腕を突き出せばアーム・グレネイドで応戦。だが当然のようにエマはそれを避けながら、遂には一真機の懐へと食らい付いた。
『はぁぁぁぁっ!!』
深々と脚を踏み込み、片腕で振るう左からの袈裟掛け。一真はそれを、横倒しにして引き寄せた試製17式対艦刀の短い刀身で受け止めることで応じる。
「俺の剣は一本だけじゃあねえッ!!」
そうしながら、即座に右腕を動かし。まるでアッパーカットの殴打を仕掛けるように低く腕を振るいながら、一真はアーム・ブレードを展開させた。
『ッ!』
エマはそれを、咄嗟に右腕を犠牲にすることで防ぐ。≪シュペール・ミラージュ≫の腕の甲にアーム・ブレードの刃が触れれば、途端に破壊判定が発生。≪シュペール・ミラージュ≫は散弾砲を取り落としながら、一気に力の抜けた右腕をぶらんと垂らした。
『僕だって、一本じゃあないってことをッ!!』
が、ここからが一真の予想の範疇を超えていた。
エマは叫びながら何故か左手マニピュレータで対艦刀の柄を離してしまえば、フリーになった右手で無防備になった一真機の右腕を掴み。そうすれば強引に肘関節を極め折り曲げ、一真機のアーム・ブレードを一真自身へと突き立たせた。
「チィッ!!」
確実にコクピットを狙っていたその一撃へ何とか抵抗をし、一真は無理矢理に身を逸らす。そうして何とか致命傷だけは避けられたが、アーム・ブレードの切っ先は胴体と肩の隙間、左の肩関節へと食らい付いてしまう。
そうすれば、左腕は先程の≪シュペール・ミラージュ≫の腕と同様に破壊判定を受け、だらりと力なく垂れ下がってしまった。滑り落ちた17式対艦刀が、カランと足元に転がる。
「なんて無茶苦茶な……!」
『これでおあいこだよ、カズマぁぁぁっ!!』
だが、エマの猛攻は止まらない。そのまま手を離してしまえば、今度は強烈な蹴りを一真機の腹へと見舞ってくる。
「がぁっ!?」
大きく吹き飛び、タイプF改が何歩も後ろへとたたらを踏む。その隙にエマは足元に落ちていた彼の17式対艦刀を素早く回収すれば、それを右手マニピュレータに握り締めさせた。
『これでチェック・メイトだ……! キメさせて貰うよ、カズマッ!!』
奪い取った対艦刀を手に、エマの≪シュペール・ミラージュ≫が飛びかかってくる。体制を立て直した一真は「チィッ!」とまた大きく舌を打てば、最後に残った右腕のアーム・ブレードで迎撃態勢を取る。
(どのみち、このままじゃあ勝ち目はねえ……! だったら!)
イチかバチか、狙ってみるしかない。賭けに出てみるしか、他に手はない……!
「来いッ! エマァァァァッ!!!」
一真もまた雄叫びとともに大きく踏み出し、右腕全体のサブ・スラスタを"ヴァリアブル・ブラスト"で起動。最大級の勢いを乗せたアーム・ブレードによる刺突の一撃で以て、彼女の仕掛けた王手に応じようとする。
『逃がさない――――!!』
「逃げも隠れもしねえッ、俺はここだァァァァッ!!!」
飛びかかる≪シュペール・ミラージュ≫の振るう対艦刀の一撃と、限界まで研ぎ澄ましたアーム・ブレードの一撃とが交錯し合う。≪シュペール・ミラージュ≫の着地と同時にまた大きな土煙が舞い上がり、刃を重ね合った二機の姿は覆い隠されてしまった。ただ、金属の激突する二重奏だけを響かせて。
「…………」
『…………』
暫しの沈黙の後、風に吹かれ土煙が晴れていく。晴れていく向こう側に現れたのは、互いに互いの刃を食い込ませ合うタイプF改、そして≪シュペール・ミラージュ≫の姿だった。
一真のタイプF改が撃ち放った全力の刺突は、エマ機の右肩を正確に捉えていて。そして、≪シュペール・ミラージュ≫の振るった対艦刀といえば――――タイプF改の胴体左側、首の付け根から下を正確に捉える形で、装甲に触れながら静止していた。
『――――ヴァイパー02、撃墜判定を確認』
どちらが致命傷なのかは、サラの言葉を聞くまでもなく明らかだった。もしこれが実戦で真剣同士なら、今頃胴体を両断されていたのは一真の方だった。
『マーク・アルファ二機の撃破を確認しました。最終評価試験を終了します』
『お疲れ様でした、皆さんっ!』
サラの冷淡な声音での宣言と、そして美弥の元気いっぱいな労う声がデータリンク通信に響く。しかしそんな中でも、一真とエマは互いに互いの顔を、網膜投影のウィンドウ越しに無言で見合ったまま、動かないでいた。
「……負けたよ、俺の完敗だ」
『強くなったね、カズマ』
「負けは負けだよ、エマ……。まだまだ精進が必要みたいだな、こりゃあ」
『ふふっ。だったら、僕がまたいつでも付き合ってあげるよ』
「お手柔らかに頼む……」
ウィンドウの中で微笑むエマに向かって大袈裟に肩を竦めながら、一真はふぅ、とコクピットの中で大きく息をついた。緊張の糸が解れ、身体からドッと力が抜けていく。
(今回も、ギリギリで届かなかった)
また、エマに負けてしまった。だが不思議と悔しさはなかった。寧ろ、前よりも彼女に近づけているような気さえしてくる。
「……次は、勝ちたいもんだ」
ボソリと呟いた一真の独り言を最後に、マーク・アルファ改こと≪閃電≫・タイプF改の最終評価試験は終了を迎えた。
――――劣勢状況下から、エマ・アジャーニ少尉の戦術的勝利という結果。そしてタイプF改二機の撃墜という結果で、最終評価試験は幕を下ろすこととなった…………。
先に踏み出したのは、一真の方だった。
片脚を大きく踏み出して地を蹴り、背中のターボ・スラスタを起動。爆発的な加速力で一気に≪シュペール・ミラージュ≫へと距離を詰めながら、左肘の"ヴァリアブル・ブラスト"を起動し試製17式対艦刀で横薙ぎの一閃を放つ。
『ふふっ……!』
しかし、案の定というべきか、エマはそれをバックブーストを吹かし後退することで回避してみせた。半ば予想していたとはいえ、一撃必殺の思いを込めて振るった一太刀なだけに、一真は小さく舌を打たずにはいられない。
『さあ、踊るよカズマ! 僕と君で踊るんだ、最高のダンスをねっ!!』
エマは後退しながら、右手の88式突撃散弾砲を撃ちまくってくる。牽制程度のダブルオー・キャニスター通常散弾の豪雨が降り注ぐが、一真は敢えてそれに構わず更に一歩を踏み込んだ。
「うおおおおぉぉ――――ッ!!」
雄叫びとともに、地を蹴った純白の機影が再び流星へと変わる。青白い炎とともに背中のターボ・スラスタが再び点火し、背中から蹴り飛ばすみたいな勢いで一真とタイプF改を再びゼロコンマの刻の流れの中へと誘っていく。更に背中側の"ヴァリアブル・ブラスト"も同時に吹かせば、その速度は正に常軌を逸した速さへと変わる。
「ッッッ……!!」
ターボ・スラスタのフルスロットルに"ヴァリアブル・ブラスト"の後押し、あまりの加速度に一真は顔をしかめた。意識が遠のきそうになる。肋骨がギシギシと軋み、内臓には見えない手に鷲づかみにされたみたいに圧迫感が襲う。だがそれを歯を食い縛って耐えながら、一真は真っ直ぐに≪シュペール・ミラージュ≫に向かって突撃を敢行した。
『速い……!』
とすれば、さしものエマとて常軌を逸した加速度に焦りを覚え。バックブーストで逃げつつ右手の突撃散弾砲を撃ち尽くすぐらいの勢いで連射し、何とか一真の勢いを削ごうとする。
だが、幾ら正面から散弾が命中しようと、機体制御OSは撃墜判定どころかダメージ判定すらをも一切示さない。突撃戦を想定した装甲材の強化が、ここにきて功を奏したというワケだ。純白の装甲が幾らピンク色の弾着痕に汚れようと、その勢いは止まらない。
「チッ!」
とはいえ、兵装まで耐えられるワケはなかった。流れ弾が命中すると、一真が右手マニピュレータに持っていた突撃散弾砲が破壊判定を受ける。一真はマニピュレータを離させることで突撃散弾砲を棄てつつ、遂にはエマの≪シュペール・ミラージュ≫へと間合いを詰めることに成功した。
「らぁぁぁぁっ!!」
そして距離が詰まれば、そのまま斬り掛かる――ようなことはせず、敢えて左肩からタックルを仕掛けてみせた。当然斬撃が飛んでくると思っていたものだから、エマも予想外の攻撃に眼を見開く。
タックルを仕掛けた側と喰らう側、双方ともにバランスを崩せば錐揉み状態になって地面へと落下。互いにもみ合うようにして百数十mほど地面を滑走すれば、やがて静止した。
『なんて無茶苦茶なことを……!』
「それぐらいしないと、エマには勝てなさそうだからなッ!!」
そして、少し間合いを置いて地面に転がっていた二機がほぼ同時に立ち上がった。≪シュペール・ミラージュ≫は既に右手の突撃散弾砲を失っている。一真の方もアーム・グレネイド以外の飛び道具が無くなってしまったが、しかし一号機の強固な装甲がある限り、勝ち目はまだまだ消えていない。
『本当に僕の予想を越えてくれるね、君の成長速度は!』
とすれば、エマはまた飛び退いた後、今度は左手の突撃散弾砲を発砲した。またダブルオー・キャニスターだろうとタカを括っていた一真は回避行動もおざなりに、また踏み込んで距離を詰めようとする。
「ッ!?」
だが、そんな一真の視界に激しいノイズが走った。衝撃とともに機体が揺れ、シームレス・モニタの視界が右端の方だけ欠けてしまう。
『……ふふっ』
してやったりといった風に笑うエマが撃ち放ったのは、ダブルオー・キャニスター通常散弾でなく。APFSDSスラッグ弾だった。戦車砲までではないにしても、しかし通常散弾とは比較にならないほどの威力と貫通力を持つ弾だ。運良く弾頭はタイプF改の頭部ユニットの右端を掠めたものの、頭部にダメージ判定が発生。双眼式カメラ・アイの右側が壊れた扱いとなり、シームレス・モニタに映る視界のおよそ半分が消え失せてしまった。
「一筋縄じゃあ行かない相手か、やっぱり……!」
一真は舌を打ちつつ、しかしエマに称賛を贈りつつ。IFSの思考操作でサブ・カメラを制御すると、死んだ右眼の代わりに出来る限りの視界をそれで補う。それによってシームレス・モニタの左端から三分の二程度の視野までが回復したが、しかし残り三分の一は死んだまま、黒一色にブラックアウトしたままだった。
(二発目を喰らうワケにはいかない)
(多分、二度目は通じないだろうね)
一真は警戒し、そしてエマは二度も不意打ちが通用しないと内心で考える。どちらにせよ、両者ともに二度目はないと確信していた。
『じゃあ今度は、僕から行かせて貰うよっ!!』
そうすれば、エマの決断は早かった。左手の突撃散弾砲を右手に持ち替えさせるなり、すぐさま腰から73式対艦刀を抜刀。地を蹴りスラスタを吹かし、一気に一真へと肉薄を図る。
「ああ来い、望むところだぜッ!!」
一真もそれに立ち尽くしたままで応じ、左腕を突き出せばアーム・グレネイドで応戦。だが当然のようにエマはそれを避けながら、遂には一真機の懐へと食らい付いた。
『はぁぁぁぁっ!!』
深々と脚を踏み込み、片腕で振るう左からの袈裟掛け。一真はそれを、横倒しにして引き寄せた試製17式対艦刀の短い刀身で受け止めることで応じる。
「俺の剣は一本だけじゃあねえッ!!」
そうしながら、即座に右腕を動かし。まるでアッパーカットの殴打を仕掛けるように低く腕を振るいながら、一真はアーム・ブレードを展開させた。
『ッ!』
エマはそれを、咄嗟に右腕を犠牲にすることで防ぐ。≪シュペール・ミラージュ≫の腕の甲にアーム・ブレードの刃が触れれば、途端に破壊判定が発生。≪シュペール・ミラージュ≫は散弾砲を取り落としながら、一気に力の抜けた右腕をぶらんと垂らした。
『僕だって、一本じゃあないってことをッ!!』
が、ここからが一真の予想の範疇を超えていた。
エマは叫びながら何故か左手マニピュレータで対艦刀の柄を離してしまえば、フリーになった右手で無防備になった一真機の右腕を掴み。そうすれば強引に肘関節を極め折り曲げ、一真機のアーム・ブレードを一真自身へと突き立たせた。
「チィッ!!」
確実にコクピットを狙っていたその一撃へ何とか抵抗をし、一真は無理矢理に身を逸らす。そうして何とか致命傷だけは避けられたが、アーム・ブレードの切っ先は胴体と肩の隙間、左の肩関節へと食らい付いてしまう。
そうすれば、左腕は先程の≪シュペール・ミラージュ≫の腕と同様に破壊判定を受け、だらりと力なく垂れ下がってしまった。滑り落ちた17式対艦刀が、カランと足元に転がる。
「なんて無茶苦茶な……!」
『これでおあいこだよ、カズマぁぁぁっ!!』
だが、エマの猛攻は止まらない。そのまま手を離してしまえば、今度は強烈な蹴りを一真機の腹へと見舞ってくる。
「がぁっ!?」
大きく吹き飛び、タイプF改が何歩も後ろへとたたらを踏む。その隙にエマは足元に落ちていた彼の17式対艦刀を素早く回収すれば、それを右手マニピュレータに握り締めさせた。
『これでチェック・メイトだ……! キメさせて貰うよ、カズマッ!!』
奪い取った対艦刀を手に、エマの≪シュペール・ミラージュ≫が飛びかかってくる。体制を立て直した一真は「チィッ!」とまた大きく舌を打てば、最後に残った右腕のアーム・ブレードで迎撃態勢を取る。
(どのみち、このままじゃあ勝ち目はねえ……! だったら!)
イチかバチか、狙ってみるしかない。賭けに出てみるしか、他に手はない……!
「来いッ! エマァァァァッ!!!」
一真もまた雄叫びとともに大きく踏み出し、右腕全体のサブ・スラスタを"ヴァリアブル・ブラスト"で起動。最大級の勢いを乗せたアーム・ブレードによる刺突の一撃で以て、彼女の仕掛けた王手に応じようとする。
『逃がさない――――!!』
「逃げも隠れもしねえッ、俺はここだァァァァッ!!!」
飛びかかる≪シュペール・ミラージュ≫の振るう対艦刀の一撃と、限界まで研ぎ澄ましたアーム・ブレードの一撃とが交錯し合う。≪シュペール・ミラージュ≫の着地と同時にまた大きな土煙が舞い上がり、刃を重ね合った二機の姿は覆い隠されてしまった。ただ、金属の激突する二重奏だけを響かせて。
「…………」
『…………』
暫しの沈黙の後、風に吹かれ土煙が晴れていく。晴れていく向こう側に現れたのは、互いに互いの刃を食い込ませ合うタイプF改、そして≪シュペール・ミラージュ≫の姿だった。
一真のタイプF改が撃ち放った全力の刺突は、エマ機の右肩を正確に捉えていて。そして、≪シュペール・ミラージュ≫の振るった対艦刀といえば――――タイプF改の胴体左側、首の付け根から下を正確に捉える形で、装甲に触れながら静止していた。
『――――ヴァイパー02、撃墜判定を確認』
どちらが致命傷なのかは、サラの言葉を聞くまでもなく明らかだった。もしこれが実戦で真剣同士なら、今頃胴体を両断されていたのは一真の方だった。
『マーク・アルファ二機の撃破を確認しました。最終評価試験を終了します』
『お疲れ様でした、皆さんっ!』
サラの冷淡な声音での宣言と、そして美弥の元気いっぱいな労う声がデータリンク通信に響く。しかしそんな中でも、一真とエマは互いに互いの顔を、網膜投影のウィンドウ越しに無言で見合ったまま、動かないでいた。
「……負けたよ、俺の完敗だ」
『強くなったね、カズマ』
「負けは負けだよ、エマ……。まだまだ精進が必要みたいだな、こりゃあ」
『ふふっ。だったら、僕がまたいつでも付き合ってあげるよ』
「お手柔らかに頼む……」
ウィンドウの中で微笑むエマに向かって大袈裟に肩を竦めながら、一真はふぅ、とコクピットの中で大きく息をついた。緊張の糸が解れ、身体からドッと力が抜けていく。
(今回も、ギリギリで届かなかった)
また、エマに負けてしまった。だが不思議と悔しさはなかった。寧ろ、前よりも彼女に近づけているような気さえしてくる。
「……次は、勝ちたいもんだ」
ボソリと呟いた一真の独り言を最後に、マーク・アルファ改こと≪閃電≫・タイプF改の最終評価試験は終了を迎えた。
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