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穴蔵の底へ

電車で四、五駅黄泉の国へ

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当然ながら「ストレングス」のカードは頂きつつ。その亡骸を漁る。
…ちっ、人の事を襲いに来た割にはしけてんな。財布の中身も小銭ばかりだ。上の街の感覚で行くと二食食えばカラになる。
「あ、あの…流れるように追い剥ぎされてますけど、今のは一体…」
「いやだって勝者の当然の権利じゃん?」
マジックアイテム的な物もストレングスのカード以外は見当たらない…剥げるのはこんなところか。
「…ね、コレこのままここに放置してぉk?」
「あー…う、どうなんでしょう…ここは、その、王族の陵墓内で、出来れば清浄に整えないといけないような、でもルームガーダーがそのうち片付けそうな…」
「さっすが!じゃほっとこう。」
わたしはマイナに先を促した。
「あああ…ま、まあ仕方ないかな…」
「わたしおなかへった」
「今さっきあれだけ戦ってそんな感じなんですか…凄いですね」
マイナは笑った。もう笑うしかない、という感じだったかも知れないが。
マイナの話だとこの地下陵墓内をルームガーダーが巡回する経路は決まっているらしく、マイナはそのルートを知っており、うまく出くわさずにマイナの家まで辿り着いた。
陵墓内なので当然屋内、さらにその中に小さいながら一軒家が建っているのはシュールな光景だった。
「…どうやって暮らしていけてるの?」
わたしは当然の疑問を投げ掛ける。さっきの話だと外には出られないらしいし、こんな穴蔵の底にひとりでは食糧供給もままなるまい。
「はい、外…いわゆる地上の外界には出られないんですが、この世界の黄泉…あの世、ですか。そっちには近いので」
さらっととんでもない話が出たような。
「黄泉の国のマーケットは結構食糧も安く手に入るので、ここの番人としてのお給料で余裕もあるんですよ」
…どうしよう…さらっとかなりマズイ状況のような気がして来た。
「まあまあ、ザクロでもお食べになって休んで下さいね」
あかんやつや。
これ食べたら「お前もう死者の世界の仲間な!」って雑に認定されちゃうやーつー、やん。
「あ、はは…ね、マイナ。黄泉マーケット以外の食糧って…」
「ないですよ?…黄泉地鶏の唐揚げの方が良いですか?それとも黄泉タッキーフライドティキン?」
「鶏好きだな!?…いやあ、わたしってば日輪輝く世界へいずれは帰る必要があるし、いつまでもジメってられないってゆーかさ…」
「黄泉フードは食べたくない、と?」
「まあ、要は…」
「凄く美味しいですよ?買い置きは今言ったくらいの物しか無いですけど、なんなら今から行きましょうか、黄泉?」
…それ死んじゃうって事では?
「イヤーチョットソレハ」
流石のわたしも凍り付いた。この世界で割とマジで初めてくらいのリアルな生命の危機感を覚えた。
「…?そうですか、いいところなのに…少なくともこの穴蔵の中よりはよっぽど快適ですよ?」
「どんなとこなの?」
「えー、まずですね…地下鉄で行きます」
既におかしいな。
「デンシャ?デンシャナンデ?」
「いえ、公共交通機関になんで、とか言われても…で、着いた先は基本的に都会です。高層…てほどじゃないですけどビルとか建ってます」
異世界人の口から地下鉄だの公共交通機関だのビルだのが連呼されてちょっと面白くなり始めていた。ナニコレ。
「で、通貨も違うのでこれで買い物をします」
マイナは財布から「通貨」を取り出した。
日本円の見慣れた万札がごっそり入っていた。
ん…これもしかして…
「マイナ、わたし行ってみたくなった」
「そうですか!良かった。ちょうど今日は欲しいフィギュアの店着日の筈なので行く予定だったんですよ」
なんだろう…この、違和感の塊のようなスイッと入ってくるような語感は…
「じゃあ行きましょう。こっちが地下鉄の駅に繋がってます」
マイナの家の中の、さっきとは違う出入り口の扉を開ける…
唐突に、明るいところへ出た。
蛍光管の灯り…広々とした通路。
「ね、あなたはスイカもってま…せんよね。切符買いますね」
「なんか悪いね」
「いえ!せっかく一緒に行けるんですから!」
マイナは張り切って切符を買っていた。
地獄の橋渡しからとかではなく改札近くの券売機からだった。なんなら駅員も普通に立ってた。
「はい。自動改札ですから切符通して下さいね…わたしは触れるだけなんで」
二人とも普通に改札を通り、地下のホームへ降りる。
明らかに都営新宿線がホームへ入ってきて、マイナに促され乗り込んだ。
車内はある程度の客数だったが座るには余裕があるくらいだった。
何駅か乗って、岩本町で降りた。
長い階段を上り、駅の外へ出る。
少し歩けば見知った街…
秋葉原に到着していた。
「アキバじゃん!」
「?…いえ?ここは黄泉…黄泉葉原ですよ?」
言われてみるとあちこちの、本来「秋葉原」と表記されているところの「秋」の字の上から雑に紙で「黄泉」と貼られている…
どうやら何かが違うことだけは確かなようだ…
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