チラ見のぞき見ホッピング

流音あい

文字の大きさ
2 / 10

2話 行きつけのバーで告白

しおりを挟む
 何度か前を通ったことはあるが入るのは初めてだ。俺は普段こういったバーよりもっと落ち着いたカフェの方がいい。
 音楽も電飾も賑やかな店内を見回していると、彼女を見つけた。カウンターで立って誰かと話している。よかった。休みの日はよくこの店で飲んでいるというから来てみたが正解だ。
 彼女も俺と付き合う気はあるはずだ。完全に脈ナシなら行きつけのバーなど教えない。あの時はイヤと言いながらも笑っていたし、まだ俺のことをよく知らないからと言っていた。これはきっと彼女からのお誘いだ。
 彼女は知らない男二人と一緒にいた。友人か、ナンパか。とりあえず彼女の背後に回って聞き耳を立てる。ナンパされているのであれば俺の出番かもしれない。もうひとり女性とも話しているようだ。三人とも知り合いだろうか。
 一瞬『オレの女』発言を実行する場面かと思ったが、特に嫌がっているわけでもないらしい。これでは割り込んでいっても空気を悪くするだけかもしれない。普段の彼女のここでの様子はまだ知らないし、今日俺が来ることも知らないはずだ。
「君たち彼氏はいるの?」
「募集中よ」
「私はいるわ」
 いると答えたのはカズミさん。思わず顔を向けるが彼女はこちらに気づいていない。
 黙ったまま突っ立っていると注文を聞かれた。とりあえずビールを頼むと声で気づいたのか、彼女が振り向いた。
「来てたのね」
「はい」
 彼女はジーンズにTシャツというラフな装いだった。バイトの時とはメイクが違うのか、いつもより目鼻立ちがくっきりして見える。
「教えてもらったので来てみました。いいところですね」
「でしょ。お酒も安いし」
 そう言って彼女はショットを飲み干した。俺も出された瓶ビールに口を付ける。
「さっきの人たちは」
「ああ、ナンパ男よ。こういうところでは珍しくないわよね」
「女性の方は知り合い?」
「まあね。ここでよく会うわ。好みだった?」
「いえ、べつに」
 彼女は優しく微笑んだが、淡い黄色の照明のせいか、俺の目には妖艶に映った。
「さっきちょっと聞こえたんですけど」
「うん?」
「彼氏いるって言ってましたよね」
「そうね」
 否定はなし。先日俺はフラれている。けれどあれはもしかして。
「あれって俺のことですか?」
「違うわよ」
「え、違うんですか?」
 じゃあどういうことだ。この一週間にも満たない短期間に彼氏が出来たということか。
「カズミさん、彼氏いるんですか」
「いないわよ。嘘だもの」
「嘘?」
「そうよ。その場しのぎのただの嘘。ああいう連中には面倒だからああやって答えるのが一番でしょ。一人が募集中とか言っちゃってるし、こっちまでいないって言ったらしつこく絡まれるかもしれないし」
「確かに」
 こういうときの女性のかわし方の知恵ということか。処世術だな。
「本気にしたの? 普通気付くんじゃない?」
「男はそういうの気づきにくいんですよ」
「ふうん?」
 彼女は笑って俺の瓶ビールを奪って飲んだ。
「でも俺の時はいるって言いませんでしたよね」
「そりゃ好きな人相手ならいないって言うでしょ」
 無言の俺を見て彼女は笑う。楽しんでいるのが伝わってくる。随分とご機嫌なご様子だが、単に酔っているからではないだろう。
「カズミさん」
「はい、なんでしょう」
「俺と付き合ってください」
「ごめんなさい」
 なんでやねん。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...