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2話 行きつけのバーで告白
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何度か前を通ったことはあるが入るのは初めてだ。俺は普段こういったバーよりもっと落ち着いたカフェの方がいい。
音楽も電飾も賑やかな店内を見回していると、彼女を見つけた。カウンターで立って誰かと話している。よかった。休みの日はよくこの店で飲んでいるというから来てみたが正解だ。
彼女も俺と付き合う気はあるはずだ。完全に脈ナシなら行きつけのバーなど教えない。あの時はイヤと言いながらも笑っていたし、まだ俺のことをよく知らないからと言っていた。これはきっと彼女からのお誘いだ。
彼女は知らない男二人と一緒にいた。友人か、ナンパか。とりあえず彼女の背後に回って聞き耳を立てる。ナンパされているのであれば俺の出番かもしれない。もうひとり女性とも話しているようだ。三人とも知り合いだろうか。
一瞬『オレの女』発言を実行する場面かと思ったが、特に嫌がっているわけでもないらしい。これでは割り込んでいっても空気を悪くするだけかもしれない。普段の彼女のここでの様子はまだ知らないし、今日俺が来ることも知らないはずだ。
「君たち彼氏はいるの?」
「募集中よ」
「私はいるわ」
いると答えたのはカズミさん。思わず顔を向けるが彼女はこちらに気づいていない。
黙ったまま突っ立っていると注文を聞かれた。とりあえずビールを頼むと声で気づいたのか、彼女が振り向いた。
「来てたのね」
「はい」
彼女はジーンズにTシャツというラフな装いだった。バイトの時とはメイクが違うのか、いつもより目鼻立ちがくっきりして見える。
「教えてもらったので来てみました。いいところですね」
「でしょ。お酒も安いし」
そう言って彼女はショットを飲み干した。俺も出された瓶ビールに口を付ける。
「さっきの人たちは」
「ああ、ナンパ男よ。こういうところでは珍しくないわよね」
「女性の方は知り合い?」
「まあね。ここでよく会うわ。好みだった?」
「いえ、べつに」
彼女は優しく微笑んだが、淡い黄色の照明のせいか、俺の目には妖艶に映った。
「さっきちょっと聞こえたんですけど」
「うん?」
「彼氏いるって言ってましたよね」
「そうね」
否定はなし。先日俺はフラれている。けれどあれはもしかして。
「あれって俺のことですか?」
「違うわよ」
「え、違うんですか?」
じゃあどういうことだ。この一週間にも満たない短期間に彼氏が出来たということか。
「カズミさん、彼氏いるんですか」
「いないわよ。嘘だもの」
「嘘?」
「そうよ。その場しのぎのただの嘘。ああいう連中には面倒だからああやって答えるのが一番でしょ。一人が募集中とか言っちゃってるし、こっちまでいないって言ったらしつこく絡まれるかもしれないし」
「確かに」
こういうときの女性のかわし方の知恵ということか。処世術だな。
「本気にしたの? 普通気付くんじゃない?」
「男はそういうの気づきにくいんですよ」
「ふうん?」
彼女は笑って俺の瓶ビールを奪って飲んだ。
「でも俺の時はいるって言いませんでしたよね」
「そりゃ好きな人相手ならいないって言うでしょ」
無言の俺を見て彼女は笑う。楽しんでいるのが伝わってくる。随分とご機嫌なご様子だが、単に酔っているからではないだろう。
「カズミさん」
「はい、なんでしょう」
「俺と付き合ってください」
「ごめんなさい」
なんでやねん。
音楽も電飾も賑やかな店内を見回していると、彼女を見つけた。カウンターで立って誰かと話している。よかった。休みの日はよくこの店で飲んでいるというから来てみたが正解だ。
彼女も俺と付き合う気はあるはずだ。完全に脈ナシなら行きつけのバーなど教えない。あの時はイヤと言いながらも笑っていたし、まだ俺のことをよく知らないからと言っていた。これはきっと彼女からのお誘いだ。
彼女は知らない男二人と一緒にいた。友人か、ナンパか。とりあえず彼女の背後に回って聞き耳を立てる。ナンパされているのであれば俺の出番かもしれない。もうひとり女性とも話しているようだ。三人とも知り合いだろうか。
一瞬『オレの女』発言を実行する場面かと思ったが、特に嫌がっているわけでもないらしい。これでは割り込んでいっても空気を悪くするだけかもしれない。普段の彼女のここでの様子はまだ知らないし、今日俺が来ることも知らないはずだ。
「君たち彼氏はいるの?」
「募集中よ」
「私はいるわ」
いると答えたのはカズミさん。思わず顔を向けるが彼女はこちらに気づいていない。
黙ったまま突っ立っていると注文を聞かれた。とりあえずビールを頼むと声で気づいたのか、彼女が振り向いた。
「来てたのね」
「はい」
彼女はジーンズにTシャツというラフな装いだった。バイトの時とはメイクが違うのか、いつもより目鼻立ちがくっきりして見える。
「教えてもらったので来てみました。いいところですね」
「でしょ。お酒も安いし」
そう言って彼女はショットを飲み干した。俺も出された瓶ビールに口を付ける。
「さっきの人たちは」
「ああ、ナンパ男よ。こういうところでは珍しくないわよね」
「女性の方は知り合い?」
「まあね。ここでよく会うわ。好みだった?」
「いえ、べつに」
彼女は優しく微笑んだが、淡い黄色の照明のせいか、俺の目には妖艶に映った。
「さっきちょっと聞こえたんですけど」
「うん?」
「彼氏いるって言ってましたよね」
「そうね」
否定はなし。先日俺はフラれている。けれどあれはもしかして。
「あれって俺のことですか?」
「違うわよ」
「え、違うんですか?」
じゃあどういうことだ。この一週間にも満たない短期間に彼氏が出来たということか。
「カズミさん、彼氏いるんですか」
「いないわよ。嘘だもの」
「嘘?」
「そうよ。その場しのぎのただの嘘。ああいう連中には面倒だからああやって答えるのが一番でしょ。一人が募集中とか言っちゃってるし、こっちまでいないって言ったらしつこく絡まれるかもしれないし」
「確かに」
こういうときの女性のかわし方の知恵ということか。処世術だな。
「本気にしたの? 普通気付くんじゃない?」
「男はそういうの気づきにくいんですよ」
「ふうん?」
彼女は笑って俺の瓶ビールを奪って飲んだ。
「でも俺の時はいるって言いませんでしたよね」
「そりゃ好きな人相手ならいないって言うでしょ」
無言の俺を見て彼女は笑う。楽しんでいるのが伝わってくる。随分とご機嫌なご様子だが、単に酔っているからではないだろう。
「カズミさん」
「はい、なんでしょう」
「俺と付き合ってください」
「ごめんなさい」
なんでやねん。
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