チラ見のぞき見ホッピング

流音あい

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9話 彼女の家で告白

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「明日家に行ってもいいですか」
 今日はちょっと攻めてみる。
「明日は二人とも休みだし、丁度いいかなと」
 スーパーでお決まりの作業をしながら、周囲には聞こえないように気を配りながら聞いてみる。
「それなら今夜来る方がいいんじゃない?」
「え?」
「そのまま泊まっちゃえば明日もゆっくり休めるし」
 動きが止まるのも無理はない。まさかそんな提案をされるとは。
「い、いいんですか」
「いいわよ。一緒に夕飯食べて帰りましょ」
 これは本気だろうか。いやでもまさか。キスもまだなのに、いきなり泊まりだなんて。ちょっと家デートをしてみようかと思っただけなのに。
「あ、でも今日、俺仕事上がるの遅いんですが」
「何時?」
「9時です」
「じゃあ今日は無理ね。明日にしましょ」
「ええ、そんな」
 今日は6時上がりの彼女とは、確かに時間が空きすぎる。けれどそのせいでせっかくのチャンスがダメになるなんて。
 焦る俺に、マスクの下の彼女が笑う。
「じゃあ私は一人で先に食べてるから、平坂くんは何かテイクアウトして私の家で食べれば? 私は飲んでるから」
「な、なるほど。それでいいなら」
「え、本気?」
 彼女が動きを止めて俺を見る。
「やっぱり冗談なんですか」
「やっぱりって何よ。9時上がりでテイクアウトなんてお腹すくでしょ。どこかで食べてくれば?」
「いや大体いつもそうですよ。9時上がりの時はテイクアウトで家帰ってから食べます」
「本気? 私絶対どこかで食べて帰るわ。テイクアウトするのはもっと早い時間のときよ」
「俺はそれが普通です」
「信じられない。9時上がりでテイクアウトで家なんて」
 彼女の驚く顔は珍しい。彼女が驚いたのはそこだったのだろうか。俺の普通はそんなに珍しいことではないと思うが、彼女にとっては初めての情報らしい。つまり家に行く云々は、本気にしていいと。
「それで、ええっとそれじゃあ……本気、でいいんですね?」
「何が?」
「俺今日、仕事終わりに家行きますよ?」
「いいわよ。バスで降りたら迎えに行ってあげる」
 あっさり承諾され、信じられなかった俺はもう一度聞いてみたが、彼女から冗談だという言葉は出なかった。



 仕事を終えた俺は手早く土産のビールを買い、誰もいないバス停でテイクアウトのバーガーを食べた。正直、緊張で食べなくてもいいくらいだが、彼女からは家で一緒に飲もうと言われているので、しっかり食べておかないと酔いが回ってしまう。
 この前みたいに酔った勢いで強気になっても彼女にはかわされてしまうので、酔わないうちにしっかり口説き落とさなければならない。そのためにはやっぱり食べておかないと。
 今日は彼女の家に泊まる。今日はきっと、ついに彼女と付き合えるはずだ。
 教えてもらったバスにのり、降りるバス停が近くなって連絡すると、丁度降りた時にこちらに向かってくる彼女が見えた。俺の姿を捉えた彼女は、ついて来いと手で合図して俺に背を向けて歩き出す。早歩きで彼女に追いつくと、そこから五分ほど歩いたところに彼女の住むマンションがあった。
「夕飯は何買ってきたの?」
「バーガー買って、バス待ってる間にもう食べちゃいました。こっちはビールです」
「やっぱお腹空いてたんだ」
「いや、まあ……はい、そうです」
 緊張してるとか酔って失敗しないためなどの内情は言わなくてもいいだろう。
「ピザあるけど食べる? 私も結局外食やめてピザ頼んだの」
 玄関を開けてもらい、中にお邪魔しようとして、はっとする。
「カズミさん」
 片方だけ脱いだ靴に足を戻し、不思議そうにこちらを見ている彼女に言った。
「俺と付き合ってください」
「今日は随分と早いわね」
「家にお邪魔するし、泊まらせてもらうし、上がったらお酒飲むんだから今しかないじゃないですか」
「なるほどね。いいわ。とりあえず入って」
 今の「いいわ」はOKってことにすべきだろうか。言えばそういう意味じゃないなどと言われるだろうけれど。俺は靴を脱いで上がり込む。
「今カズミさん『いいわ』って言いましたよ」
「うん? そうね」
「それは告白の返事だって解釈しました。もうカズミさんは俺の彼女です」
「そう。わかったわ」
 わかったわ?
「え、いいんですか?」
「取り消していいの?」
「ダメですよ」
「じゃあそういうことで」
 冷蔵庫に向かった彼女は、瓶ビールを取り出してテーブルにおいた。
「さあ飲みましょ。ピザも食べたかったらどうぞ」
 やった、ついにやったぞ。俺はまだ呑み込みきれない感情を抱いて彼女の向かいの席に座り、ピザとビールを浴びるほど頂いた。
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