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2、主役はだあれ?
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おじいさんの家に着くと、三人は誰がこの本の主役なのかと聞きました。おじいさんはこう答えました。
「カエル君のところはカエル君が主役だし、キリンさんのところはキリンさんが主役だし、カバさんのところはカバさんが主役だよ」
それを聞いて、カエル君は言いました。
「それならこの本の中で一番評判がいいのは誰なのか、教えてくれよ」
「それはみんな評判がいいさ。気に入った部分はそれぞれ違うからね」
それを聞いて、キリンさんは言いました。
「それならおじいさんは誰のことを一番考えながら書いていたか、教えてちょうだい」
「それはもちろん、カエル君のところはカエル君、キリンさんのところはキリンさん、カバさんのところはカバさんのことを考えながら書いていたよ」
それを聞いて、カバさんは言いました。
「それなら一番重要なところはどこなのか、教えてくれ」
「カエル君の話にはカエル君の重要なところが、キリンさんの話にはキリンさんの重要なところが、カバさんの話にはカバさんの重要なところがあるよ」
それを聞いて三人は怒りだしました。
「それじゃあ誰が主役かわからないじゃないか」
「そうよ。はっきりしてほしいわ」
「わしらは誰が主役なのか知りたいんだ」
怒った三人は、もういい! と言って、おじいさんの家から出ていきました。
「けっきょく誰が主役かはわからなかったわね。どうすればいいかしら」
「そりゃあ僕が主役なんだから、それをみんなに教えてあげればいいだけさ」
「違うだろう。まだわかっていないから考えるんだろう」
三人は頭を悩ませました。どうすれば主役がわかるのか、三人ともうんうん唸っています。しばらくして、カエル君が顔をぱっと上げました。
「本を読んだみんなに聞いてみるのはどうかな」
それを聞いて、キリンさんとカバさんも表情が明るくなりました。
「それは名案だわ」
「ああ、名案だ。さっそく聞きに行こう」
二人も賛同し、三人は本を読んだ動物たちに聞いて回ることにしました。
「このお話の主役は誰だと思う?」
最初に聞いたのは、真っ黒な羽が自慢のカラスさんでした。カラスさんは羽を広げたり収めたりしながら言いました。
「そうね。私はカエル君かしら」
「どうして?」
「だって最初に出てきたもの」
「ほら、やっぱりそうじゃないか」
カエル君は満足そうに胸を張りました。けれど二人は納得しません。
「一番大事な主役は真ん中にでてくるものだわ。物語が盛り上がるのは真ん中だもの」
「一番大事な主役は最後に出てくるものだろう。物語が盛り上がるのは最後だからな」
三人は他にも聞いてみることにしました。
「このお話の主役は誰だと思う?」
次に聞いたのは、手触りのいい茶色い毛並みが自慢のクマさんでした。
「俺はキリンさんかな」
「どうして?」
「二番目に出てきたし、ちょうど真ん中だからね」
「ほら、やっぱりそうじゃないの」
キリンさんは得意げに首を揺らしました。けれど二人は納得しません。
「最初に出てきてるんだから、僕が主役のはずだろう」
「最後に出てきてるんだから、わしのはずだ」
三人は次の動物のところに行きました。
「このお話の主役は誰だと思う?」
次に聞いたのは、つぶらな瞳と、背中の灰色の毛色が自慢のハツカネズミさんでした。
「あたしはカバさんだと思うわ」
「どうして?」
「最後に出てきているからよ」
「ほら、やっぱりわしだったろう」
カバさんは勝気な顔でにんまりと笑いました。けれど二人は納得しません。
「おかしいじゃないか。僕がいないとお話が始まらない。だから僕が主役なんだ」
「おかしいわよ。お話の一番大切なところは中盤よ。だから私が主役だわ」
またも全員の納得は得られなかったので、三人は次に行きました。
他にもいろんな動物に聞いて回りましたが、みんなそれぞれ三人の中の誰かを言い、三人とも同じくらいの票が集まりました。これではいつまで経っても主役が誰かわかりません。
三人が途方に暮れていると、そこに最初に聞いたカラスさんがやってきました。
「あなたたちに聞かれて、私達もあれからみんなで考えてみたのよ。ついてきて」
飛び立つカラスさんについて行ってみると、そこには本を読んだ動物たちがみんな集まっていました。
「やあ、君たち。俺たちも考えてみたよ」
「みんなで一緒に考えましょう」
そこにはクマさんやハツカネズミさん、キツネさんやウサギさん、そして他の動物たちもたくさんいました。三人は嬉しくなりました。これだけ大勢が集まれば、きっと主役が誰かわかるはず。三人はそんな期待を胸に、みんなでの話し合いに参加しました。
「僕はやっぱりカエル君だと思うんだよね。最初のインパクトがすごいから」
「確かに最初のインパクトは強いわね。でもキリンさんは、穏やかにゆったり草を食んでいる場面から強烈なキック力の場面に移るのよ。そういうのって主役だからこそだと思うの」
「あたしもそれは思ったわ。だから最初はカバさんだと思ったけど、今はキリンさんが主役じゃないかと思ってるの」
「俺はキリンさんかと思っていたけど、カバさんかもと今では思ってるよ。やっぱり縄張りを守る場面での格闘シーンは、主役ならではだよね」
「でもカエル君の泳ぎ競争のときの迫力はすごかったよ」
「迫力ならやっぱりカバさんの方が」
「いやいやキリンさんだろう」
すぐに判明すると思った三人の予想とは裏腹に、話し合いは難航しました。
みんなが集まると、説得されたり納得したり、途中で意見を変える者が出てきたりと、なかなか結論が出てきません。くわえて新しい意見も出てきました。
「私思うんだけど、これって本当は三人が主役じゃないんじゃない? 三人が暮らしているのを見守っているのが、本当の主役じゃないかしら」
「見守っている? それってどういうことだい?」
「大地よ。私達が暮らしているこの場所よ。私たちは大地の恵みなくしては生きられないわ。それを伝えようとしているのではないかしら」
「確かに。本当の主役は陰で支えてくれている存在ということか」
「待ってくれ。それなら見守っているのは空や雲なんじゃないか? 水や泥は雨が降らなきゃ現れないんだからね」
「それなら植物じゃないかしら。木や葉っぱはどのページにも描かれているわ。それって全員が共通するものよ。空や大地は大きすぎるから、きっと木や葉っぱが本当の主役なのよ」
話し合いは更に混迷を極めました。深まる謎に、みんな頭を悩めます。
「あ、みて、おじいさんよ」
誰かの声にみんなは顔を上げました。視線の先には、お話を書くおじいさんが立っていました。
「カエル君のところはカエル君が主役だし、キリンさんのところはキリンさんが主役だし、カバさんのところはカバさんが主役だよ」
それを聞いて、カエル君は言いました。
「それならこの本の中で一番評判がいいのは誰なのか、教えてくれよ」
「それはみんな評判がいいさ。気に入った部分はそれぞれ違うからね」
それを聞いて、キリンさんは言いました。
「それならおじいさんは誰のことを一番考えながら書いていたか、教えてちょうだい」
「それはもちろん、カエル君のところはカエル君、キリンさんのところはキリンさん、カバさんのところはカバさんのことを考えながら書いていたよ」
それを聞いて、カバさんは言いました。
「それなら一番重要なところはどこなのか、教えてくれ」
「カエル君の話にはカエル君の重要なところが、キリンさんの話にはキリンさんの重要なところが、カバさんの話にはカバさんの重要なところがあるよ」
それを聞いて三人は怒りだしました。
「それじゃあ誰が主役かわからないじゃないか」
「そうよ。はっきりしてほしいわ」
「わしらは誰が主役なのか知りたいんだ」
怒った三人は、もういい! と言って、おじいさんの家から出ていきました。
「けっきょく誰が主役かはわからなかったわね。どうすればいいかしら」
「そりゃあ僕が主役なんだから、それをみんなに教えてあげればいいだけさ」
「違うだろう。まだわかっていないから考えるんだろう」
三人は頭を悩ませました。どうすれば主役がわかるのか、三人ともうんうん唸っています。しばらくして、カエル君が顔をぱっと上げました。
「本を読んだみんなに聞いてみるのはどうかな」
それを聞いて、キリンさんとカバさんも表情が明るくなりました。
「それは名案だわ」
「ああ、名案だ。さっそく聞きに行こう」
二人も賛同し、三人は本を読んだ動物たちに聞いて回ることにしました。
「このお話の主役は誰だと思う?」
最初に聞いたのは、真っ黒な羽が自慢のカラスさんでした。カラスさんは羽を広げたり収めたりしながら言いました。
「そうね。私はカエル君かしら」
「どうして?」
「だって最初に出てきたもの」
「ほら、やっぱりそうじゃないか」
カエル君は満足そうに胸を張りました。けれど二人は納得しません。
「一番大事な主役は真ん中にでてくるものだわ。物語が盛り上がるのは真ん中だもの」
「一番大事な主役は最後に出てくるものだろう。物語が盛り上がるのは最後だからな」
三人は他にも聞いてみることにしました。
「このお話の主役は誰だと思う?」
次に聞いたのは、手触りのいい茶色い毛並みが自慢のクマさんでした。
「俺はキリンさんかな」
「どうして?」
「二番目に出てきたし、ちょうど真ん中だからね」
「ほら、やっぱりそうじゃないの」
キリンさんは得意げに首を揺らしました。けれど二人は納得しません。
「最初に出てきてるんだから、僕が主役のはずだろう」
「最後に出てきてるんだから、わしのはずだ」
三人は次の動物のところに行きました。
「このお話の主役は誰だと思う?」
次に聞いたのは、つぶらな瞳と、背中の灰色の毛色が自慢のハツカネズミさんでした。
「あたしはカバさんだと思うわ」
「どうして?」
「最後に出てきているからよ」
「ほら、やっぱりわしだったろう」
カバさんは勝気な顔でにんまりと笑いました。けれど二人は納得しません。
「おかしいじゃないか。僕がいないとお話が始まらない。だから僕が主役なんだ」
「おかしいわよ。お話の一番大切なところは中盤よ。だから私が主役だわ」
またも全員の納得は得られなかったので、三人は次に行きました。
他にもいろんな動物に聞いて回りましたが、みんなそれぞれ三人の中の誰かを言い、三人とも同じくらいの票が集まりました。これではいつまで経っても主役が誰かわかりません。
三人が途方に暮れていると、そこに最初に聞いたカラスさんがやってきました。
「あなたたちに聞かれて、私達もあれからみんなで考えてみたのよ。ついてきて」
飛び立つカラスさんについて行ってみると、そこには本を読んだ動物たちがみんな集まっていました。
「やあ、君たち。俺たちも考えてみたよ」
「みんなで一緒に考えましょう」
そこにはクマさんやハツカネズミさん、キツネさんやウサギさん、そして他の動物たちもたくさんいました。三人は嬉しくなりました。これだけ大勢が集まれば、きっと主役が誰かわかるはず。三人はそんな期待を胸に、みんなでの話し合いに参加しました。
「僕はやっぱりカエル君だと思うんだよね。最初のインパクトがすごいから」
「確かに最初のインパクトは強いわね。でもキリンさんは、穏やかにゆったり草を食んでいる場面から強烈なキック力の場面に移るのよ。そういうのって主役だからこそだと思うの」
「あたしもそれは思ったわ。だから最初はカバさんだと思ったけど、今はキリンさんが主役じゃないかと思ってるの」
「俺はキリンさんかと思っていたけど、カバさんかもと今では思ってるよ。やっぱり縄張りを守る場面での格闘シーンは、主役ならではだよね」
「でもカエル君の泳ぎ競争のときの迫力はすごかったよ」
「迫力ならやっぱりカバさんの方が」
「いやいやキリンさんだろう」
すぐに判明すると思った三人の予想とは裏腹に、話し合いは難航しました。
みんなが集まると、説得されたり納得したり、途中で意見を変える者が出てきたりと、なかなか結論が出てきません。くわえて新しい意見も出てきました。
「私思うんだけど、これって本当は三人が主役じゃないんじゃない? 三人が暮らしているのを見守っているのが、本当の主役じゃないかしら」
「見守っている? それってどういうことだい?」
「大地よ。私達が暮らしているこの場所よ。私たちは大地の恵みなくしては生きられないわ。それを伝えようとしているのではないかしら」
「確かに。本当の主役は陰で支えてくれている存在ということか」
「待ってくれ。それなら見守っているのは空や雲なんじゃないか? 水や泥は雨が降らなきゃ現れないんだからね」
「それなら植物じゃないかしら。木や葉っぱはどのページにも描かれているわ。それって全員が共通するものよ。空や大地は大きすぎるから、きっと木や葉っぱが本当の主役なのよ」
話し合いは更に混迷を極めました。深まる謎に、みんな頭を悩めます。
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