瓦解する甘い盾

流音あい

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七度目の接触、遊戯(※先輩視点)

22、再戦

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「いらっしゃい先輩」
 約束の時間に家を訪れた彼を、きよみは爽やかな笑顔で出迎えた。唇にキスをし、ハグまでしてくれる。
「この前まで家に上がるのも大変だったから、急にこんな歓迎されると、なんかくすぐったい感じ」
「これを求めてたんじゃないの? それとも拒否する女を無理やりねじ伏せて、家に上がり込む方がお好み?」
「それはそれで刺激的でいいけどね。もちろん本気の拒否じゃないときに限るけど」
 彼女は小悪魔のように、にやりと笑った。


 彼女の方から家に誘ってくれたので、今日は漸く恋人として部屋に上がることが許された。あれから電話もメールも無視されることはなく、彼女との関係は良好だ。週末には普通のデートの約束も取り付けたので、今後の恋人ライフが期待できる。

「さあ先輩、今日はどうします?」
 リビングルームで冷たいドリンクを飲みながら二人でまったりしていると、彼女が悪戯を仕掛けるような顔を向けてくる。
「この前言った勝負、今日します?」
 小首をかしげ、唇に誘惑的な笑みを引く。挑発された彼は微笑んだ。
「もちろん、そのつもりだよ。週末のデートもかかってるし」
 彼女は頬に無邪気なキスをすると、彼の手を引いて寝室へ向かった。



 壁に彼を立たせると、彼女は優しくはむりはむりと唇を食んできた。その腰を抱き寄せて口付けに応えながら、彼はぐっと下半身を押し付ける。

 彼女が唇を離し、蠱惑的な瞳で見つめてくる。もの足りなくて、離れたばかりの唇を目で追った。制するように一本立てた指で唇を押され、その指を啄んだ。くすりと笑った彼女が、耳に口を寄せてくる。

「今はまだいいですけど、勝負が始まったら、動いちゃダメですからね」

 耳朶を食まれ、下半身を刺激する熱が足先から駆け上がる。硬くなり始めた分身が、更に猛々しくなっていく。

「頑張ってくださいね、先輩」

 耳を甘噛みされ、首筋に口付けられると、たまらなくなって彼女のお尻を掴んだ。より身体は密着し、息が上がる。

「努力はするけど、人には限度ってものがあるからね」
「でも頑張らないと、この前言ってたご褒美、あげませんよ?」

 色香を漂わせながら愛らしく小首をかしげる恋人に、悔しげな呻きを漏らす。そのご褒美は、彼にとって、関係性の質を高めてくれるものだった。
 それは名前呼び。彼はずっと名前で呼んでいるというのに、相手は一度も呼んでくれない。恋人になったのだし、そろそろ「先輩」ではなく名前で呼んでほしいと言ったところ、勝負に勝つことを要求された。
 その勝負は至極単純なものであり、ある種の人間にとっては勝負にすらならない、すぐに勝敗をコントロールできるものだった。けれど彼にとっては、そう簡単なことじゃない。

「先輩がちゃんと我慢できたら、名前で呼んであげます。さん付けでも呼び捨てでも、好きなように呼びますよ」
「きよみちゃんだって、彼氏のことずっと『先輩』だなんて呼びたくないんじゃない?」
「私は別に構いませんよ。先輩は先輩ですから、ずっと『先輩』呼びでもいいですし」

 長く付き合っていれば、いずれ呼んでくれるかもしれない。けれど彼女のことだ。それを待つには相当な時間を要することになるだろう。彼は要求を呑むしかなかった。

 互いに自らの服を脱ぎ、下着姿になったところで、彼女がベッドに腰を下ろした。近づいても何も言われなかったので、そのまま顔を寄せて口付ける。
 ゆっくりと押し倒してもまだ制止は入らない。今のうちに彼女の身体を撫でまわし、その感触と反応を楽しんだ。
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