追放された悪役令嬢は、騎士団長の剣に救われる

九葉

文字の大きさ
2 / 11

第2話

しおりを挟む
ガラスが砕け散るような音が耳の中で鳴り響いた。しかし、それは実際の音ではなく、私の心が砕ける音だったのかもしれない。
「エドガー…様?」
信じられない思いで、私は彼の名を呼んだ。しかし彼は私を見ようともせず、引き続き堂々と語り続けた。
「フォンブラット家の令嬢は美しく聡明ではありますが、我がロムフェルト家の血統に相応しくないと判断いたしました。特に彼女の体に宿る不吉な力は、十年前の『赤い雨の事件』の原因とも噂されています」
会場がざわめいた。私の体が凍りついたように動かない。婚約破棄だけでなく、公の場で「赤い雨の事件」まで持ち出すとは。これは単なる婚約解消ではなく、社会的な処刑宣告だった。
「事実、最近の調査で、彼女が事件の引き金になったという証拠が見つかりました」
エドガーは懐から羊皮紙を取り出し、高々と掲げた。「これが彼女の罪の証拠です。星の祭りを前に、この災いをもたらす存在を王都から追放すべきです!」
おぞましい静寂が広間を支配した後、一斉に非難の声が湧き上がる。
「追放すべきだ!」
「災いの子を王都に置いておけない!」
「星の祭りの前に浄化を!」
私は足元から崩れ落ちそうになりながらも、必死に背筋を伸ばし続けた。涙を見せれば勝ちを与えることになる。十二年間、私はそう自分に言い聞かせてきた。
「待て」
広間の入り口から一人の男が歩み寄ってきた。漆黒の髪と鋼のような青灰色の瞳。高い背丈と引き締まった体格。その胸には王国騎士団の紋章が輝いている。
会場が息を呑んだ。私も含めて。

セリック・グランヴァレ——王国騎士団長。平民出身ながら若くして頭角を現し、王太子の側近として絶大な信頼を得ている人物だ。彼が何故ここに?
「彼女の罪は証明されていない」
騎士団長の声が、冷静に広間に響いた。彼は堂々とエドガーの前に立ち、その証拠とやらの羊皮紙を一瞥した。
「この証拠には王国司法省の印がない。正式な裁判なしに市民を裁くことはできない」
エドガーの顔が僅かに歪んだ。「騎士団長、これは貴族間の問題です。どうか余計な—」
「王太子殿下の名において宣言する」セリックの声が、エドガーの言葉を遮った。「私が真相を究明するまで、リディア・フォンブラット嬢は騎士団の保護下に置かれる」
私の目が見開いた。何故この人が、一度も会ったことのない私を守ろうとするのか。
エドガーが反論しようとした瞬間、別の声が響いた。「騎士団長の判断を支持する」
振り向くと、そこには王太子アレクサンダーが立っていた。青と銀の正装に身を包み、毅然とした表情で広間を見回す。「正式な裁判なしに処罰を決めることはできない。騎士団長の下で調査を続行せよ」
一瞬で広間の空気が変わった。騎士団長と王太子の判断の前に、エドガーも反論できない。彼は一瞬、憎悪の眼差しを私に向けたが、すぐに優雅な貴族の仮面を取り戻した。
「フォンブラット嬢」
低い声に我に返ると、騎士団長が私の前に立っていた。近くで見ると、彼の顔には一筋の傷跡が額を横切っている。そして、その鋼のような瞳は、不思議と温かみを感じさせた。
「私と来ていただけますか。ここは安全ではありません」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

聖女になんかなりたくない! 聖女認定される前に…私はバックれたいと思います。

アノマロカリス
恋愛
この作品の大半はコメディです。 侯爵家に生まれた双子のリアナとリアラ。 姉のリアナは光り輝く金髪と青い瞳を持つ少女。 一方、妹のリアラは不吉の象徴と言われた漆黒の髪に赤い瞳を持つ少女。 両親は姉のリアナを可愛がり、妹のリアラには両親だけではなく使用人すらもぞんざいに扱われていた。 ここまでは良くある話だが、問題はこの先… 果たして物語はどう進んで行くのでしょうか?

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...