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24 ママンと校長先生と、方向性を間違えた僕
しおりを挟む研究職の美しい青年オメガって、ママンだよね。
じゃあ、アルファの族長の座を降りた青年って、校長先生のこと?
二人の間に生まれたのが――僕?
僕って、精子バンクから頂いた命じゃなかったの?
……びっくりだ。
「私の生まれた部族の掟では、君のお母さんとは結婚できませんでした。 こんな形の家族になってしまったことを、まず謝らせてください」
「むーちゃんには、いつか話そうと思っていたのだけどね」
「うん……」
「でもね、むーちゃんも、ロカヒさんも、大切な家族なのよ」
ママンの手を、校長先生がそっと握った。
それを見て、僕の胸が少しだけざわついた。
「何よりね。ロカヒさんの大事な、ホロムア島のコケア族の文化が、この先何千年も続いてほしいと思っているの」
「……うん」
「麦穂くんが生まれた時から、私は見守ってきたんですよ。 学校に上がる前、祖国のホロムア島へ行った時も、二人に寄り添っていました。気付かなかったかな?」
「えっ?ポーリー諸島の旅行って、僕のルーツを見に行ったの? 校長先生もいたの? あの時は、まだ顔知らなかったし……」
「君のお祖父さんとお祖母さんもいたよ。従兄弟とも遊んだでしょう?」
「ええぇ~~~?」
びっくりして声が裏返った。
なんで誰も教えてくれな――
……言いかけて、止めた。
言えなかったんだよね。
結婚を認められない二人の間に生まれた子供のこと。
優秀なアルファの青年を奪った相手との子供のことなんて――。
受け入れてもらえないんだね。
胸の奥から、じわっと悲しさが込み上げてきた。
「……ごめんなさい」
なぜか、僕は両親に謝っていた。
望まれない子供で、ごめんなさい。
アルファになれず、オメガで、ごめんなさい。
勉強も出来なくて、ごめんなさい。
泣き虫が治らなくて、ごめんなさい。
僕が生まれなければ、みんな普通の人生を歩めたのに。
僕って、邪魔者だったんだね。
その場にいられなくなって、僕は校長室を飛び出した。
***
走る僕の後ろで、蒼が警報音を鳴らしていた。
どうやら離れすぎたらしい。
ピピーッ ピピーッ
「蒼から離れないでください」
ピピーッ ピピーッ
「蒼から離れないでください」
「ちょ、蒼、シー! 静かにして!」
……これは恥ずかしい。
「電源オフだよ。シー!」
ここは学校の中。 学園の敷地内だから、リード着用法は適用されない。
もういいや。
僕は走り続けた。
逃げるように辿り着いたのは、カフェテリアだった。
フードコートのような広いスペースの隅に座る。
楽しそうに談笑する学生たち。
みんな、輝いて見える。
それが、今の僕には余計に辛かった。
はぁ、はぁ、はぁ……。
このあと、どうしよう。
家には帰りたくない。
誰にも会いたくない。
世界から要らないって言われた気がして、気持ちが沈んでいく。
考えが、まとまらない。
何の役にも立たない僕が、誰かの幸せを奪ってまで生きるなんて――惨めだった。
***
気付いたら、学校で一番高い建物に登っていた。
学生寮の屋上。
蒼が、静かに後ろからついてきていた。
――僕なんて、いらない。
身を乗り出した瞬間、蒼が腕を掴んだ。
「だめ、蒼……」
声がうまく出ない。
涙で言葉が崩れていく。
「お願い……ここで、止まってて……」
蒼は離してくれない。
「蒼ぉ……」
僕は泣きじゃくった。
「じゃあ……一緒に……ここから……」
自分でも何を言っているのか分からない。
ただ、苦しくて。
その時だった。
「俺を置いて行くの?」
蒼のスピーカーから聞こえた声。
陽ちゃんだ。
太陽の匂いの、陽ちゃん。
優しくて、規格外に頭の良い、僕の番。
何も出来ない僕に、自由に生きられる世界をくれた人。
なのに――
僕は、何も返せていない。
こんな僕は、邪魔なんだ。
「ごめんなさい……」
涙が止まらない。
「もう……陽ちゃんに会えない……」
「麦穂、落ち着いて」
言葉にした瞬間、怖くなった。
「……う、うぅ、ちが、違うぅ~、嘘です」
本当は。
「あ、会いたい、です」
涙が次から次へ流れてくる。
違う。
僕、消えたいわけじゃない。
誰も傷つけずに、今まで通り、幸せに暮らしたいだけなんだ。
なのに――
何者でもない僕は、努力の方向を間違えてしまった。
でも。
これは違う。
大切にしてもらった命を、自分で捨てるなんて。
それだけは、絶対に違う。
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