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25 コケア族の大人の腕に抱かれて
しおりを挟む涙で何も見えない。 鼻水もヨダレもぐちゃぐちゃの僕を、蒼ごと筋肉のついた二の腕が引き寄せた。
校長先生だった。
とても暖かい。
「うわぁぁ~~~っ」
「悪い子だ。お父さんとお母さんの話を最後まで聞きなさい」
「なっ、なななな、何してるの!?むーちゃん!」
普段はきれいに巻いている艶々の髪をボサボサに乱したママンを見るのは初めてだった。
「分かり合えるまで話し合うことが必要って、知ってるよね?」
頬ずりするように僕を抱きしめながら、校長先生が言った。
でも僕は、もう何も話すことなんて無かった。
体も、心も、どこも動かない。
「うぅぅ~ わぁぁーっ」
「パパンとママンは、あなたに話があるって言ったでしょう? どうして途中で出て行くの?」
アーサーパパンに支えられているママンは、今にも泣きそうだった。
力の抜けた僕を、校長先生の屈強な腕が支える。
ワイシャツの袖がめくれ、タトゥーが見えた。
僕は目を見開いて、それを凝視していた。
僕の周りにはタトゥーの入った人はいないから。
腕にぐるりと、規則的な模様が彫られている。
「ここがケコア部族の男性という意味です。生まれた時に彫ります」
え?生まれてすぐ?
「ここは職業が族長という意味です。十三歳で成人した時に彫ります」
え、十三歳で成人? 文化違いすぎない?
校長先生は模様を指差しながら説明した。
「これは守護する生き物サソリ。前進という意味です。 これは強さ、成功、未来を表します」
意味があるんだ。
胸のボタンを外し、肩から心臓にかけての模様を見せてくれた。
「ここは麦を模した、ラゥラゥォアという柄です。宝物を表します」
僕を抱きしめたまま、頬にキスが落ちた。
お髭がチクチクするけど、なんだか心地いい。
「麦は、数百ある島々からなるポーリー諸島では、ホロムア島の高地でしか採れません。 とても貴重なものです。神聖で、人の命を支える宝物です」
頭にキスが降ってくる。
頬に当たるチクチクの髭が、くすぐったい。
……でも、安心する。
麦は宝物なんだね。
僕は恐る恐る、腕の模様を触ってみた。
「色がついているところは痛いの?」
「触っても痛くありませんよ。 私の国ではタトゥーは当たり前の習慣です」
「うん」
「ですが、この国では驚きました。 タトゥーのある人は危険だと思われてしまう」
校長先生は小さく息をついた。
「移住した当初は、職務質問も沢山受けました。 就職も、公共施設の利用も、保険加入も断られました。 家を借りることさえ難しかった」
首を振る。
「私は悪い人でも危ない人でもありませんよ」
わざと怒った顔をしてから、優しく笑った。
校長先生はこの国で、たくさん苦労したんだ。
腐る病の乙女も言っていた。
『人間に上下はない。職業に貴賎はない。人はすぐ優劣をつけたがるけどね』
僕もそう思う。
地球を共有している仲間なんだから、みんな平等だよね。
どんな文化も尊重しましょうって意味だよね?
だよね、乙女?
――そのあと、この話はまだまだ続くんだけど。
『推し出さんかい、モブ10連とかキツイわぁ。スーパーレアしかいらん!』
……この日記、本当に国宝級なのかな?
言ってること、コロコロ変わるんだよね。
でも安心してね。
乙女は腐る病にかかっていたかもしれないけど、 元気に幸せに、九十九歳まで生きるから。
亡くなる前日まで友達と辛口にお喋りして、日記を書いているから。
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