君を知るまでは

雨季

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第二話

何も言えない

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 そうして、半ば脅されたような形で服従関係のような関係が始まった。

「加宮さん、これご依頼頂いていた資料です」

 次の日、俺が所属する営業部に的部が来た
 あれから俺は彼と顔を合わせたくはなかったが、どうしても必要な書類があり、他の人に頼んだはずが的部が届けに来たようだった。

「……ああ、ありがとう」

 最低限の会話だけ交わして、席に戻ろうとすると引き止められる。
 
「加宮さん、あのこと忘れてませんよね?今日の夜空けといてくださいね」

 的部は周りに聞こえないように、そっと耳元で話した。

「……わかったから。早く自分の部署に帰れって」

「え~、冷たいな~」

 そう言いながら、的部は帰って行った。
 俺は自分の席に戻ると、部署内の女子社員達の間では的部の話で持ちきりだった。周りから見ると的部は顔が整っている方らしい。俺にはあんなやつのどこがいいのかが全然わからなかった。
 その後は、仕事が忙しく立て込んでいて、気づけば夜の20時を過ぎていた。

「もうこんな時間か……」

 他の社員は先に帰っていて、1人で残務処理をしていたけど、的部の言葉をふと思い出した。

「流石に待ってないよな」

 スマホを見ると、やっぱり的部からメッセージが入っていた。

『お疲れさまです。仕事終わったら連絡ください』

『今終わった』

 俺はそう短く返信をした。
 まだ仕事は残っていたけど、約束を無碍にするのは俺にはできなかった。でも、ただそれだけだ。付き合ったとはいえ、俺はまだ納得していない。

『わかりました、駅まで迎えに行きます』

 駅に着くと、改札のところで的部の姿が見えた。

「なんでこんな時間まで、俺のこと別に待たなくてよかったのに」

「俺が会いたかったし、恋人なんだから会いにくるのは当たり前でしょ」

 脅されて付き合ったはずなのに、なぜか胸が落ち着かない。それと俺には確認しておきたいこともあった。

「そもそも、なんでこんなことするんだよ。男同士で付き合うとか不都合しかないだろ。俺の弱みを握って何か企んでるんだろ」

「お腹すいたからって不機嫌にならないでくださいよ。まあとりあえずご飯食べません?」

「いや、いいから」

 俺が断ろうとするも腕を引かれて近くの居酒屋に連れて行かれた。
 中に入ると、近くのテーブルに案内された。
 的部が次々と注文を進めていく。ハイボールや数品の料理が運ばれてきた。

「怒ってます?」

「それ自覚ないのかよ。的部って変わってるわ」

 俺は呆れた顔で的部に向かってそう言った     

「じゃあその変わってる俺に好かれてる加宮さんも変わってるってことですね」

「喧嘩売ってる?」

「俺、加宮さんのこと好きですよ」

「は……?笑えない嘘つくなって」

「嘘じゃない、本気ですよ」

「意味わかんないから。それ以上意味わかんないこと言うなって」

 俺は、グラスの底に残っていたハイボールを手に取り一気に流し込んだ。

「……俺が新卒で入社した時の研修で、担当してくれたのが加宮さんだったんです。今思えば一目惚れだったかもしれませんけど、加宮さんのことが忘れられなくて、いずれは加宮さんみたいになりたいと思ったことがきっかけです」

「見間違いなんじゃね?勘違いしてるって」

「加宮さんって自分のこと全然分かってませんよ。勝手に俺の気持ちなかったことにしないでください」

「……それは、悪かったけど、あんな脅すようなことして付き合ってお前はいいのかよ」

「やり方は間違ってました。でもそれだけ必死だったから。でも、もしかして俺のこと少しは考えてくれてたってことですか?」

「いや、そういう意味じゃなくて……」

 俺は、何杯目かのハイボールを飲んでから、記憶が薄れていく。


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