透明な檻の中で

雨季

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第ニ話

とある生徒

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「あの、佐野伊月のことなんですけど、何か知りませんか?」

 俺は、美術担当の光井佐和(みついさわ)先生に話を聞くことにした。

 光井先生は、黒髪のショートカットに大きめなピアス、少し個性的なファッションをしている。
 美術の先生で29歳。いわゆるサバサバ系な女性。
 話しやすいけど勘が鋭いところがあり、考えを見透かされることが多い。

「佐野?確か、1年の時からそんなに授業受けてなかったのは知ってる。でも、最初はちゃんと出席してたんだけどね」

「1年の途中で何かあったってことですか?」

「うん、たぶんね。詳しくは知らないんだけどね」

「そうなんですね」

 他の数人の先生にも聞いたが、詳しい事情は分からなかった。
 だけど、新年度に入って、やることが山積みになっていて、それどころではなかった。それと、景気付けに夜から食事会があるらしい……。
 俺は、大人数の食事会は乗り気ではない。あまりお酒が飲めない自負があるからだ。だけど、断るのも憚れたため、ほぼ強制参加のようなものだった。

 授業や作業に追われ、一日が終わると、時計が夜の19時を示していた。近くの居酒屋に集合することになっていた。
 居酒屋に着くと次々とお酒が運ばれてくる。 
 俺以外の先生達は、お酒に強い人が多い。

「新上先生、飲んでる~?」

 光井先生が早速絡んでくる。お酒のせいもあってか、絡み方がいつもより加速している。
 
「飲んでますよ、ウーロン茶」

「いやいや、お酒飲んでる~?って聞いてんの~!今日ぐらい羽目外して飲みな~?」

 俺は、光井先生の勢いに負けて、目の前の飲み物を一気飲みした。

「……あれ、これなんか違う」

「新上先生、それ僕のハイボール……」

 左隣にいた、養護教諭の小田切叶太(おだぎりかなた)先生のお酒を飲んでしまったらしい。

 お酒を飲んだのは久しぶりだった。少し頭がフラフラして、視界がぼやける。
 
「新上先生、飲めるんじゃん!笑」

「いや、見るからにいつもと違う顔してますよ?新上先生大丈夫ですか?」

「そうですかね……?でも大丈夫なんで」


 それから、俺は目覚めると自分のベッドの上にいた。
 記憶がなさすぎる……。とりあえず明日も仕事だから、早く寝よう。
 朝起きると、響くように頭が痛かった。俺は、頭痛薬を飲んで体を引きずるようにして仕事に向かった。


「新上先生、おはよう。昨日ごめんね~。それとお酒苦手なのに、お酒飲んでたけど体調大丈夫?」

 学校に着くと、光井先生が早速話しかけてきた。

「え、ああ、なんとか大丈夫です」

「それなら良かった。じゃあ今度はお酒なしでご飯でも行こうよ。昨日のお詫びも兼ねてご馳走するよ~」

「ありがとうございます」

「じゃあまた今度誘うね!」

 少し話した後、お互いに自分のデスクに戻った。


「おはようございます」

「小田切先生、おはようございます」

「昨日大丈夫でしたか?」

「昨日、正直あの後記憶がなくて、気づいたらベッドの上でした」

「昨日、光井先生と送ってる途中で新上先生を見失ってしまって、心配してたので」

「そうだったんですね、すみませんご迷惑をおかけして」

「いや、ちゃんと帰れたなら良かったんですけど、少し顔色良くないですね?」

「そうですか?いつも通りではあるんですけど」

「それなら大丈夫ですけど、もし体調悪くなったらいつでも保健室来てくださいね?」

「ありがとうございます」

 そう言うと、小田切先生は穏やかな笑顔で軽く会釈をして、保健室に向かって行った。

 俺は、資料整理や授業のスケジュールなどの計画書を作っていると、頭痛薬の効果が切れてきたのか、体がだるく感じてきた。午後からは授業があるのに……。スマホを見ると、12時だった。自席で軽く軽食を済ませるた後、やっぱり小田切先生を頼ることにした。

 保健室のドアを開くと、ベッドが何個かあって、窓際に綺麗な花が飾られていて、小田切先生は、少し奥にある椅子に座って、書類を書いているようだった。

「小田切先生、お疲れ様です。あの、やっぱり少し休ませてもらっても良いですか?」

「どうぞ~。空いてるベッド使ってくださいね。あと僕、光井先生に呼ばれたので行ってきますね」

「わかりました、ベッドお借りしますね」

 そう言うと、小野宮先生は頷き保健室を出て行った。
 小野宮先生もいなくなり、保健室には一人だった。
 俺は、保健室を入ってすぐ右にある空きベッドで休むことにした。
 カーテンを閉めると、静かで心が落ち着いていき、授業まで眠ることにした。

 ガラガラと保健室の扉が開く音がした。

「あれ?小田切先生いないじゃん。てか、誰かいんの?」

 カーテンが開かれた音がした。その音で目が覚める。

「なんで、先生がこんなとこで寝てんの?」

 声をかけてきたのは、佐野伊月(さのいつき)だった。小柄で華奢で肌が白く中性的な見た目をしている。顔を合わせたのは、今日が初めてだった。昨日資料で見た彼そのものだった。

「ああ、もしかして佐野か……?」

 俺は、その声で目が覚めたけど、まだ頭が回らない。

「起きてよ、そこ俺の特等席なんですけど」

「特等席?」

「このベッド、俺がいつも使ってるベッドなんで」

「ああ、そうなのか、使って悪かったな」

 俺は、ベッドから起きて保健室を保健室の扉に向かおうとすると、また声をかけられた。

「なんかあったの?てか、体育教師なのに体調悪かったんですね~」

「お前にはわからないと思うけど、大人になると色々付き合いっていうのがあるんだよ。じゃあ、体調悪いならゆっくり休めよ」

 少ない会話だけを交わして、俺は保健室を出た。でも、なぜか佐野の姿が頭の片隅からなぜか離れなかった。
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