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第四話
優しさの代償
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「佐野、今話せるか?」
次の日の放課後、廊下ですれ違った彼に声をかけた。
「何?今日は先生元気そうじゃん」
「まあそれはお前のおかげだと思う。ありがとう」
「いえ、体調治ったならよかったです」
「でも、それと簡単に教師にLINEのIDなんか渡すなよ」
「説教ですか?聞きたくないんですけど」
佐野は出口に向かって歩き出してしまう。
「いや、待てって」
俺は佐野を追いかけて、腕を掴んだ。俺が腕を掴むと、佐野は歩くのを止めて立ち止まった。
「先生、離してください」
「俺は佐野のことが知りたいんだよ。その手首の傷のこととか」
俺は佐野に昔の俺を重ねていたのだろう。気持ちが先走って掴む腕に力が入ってしまう。
「わかりました。でも痛いんで腕は離してくれませんか」
「……ああ、悪かった」
俺は佐野の掴んでいた腕を離すと、佐野は自分のことを話し始めた。
「俺、自分でも恵まれた環境で育ったと思ってる。両親は経営者の母親と大企業の父親がいて、絵に描いたようなドラマみたいな家庭だろ?」
「そうか……」
「それでさ、兄が2人いて、しかも優秀。俺だけが、母親の前の男との間の連れ子なんだよね。だから父親には疎まれてるし、寝る時間もほとんど与えられてないし、縛り付けて勉強させられてる。この傷が見られたくないから教室に行ってないだけ」
佐野の手首から見えたのは、昨日見た傷だった。圧迫痕が赤く痛々しくただれている。
「辛い話させて悪かったな。でも俺も佐野と似てるかもな。だから気持ちはわかるよ」
俺は普段、左腕には時計、右腕にはブレスレットをしていて、それは腕の傷を隠すためだ。時計とブレスレットを外すと、圧迫痕が残っている。
「……先生も?」
「俺は、父子家庭で父親が大学教授なんだよ。高校の時にお世話になった理学療法士の人がいて、憧れてたんだけど、反対されてって感じかな。その時はかなり勉強させられてたから。親の望む生き方以外は恥だと思われてたのかも。でも、今高校の教師になってることは後悔してないよ」
「そうなんだ。親にこんなことされてるの自分一人だと思ってた」
佐野は俯いて肩が震えているのがわかった。俺は佐野の体を引き寄せる。
「一人で抱えて辛かっただろ。よく今まで生きてきたな。もうお前一人じゃないから、安心しろ」
俺は佐野の背中をさすりながら、自分の過去を思い出していた。
「俺、先生に話してよかった」
「ああ、俺もお前の話が聞けてよかったよ」
「うん」
佐野は俺から体を離すと、少し安心したような顔をしていた。
「あと、お前のLINE登録しておくから」
「先生が生徒とLINEしていいの?ダメなんじゃない?」
「教師である前に俺は一人の人間だから。学校では連絡取れないけど、それ以外でなら連絡は取れるから」
「先生って優しいんですね」
「いや、優しいというか、佐野を見てると昔の俺を見てるみたいで、放っておけないだけだから」
「それ、優しい人が言う言葉ですよ。じゃあ俺帰りますね」
「……ああ、気をつけて帰れよ」
その日の夜遅くに、佐野からLINEが届いていた。
『先生、今どこですか?』
気付いた時には大分時間が経っていた。佐野に何かあったのだろうか。
『家だけど、どうした?』
既読になるとすぐ佐野から返信が来た。外は雨が降っている。
『家、行ってもいいですか?』
すぐに俺は佐野に電話をかけて、家までの道を説明した。声がいつもと違う。微かに震えている気がした。
しばらくすると、インターホンが鳴る。インターホンのカメラには佐野が映っていた。いつもと雰囲気が違っていた。すぐに俺は佐野を部屋に入れた。
「先生、急に来てごめん」
雨で濡れている。振り絞った声は小さく、目が合わない。思わず肩にそっと触れる。
「気にすんな。遅いから今日は泊まっていいから。風呂沸かすから入れよ」
俺は、タオルと着替えを渡して佐野をリビングに案内した。ホットココアを2つ作ってテーブルに置いた。
「まだ時間かかるから、それまでこれ飲むか?」
「ありがとう」
俺は佐野の頭をくしゃっと撫でると、向かいの席に座った。
「先生、何も聞かないの?」
「誰でも話したくないこともあるだろ、佐野が話したくなったらで聞くから」
「うん」
「とりあえず、風呂入れよ」
「ありがとう」
佐野にバスタオルや着替えを渡して、飲見終わったマグカップを片付けて、ソファに寝転んだ。
いつの間にか寝てしまっていたのか、石鹸みたいな爽やかで甘い香りで包まれる。首に触れる手の感触が気持ちいい。俺は夢を見てるのか……?首に触れる手に自分の手を重ねると、夢じゃないことに気づく。
「先生、起きて?」
「……佐野?」
俺はその声で目を覚ました。なぜか佐野は俺の上に跨っていた。
「ねぇ、泊まらせてくれるかわりに先生にお礼したいんだけど」
佐野は、徐に俺の腰あたりに手を置いてズボンの中に手を入れようとする。それを制止するように腕を掴む。
「やめろよ。そんなことしなくていいから」
「俺がしたいんです。泊まらせてもらうなら、せめてこういうことしかできないから」
佐野は俺の腕を振り払って、徐々に下に手を這わせていく。
「未成年にそんなことしてもらうほど、溜まってないから。あと、男に興味ないんだって」
俺は佐野の体を押し返して、起きあがろうとした。その拍子に唇が重なる。これはただの事故だと思いたかった。
「……悪い。気持ち悪かっただろ。俺、コンビニ行ってくるから、先寝とけよ。佐野は俺の部屋使っていいから」
触れた唇の感触をパーカーの袖で拭き取って、俺はソファから立ちあがろうとした。腕を掴まれ、ソファに引き戻される。
「先生、さっきの続きしよ?」
「それ本気で言ってる?」
「うん、俺先生になら抱かれてもいいよ」
佐野は少し潤んだ瞳で俺を見つめている。俺は佐野を抱き上げて、ベッドに押し倒した。
「嫌だったら言えよ」
「先生、優しすぎだって。好きになっちゃうじゃん」
「……冗談いいから」
お互いの服を脱がしながら、俺は佐野の体に触れながらキスを落としていく。その度に小さく甘い声が聞こえる。
佐野の体に触れるたびに白くて柔らかくて綺麗な肌が熱を帯びていく。
「先生、嘘でもいいから好きって言って」
今にも泣きそうな顔で、それは祈りのように聞こえた。何が佐野のことをこんなに追い詰めているのだろうか。俺が佐野のために何ができるのか。
「……好きだよ、佐野」
佐野の瞳を見ると、そう言わずにはいられなかった。嘘でこんなことを言って傷つけるのはわかってる。でも、この瞬間だけでも佐野の救いになるなら……。
「嘘でもそれが聞きたかった。ありがとう、先生」
佐野の頭を撫でると、その腕に触れて顔を擦り寄せる。閉じた瞼からは一筋の涙が溢れた。
「どうした?」
佐野の目尻を手で拭ったあと、俺は佐野のことをそっと抱きしめる。
「先生、早く挿れてよ」
佐野は俺の耳に近づいて囁いた。
「無理すんなって」
佐野の体を離して、ベッドの下に落ちた服を拾い上げて着替えていると、後ろから抱きしめられる。
「待って、今日だけでいいからせめて一緒にいてほしい」
「わかった」
佐野に服を着せて、俺たちは言葉も交わすこともなく、ただ佐野を抱きしめながら眠った
隣でうずくまって眠る姿がまだ幼い子どものように感じた。泣いたせいか目尻が赤い。でも、安心した顔で眠っていた。
佐野のことを一人にさせたくないと思った。
次の日の放課後、廊下ですれ違った彼に声をかけた。
「何?今日は先生元気そうじゃん」
「まあそれはお前のおかげだと思う。ありがとう」
「いえ、体調治ったならよかったです」
「でも、それと簡単に教師にLINEのIDなんか渡すなよ」
「説教ですか?聞きたくないんですけど」
佐野は出口に向かって歩き出してしまう。
「いや、待てって」
俺は佐野を追いかけて、腕を掴んだ。俺が腕を掴むと、佐野は歩くのを止めて立ち止まった。
「先生、離してください」
「俺は佐野のことが知りたいんだよ。その手首の傷のこととか」
俺は佐野に昔の俺を重ねていたのだろう。気持ちが先走って掴む腕に力が入ってしまう。
「わかりました。でも痛いんで腕は離してくれませんか」
「……ああ、悪かった」
俺は佐野の掴んでいた腕を離すと、佐野は自分のことを話し始めた。
「俺、自分でも恵まれた環境で育ったと思ってる。両親は経営者の母親と大企業の父親がいて、絵に描いたようなドラマみたいな家庭だろ?」
「そうか……」
「それでさ、兄が2人いて、しかも優秀。俺だけが、母親の前の男との間の連れ子なんだよね。だから父親には疎まれてるし、寝る時間もほとんど与えられてないし、縛り付けて勉強させられてる。この傷が見られたくないから教室に行ってないだけ」
佐野の手首から見えたのは、昨日見た傷だった。圧迫痕が赤く痛々しくただれている。
「辛い話させて悪かったな。でも俺も佐野と似てるかもな。だから気持ちはわかるよ」
俺は普段、左腕には時計、右腕にはブレスレットをしていて、それは腕の傷を隠すためだ。時計とブレスレットを外すと、圧迫痕が残っている。
「……先生も?」
「俺は、父子家庭で父親が大学教授なんだよ。高校の時にお世話になった理学療法士の人がいて、憧れてたんだけど、反対されてって感じかな。その時はかなり勉強させられてたから。親の望む生き方以外は恥だと思われてたのかも。でも、今高校の教師になってることは後悔してないよ」
「そうなんだ。親にこんなことされてるの自分一人だと思ってた」
佐野は俯いて肩が震えているのがわかった。俺は佐野の体を引き寄せる。
「一人で抱えて辛かっただろ。よく今まで生きてきたな。もうお前一人じゃないから、安心しろ」
俺は佐野の背中をさすりながら、自分の過去を思い出していた。
「俺、先生に話してよかった」
「ああ、俺もお前の話が聞けてよかったよ」
「うん」
佐野は俺から体を離すと、少し安心したような顔をしていた。
「あと、お前のLINE登録しておくから」
「先生が生徒とLINEしていいの?ダメなんじゃない?」
「教師である前に俺は一人の人間だから。学校では連絡取れないけど、それ以外でなら連絡は取れるから」
「先生って優しいんですね」
「いや、優しいというか、佐野を見てると昔の俺を見てるみたいで、放っておけないだけだから」
「それ、優しい人が言う言葉ですよ。じゃあ俺帰りますね」
「……ああ、気をつけて帰れよ」
その日の夜遅くに、佐野からLINEが届いていた。
『先生、今どこですか?』
気付いた時には大分時間が経っていた。佐野に何かあったのだろうか。
『家だけど、どうした?』
既読になるとすぐ佐野から返信が来た。外は雨が降っている。
『家、行ってもいいですか?』
すぐに俺は佐野に電話をかけて、家までの道を説明した。声がいつもと違う。微かに震えている気がした。
しばらくすると、インターホンが鳴る。インターホンのカメラには佐野が映っていた。いつもと雰囲気が違っていた。すぐに俺は佐野を部屋に入れた。
「先生、急に来てごめん」
雨で濡れている。振り絞った声は小さく、目が合わない。思わず肩にそっと触れる。
「気にすんな。遅いから今日は泊まっていいから。風呂沸かすから入れよ」
俺は、タオルと着替えを渡して佐野をリビングに案内した。ホットココアを2つ作ってテーブルに置いた。
「まだ時間かかるから、それまでこれ飲むか?」
「ありがとう」
俺は佐野の頭をくしゃっと撫でると、向かいの席に座った。
「先生、何も聞かないの?」
「誰でも話したくないこともあるだろ、佐野が話したくなったらで聞くから」
「うん」
「とりあえず、風呂入れよ」
「ありがとう」
佐野にバスタオルや着替えを渡して、飲見終わったマグカップを片付けて、ソファに寝転んだ。
いつの間にか寝てしまっていたのか、石鹸みたいな爽やかで甘い香りで包まれる。首に触れる手の感触が気持ちいい。俺は夢を見てるのか……?首に触れる手に自分の手を重ねると、夢じゃないことに気づく。
「先生、起きて?」
「……佐野?」
俺はその声で目を覚ました。なぜか佐野は俺の上に跨っていた。
「ねぇ、泊まらせてくれるかわりに先生にお礼したいんだけど」
佐野は、徐に俺の腰あたりに手を置いてズボンの中に手を入れようとする。それを制止するように腕を掴む。
「やめろよ。そんなことしなくていいから」
「俺がしたいんです。泊まらせてもらうなら、せめてこういうことしかできないから」
佐野は俺の腕を振り払って、徐々に下に手を這わせていく。
「未成年にそんなことしてもらうほど、溜まってないから。あと、男に興味ないんだって」
俺は佐野の体を押し返して、起きあがろうとした。その拍子に唇が重なる。これはただの事故だと思いたかった。
「……悪い。気持ち悪かっただろ。俺、コンビニ行ってくるから、先寝とけよ。佐野は俺の部屋使っていいから」
触れた唇の感触をパーカーの袖で拭き取って、俺はソファから立ちあがろうとした。腕を掴まれ、ソファに引き戻される。
「先生、さっきの続きしよ?」
「それ本気で言ってる?」
「うん、俺先生になら抱かれてもいいよ」
佐野は少し潤んだ瞳で俺を見つめている。俺は佐野を抱き上げて、ベッドに押し倒した。
「嫌だったら言えよ」
「先生、優しすぎだって。好きになっちゃうじゃん」
「……冗談いいから」
お互いの服を脱がしながら、俺は佐野の体に触れながらキスを落としていく。その度に小さく甘い声が聞こえる。
佐野の体に触れるたびに白くて柔らかくて綺麗な肌が熱を帯びていく。
「先生、嘘でもいいから好きって言って」
今にも泣きそうな顔で、それは祈りのように聞こえた。何が佐野のことをこんなに追い詰めているのだろうか。俺が佐野のために何ができるのか。
「……好きだよ、佐野」
佐野の瞳を見ると、そう言わずにはいられなかった。嘘でこんなことを言って傷つけるのはわかってる。でも、この瞬間だけでも佐野の救いになるなら……。
「嘘でもそれが聞きたかった。ありがとう、先生」
佐野の頭を撫でると、その腕に触れて顔を擦り寄せる。閉じた瞼からは一筋の涙が溢れた。
「どうした?」
佐野の目尻を手で拭ったあと、俺は佐野のことをそっと抱きしめる。
「先生、早く挿れてよ」
佐野は俺の耳に近づいて囁いた。
「無理すんなって」
佐野の体を離して、ベッドの下に落ちた服を拾い上げて着替えていると、後ろから抱きしめられる。
「待って、今日だけでいいからせめて一緒にいてほしい」
「わかった」
佐野に服を着せて、俺たちは言葉も交わすこともなく、ただ佐野を抱きしめながら眠った
隣でうずくまって眠る姿がまだ幼い子どものように感じた。泣いたせいか目尻が赤い。でも、安心した顔で眠っていた。
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