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少年期
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城中の者が騒然とした第一王子と第二王子の言い争いだが、レーヴェにとってはゲームで既に知っていることであった。
(最推しの人生計画に狂いはない……よね?ちょっと感傷的になっちゃったけど……)
と、なればこれから先の未来は確定していた。
「ハンス、私のために死んでくれ」
「分かった」
迷う様子もなくハンスは頷いた。レーヴェもまた満足そうに頷き、それから前世の感覚がいやいやそんな簡単に頷いちゃダメでしょと正気を取り戻させる。
「言ったのは私だが、なぜそんなに簡単に了承した?」
「そういや、レーヴェ様に俺ん過去ば語ったことはなかったな」
思えば、ハンスは想像以上にレーヴェに従順だった。外務卿の手先と言っていいはずなのにレーヴェには素直だった。そして第二王子の従僕となるのに相応しい教養も兼ね備えていた。教育の跡だ。
ならば、外国の貴族かどこかの子供なのだろう。なのになぜ遥々外国まで来てレーヴェの従僕なんかをやっているのだろうか。
何らかの事情があることは明白だったものの、わざわざ探る理由もないのでレーヴェは今までわざと見過ごしていた。
ハンスもまた、語る機会があれば語ったのにレーヴェが聞いてこなかったから、そういえば言ってなかったな、というような態度だった。
ハンスが過去を語る。言葉は珍しく母国語だった。レーヴェも話せるが、やはりネイティブほどの流暢さは持てない。それもハンスは上流階級の訛り方をしていた。
『実は俺は一度死んでいる。俺はとある伯爵令嬢と司教の間に生まれた私生児だった』
この国で教会の権力は弱い。ゲームでも宗教なんて語られもしなかった。しかしハンスの母国では宗教の権力はこの国よりずっと強いという。
『司教が戒律を守らず子供を作るような真似をしてるとしれたら出世の道が絶たれるだろう。だから母上は俺をずっと隠してきた。でも、ある日父親にバレたんだ』
父親から資格を差し向けられるというのはレーヴェにも覚えがあった。
『家ぐるみで外務卿の部下……レーヴェも会ったろ?彼と付き合いがあってね。彼が俺をこっそりこの国に連れてきたんだ。表向きには風土病で死んだことにしてね』
ハンスはその時、風土病で死んだ領民の子供の死体をフェイクに利用したことを今も悔いているという。
『勝手ながらレーヴェのことは他人事じゃないと思っていた。俺も父親に振り回されて生きてきたから』
『ああ、俺も丁度他人事じゃないと思っていたところだよ』
『ありがとう。……レーヴェはただの王子なんかじゃない。顔が良いだけじゃなくな。なんかすげぇことを起こしてくれそうな、そんな気がする。そのために死ねるのなら悪くない』
快活に笑った。ハンスの白い歯が、浅黒い肌との対比で輝かしく見えた。
「さ、予定は散々狂うたけど、こればっかりは予定通りにしぇなな。外務卿んところに案内するばい!」
「ありがとう、ハンス」
「なぁに、大事なんなこれからだ!」
気丈そうに振る舞うハンスに、レーヴェはかける言葉を見つけることが出来なかった。
(推しなら、なんて声をかけただろうな……)
(最推しの人生計画に狂いはない……よね?ちょっと感傷的になっちゃったけど……)
と、なればこれから先の未来は確定していた。
「ハンス、私のために死んでくれ」
「分かった」
迷う様子もなくハンスは頷いた。レーヴェもまた満足そうに頷き、それから前世の感覚がいやいやそんな簡単に頷いちゃダメでしょと正気を取り戻させる。
「言ったのは私だが、なぜそんなに簡単に了承した?」
「そういや、レーヴェ様に俺ん過去ば語ったことはなかったな」
思えば、ハンスは想像以上にレーヴェに従順だった。外務卿の手先と言っていいはずなのにレーヴェには素直だった。そして第二王子の従僕となるのに相応しい教養も兼ね備えていた。教育の跡だ。
ならば、外国の貴族かどこかの子供なのだろう。なのになぜ遥々外国まで来てレーヴェの従僕なんかをやっているのだろうか。
何らかの事情があることは明白だったものの、わざわざ探る理由もないのでレーヴェは今までわざと見過ごしていた。
ハンスもまた、語る機会があれば語ったのにレーヴェが聞いてこなかったから、そういえば言ってなかったな、というような態度だった。
ハンスが過去を語る。言葉は珍しく母国語だった。レーヴェも話せるが、やはりネイティブほどの流暢さは持てない。それもハンスは上流階級の訛り方をしていた。
『実は俺は一度死んでいる。俺はとある伯爵令嬢と司教の間に生まれた私生児だった』
この国で教会の権力は弱い。ゲームでも宗教なんて語られもしなかった。しかしハンスの母国では宗教の権力はこの国よりずっと強いという。
『司教が戒律を守らず子供を作るような真似をしてるとしれたら出世の道が絶たれるだろう。だから母上は俺をずっと隠してきた。でも、ある日父親にバレたんだ』
父親から資格を差し向けられるというのはレーヴェにも覚えがあった。
『家ぐるみで外務卿の部下……レーヴェも会ったろ?彼と付き合いがあってね。彼が俺をこっそりこの国に連れてきたんだ。表向きには風土病で死んだことにしてね』
ハンスはその時、風土病で死んだ領民の子供の死体をフェイクに利用したことを今も悔いているという。
『勝手ながらレーヴェのことは他人事じゃないと思っていた。俺も父親に振り回されて生きてきたから』
『ああ、俺も丁度他人事じゃないと思っていたところだよ』
『ありがとう。……レーヴェはただの王子なんかじゃない。顔が良いだけじゃなくな。なんかすげぇことを起こしてくれそうな、そんな気がする。そのために死ねるのなら悪くない』
快活に笑った。ハンスの白い歯が、浅黒い肌との対比で輝かしく見えた。
「さ、予定は散々狂うたけど、こればっかりは予定通りにしぇなな。外務卿んところに案内するばい!」
「ありがとう、ハンス」
「なぁに、大事なんなこれからだ!」
気丈そうに振る舞うハンスに、レーヴェはかける言葉を見つけることが出来なかった。
(推しなら、なんて声をかけただろうな……)
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