最推しの乙女ゲー攻略対象に転生したら腹黒系人誑かしになり国を掌握した

景義

文字の大きさ
18 / 26
少年期

18

しおりを挟む

 ハンスに案内された、王城にある外務卿の執務室で密会は行われた。

 外務卿に会った時、開口一番に聞くことは決まっていた。

「兄上を殺す予定、ございますか?ぜひ一枚噛みたいのですが」

 言ってから、外務卿の姿を見た。60代以上と年寄りだが、壮健そうに見えた。白い顎髭を胸元まで伸ばして、それを三つ編みにしている。目元には笑ったことによる皺が出来ている。外見だけならば穏和そうな人物だった。

 レーヴェが外務卿がランベルトを暗殺すると思ったのには理由がある。ゲームではもう間も無くランベルトの暗殺が失敗してハンスが死ぬことになる。

 では、その勢力は?

 ランベルトが死んで喜ぶ勢力は少なくないが、王城にも手を伸ばすほどになる者は限られていた。

 当てずっぽうでもあるけれど、消去法ではこれしか残らない。

「噂だとランベルト王子はレーヴェ王子と和解をお望みだそうだが、本当に良いのかね?」

 しわがれた声で言った。喧嘩をしてから何時間も経っていないのに、もうランベルトの腹の内まで知っているらしい。

「ええ。問題ありません」

 わざわざ動揺してやることもない。レーヴェはあくまでも冷徹に振る舞った。

「そうか。歓迎しましょう、レーヴェ王子。……いいやレーヴェ殿下」

「気が早いな」

「その気概もなくやるほうが愚か者ですよ」

 暗に第一王子の暗殺を肯定した。咳き込むように笑った外務卿は、皮と骨でできた手を摩った。手には宝石類もない。外見だけならただの呑気な老人で、とても第一王子の死を望むような人物には見えない。

「私は生い先も短いですから、自由に過ごさせていただいています。ですがレーヴェ殿下はまだ幼い。それこそ、祖父と孫の年齢差ですよ。なのになぜそこまでのご決断をなされるのです?」

 滲み入るような優しい声だが、心の内を見透かそうとしている。レーヴェにはそれが分かった。なぜならば、自分が散々教師たちに取った手段だからだ。

「下手を打てばレーヴェ殿下は早死にするかもしれませんよ?それこそ、十にもなれないかもしれません」

 レーヴェの本質を引き出そうと揺さぶりをかける言葉。しかし、そんな言葉は全て無意味だ。

「私が死ぬわけがない(だってじゃないとゲームに登場しないし)。私はこれから心身ともに健康に育ち、学園に通い、愛だの恋だのにうつつを抜かす野郎どもを眺めるのだ!(『君たよ』のファンなら原作まで死んでも生き残ってやる)」

 確信めいてレーヴェが言う。後ろで見守るハンスはこれだ、と唾を飲む。レーヴェはたまに、未来を知っているかのような断言をする。それを聞くと不思議とそうかのだろう、と思えるから不思議なものだ。

「っははははは、言い切る様は年相応に愚かであり、年不相応に強かでもある!私たちが掲げるに相応しい!殿下!」

 外務卿のしわがれた声がより一層悪化して、死神の呼び声のように変化しながら笑った。

「傀儡にしようと思っている癖に、よく言う」

「そんな滅相もない。部下からレーヴェ殿下はそのように御せないとは知っていましたよ」

 後ろのハンスをチラリと見ながら言う。

(やっぱり繋がってたじゃないか)

 咎める目線を送ると、ハンスは全力で首を振って否定した。

「ハンスくん、君はレーヴェの周囲を守ることに精一杯で自分の周囲を守ることを忘れていたんだよ」

 答え合わせだと外務卿が言った。

「す、すまん……レーヴェ様……」

「……まあ、向こうが一枚上手なのは当たり前だろう。気を落とすな」

 外務卿はレーヴェとハンスの関係性を目敏く窺いながら、ポケットから小瓶を出す。

 小瓶の中は透明な液体がわずかに入っていた。

「さて、この毒をどう使う?」

「もちろん、私の野望解釈一致のために」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...