最推しの乙女ゲー攻略対象に転生したら腹黒系人誑かしになり国を掌握した

景義

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少年期

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 なぜハンスが死ぬ日をレーヴェが分かっているのかというと、それには理由があった。ゲームでは、8歳になる誕生日の日に悲劇が起きたと説明されるからだ。

 正に今日こそレーヴェの誕生日であり、ハンスの死亡する日。

 そして、レーヴェはハンスの死をまるきり回避する気がない。

 レーヴェのできることはもうやりきってしまった。だから普段通りに過ごすだけだ。

 誕生日に普段通りというのもおかしな話なのだが、冷遇されている第二王子のためにパーティを開くような国ではない。

 何より、今日は王妃の命日でもあるのだ。国中の人間が喪に服している。城内も静かで、黒い服を着た人が目立っていた。

 ただただレーヴェはこちらの目論見が、ランベルトにも、国王にも、そして外務卿にもバレぬよう祈りながら穏やかに過ごしていた。

「レーヴェ様、殿下から俺にお話があるて言われた」

「……そうか。予定通りだな」

「なしてレーヴェ様は殿下が俺ばお呼びになるとご存知やったんか?外務卿でも知らんかったとに」

「なに、実の兄だからな。他人には説明できないが、分かることもあるさ」

 思いっきりゲーム知識だが、言うわけにもいかないのでレーヴェは誤魔化した。

「それになんに殺そうとするんか?俺にはようわからん」

「殺そうという気など最初から無いよ。これでも兄のことは嫌いじゃなかったんだ」

「余計にようわからん……が、レーヴェが主人な以上、従うばい」
 
「頼んだぞ。予定通りに死んできてくれ」

「任してくれ!死ぬんな得意や」

 ハンスは笑顔でぐっと指を突き出した。

 そうして去る背中を、レーヴェは笑顔とも悲しみともつかぬ表情で見送っていた。


 ハンスは予定通りにランベルトのお膝元へ向かった。ポケットには毒を忍ばせて。

 ランベルトがわざわざ呼び寄せたということもあってか、今や敵対勢力となったハンスに身体検査をすることもなかった。

 ランベルトの従僕は部屋の外に待機して、部屋の中にはランベルトとハンスだけが取り残された。

「なに、そう緊張しなくてもいい。取って食おうというわけじゃないんだ。ただレーヴェと仲直りしたくてな」

 レーヴェの誕生日だしな、とランベルトは喪服を着たまま呟く。

「先日のことは、俺もカッとなって悪かったと思っているんだ。きっとレーヴェは母上のことを気に病んでいるだろうし、命日を目前にしてあんなことを言ってしまった俺に落ち度がある」

 言葉に嘘偽りの気配はない。真っ直ぐなランベルトだからこそ他人の心に響く言葉を伝えられる。ハンスはランベルトのカリスマの一端を感じた。

「だからレーヴェの従僕である君にその意図を伝えてもらうと同時に、どうやったら仲直りできるかを一緒に考えてほしくてな!」

 一緒に席につき、用意させたアフタヌーンティーを楽しむ。ハンスが毒を忍ばせているとはつゆ知らず。

「わがままなレーヴェが他人を長く隣に置くのは珍しい。ハンス君はよっぽどレーヴェに信頼されているんだろう?」

「レーヴェ様は仕えるに値する素晴らしかお方ばい。誠心誠意務めればそん分ん信頼が返ってきただけや」

「そうかそうか!そんな風に言われるとはレーヴェも成長したものだな!昔は泣き虫でな……それに人の物が羨ましいのか、俺のおもちゃをよく引ったくっていたよ!ははは、懐かしいなぁ」

 ハンスは緊張しながら会話をした。ランベルトと会話をしているからではなく、ランベルトが他所を見た隙に毒をティーカップに入れたからだ。それも、自分のものに。

「流石にこの年でおもちゃはマズイだろうし……君なら何が良いと思う?」

「お、俺は……」

 さあ、ハンス。死ぬ時が来たぞ。緊張から喉の渇きが起きるが、目の前の紅茶を飲むことは簡単には受け入れ難い。

 しかし、飲まなくてはならないのだ。
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