19 / 26
少年期
19
しおりを挟む
なぜハンスが死ぬ日をレーヴェが分かっているのかというと、それには理由があった。ゲームでは、8歳になる誕生日の日に悲劇が起きたと説明されるからだ。
正に今日こそレーヴェの誕生日であり、ハンスの死亡する日。
そして、レーヴェはハンスの死をまるきり回避する気がない。
レーヴェのできることはもうやりきってしまった。だから普段通りに過ごすだけだ。
誕生日に普段通りというのもおかしな話なのだが、冷遇されている第二王子のためにパーティを開くような国ではない。
何より、今日は王妃の命日でもあるのだ。国中の人間が喪に服している。城内も静かで、黒い服を着た人が目立っていた。
ただただレーヴェはこちらの目論見が、ランベルトにも、国王にも、そして外務卿にもバレぬよう祈りながら穏やかに過ごしていた。
「レーヴェ様、殿下から俺にお話があるて言われた」
「……そうか。予定通りだな」
「なしてレーヴェ様は殿下が俺ばお呼びになるとご存知やったんか?外務卿でも知らんかったとに」
「なに、実の兄だからな。他人には説明できないが、分かることもあるさ」
思いっきりゲーム知識だが、言うわけにもいかないのでレーヴェは誤魔化した。
「それになんに殺そうとするんか?俺にはようわからん」
「殺そうという気など最初から無いよ。これでも兄のことは嫌いじゃなかったんだ」
「余計にようわからん……が、レーヴェが主人な以上、従うばい」
「頼んだぞ。予定通りに死んできてくれ」
「任してくれ!死ぬんな得意や」
ハンスは笑顔でぐっと指を突き出した。
そうして去る背中を、レーヴェは笑顔とも悲しみともつかぬ表情で見送っていた。
ハンスは予定通りにランベルトのお膝元へ向かった。ポケットには毒を忍ばせて。
ランベルトがわざわざ呼び寄せたということもあってか、今や敵対勢力となったハンスに身体検査をすることもなかった。
ランベルトの従僕は部屋の外に待機して、部屋の中にはランベルトとハンスだけが取り残された。
「なに、そう緊張しなくてもいい。取って食おうというわけじゃないんだ。ただレーヴェと仲直りしたくてな」
レーヴェの誕生日だしな、とランベルトは喪服を着たまま呟く。
「先日のことは、俺もカッとなって悪かったと思っているんだ。きっとレーヴェは母上のことを気に病んでいるだろうし、命日を目前にしてあんなことを言ってしまった俺に落ち度がある」
言葉に嘘偽りの気配はない。真っ直ぐなランベルトだからこそ他人の心に響く言葉を伝えられる。ハンスはランベルトのカリスマの一端を感じた。
「だからレーヴェの従僕である君にその意図を伝えてもらうと同時に、どうやったら仲直りできるかを一緒に考えてほしくてな!」
一緒に席につき、用意させたアフタヌーンティーを楽しむ。ハンスが毒を忍ばせているとはつゆ知らず。
「わがままなレーヴェが他人を長く隣に置くのは珍しい。ハンス君はよっぽどレーヴェに信頼されているんだろう?」
「レーヴェ様は仕えるに値する素晴らしかお方ばい。誠心誠意務めればそん分ん信頼が返ってきただけや」
「そうかそうか!そんな風に言われるとはレーヴェも成長したものだな!昔は泣き虫でな……それに人の物が羨ましいのか、俺のおもちゃをよく引ったくっていたよ!ははは、懐かしいなぁ」
ハンスは緊張しながら会話をした。ランベルトと会話をしているからではなく、ランベルトが他所を見た隙に毒をティーカップに入れたからだ。それも、自分のものに。
「流石にこの年でおもちゃはマズイだろうし……君なら何が良いと思う?」
「お、俺は……」
さあ、ハンス。死ぬ時が来たぞ。緊張から喉の渇きが起きるが、目の前の紅茶を飲むことは簡単には受け入れ難い。
しかし、飲まなくてはならないのだ。
正に今日こそレーヴェの誕生日であり、ハンスの死亡する日。
そして、レーヴェはハンスの死をまるきり回避する気がない。
レーヴェのできることはもうやりきってしまった。だから普段通りに過ごすだけだ。
誕生日に普段通りというのもおかしな話なのだが、冷遇されている第二王子のためにパーティを開くような国ではない。
何より、今日は王妃の命日でもあるのだ。国中の人間が喪に服している。城内も静かで、黒い服を着た人が目立っていた。
ただただレーヴェはこちらの目論見が、ランベルトにも、国王にも、そして外務卿にもバレぬよう祈りながら穏やかに過ごしていた。
「レーヴェ様、殿下から俺にお話があるて言われた」
「……そうか。予定通りだな」
「なしてレーヴェ様は殿下が俺ばお呼びになるとご存知やったんか?外務卿でも知らんかったとに」
「なに、実の兄だからな。他人には説明できないが、分かることもあるさ」
思いっきりゲーム知識だが、言うわけにもいかないのでレーヴェは誤魔化した。
「それになんに殺そうとするんか?俺にはようわからん」
「殺そうという気など最初から無いよ。これでも兄のことは嫌いじゃなかったんだ」
「余計にようわからん……が、レーヴェが主人な以上、従うばい」
「頼んだぞ。予定通りに死んできてくれ」
「任してくれ!死ぬんな得意や」
ハンスは笑顔でぐっと指を突き出した。
そうして去る背中を、レーヴェは笑顔とも悲しみともつかぬ表情で見送っていた。
ハンスは予定通りにランベルトのお膝元へ向かった。ポケットには毒を忍ばせて。
ランベルトがわざわざ呼び寄せたということもあってか、今や敵対勢力となったハンスに身体検査をすることもなかった。
ランベルトの従僕は部屋の外に待機して、部屋の中にはランベルトとハンスだけが取り残された。
「なに、そう緊張しなくてもいい。取って食おうというわけじゃないんだ。ただレーヴェと仲直りしたくてな」
レーヴェの誕生日だしな、とランベルトは喪服を着たまま呟く。
「先日のことは、俺もカッとなって悪かったと思っているんだ。きっとレーヴェは母上のことを気に病んでいるだろうし、命日を目前にしてあんなことを言ってしまった俺に落ち度がある」
言葉に嘘偽りの気配はない。真っ直ぐなランベルトだからこそ他人の心に響く言葉を伝えられる。ハンスはランベルトのカリスマの一端を感じた。
「だからレーヴェの従僕である君にその意図を伝えてもらうと同時に、どうやったら仲直りできるかを一緒に考えてほしくてな!」
一緒に席につき、用意させたアフタヌーンティーを楽しむ。ハンスが毒を忍ばせているとはつゆ知らず。
「わがままなレーヴェが他人を長く隣に置くのは珍しい。ハンス君はよっぽどレーヴェに信頼されているんだろう?」
「レーヴェ様は仕えるに値する素晴らしかお方ばい。誠心誠意務めればそん分ん信頼が返ってきただけや」
「そうかそうか!そんな風に言われるとはレーヴェも成長したものだな!昔は泣き虫でな……それに人の物が羨ましいのか、俺のおもちゃをよく引ったくっていたよ!ははは、懐かしいなぁ」
ハンスは緊張しながら会話をした。ランベルトと会話をしているからではなく、ランベルトが他所を見た隙に毒をティーカップに入れたからだ。それも、自分のものに。
「流石にこの年でおもちゃはマズイだろうし……君なら何が良いと思う?」
「お、俺は……」
さあ、ハンス。死ぬ時が来たぞ。緊張から喉の渇きが起きるが、目の前の紅茶を飲むことは簡単には受け入れ難い。
しかし、飲まなくてはならないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる