最推しの乙女ゲー攻略対象に転生したら腹黒系人誑かしになり国を掌握した

景義

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少年期

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 ゆっくりティーカップを持ち上げて、飲む。毒は強力だから一口でいい。

「……ぐッ……!」

「……?どうした?不味かったか?」

「カハッ!」

 突如ハンスは口から血を吹いて倒れた。

「……!だ、誰か!大変だ!茶に……茶に毒が入っていた!レーヴェの従僕が……!このままでは……!」

 ランベルトの大声に反応して従僕や使用人が駆けつけてくる。一瞬で大騒ぎになり、医者を呼ぶように怒声が飛び交う。

「殿下!何者かの手が入った以上ここにいるのも危険です!すぐに離れて!さあ!」

 近衛騎士に連れられて、ランベルトは立ち去る。まだ何が起きているのかを理解できない。漠然と自分が死ぬかもしれなかったということを感じながらも、実感はなかった。

 さて、使用人たちが大騒ぎすると、まるで待機していたかのように医者たちがやってくる。

 そしてすぐに、血を吹いて動かなくなったハンスに近づいて脈を測る。

「……残念ながら」

「そんな、まさか」

 メイドの誰かがそう言った。

「すぐに使用人たちを拘束しろ!特に給仕に関わっていた者を!」

 近衛騎士が犯人を見つけるべく使用人たちを睨みつけた。これは一介の従僕の死ではなく、殿下を狙った暗殺だと思うのは自然な流れだった。

「……ハンス!」

 レーヴェはハンスの身体に駆け寄り、心臓の音を確認する。問題なく動いている。どさくさに紛れて解毒剤を飲むことには成功していたようだ。保険に持ってきていた解毒剤をしまった。生きていることさえ確認できればあとは問題ない。周りからは錯乱して死んでいることを何度も確認しているようにしか見えないだろう。

「れっ、レーヴェ王子!?なぜここに!?ここは危険です。どうか……!」

 現れたレーヴェは暗い顔をしてハンスを見ていた。そしてパッと駆け出し、立ち去ったランベルトの元に走る。

「レーヴェ王子!」

 近衛騎士の静止も聞かず、ランベルトを見つけるとその場で掴みかかった。

「お前がハンスを殺ったのか!?」

 涙を流しながらレーヴェはランベルトに怒った。無論、全て演技だ。

「レーヴェ……ちがう、これは……これは何者かの陰謀た……」

「なぜ、なぜ……」

 レーヴェは力なくその場に座り込んだ。もちろん、全てレーヴェの陰謀である。

 ランベルトの暗殺は失敗し、親友のハンスの死を招く。これがゲームのシナリオなわけだ。

 とすると、このままではハンスはうっかりランベルトに用意された毒を服用して死んでしまう。外務卿は茶葉に毒を混入させる予定だったと聞いている。

 ならばハンスを生かそうとランベルトの元に差し向ければいいかもしれない。しかし、それではハンスは外務卿との繋がりを否応なく保ち続けなければならない。レーヴェはハンスと外務卿の繋がりを断ちつつ、自由に動けるようにさせたかった。

 そのために外務卿と接触し、毒をあらかじめ手に入れることで解毒剤の用意を可能にさせた。

 実際に用意するのは、ハンスと親しげにしていた外務卿の部下だ。こっそりハンスを通じて口説き落とし、ハンスを殺すことに一役買ってくれた。

 男は一度偽装の経験があるからか、実にスムーズに事は運んだ。

 こうして表向きはゲーム通りでありながらハンスと外務卿を切り離し、自由に動かすために死を偽装した。

 外務卿としては殺せなかったため面白くないだろうが、ハンスの死は各所に波紋を呼ぶことになるだろう。

 ランベルトがハンスを殺したと勘違いした国王派が事件を完全に隠蔽するからだ。しかし、人の口に戸は立てられない。悪評を流すのに一役買う。

 レーヴェはランベルトを糾弾しながらも、内心は全ての計画が上手くいったことへの安堵に満ちていた。
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