安全第一異世界生活

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番外編・それぞれの日々

番外編 薬師ノンナとクロト師匠の思い出

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「人体に使えるポーションを錬金術で作成した―――異端児。」

学園の授業中、黒板を書き写しながら先生の言葉に耳を傾けていたうちは、先生のその言葉にノートから顔を上げ、黒板に書かれた文字を目で追う。

「そう呼ばれる天才が今も南の辺境伯領で活躍しています。
錬金術師 クロト
彼の偉業はそれだけでは無いのです。迫害の対象になりやすい、闇魔法を使ってこの成功を収めたのです。それは迫害の対象の闇魔法の使い手の救いであったと王宮魔法使いの方が言っておられたそうです。
彼の開発した錬金ポーションは、通常のポーションで治らなかった痛み。ポーション摂取に時間がかかったり、ポーションで回復できる傷を上回っていた場合に起こる後遺症ですね。それを治す薬。
それを作るためには闇魔法の高度な魔力操作が必要なため、現在作れるのは製作者ご本人のみなのが、残念でなりません。
先ほども言いましたが、闇魔法の使い手は迫害を受けやすいため、闇魔法の適正を隠す者が多く、その使い手が育っていないと言うのも広く知られています。
そのせいでポーションは多く出回らず、まだまだ後遺症に苦しむ人々が多く居るのも事実です」

先生の言葉を聞きながら、地元にそんな凄い天才が居たのかと、思いにふける。
その天才なら――うちの甘くなって濃くなってしまうポーションの現象を変えられるだろうか―――。

胸にわずかに灯ったほんの少しの希望―――

錬金術クロトの名を耳にしたのは学園の授業が初めてだった。地元に戻ってきた時に親に聞いてみたのだけれど、聞いたことないと言われ、錬金術ギルドにも問い合わせた。すると数か月前に、家族と旅に出てまだ戻らないと言われ、落胆したのを覚えている。うちの落胆ぶりに憐れんでくれたのか、ギルド職員が、

「背の高いひょろっとした人でね、頭に綿を乗っけたようなモジャモジャ頭で、メガネをかけて、全身黒づくめの目立つ人さ。街で見かけたら声を掛けてみたらいいよ」

そう教えてくれた。

背の高い、ひょろっとした、モジャモジャ頭の全身黒づくめ――――

新たに入った薬師の師匠の工房を叩き出された、土まみれ、涙まみれのうちに、迷いなく手を差し出してくれたその人が―――錬金術師 クロトその人だった。

***

「ウハハ!モウ!トー、サン、ゴハンノ、ジカン。シゴト、オワリ!!」

ポヨヨン!ポヨヨーン!と飛び跳ねたスライムのウハハちゃんが、
ボスボス!と仕事中の師匠に体当たりしている。
ご飯だからとコーくんとウハハちゃんがうちらを呼びに来てくれたんだけど、師匠は攻撃にもめげず、
「あと少し。もうちょっとで、多分理論が完成するから」という言い訳で、続く攻防戦。
かれこれ5分は続いてる。それをずっと扉のところで見ているうちら。―――リビングからパタパタと室内シューズの音がする
小走りでこちらに近づいてきたのは、師匠の愛娘のカナメちゃん5歳。
天才の子供は天才なのか、カナメちゃんは5歳にしてうちより、はるかに料理上手で、魔法も出来、錬金術まで扱える恐ろしい子供なのだ。
その才能の一粒でもあればうちの人生も違ったのかもしれない…

「トーさん、今日はね、鳥の足のカレー風味焼きとね、鶏むねのバンバンジーにブロッコリー入れて和えたのと、里芋の煮物とね、タマゴのスープだよ」

さっきまでずっと紙に向かっていた師匠が顔を上げカナメちゃんを見た。

「デザートは珈琲に合うチョコマフィンだよ」

そんな師匠の顔を見てニコニコ笑うカナメちゃんをじっと師匠は見つめていると師匠の横顔に、ボスン!とウハハちゃんアタックが炸裂!!はたかれたように視線がそれた師匠は、目を覚ましたかのように頭を振ると、立ち上がってウハハちゃんを頭に乗っけて、カナメちゃんの手を握って笑った。
そして、「カレー風味って楽しみだな」とのんきに言い始めキッチンに向かって行った。うちとコーくんは苦笑を浮かべ、その後を続いていく。

学園では“異端児”“天才”と呼ばれるクロト師匠は、集中するとご飯も後回しにして家族を心配させる、愛娘が大好きな――ただのお父さんだった。
けれど、その“ただのお父さん”のもとに来てから、うちのポーションの評価は180度変わり、周囲に認められるようになった。
そして明日からは、王城の薬師長様との共同開発が始まる。
あの授業の時に感じたほんの少しの希望が、こうも形を変えて花開くとは思わなかった。
人生最悪だと思った、あの日。追い出された自分に差し伸べられたあの手を――取ってよかった。

この縁に、感謝しかない。
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