元侯爵令嬢の異世界薬膳料理~転生先はみんな食事に興味が無い世界だったので、美味しいご飯で人の身も心も癒します~

向原 行人

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第14話 カルレナの町の困り事

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「リアム。この町の近くにダンジョンが出来たという話は手紙に記したでしょ?」
「あぁ。冒険者たちが町に大勢いるのを見てきたよ。あと、冒険者になるって言って町を出た幼馴染たちも戻ってきていたよ」
「そうね。冒険者さんたちが大勢やってきて、この町の経済としてはとても良いのだけど……その反面、その大勢の人たちを町で受け入れられないのよ」

 リアムさんのお母さんによると、宿屋や食事処、鍛冶屋に日用品の店など、足りない物が多過ぎるらしい。
 もちろん、大急ぎで新しい宿屋を建てているものの、すぐに完成する訳ではないし、人手も不足しているのだとか。
 そのせいで、領主であるリアムさんのお父さんや、次期領主のお兄さんが忙殺されているそうだ。

「それでね。以前、A級冒険者っていう人たちが来た事があったのよ」
「確か、冒険者ギルドで一番上のランクの者たちだったはずだ。相応の実力者だと思うが」
「そうそう。でね、自分たちは特別な存在だから、普通の宿ではなく、この屋敷に泊めろって言ってきたのよ」

 えぇっ!? 何それ! 仮にもここは領主の屋敷なのに!?

「流石に断ったんだけど、あからさまに不機嫌になって、メイドさんたちに手を上げようとしたりしてね」
「そんなの無茶苦茶じゃないですか!」
「そうなの。けど後で調べたら、リアムの言う通り国内に数組しかいない人たちで、断ったらまた面倒な事になっちゃうのよね」

 そんな人たちに対して、どうすれば良いのかと考えていると、お母さんがクスっと笑いながら、いたずらっぽく舌を出す。

「ふふっ。その対策として、屋敷の外観を悪趣味にして、泊まりたいと思わせないようにしたのよ」
「そ、そんなの良いのですか!?」
「えぇ。周囲からセンスが悪いと思われるだけで、うちのメイドさんたちを守れるなら安いものよ」

 なるほど。それで、屋敷の壁が金色に輝いていたり、変な像……もとい、領主の像が庭にあったのね。
 けど、そんな大胆な対策を取ってまで、働く人たちを守ってあげようとするのは流石だわ。

「じゃあ、門にいた兵士さんの態度が悪いのも、わざと……」
「あ、それは教育不足ね。最近雇った人なの」
「し、失礼しました」
「いえいえ。あとは、この町が発展する事を見越してか、他の貴族からのお茶会がとにかく増えてね。こうして、リアムやアリス様と気兼ね無くお喋り出来るお茶会なら楽しいのにね」

 あー、私はアリスになってから参加していないけど、貴族と言えばお茶会よね。
 顔は笑っているけど、お互い腹の探り合いで、社交辞令の裏で言葉の刃が飛び交うバトル会場……想像しただけで、日本の庶民だった私には無理だとわかる。

「今の状況は、こんなところかしらね」
「なるほど。だけど、悪いが俺に父さんや兄さんみたいな事を期待されても無理だぞ? 書類仕事も領地経営もさっぱりだし」
「リアムなら、少し学べば出来そうな気がするけど……とりあえずは、アリス様の下で培った騎士の経験を活かして、治安維持をお願いしたいの」
「そんなに酷い状況なのか?」
「今はまだ小競り合いだけど、冒険者同士の争いは放っておくにしても、時々住人が巻き込まれているのよ」
「……それは見過ごせないな。わかった。先ずは町の見回りから始めていくよ」

 なるほど。人が増えて良かった……ではなくて、急に増え過ぎると、デメリットの方が多いのね。
 二人の話を聞いていろいろ考えていると、リアムさんが姿勢を正し、小さく咳払いをする。

「こほん……それで、母さん。このアリスさんの事なんだけど……」
「リアム。お母さんは応援はするけど、ちゃんと筋は通さないとダメよ? アリス様はフェイン家のお嬢様なんだから。駆け落ちなんてせずに、ちゃんとフェイン侯爵様の許可をいただいて……」
「ぶふっ!」

 今度は私もお茶を噴き出してしまった。
 淑女としてあるまじき失態だけど、駆け落ちって!
 そういうのは、恋愛小説とかの中だけの話じゃないの!?

「お、お母様。違うんです」
「アリス様。私は貴女の味方です。ですから、アリス様とリアムが共に幸せになれる道を探っていきましょう」
「だから、違うんですってば。私は……お料理をさせていただきたいんです!」
「花嫁修業ですね? 主にメイドさんにやっていただく事にはなりますが、そのメイドさんの指導を行う為にも、アリス様自ら経験を積んでおきたいと」
「違いますぅぅぅっ! り、リアムさん。お母様へ説明をお願いしますっ!」

 リアムさんのお母さんが、優しく微笑んでいるけど、絶対に勘違いしてるっ!
 私は駆け落ちしたんじゃなくて、美味しい料理を作って、この世界の食卓に笑顔と温かさを届けたいのよぉぉぉっ!
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