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いつも通りの朝。
シルヴィンはディアスにエスコートされている。

「なあ、聞いたか?あの噂。」
「何の噂?」
「殿下はシルヴィン様にゾッコンだっていう話。」
「殿下が?あの平凡な野郎に?ありえねぇよ。」
学生は笑い飛ばす。

シルヴィンのクラスメイトは皆ディアスがシルヴィンに惚れ込んでいるということを知ったが、まだ他の人には信じて貰えてないようだった。


「あ、あのっ!で、ディアス様に付きまとうのはやめて下さい!」
人気のない中庭に呼び出されたシルヴィンは眉を顰めた。
「ちょっと何を言っているのか分からないんだけど。というか、君は誰かな?知り合いじゃないよね。」
「あ、あぅ、私はセシリアです!ディアス様とは同じクラスです!」
プルプルと震えている彼女はまるでウサギのようでとても愛らしい。薄桃色の髪が風にさらさらと揺れ、紫色の瞳は艶やかだ。こんな状況でなければ良い印象しか持たないのだが。

「どうして僕が殿下に付きまとっていると思うの?」
「噂で聞きました!ディアス様はいつも婚約者に困らされているって…!わ、私ディアス様がお可哀想で!!」

はあっとため息をつく。以前にもこういうことはあった。何を勘違いしたのか、ディアスに付きまとうなとご令嬢に突き飛ばされたことがあったのだ。と言っても、シルヴィンは曲がりなりにも男子。かすり傷ひとつないのだが、後処理が大変だった。ディアスに知られたら大変なことになる。そんなことも知らずに女学生たちは皆シルヴィンを敵対視している。

「殿下と僕の関係に口出しする権利が君にはあるのかな?あと、ディアス様なんて呼んではダメだよ。不敬だ。ちゃんと殿下って呼びなさい。」

もともと潤ませていた瞳をさらに潤ませてとうとうセシリアは泣き出してしまった。
そこに男子生徒が通りかかる。
「何があったんですか?」
男子生徒はシルヴィンを怪訝な顔で見つめる。誰がどう見ても可憐な少女をいじめる男だ。これからされるだろう心なき噂を想像してシルヴィンはため息をついた。
「申し訳ないんだけど、この子をよろしく頼むよ。僕は今から用事があるんだ。」
立ち去るシルヴィンをセシリアは睨みつけていた。


「セシリア?あー、聞いたことあるな。」
デレクに今日のことを相談すると、デレクはセシリアという名前に引っかかったようだ。
「あー!そうだ!思い出した。セシリアは伯爵家の娘で、行方不明になっていたところを最近引き取られたみたいだぞ。天真爛漫で男子生徒から人気が高いっていう噂だ。」

彼女の意志の強そうな瞳を思い出す。
あの子は少し厄介そうだ。
シルヴィンは頭を悩ませた。


次の日、シルヴィンは女の子相手にいじめを仕掛ける最低なやつだという噂が流れていた。
もちろん、ディアスはまだ知らない。
彼の耳に入る前に噂を消しておかなくては。彼の耳に入った時のことを考えてデレクはゾッとする。ディアスは王たるべく冷酷さも持ち合わせていた。だからこそ彼の判断には迷いがなく、皆から信頼されるのだ。しかし、シルヴィンのことになると少し判断がおかしくなる時もある。そんな時はシルヴィンがとめて丸く収まるのだが…。
殿下のシルヴィンに対する愛は深い。

きっと世界中のどこを探してもこんなに献身的な幼馴染はいないに違いない。デレクは自分のお節介な性格を恨んだ。
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