職業魔王ーー只今、封印され中

神尾優

文字の大きさ
2 / 6
第1章 貧弱だよ乳児編

第1話 誕生、何者?、人間!?、幼馴染み

しおりを挟む
   
   
   
   
   まばゆい光が、瞑っているはずの瞼を通して眩しく感じる。
   赤子の泣き声が部屋の中いっぱいに響き、非常に煩い。
   うるさいなぁ……もうちょっと静かにしてくれないか?   と、思ったのだが、どうやらこの声を響かせているのは俺らしい。
   産ぶ声ってやつか……自分でも煩く感じるから黙りたいところだが、どうしても黙ることが出来ない。う~ん、本能から来る行動なのか?   困ったものだ。
   と……産ぶ声?   俺は新たに産まれた?   どうしてそんなことを俺は考えている?   あー、ダメだ考えがまとまらない。
   仕方がない、今は状況に流されながらこの身を任せるか……



   ーーーーーーーー


   俺の名はセリウス・ファルマー、という者らしい。生後、十日程だ。
   産まれてからの日課は、ひたすら寝転んでいること。まあ、自分で移動する手段が無いのだから、仕方がないといえば仕方がないのだが。
   ひたすら寝て、起きれば腹が減ったと泣き、漏らしたシッコが気持ち悪いと泣き……そんな日常に、少しばかりプライドが傷付いている自分がいる今日この頃。
   何か忘れていることがあるような気がするんだが、どうも記憶がハッキリしない。生後十日で何かを忘れているというのもおかしな話なのだが、しかし、それを思い出したら思い出したで、今の俺の状況に精神が打ちのめされそうな気がする。
   だから、もう少し、その事を考えるのは止めることにした。
   あっ……腹が減ってきた。泣こう。
   俺の訴えに答えて、隣の部屋から誰かが慌ててやって来る。おそらく俺の産みの親だろう。
   その者は俺を抱きかかえたのだが……俺の後頭部が重さに負けて首を支点にカクンと下に引っ張られた。
   おい!   俺の首はまだすわってないんだ、支えるなら首じゃなくて後頭部にしてくれ!
   全く、俺の抱き方も知らんとは……どうやら、俺の産みの親は新米のようだ。



   ーーーーーーーー

   

   俺の名はセリウス・ファルマー。母からはセー君の愛称で呼ばれている者。生後、百八十日程だ。
   もう首もすわり、母に抱っこされても首へのダメージを負うことはなくなった。歯も生えてきて、母乳以外の物も食べさせられはじめている。
   しかし、あの離乳食とやらは何だ?   せっかく歯が生えてきたというのに、全く歯ごたえの無い物を食わすとは……
   とまあ、不平はさて置き。実は、腹ばい状態で移動することが出来るようになった。まだ、柵付きのベッドからは逃れることは出来ないが、いつかは逃げ出してやろうという野望を最近持ち始めている。
   野望の達成するビジョンはまだまだ持ててないが、身体を動かせるようになり考えが活発になったせいか、最近は、昔ことが鮮明に思い出せるようになっている。そして、俺は最近、初心を思い出した。
   ……俺、魔王だった。そんで、自分の封印を解くために転生した……
   ………………で、俺、何に転生したの?
   改めてそう思い、自身の手足を見る。まん丸く柔らかそうな、強さからはかけ離れた四肢。プックラと膨らんだお腹。
   うん、あまり強そうな種族ではないな。
   こりゃ、失敗したか?   いやいや、悲観はいけない。幼少期はどんな種族でも狩られる側に回るものだ。そういう危険を親とともに乗り越えて、皆んな強くなっていくんだからな。
   そう思い直して、改めて考察する。
   肌の色は白っぽい肌色……手触りは攻撃性が全く感じられず、防御力も皆無そうなプニプニとした感触……人型には間違いないが、竜人や魔族ではなさそうだ……って、これって人間じゃね?  
    ……いやいや、まさか。
   魔族の中でも最高位の種族に位置するハイデーモンだった俺が転生したんだぞ。流石に人型の中でゴブリン並みに貧弱だと言われ、数だけが強みの人間に転生したなんて、まさかな……
   言い知れぬ不安にかられながら、俺は自分の両親の姿を思い浮かべる。
   腰まで伸びた青色の髪のおっとりしている、悪くいえばおっちょこちょいの母。金髪でひょろっとした、人の良さそうな……言い変えれば他人に騙されやすそうな父。
   あれ?   あの二人、人間やん。おもっくそ人間やん。
   ってことは……俺、人間?   ……嘘だろ。




   ーーーーーーーー


   俺の名はセリウス・ファルマー。事実を知り落ち込んでる者。生後、二百日程だ。
   俺は今、猛烈に落ち込んでいる。
   人間ってどういうことよ。と、ふて寝する毎日だったが、今日は何やら勝手が違う。
   俺が毎日お昼寝に使う柵付きベッド。長方形のベッドで縦に寝る分には広々として良いのだが、今日は何故かベッドに対して横に寝かされた。
   おい、母よ。何故こんな風に寝かす?   確かにこのベッドは今の俺なら横に寝ても寝れるくらいの長さはある。しかし、足元と頭の先に余裕が殆どないぞ。ほら見ろ、ちょっと動いただけで柵に頭が擦れるじゃないか。左右に有り余る余裕があるんだ、いつもの様に寝かせてくれ。
   そんな文句を母の目を見ながら訴えかけていると、部屋に見知らぬ者が二人入ってきた。
   二人とも女性。そして、その胸には赤ん坊が抱かれている。
   ……もしや。
   嫌な予感をビシビシと感じてしまった俺の考えは的中し、女性たちは俺の左右にそれぞれの赤ん坊を寝かせ、俺の母と共に喋りながら隣の部屋へと行ってしまった。
   ……ママ友というやつだろうか。ということは、俺の左右に寝かされたこの二人は、近所の同年代ってやつか?
   右手には赤髪の赤ん坊、左手には栗色の髪をした赤ん坊が寝かされている。
   二人とも母親に抱っこされている時からそうだったのか、既にスヤスヤと寝ていた。
   こいつら、俺の牢獄にして聖域であるこのベッドで我が物顔で寝やがって……はっきり言って狭いんだぞ。ちょっとは遠慮しろ。
   ぎゅうぎゅう詰のベッドははっきり言って暑い。ただでさえ赤ん坊ってのは体温が高いんだ、汗疹が出来たらどうする。
   無言で左右を睨みながら、そんな文句を思い描いていると、
   ぐえっ!   おごっ!

   右手の赤髪の赤ん坊が俺の頬に掌底をかまし、左手の栗色の髪の赤ん坊が俺の腹に足を乗せてくる。
   くっ!   ここは我慢だ。こんなことで泣いてたまるか!
   泣き出しそうな衝動をぐっと堪え、この状況から逃げ出すために、俺はその場でクルリと腹ばいになる。そして、そのまま手足を踏ん張り、何とか上半身を起こして、どかりと座った。
   ふう、これでこいつらの寝相と体温から逃れることが出来たぞ。
   さて、お昼寝の時間を邪魔してくれたこいつらをどうしてくれようか?
   そんなことを思いながら二人を見下ろすと、赤髪の赤ん坊の目がパッチリと開かれており、バッチリと俺の目と合っていた。
   なにぃ!   起きているだと!
   驚く俺の胸ぐらを素早く掴む赤髪の赤ん坊。咄嗟に反応し手をバタつかせる俺を尻目に、赤髪の赤ん坊はそのまま強い力で俺を引き倒した。
   前のめりに強かに顔を打つ。敷布団のお陰で痛みはあまり無いが、赤ん坊に倒された屈辱がこみ上げてきて、俺は盛大に泣いてしまった。
   隣の部屋から近付いてくる足音。
   くそっ!   同年代のいざこざに親の力を借りる事になるとは!   
   出来れば避けたかった状況だが、泣く本能には逆らえない。隣の部屋からやって来た母は、泣く俺を見て慌てて抱き上げた。

「あらあら、どうしてうつ伏せになったのかしら。息苦しかったのね……あら?」

   いや、そんな理由で泣いた訳ではないと思っているところへ、母の怪訝そうな声。
   何事かと思っていると、その理由は直ぐに分かった。赤髪の赤ん坊が、俺の胸ぐらを掴んだまま離していなかったのだ。
   母が俺を持ち上げようとしているところに、胸ぐらを掴まれているので、俺の服は思いっきり伸びていた。

「あらあら、ーーーさん見て。ティファちゃんがセー君の服を掴んで離さないわ」
「あらー、ティファったら、セリウス君が気に入ったのかなぁ」

   何やら和気あいあいと嬉しそうに話す母たち。
   おい、俺は今、要らぬ無法を受けているのだぞ。何故そんなに和やかな雰囲気を出すのだ。って言うか、こいつ女だったのか……
   俺の届かぬ不平を余所に、母はニコニコと俺を仰向けにしながらベッドへと戻す。勿論、胸ぐらはお隣さんに掴まれたままだ。
   睨みつけても赤髪の赤ん坊は全く動じず、大きな瞳で俺をガン見してくる。
   根負けして顔を反対に向けると、栗色の髪の赤ん坊は今までの騒動でも起きなかったようでスヤスヤと寝ていた。
   くそっ!   こっちの奴は肝が随分とデカイじゃねぇか。
   やたらと力の強い奴と、全く動じない奴……こんなのがご近所さんなんて、俺はやって行けるのか? 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

年の差にも悪意がみなぎりすぎでは????

頭フェアリータイプ
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢?に転生した主人公。でもこんな分かりやすい状況でおとなしく嵌められるはずもなく。。。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

処理中です...