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第1章 貧弱だよ乳児編
第1話 誕生、何者?、人間!?、幼馴染み
しおりを挟むまばゆい光が、瞑っているはずの瞼を通して眩しく感じる。
赤子の泣き声が部屋の中いっぱいに響き、非常に煩い。
うるさいなぁ……もうちょっと静かにしてくれないか? と、思ったのだが、どうやらこの声を響かせているのは俺らしい。
産ぶ声ってやつか……自分でも煩く感じるから黙りたいところだが、どうしても黙ることが出来ない。う~ん、本能から来る行動なのか? 困ったものだ。
と……産ぶ声? 俺は新たに産まれた? どうしてそんなことを俺は考えている? あー、ダメだ考えがまとまらない。
仕方がない、今は状況に流されながらこの身を任せるか……
ーーーーーーーー
俺の名はセリウス・ファルマー、という者らしい。生後、十日程だ。
産まれてからの日課は、ひたすら寝転んでいること。まあ、自分で移動する手段が無いのだから、仕方がないといえば仕方がないのだが。
ひたすら寝て、起きれば腹が減ったと泣き、漏らしたシッコが気持ち悪いと泣き……そんな日常に、少しばかりプライドが傷付いている自分がいる今日この頃。
何か忘れていることがあるような気がするんだが、どうも記憶がハッキリしない。生後十日で何かを忘れているというのもおかしな話なのだが、しかし、それを思い出したら思い出したで、今の俺の状況に精神が打ちのめされそうな気がする。
だから、もう少し、その事を考えるのは止めることにした。
あっ……腹が減ってきた。泣こう。
俺の訴えに答えて、隣の部屋から誰かが慌ててやって来る。おそらく俺の産みの親だろう。
その者は俺を抱きかかえたのだが……俺の後頭部が重さに負けて首を支点にカクンと下に引っ張られた。
おい! 俺の首はまだすわってないんだ、支えるなら首じゃなくて後頭部にしてくれ!
全く、俺の抱き方も知らんとは……どうやら、俺の産みの親は新米のようだ。
ーーーーーーーー
俺の名はセリウス・ファルマー。母からはセー君の愛称で呼ばれている者。生後、百八十日程だ。
もう首もすわり、母に抱っこされても首へのダメージを負うことはなくなった。歯も生えてきて、母乳以外の物も食べさせられはじめている。
しかし、あの離乳食とやらは何だ? せっかく歯が生えてきたというのに、全く歯ごたえの無い物を食わすとは……
とまあ、不平はさて置き。実は、腹ばい状態で移動することが出来るようになった。まだ、柵付きのベッドからは逃れることは出来ないが、いつかは逃げ出してやろうという野望を最近持ち始めている。
野望の達成するビジョンはまだまだ持ててないが、身体を動かせるようになり考えが活発になったせいか、最近は、昔ことが鮮明に思い出せるようになっている。そして、俺は最近、初心を思い出した。
……俺、魔王だった。そんで、自分の封印を解くために転生した……
………………で、俺、何に転生したの?
改めてそう思い、自身の手足を見る。まん丸く柔らかそうな、強さからはかけ離れた四肢。プックラと膨らんだお腹。
うん、あまり強そうな種族ではないな。
こりゃ、失敗したか? いやいや、悲観はいけない。幼少期はどんな種族でも狩られる側に回るものだ。そういう危険を親とともに乗り越えて、皆んな強くなっていくんだからな。
そう思い直して、改めて考察する。
肌の色は白っぽい肌色……手触りは攻撃性が全く感じられず、防御力も皆無そうなプニプニとした感触……人型には間違いないが、竜人や魔族ではなさそうだ……って、これって人間じゃね?
……いやいや、まさか。
魔族の中でも最高位の種族に位置するハイデーモンだった俺が転生したんだぞ。流石に人型の中でゴブリン並みに貧弱だと言われ、数だけが強みの人間に転生したなんて、まさかな……
言い知れぬ不安にかられながら、俺は自分の両親の姿を思い浮かべる。
腰まで伸びた青色の髪のおっとりしている、悪くいえばおっちょこちょいの母。金髪でひょろっとした、人の良さそうな……言い変えれば他人に騙されやすそうな父。
あれ? あの二人、人間やん。おもっくそ人間やん。
ってことは……俺、人間? ……嘘だろ。
ーーーーーーーー
俺の名はセリウス・ファルマー。事実を知り落ち込んでる者。生後、二百日程だ。
俺は今、猛烈に落ち込んでいる。
人間ってどういうことよ。と、ふて寝する毎日だったが、今日は何やら勝手が違う。
俺が毎日お昼寝に使う柵付きベッド。長方形のベッドで縦に寝る分には広々として良いのだが、今日は何故かベッドに対して横に寝かされた。
おい、母よ。何故こんな風に寝かす? 確かにこのベッドは今の俺なら横に寝ても寝れるくらいの長さはある。しかし、足元と頭の先に余裕が殆どないぞ。ほら見ろ、ちょっと動いただけで柵に頭が擦れるじゃないか。左右に有り余る余裕があるんだ、いつもの様に寝かせてくれ。
そんな文句を母の目を見ながら訴えかけていると、部屋に見知らぬ者が二人入ってきた。
二人とも女性。そして、その胸には赤ん坊が抱かれている。
……もしや。
嫌な予感をビシビシと感じてしまった俺の考えは的中し、女性たちは俺の左右にそれぞれの赤ん坊を寝かせ、俺の母と共に喋りながら隣の部屋へと行ってしまった。
……ママ友というやつだろうか。ということは、俺の左右に寝かされたこの二人は、近所の同年代ってやつか?
右手には赤髪の赤ん坊、左手には栗色の髪をした赤ん坊が寝かされている。
二人とも母親に抱っこされている時からそうだったのか、既にスヤスヤと寝ていた。
こいつら、俺の牢獄にして聖域であるこのベッドで我が物顔で寝やがって……はっきり言って狭いんだぞ。ちょっとは遠慮しろ。
ぎゅうぎゅう詰のベッドははっきり言って暑い。ただでさえ赤ん坊ってのは体温が高いんだ、汗疹が出来たらどうする。
無言で左右を睨みながら、そんな文句を思い描いていると、
ぐえっ! おごっ!
右手の赤髪の赤ん坊が俺の頬に掌底をかまし、左手の栗色の髪の赤ん坊が俺の腹に足を乗せてくる。
くっ! ここは我慢だ。こんなことで泣いてたまるか!
泣き出しそうな衝動をぐっと堪え、この状況から逃げ出すために、俺はその場でクルリと腹ばいになる。そして、そのまま手足を踏ん張り、何とか上半身を起こして、どかりと座った。
ふう、これでこいつらの寝相と体温から逃れることが出来たぞ。
さて、お昼寝の時間を邪魔してくれたこいつらをどうしてくれようか?
そんなことを思いながら二人を見下ろすと、赤髪の赤ん坊の目がパッチリと開かれており、バッチリと俺の目と合っていた。
なにぃ! 起きているだと!
驚く俺の胸ぐらを素早く掴む赤髪の赤ん坊。咄嗟に反応し手をバタつかせる俺を尻目に、赤髪の赤ん坊はそのまま強い力で俺を引き倒した。
前のめりに強かに顔を打つ。敷布団のお陰で痛みはあまり無いが、赤ん坊に倒された屈辱がこみ上げてきて、俺は盛大に泣いてしまった。
隣の部屋から近付いてくる足音。
くそっ! 同年代のいざこざに親の力を借りる事になるとは!
出来れば避けたかった状況だが、泣く本能には逆らえない。隣の部屋からやって来た母は、泣く俺を見て慌てて抱き上げた。
「あらあら、どうしてうつ伏せになったのかしら。息苦しかったのね……あら?」
いや、そんな理由で泣いた訳ではないと思っているところへ、母の怪訝そうな声。
何事かと思っていると、その理由は直ぐに分かった。赤髪の赤ん坊が、俺の胸ぐらを掴んだまま離していなかったのだ。
母が俺を持ち上げようとしているところに、胸ぐらを掴まれているので、俺の服は思いっきり伸びていた。
「あらあら、ーーーさん見て。ティファちゃんがセー君の服を掴んで離さないわ」
「あらー、ティファったら、セリウス君が気に入ったのかなぁ」
何やら和気あいあいと嬉しそうに話す母たち。
おい、俺は今、要らぬ無法を受けているのだぞ。何故そんなに和やかな雰囲気を出すのだ。って言うか、こいつ女だったのか……
俺の届かぬ不平を余所に、母はニコニコと俺を仰向けにしながらベッドへと戻す。勿論、胸ぐらはお隣さんに掴まれたままだ。
睨みつけても赤髪の赤ん坊は全く動じず、大きな瞳で俺をガン見してくる。
根負けして顔を反対に向けると、栗色の髪の赤ん坊は今までの騒動でも起きなかったようでスヤスヤと寝ていた。
くそっ! こっちの奴は肝が随分とデカイじゃねぇか。
やたらと力の強い奴と、全く動じない奴……こんなのがご近所さんなんて、俺はやって行けるのか?
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